遺言書を作成しなくてはいけない理由

他の記事でも述べたことの繰り返しになりますが、相続の場面において遺言書はとても有効なツールになります。円滑な相続の実現、スピーディな手続きのために不可欠とも言えます。

1 遺言書で定めることができる項目

遺言書で決められること の記事で詳しくご説明していますが、遺言書では次に掲げる最大14個の法定遺言事項について定めることができます。また法的効力はないものの、これ以外にも付言事項という、残された家族への気持ちなどを書くこともできます。

  • 相続分の指定
  • 遺産分割方法の指定・指定の委託、遺産分割の禁止
  • 包括遺贈、特定遺贈
  • 遺留分侵害額請求方法の定め
  • 特別受益の持ち戻し免除
  • 相続人の廃除、廃除の取消し
  • 共同相続人の担保責任の減免、加重
  • 信託設定
  • 子の認知
  • 未成年後見人、未成年後見監督人の指定
  • 遺言執行者の指定または指定の委託
  • 祖先の祭祀主催者の指定
  • 生命保険金受取人の指定、変更

この中でも、中心になるのは遺産の分配に関する内容、具体的には「遺産分割方法の指定」と「包括遺贈、特定遺贈」の2つです。

相続財産の分け方については法律で「法定相続割合」が定められていますが、遺言書ではこれと異なる分配の方法を定めることができます。また、法律では遺産を相続できる「法定相続人」が定められていますが、遺言書では法定相続人以外の人に財産を遺贈することで、財産を渡す人の範囲を広げることもできます。

このように、遺言者がご自身の思うとおりに相続させることができるのが遺言書のメリットと言えます。

2 遺言書を書いておくべきケース

ここからは、遺言書を書いておくことが有効と思われるケースを事例を挙げながらご説明していきたいと思います。

【ケース1】相続人ごとに相続させる財産に差をつけたい

(相談事例)

私の財産は自宅不動産と少しの預貯金だけです。家族は夫がすでに他界していて、2人の息子がいます。

私と同居して日頃の生活を支えてくれた長男夫婦には、感謝の気持ちでいっぱいです。自宅不動産はもちろん、なるべく多くの遺産を残してあげたいと思っています。一方、ろくに見舞いにも来ない次男には、法律で認められた最低限の預金だけにしたいと思います。

しかし、次男が自宅不動産を売却しようと査定の依頼などしているらしく、心配しています。確実に長男に相続させる方法はありませんか。

【ご回答】

遺言がない場合

相続人ごとに相続させる財産に差をつけたい

こんなお悩みのあるご家族の方も結構多いのではないでしょうか。

お母さんのお気持ち、手に取るように分かりますよね。介護してくれたり、自宅で生活したいという希望をかなえてくれた家族には、少しでも目に見える形で感謝の気持ちを残したいというご要望をお持ちです。

ところが、現在の法律では、子どもである以上、相続に関する権利は平等です。上のケースでいえば、長男と次男が2分の1ずつ相続するのが法律上の原則です。お母さんとの関わり方(介護したかしないか、お見舞いに来たか来ないか)は、遺言書を作成しない限り基本的には一切反映されないのです。その意味では、上のケースで次男の言い分も法律的には通る話です(感情的には、なかなか納得できないと思いますが)。

結果として、実家の不動産以外に十分な金融資産(預貯金など)がないと、相続のために思い出の詰まった実家を売却しなければいけない、という悲しい結果になってしまう可能性もあるのです。

遺言がない場合

「長男に多く相続させる」という遺言書の作成が可能

お母さんが次のような遺言書を残すことで、実家を売るという最悪の事態を免れることができ、また長男になるべく多く残してあげたいというお気持ちも実現ができます。

  1. 次男には、遺留分の4分の1(750万円)だけ相続させる。
  2. 長男には、実家と預金の一部(250万円)を相続させる。

長男と次男で平等じゃないのでは?と思われたかもしれません。

しかし、遺言書がある場合は、遺留分を侵害しない限り遺言書の内容が最優先されます(遺留分について詳しくは別の記事でお伝えしますが、このケースでは、次男に遺産の4分の1をあげれば、それ以上何も請求することができなくなります。)

