ここでは、遺言書を作成するメリット、また遺言書作成はどの専門家に依頼するべきか(弁護士や司法書士、信託銀行に依頼する場合のメリットとデメリット)をご紹介します。
このページの目次
1遺言書作成のメリット
(1)遺産分割協議をしなくてよい
遺言書が作成されていれば、遺言書に書かれたとおりに遺産を分けることになります。
これは、遺産分割協議書を作成せずに相続手続きを進めることができることを意味します。遺産分割協議書に相続人全員の実印をもらわなくても、銀行や不動産などの相続手続きを進められます。遺産分割協議をしないわけですから、遺留分侵害がない限りそもそも揉める余地がありません。疎遠な親戚、義理の兄弟姉妹、前妻の子ども(異父兄弟)などと話し合いをしなくても相続手続きを進めることができるのです。
一方、もし遺言書が作成されていない場合、相続人間で遺産分割協議がまとまらなければ家庭裁判所での調停になります。
時間はもちろん、弁護士費用も相当かかります(遺言書を書くのにも費用がかかりますが、調停にかかる費用よりはよっぽど安いと思います)。
ハンコをもらいにくい関係にある相続人がいる場合に、遺言書の存在は大きなメリットとなります。
(2)スピーディに相続手続きが進められる
遺言書が作成されていない場合、財産調査、相続人調査、遺産分割協議という流れで手続きが進むのですが、それぞれ相当の時間がかかります
(詳しいことは、財産調査・残高証明の取得、相続人調査・残高証明の取得、遺産分割協議書の作成の記事でそれぞれご説明しています)。
また、もし相続人の中に未成年者や認知症の方などがいると、遺産分割協議の前に家庭裁判所での手続きも必要になり、さらに時間がかかります。
遺言書が作成されていれば、上記1でも述べた通り遺産分割協議が不要になりますから、遺産分割協議書作成や相続人全員から印鑑をもらう手間などが省け、手続きが早く進みます。また、遺言書を作成する際にある程度の財産調査や相続人調査もされていますから、調査にかかる時間もかなり短縮ができます。
特に相続税申告が必要な場合は10ヶ月の期限がひかえており、遺言書を作成しておくことでスムーズな相続手続きが可能です。
このように、遺言書作成にはスピーディに相続手続きが進められるというメリットがあります。
(3)相続財産の把握がしやすい
遺言書が作成されていないと、
- 被相続人がどんな財産を持っていたのだろうか?
- 通帳はどこにあるのだろうか?
- 不動産は自宅だけなのだろうか?
- 生命保険は加入していたのだろうか?
- 借金は無かったのだろうか?
といったことを一から調査することになり、網羅的に財産調査をするにはかなり時間を要します。
一方、遺言書が作成されている場合はどうでしょうか。遺言書には「どの財産を誰にあげるか」を書くわけですから、その時点で遺言者が所有している財産の内容については、ある程度リスト化しているはずです。財産の内容が分からなければ遺言書を書けないですからね。もちろん遺言書がある場合でも、相続開始後に補充的な財産調査はしますが、やはり遺言書がなくて一から調査するよりもかなりスムーズです。
(4)法定相続人以外にも財産をあげることができる
遺言書が作成されていない場合、遺産分割協議によって遺産の分け方を決めます。
この遺産分割協議に参加できるのは、法定相続人だけです。たとえば、内縁の妻、献身的に介護をしてくれた法定相続人の妻、あるいはかわいいお孫さんたちに財産を渡したくても、彼らは相続人ではないので遺産分割協議では財産を相続することができません。
これに対し遺言書では、法定相続人以外の第三者にも遺贈という方法で財産を取得させることが可能です。介護してくれた方やお孫さん以外にも、慈善団体に寄付されるという方もいらっしゃいます。相続人かどうかに関わらず生前の関係に応じて柔軟に財産を分けられるというのも遺言書のメリットです。
2 遺言書作成を依頼する専門家は弁護士?司法書士?
いざ遺言書を作成しようとされる場合、法的に有効な遺言書をご自身で作成するのはかなり大変だと思います。遺言書作成の方法は、民法という法律によって厳格に定められているからです。
遺言条項の作成を専門家に依頼しようとする場合、弁護士、司法書士、税理士、信託銀行などさまざまな選択肢が考えられると思います。
弁護士への依頼をおすすめする場合
相続人間での紛争が予想される場合には、弁護士への依頼が有効になります。遺留分侵害が明らかな内容の遺言など、相続開始後に調停などによる解決が見込まれる場合は、弁護士に依頼するのがよいでしょう。
ただ、司法書士に依頼する場合に比べると、どうしても弁護士報酬が高くなる傾向にあります。
司法書士への依頼をおすすめする場合
特に紛争が予想されない内容の遺言であれば、司法書士に依頼されることをお勧めします。司法書士に遺言書作成をご依頼いただくと次のようなメリットがあります。
- 弁護士、信託銀行に比べて報酬がリーズナブルです。
- 司法書士は不動産登記の専門家ですから、特に財産の中に不動産が含まれている場合は司法書士が相続登記に利用できる遺言条項を作成できます。
- 不動産以外にも、司法書士は相続開始後の執行手続きがスムーズに進むことを念頭に細かい配慮をしながら遺言条項を作成します。
- 弁護士とは視点が異なり、円満に相続ができる内容のご提案をします(繰り返しになりますが、紛争が見込まれる場合は、司法書士は調停手続きが代理はできませんので弁護士の方が適しています。)
税理士について
税理士が遺言書作成をするケースは少ないようです。もっとも、相続税の発生が見込まれる場合は税理士のアドバイスは有効です。当事務所では、必要に応じ税理士と連携して遺言条項の作成、ご提案を行っていきます。
信託銀行について
信託銀行でも、遺言信託サービス(信託法上の遺言信託とは異なります)などと称する遺言書作成、保管、執行など一連のサービスを提供しています。信託銀行というネームバリューで安心感はあるかもしれません。
ただ、とにかく費用が高すぎます。詳しくは各銀行のホームページでご確認いただければと思いますが、弁護士や司法書士に比べて圧倒的に高いと思います。信託銀行が窓口となりながら、背後で弁護士、司法書士や税理士が具体的な相談や手続きをしていたり、やはり銀行なので相応の固定費が掛かるためと思われます。
そんな高額の費用をかけなくても、司法書士が同じ内容のサービスをご提供することができます。