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1 家族信託とは
家族信託とは、家族を信じて財産を託す契約です。ここ数年、有効な認知症対策として注目されています。
ただ具体的な制度内容はやや複雑で、正直分かりにくい部分があると思います。家族信託は事例を使ってご説明した方が分かりやすいので、まずは家族信託が有効なケースを見てください。
2 家族信託が有効なケース~親が認知症になっても不動産を売却できる~
(1)認知症になると自分で家が売れなくなる!?
なぜ、認知症になると家が売れなくなるのか
一言でいうと、認知症になるとハンコが押せなくなるからです。
ここでいう「ハンコ」というのは、法律的に有効なハンコのことです。残念ながら、法律では、認知症の方が押したハンコは無効になるので、お父さんがハンコを押した売買契約書も無効になってしまうのです。
(2)家族信託により解決が可能
上の事例で、家族信託であらかじめ備えておくとどうなるでしょうか。
お父様が元気なうちにご長男と信託契約を締結し、お父様名義のご実家(土地建物)を、ご長男に信託します。
信託というのは、信じて託すこと。簡単に言うと、「私の家をあなたに託します。この家で(この家を売ったお金で)私のことを頼むよ」という契約です。家族信託をしておけば、ご自身が認知症になった後も、ご家族(ご長男)のハンコだけでご自宅を売却することが可能になるのです。
(3)家族信託 5つの安心
安心1 信託しても、お父様は、そのまま住み続けることができます。
信託すると自宅の名義(登記)はご長男に変わります。でも、それはあくまで管理をするための名義。信託をしてもお父様の家に変わりないですから、当然そのまま住み続けることができます。もちろん、売却した場合は売却代金もお父様の財産です。
安心2 ご長男が単独で、家を売却できます。
信託したことによって家はご長男名義になっているので、ご長男が売買契約書にハンコを押すことにより、法律的に有効な売却ができます。お父様が認知症になっても心配ありません。
安心3 売却したお金も、ご長男が管理。専門家へのランニングコストはいりません。
売却して得たお金は、ご長男名義の口座(信託口座)で管理します。
成年後見と違って、他人に通帳を管理されることも、報酬を払い続ける必要もありません。
安心4 お父様の気持ちに寄り添って家族のためにお金が使えます。
家の売却代金は、施設の入所費用や介護費用、生活費などお父様のために使うのはもちろん、たとえばお孫さんに結婚のお祝い金をあげたり、長男の家の購入資金を渡す、家族旅行に行くなど、お父様が契約に定めたお気持ちにそって、ご家族のために財産を使うこともできます。
ご長男は信託されたお金を、信託契約書に書かれた目的のために利用します(上の例では、お父様の施設の入所費用や、入所後の介護費用、生活費などに使います)。これ以外にも契約に定めておけば、お孫さんに贈与したり子どもの家の購入資金としてあげることも可能です。
お父さんが元気なうちに、お父さんが実家を売った後にしたいことを、契約書に全部書いておくのです。
安心5 贈与税や不動産取得税もかかりません
お父さんの土地建物を長男名義にする方法として、贈与するという方法も考えられますが、贈与の場合は贈与税がかかります。
信託では、贈与税はかかりません。不動産の譲渡で心配になる不動産取得税もかかりません。なぜかというと、形式的な名義は長男ですが、実質的にはお父さんの財産だからです。税務上は、お父さんの名義のままという考え方です。
税法上は、実質的な所有者は誰か?という点から課税するかどうかを判断します。そして、実質的な所有者がお父さんであることを証明するのが、信託契約書なのです。
3 家族信託の流れ
(1)生前対策のご検討
生前対策についてご相談したい方へ の記事でもご説明していますが、生前対策の方法には家族信託以外にもさまざまな方法があります。ご自身の希望や、ご家族での話し合いもしていただき、家族信託が適しているのかどうかをまずご検討ください。
どんな対策が良いかよく分からないという場合は、お気軽に当事務所へご相談ください。
(2)信託スキームのご提案
家族信託を利用すると決めたら、当事務所にてスキームのご提案をいたします。
(3)信託契約書の作成
信託契約書は売買や贈与などに比べると内容がかなり複雑ですので、司法書士などの専門家にご相談いただき、最終的には公正証書で作成されることをお勧めします。よく書店やインターネットなどで信託契約書のひな型のようなものも見受けますが、ご家族ごとに契約内容は変わってくるので、ひな型をそのまま利用することは後でトラブルのもとになります。
(4)信託による所有権移転登記
信託財産の中に不動産がある場合は、信託による名義変更(登記)が必要です。上の事例でいえば、お父様(委託者)から長男(受託者)に名義を移します。とはいっても、この名義はあくまで形式的なものです。
(5)不動産売却
信託契約の目的にそって不動産売却が必要な場合には、長男(受託者)が不動産を売却することができます。売買契約書への署名捺印から最終引渡しまで、長男が単独で手続きができ、これが家族信託のメリット、使いやすい点と言えます。
売却代金は信託契約に書かれた内容に沿って、親(受益者)のために使います。
(6)相続発生
いずれ親にも相続が発生します。相続発生後も信託を継続すること自体は可能なのですが、ご自宅売却を主目的とする家族信託の場合は、一般的には相続が発生したところで信託終了となる事例が多いと思います。
相続時点で信託財産として残ったお金(残余財産)の分け方も、信託契約書の中で決めることができます(遺言代用機能)。
4 家族信託が有効なケース
- 将来、自宅不動産を売却して施設入所することを希望している
- 収益不動産や自宅など事業用の財産がある
- 家族の財産管理に他人を入れたくない
このような場合には、家族信託は有効な解決策になることがあります。具体的な事例は、今後コラム等でご紹介していきたいと思います。
5 当事務所の家族信託サービス
当事務所では、家族信託について次のようなサービスをご提供しています。
- 生前対策のコンサルティング、提案書の作成
- 信託契約書(文案)の作成
- 家族会議への参加、ご説明
- 公証役場での契約書作成の立会い
- 信託による不動産登記申請
- 金融機関への説明サポート(信託口口座の開設も含む)
- 信託開始した後1年間、事務処理などに関するご相談などアフターサポート(オプション)
- 税理士のご紹介(必要な場合、税理士相談料は別途かかります)
6 まとめ
以上、家族信託について事例を交えながらご説明してきました。イメージをお持ちいただけたでしょうか。家族信託の特徴をまとめると、次のようにまとめることができると思います。
- 認知症対策として有効
- 信託契約するだけで形式的な名義を移すことができる
- 信託契約時には、贈与税や譲渡所得税、不動産取得税などの税金の心配がいらない
- 複雑な法律関係が生じるので、単純な贈与や売買と比べると複雑
家族信託は、ケースによっては認知症対策としてとても有効である反面、使い方がやや難しい制度でもあります。家族信託のご検討をされている方は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。