何もしないと2分の1ずつ平等に相続するのが原則ですが、遺言書を作成することでお気持ちに沿った(上の例では、長男と次男で差をつけた)相続が可能になります。

【ケース2】法定相続人以外の人にも財産をわたしたい

上のケース1で、お母さんが、介護に協力してくれた長男の妻にも財産をあげたいというお気持ちの場合も、遺言書を作成することによりその実現が可能です。

まず長男の妻は、お母さんの法定相続人ではありません。ですから、生前どんなに献身的に介護していたとしても、遺言書がない限りお母さんの遺産を相続することはできないのが原則です。

遺言書があれば、法定相続人以外の人にも財産を遺贈することができます。遺言書の、ご本人の気持ちを尊重するという機能が強く発揮されるケースといえます。

法定相続人以外の人にも財産をわたしたい



【ケース3】家族間の仲がよくない

相続の前から何らかの事情でご家族の仲がよくない、あるいは疎遠であるというケースでは遺言書は有効です。また、「ウチは子どもたちが仲いいから遺言書なんていらないわ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、当事務所の経験上、もともとは仲が良かったが相続をきっかけに遺産の分け方で話がまとまらずに仲が悪くなるご家族も一定割合いらっしゃいます。

遺産相続の方法は、遺言書があれば遺言書の内容に従って遺産を分けるのですが、遺言書がない場合は相続人全員の遺産分割協議によって遺産の分け方を決めることになります。しかし、仲が悪くて話し合いができないと、相続手続きを前に進めることができません。

家族間の仲がよくない

上図の例は、お母さんが遺言書を残さずに他界してしまったケースです。

弟さんがなぜ「兄貴の顔を何か見たくもないわ!」と言っているのかは分かりませんが、いずれにしても、話をすることすらできなければ、相続手続きは一向に進めることができません。どうしても話し合いがまとまらない場合には「遺産分割調停」を家庭裁判所に申し立てることになるのですが、そうすると弁護士費用が多くかかる上、家族仲は決定的に分裂してしまいます。相続手続きが完了するまで何年もかかってしまうこともあります。

こうしたケースでは、遺言書が非常に有効です。遺言書によって相続の方法が決まっているのですから、仲の悪い家族での話し合いも必要ありません。司法書士のような第三者を「遺言執行者」として定めておけば、遺言書の内容をそのまま実現してくれます。

自宅は長男!お金は次男!など、親としてビシっと決めておき、争続を予防するのも、親心といえるかもしれませんね。

【ケース4】法定相続人の中に、認知症、未成年者、行方不明者がいる

 法定相続人の中に未成年者がいる場合は、家庭裁判所で「特別代理人」を選任してもらわないと、遺産分割協議ができません。

法定相続人の中に認知症の方がいる場合は、家庭裁判所で「成年後見人」等を選任してもらわないと、遺産分割協議ができません。

法定相続人の中に行方不明の方がいる場合は、家庭裁判所で「不在者財産管理人」を選任してもらい、さらに「権限外行為許可」を受けないと、遺産分割協議ができません。

 こうした手続きには、まず費用と時間がかかります。また家庭裁判所が必ず言うのは、「未成年者、認知症、不在者には、法定相続分を確保しなさい」ということです。柔軟な遺産の配分ができなくなってしまうのです。

遺言書があれば、遺言の内容通りに財産を相続するので、上記のような家庭裁判所での手続きが不要になります。遺言書は、このような場合にも非常に有効です。

3 まとめ(遺言書を作成すべき理由)

遺言書で定められる項目や遺言書が有効な事例についてご説明してきました。

遺言書は、法律の定めにとらわれず、生前のご家族との関係などに鑑み、遺産の分け方を遺言者ご自身の意思で柔軟に決めることができるものです。

一方で、残されたご家族がもめないような納得感のある遺言書であれば、相続後も家族が仲良く暮らしていくことができるのではないでしょうか。遺言書は家族に対する最後の思いやりとも言えます。ぜひ、遺言書の作成をご検討いただきたいと思います。

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