遺言書の種類

遺言書の作り方は、民法という法律で決まっています。法律で定める方式によらない遺言書は無効とされてしまうので要注意です(民法960条)。

ここでは、遺言書の作成方式である公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3つについて特徴やポイントをご説明します。

1 公証役場で作ってもらう「公正証書遺言」

公正証書遺言は、公証役場という役所で公証人に作成してもらう遺言書です。

公証役場は日本各地にあります。ご自宅近くの役場はこちらで検索することができます。

公証役場一覧 | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)

(1)公正証書遺言作成に関するルール

公正証書遺言は、次の方法で作成することが必要です。

  • 証人2人以上の立会いのもとで作成する。
  • 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する。
  • 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせる。
  • 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名捺印する。
  • 公証人が、署名し、印を押す。

(2)公正証書遺言作成の流れ

上記(1)で書いたのは民法第969条という法律に書かれたルールなのでちょっと堅苦しくなっていますが、実際にはその場で口授して筆記するなんてことはしません。 

実務上は、事前に作成したい遺言書の内容を公証役場にメール等で送ると、公証人が文案を作成しておいてくれます。文案が固まり次第、予約を取って遺言者が公証役場に行き内容を確認した上で公正証書遺言が完成する、という流れです。

また証人(2名)は、ご自身で知人に頼むこともできますが、一般的には知り合いの人に自分の遺言書は知られたくないと思います。また、相続人や受遺者になる人が証人になることもできません。そこで、証人の当てがない場合は、公証役場で用意してくれます(有料、1人につき5000円~7000円程度)。

(3)公正証書遺言のメリット

  • 公証役場で作成・保管してくれるので安心。
    作成された公正証書遺言は、その正本を公証役場で保管してくれます。遺言者の方が120歳になるまで保管すると説明される公証人が多いです(実際はもっと長く保管しているようです)。
    なので、大切な遺言書を紛失したり、誰かに偽造される心配はありません。
  • 家庭裁判所での検認が不要
    遺言者の方が亡くなった後、遺言書を利用して相続手続き(遺言執行)を行うことになります。この場合、自筆証書遺言と異なり、家庭裁判所で検認の手続きをする必要がありません(検認について詳しくは「遺言書の検認」の記事でご説明しています)。
    検認手続きには1~2カ月かかりますから、特に相続税の申告が必要なケースなど相続手続きを急ぐ場合には、公正証書遺言が作成されているとメリットは大きいと思います。


(4)公正証書遺言のデメリット

公正証書遺言のデメリットとして、公証人手数料がかかることが挙げられます。細かな計算方法の説明は省きますが、概ね数万円程度、かなりの資産家の方でも10万円を超えるケースはあまりないかもしれません。

(5)司法書士に依頼するとスムーズ

公証人は希望通りの遺言書を作成してはくれますが、どのような遺言の内容であれば税金面で有利だとか、どのように記載すれば相続後の手続きがスムーズかなど、内容面の一番聞きたい部分のアドバイスまではしれくれません。

司法書士が関与していれば防げたトラブルのご相談例を紹介します。

分譲戸建て不動産を相続させる公正証書遺言で私道部分の記載が漏れていました。遺言者が亡くなった後にそのことが判明し、私道部分についてのみ遺産分割協議書を作成して相続人全員の印鑑をもらう事態になってしまいました(その事例では相続人が8人。大変でした・・・)。

この事例は公証人のミスかというと、一概にそうとも言えません。公証人はあくまで遺言者から提示された資料のみに基づいて遺言書を作成するのであり、親切に遺言書作成のための財産調査をしてはくれないし、記載漏れがあってもそれをカバーできる条項の提案などはしてくれません。

遺言書作成時に司法書士に相談していただければ遺言書作成のための財産調査をしていたでしょうから、私道の存在を見逃すこともなく、このような記載漏れによるトラブルは防げたと言えます。

このように、公正証書遺言は公証人がが作成してくれるからといって安心はしきれません。司法書士にご依頼いただければ漏れやリスクのない遺言条項作成のアドバイスを行いますし、公証役場との事前のやり取りもすべて代行しますからスムーズです。

