令和元年の相続法改正を皮切りに、相続に関する法律の大きな改正がされました。
それぞれの内容について、概略をご説明します。
このページの目次
1 遺言書についての改正
(1)自筆証書遺言の要件緩和(影響度★★★)
自筆証書遺言を作成するとき、一定の要件を満たせば財産目録(相続させる財産の内容が分かるもの)の部分については自筆する必要がなくなり、パソコン入力あるいは登記簿、通帳など資料のコピーで作成することが認められました。手書きする文字数が減り、自筆証書遺言が作成しやすくなったと言えます。
平成31年1月13日以降に作成する遺言書について適用される制度となります。
(2)自筆証書遺言書の保管制度(影響度★★★)
法務局において、自筆証書遺言を保管してくれる制度が令和2年7月に新設されました。
この制度を利用することにより、自筆証書遺言書のデメリットであった紛失や改ざんのリスクがなくなります。また、被相続人が亡くなったことを法務局が知った場合には、あらかじめ指定した相続人や遺言執行者へ法務局から通知が届きます。
自筆証書遺言が安心して利用しやすくなったと言えます。
2 相続登記についての改正
(1)相続登記の義務化(影響度★★★)
令和6年4月より、不動産所有者が亡くなった場合の相続登記が義務化されます。これまでは相続により不動産を取得しても登記するかどうかは相続人の意向に任されていましたが、3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科せられることになりました。令和6年3月以前に発生した相続についても適用されます。
これまで相続登記されていないために所有者が不明な土地が増え続けており、これ以上所有者不明土地の発生しないよう予防しようという趣旨のものです。過料を伴う義務化ですので、これはかなり影響の大きい法改正と言えます。それだけ国としても、所有者不明土地解消に本腰を挙げたものと評価できます。
この改正の前後にかかわらず、不動産の名義変更(相続登記)の記事でもご説明していますが、相続登記を放置しているとリスクが増えるばかりですから、遺産分割協議で不動産の相続取得者が確定したら、お早めの相続登記をおすすめします。
(2)相続した土地の国庫帰属(影響度★★)
令和5年4月27日より、相続により取得した土地について一定の要件を満たす場合、法務大臣の承認を得ることにより土地の所有権を国に引き取ってもらうことができるようになります。
これまで、地方の山林や農地など遺産の中に売却の難しい土地が含まれている場合、遺産分割の中で取得を希望する相続人がおらず、その処理方法についてご相談いただくケースが多かったのです。条件さえ満たしてこの国庫帰属制度を利用できれば、問題解消につながるかもしれません。
ただ、その条件というのがかなりハードルが高いです。また、国に引き取ってもらうには10年分の管理費を納付しなければならないなど、経済的な負担も伴います。使い勝手はイマイチ?という制度設計のように思います。
(3)相続登記をしなければ第三者に対抗できない(影響度★★★)
不動産を相続した相続人が相続登記をしないと、相続したことを第三者に対抗できないという規律が新設されました。
これにより、相続登記を怠っていると法的に権利が保護されないという事例が考えられます。たとえば法定相続人がA,Bの2名で、遺産分割協議によりAが不動産を相続したというケースを考えてみます。この場合でも、実はBが単独でA,B共有名義の相続登記を申請することができます。そしてBが実は借金をしていて、その債権者CがB持分に差押えの登記をしてしまうと、もはやAはCに対して「Aがその不動産を単独で相続した」ことを主張できなくなってしまうということなのです。何ともおかしな結論のように思われますが、結局のところ、相続登記を怠っていたAが悪いという価値判断です。
この法改正により言えることは、遺産分割協議が成立したら、すぐに相続登記をすべきということです。
3 配偶者保護についての改正
相続において配偶者がより手厚く保護されるための規定が設けられました。配偶者居住権は今回の相続法改正の中でも目玉とされています。
ただ、これは相続人間で相続分を厳格に計算しようとするご家族、あるいは遺産分割協議が整わなかったり遺留分に関する紛争が生じるようなご家族に限って効果を発揮するものではないかと思います。
(1)配偶者居住権に関する規定の新設(影響度★★)