 

2 手書きで作成する「自筆証書遺言」

自筆証書遺言はその名の通り、自分で手書きで作成する遺言書のことです。自分で紙とボールペンさえ用意すれば、すぐにでも書けます。お金もかかりません。

(1)自筆証書遺言に関するルール

自筆証書遺言は、次の方法で作成することが必要です。

  • 遺言書の全文(財産の内容以外)、日付、名前を手書きで、自分で書く。
  • 氏名の横に、捺印する。
  • 訂正する場合、訂正箇所を指定してその箇所に捺印し、署名する。

法律では名前だけを書けばいいことになっていますが、後のことを考えると、住所や生年月日なども書いた方がいいです。また捺印する印鑑については制限がないので、100円ショップで買った認め印でもいいのですが、できれば実印で捺印された方がいいと思います。

(2)自筆証書遺言にひそむリスク

お金もかからず気楽に作れる。一見、いいこと尽くめに思える自筆証書遺言ですが、リスクもあります。

手書きするのが大変

まず思い付くのは、「書くのが大変!」ということだと思います。これだけパソコン主流の時代になって、大人になってから文章を「手で書く」という経験はあまり無い方が多いのではないでしょうか。

ただ平成31年1月から、財産の内容(不動産の所在地、預貯金の銀行名、支店名、口座番号など)の部分は、手書きではなくパソコンで作成したり、登記簿や通帳など資料のコピーをつける方法でもよいことになりました。以前に比べると少し楽になったといえます(この場合も一定のルールがありますのでご注意ください)。

亡くなった後に検認手続きが必要

遺言書の検認のページで詳しく説明していますが、自筆証書遺言を利用して相続手続きをするには、事前に家庭裁判所で検認手続きをする必要があります。一定の時間がかかりますので、相続手続きを進めるタイミングがその分遅れます。

もっとも、法務局に自筆証書遺言の保管申出という手続きをしておけば、検認手続きは不要です(令和2年7月から始まった制度です)。せっかく書いた遺言書も自宅で保管すると紛失する等のリスクがありますから、もし自筆証書遺言を作成された場合は、この制度を利用して法務局に保管申出をされることをお勧めします。

あとになって遺言書の有効性を争われる可能性がある

自筆証書遺言は公正証書遺言と比べると、遺言無効確認訴訟などで「遺言書は無効だ!」と争われるリスクが高いと言えます。具体的には、遺言書の内容で不利益を受ける相続人から、次のような主張がなされることがあります。

  • 遺言を書いた時点で、父は認知症だったはずだ。
  • 亡くなった2週間前に入院先で書いた遺言書なんて、本人の意思で書いたわけがない。
  • この遺言書は、父の筆跡とは違う。誰かが代筆したのではないか。

こうした主張が裁判で認められるかどうかは別として、遺言無効確認訴訟などで揉めてしまうと費用もかかるし、相続手続きも大幅に遅れてしまいます。

せっかく家族が揉めないために遺言書を作成したのに、揉める原因を作る結果になってしまった…これでは、遺言書を書かれた方も天国で悲しい思いをされるのではないでしょうか。

この点、公正証書遺言は公証役場で作成されるので、無効を争われるリスクはほとんどありません。この意味で、もし遺言者が高齢だったり、認知症の症状が疑われるなどの事情があれば、少し費用は掛かるけれども公正証書遺言をお勧めしています。

もしどうしても自筆証書遺言をご希望される場合は、医師の診断書をとったり、遺言書を書いている様子をビデオ撮影するなどの工夫が必要になるかと思います。

3 秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が作成した遺言書を封筒に入れて封印をしたものを、公証人らにその封書を提出し、公証人がその封筒に所定の事項を記載する方法により作成するものです。公証人に提出するものですが、その内容については公証人も含めて誰に対しても秘密にできます。

ただ、この秘密証書遺言は、実務上ほとんど使われていません。日本公証人連合会のホームページでも、無効となる可能性、保管上の問題、検認手続きが必要であること等を理由に問題点があると指摘されています。

keyboard_arrow_up

0447426194 問い合わせバナー 無料法律相談について