被相続人の配偶者に、一定の条件のもとで「配偶者短期居住権」「配偶者居住権」という新たな権利を認めることで、配偶者が引き続き自宅に住み続けることができ、安定した生活を送ることができるようになりました。
・配偶者短期居住権
自宅建物の所有者が死亡した場合、相続開始から遺産分割協議が終了するまでの間、被相続人の配偶者は無償でその自宅に住み続けることができるという権利です。
・配偶者居住権
遺言による遺贈または遺産分割によって、被相続人の配偶者が終身または一定期間、無償で自宅建物に住み続ける権利を設定することができます。
配偶者が自宅建物に住み続けようと思えば、自宅不動産の所有権を相続する方法も考えられます。ただそうするとその所有権の評価額が高くなるため、預金など不動産以外の相続財産を十分に取得できないことになりかねません。配偶者居住権の評価額は所有権より低いので、配偶者が所有権ではなく配偶者居住権を取得すれば、そのぶん預金等の財産も取得できることになります。
配偶者居住権を設定した場合、登記が必要になります。
(2)夫婦間の居住用不動産贈与に関する持戻し免除の意思表示の推定(影響度★★)
婚姻期間20年以上の夫婦間において居住用不動産が贈与された場合について特別受益の持戻しの意思表示があったものと推定するとの規定が新設されました。
本規定の新設によって、配偶者がより多くの財産を受け取れるようになりました。
4 遺産分割についての改正
(1)遺産分割前の預金仮払い制度の新設(影響度★★)
遺産のうち預貯金について、遺産分割協議の成立前でも、一定の条件を満たせば相続人の1人が単独で払い戻しを受けられるようになりました。
預貯金については相続開始すると口座凍結されてしまいます。遺産分割協議には一定の時間がかかるため、葬儀費用や入院費の支払いなどに充てるため被相続人の預金を(法律上は)引き出そうと思っても払戻ができないという問題がありました。そこで、今回の法改正によって、1つの銀行について最大150万円までは遺産分割協議の成立前でも引き出せるようになりました。
(2)遺産の一部分割(影響度★)
遺産の一部についてのみ遺産分割協議を成立させることができる旨が明文化されました。たとえば遺産の中に相続人全員が売却することに合意している土地がある場合に、その土地の遺産分割だけを先行して行うと言ったケースです。もともと一部分割は法改正前も実務上認められていましたので、特に大きなインパクトはない改正です。
(3)遺産分割前に処分された財産の取り扱い(影響度★)
相続開始後に相続人の1人が遺産の一部を処分した場合に、計算上生じる不公平を是正するような計算方法を新たに規定しました。
5 遺留分制度の見直し(影響度★★)
遺留分を侵害された相続人が他の相続人に対して遺留分の請求をする場合に、その請求方法は金銭で請求することとするとの規定が設けられました。
法改正前は、たとえば相続人Aが不動産を相続して相続人Bが遺留分を侵害されたという場合に、Bは「その不動産の共有持分」を引き渡すよう請求する(遺留分減殺請求)こととされていました。ただそうすると不動産が共有状態になり、複雑な権利関係が生じてしまっていました。
今回の法改正では、Bは不動産共有持分相当の「金銭」を請求するというルールに変わりました(遺留分侵害額請求)。遺留分の問題はお金で解決ということですね。
また、お金で解決するにしても遺留分相当額のお金は高額になりやすいため、まとまったお金を用意できないときは裁判所に申し立てることで支払期限の猶予をしてもらえるようになりました。
6 相続人以外の者に対する特別寄与料(影響度★)
相続人以外の親族が被相続人の療養看護を行った場合には、一定の条件を満たすと、相続人に対して金銭請求をすることが認められるようになりました。
7 まとめ
ここ数年間の相続法改正について概要をご説明しました。
実務的に特に影響が大きいのは、「1 遺言書についての改正」「2 相続登記についての改正」の2つです。相続登記の義務化は令和6年4月施行ですが、過去の未登記不動産についても対象になりますから、対策を早めに考えておく必要があります。
また遺産分割協議において相続分の計算を厳格に行いたいご家族にとっては「3 配偶者保護についての改正」「5 遺留分制度の見直し」もポイントになります。
当事務所では法改正情報をいち早くキャッチし、ご相談やご依頼を受ける際にも法改正内容を反映した対応を行っております。気になる点がありましたらお気軽にご相談ください。