【2026年最新】遺言の押印廃止とデジタル化を閣議決定!司法書士が解説

【2026年法改正】遺言のルールが大きく変わります

「遺言書は、全文を自分の手で書き、ハンコを押さなければならない」。これまで日本の法律における大原則だったこのルールが、今、根底から変わろうとしています。

2026年(令和8年)4月3日、政府は遺言のデジタル化などを盛り込んだ民法改正案を閣議決定しました。ニュースなどで「スマホやパソコンで遺言が作れるようになる!」と耳にして、気になっている方も多いのではないでしょうか?

これまで、遺言書の作成を考えながらも、「長文を手書きするのが大変」「手が震えて字がうまく書けない」といった理由でためらっていた方にとって、これは大きな朗報です。

今回の改正の目玉は、デジタル技術を活用した新しい遺言方式である「保管証書遺言(いわゆるデジタル遺言)」の創設と、これまでの「自筆証書遺言」のルール緩和(押印の廃止など)です。

長文を手書きする負担が減ることで、遺言の作成は今後さらに身近なものになります。本記事では、今回の閣議決定で「遺言のルールが具体的にどう変わるのか」、そして「いつから使えるようになるのか」を、相続の専門家である司法書士がいち早く、そして詳しく解説します。このテーマの全体像については、生前対策の始め方(全体像と手順)で体系的に解説しています。

参照:法務省:法務大臣閣議後記者会見の概要(令和6年4月3日)

なぜ今、遺言制度が変わるのか?法改正の背景

そもそも、なぜ今、長年変わらなかった遺言のルールが大きく見直されることになったのでしょうか。その背景には、私たちの社会が抱えるいくつかの課題があります。

第一に、高齢化社会の進展です。遺言を作成する方の多くはご高齢ですが、「財産が多くて全て手書きするのは体力的につらい」「病気や加齢で手が震え、文字を書くこと自体が困難」という切実な声が数多くありました。現行の自筆証書遺言は、こうした方々にとって非常に高いハードルとなっていたのです。

第二に、デジタル社会への対応です。私たちの生活では、スマートフォンやパソコンを使うのが当たり前になりました。契約書も電子化が進む中で、遺言だけが「手書き」に固執し続けるのは時代に合わないという指摘がありました。特に、ネット銀行や暗号資産といったデジタル遺産が増える中、遺言の作成方法も現代のライフスタイルに合わせていく必要があったのです。

今回の法改正は、こうした社会の変化に対応し、より多くの人が、より簡単に、そして安心して遺言を残せるようにすることを目指したものと言えるでしょう。

手書きでの遺言書作成に負担を感じ、物思いにふける高齢男性。

【改正の目玉①】新方式「保管証書遺言」とは?

今回の法改正で最も注目されているのが、新たに創設される「保管証書遺言」です。これは、パソコンやスマートフォンで作成した遺言データを、法務局で保管してもらうという全く新しい方式の遺言です。

この制度は、「自筆証書遺言の手軽さ」「公正証書遺言の安全性」の、いわば“いいとこ取り”を目指した制度設計になっています。具体的にどのような特徴があるのか、3つのポイントに分けて見ていきましょう。

パソコンやスマホで作成!手書きの負担がゼロに

保管証書遺言の最大のメリットは、なんといっても遺言の本文を手書きする必要がなくなることです。

パソコンのワードなどで作成した文章をそのまま遺言として利用できるため、手が不自由な方や、多くの財産について詳細に書き記したい方でも、負担なく作成できます。書き間違えた際の修正も簡単です。

具体的な作成フローは、以下のように想定されています。

  1. 遺言者本人が、パソコンやスマートフォン等で遺言の内容を作成する。
  2. 作成した遺言を法務局に提出し、本人確認を受ける。
  3. 対面またはウェブ会議で、本人が遺言の全文を法務局職員の前で読み上げるなど、真意確認の手続を行う。
  4. 法務局が、提出された遺言を保管する。

ただし、一つ注意点があります。法務局はあくまで形式的な要件を確認し、データを保管するだけで、遺言の「内容」が法的に有効かどうかまで審査してくれるわけではありません。「長男に全ての不動産を相続させる」といった内容が、他の相続人の遺留分を侵害していないか、といった法的な問題点まではチェックされないのです。内容に不安がある場合は、事前に司法書士などの専門家に相談することが、将来のトラブルを防ぐ鍵となります。

法務局が関与するから安心!なりすまし・改ざんを防止

「デジタルだと、誰かが勝手に作った遺言ではないかと心配…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。その点もご安心ください。

保管証書遺言では、最後に必ず法務局の職員との面談(対面またはウェブ会議)が行われます。このプロセスで厳格な本人確認が行われ、遺言者本人の意思に基づいたものであることが確認されるため、なりすましや、誰かに無理やり書かされたといった事態を防ぐことができます。

また、遺言のデータは法務局で保管されるため、自宅で保管する自筆証書遺言に比べて、紛失・隠匿・改ざん等のリスクを大幅に低減できます。この点は、公証役場で原本が保管される公正証書遺言の安全性に近いメリットと言えるでしょう。

相続手続きがスムーズに!家庭裁判所の「検認」が不要

残されたご家族にとって、非常に大きなメリットとなるのが「検認(けんにん)」が不要になる点です。

検認とは、自筆証書遺言が見つかった際に、家庭裁判所で相続人全員の立ち会いのもと、遺言書の状態を確認する手続きのことです。これには、戸籍謄本など多くの書類を集めて申し立てる必要があり、手続きが終わるまで数ヶ月かかることも珍しくありません。その間、預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きを進めることができず、相続人にとって大きな負担となっていました。

保管証書遺言について、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要となるかどうかは、今後の国会審議・制度設計で整理される点です(法制審の検討過程では、検認規定の適用を含めて議論された経緯があります)。相続が開始したら、すぐに金融機関や法務局での手続きに進めるため、相続人の負担を大幅に軽減できるのです。

【改正の目玉②】自筆証書遺言のルールはどう変わる?

今回の法改正では、新しい制度の創設だけでなく、既存の「自筆証書遺言」のルールも緩和されます。これまで自筆証書遺言の有効性を左右する重要な要件とされてきた「押印」の扱いです。

ついに「ハンコ不要」へ!押印義務が廃止に

結論から言うと、自筆証書遺言を作成する際の押印が不要になります

これまで、自筆証書遺言は「全文、日付、氏名の自書」と「押印」の4点が揃っていなければ無効とされてきました。この押印は、遺言者本人の意思で作成されたことを示す重要な役割を担うとされてきたのです。

しかし、社会全体のデジタル化・脱ハンコの流れを受け、遺言においてもこの押印要件が見直されることになりました。これにより、紙とペンさえあれば、いつでもどこでも、より手軽に遺言を作成できるようになります。

【専門家の視点】押印廃止で懸念される新たなリスクとは

手軽になる一方で、私たち実務家は、この押印廃止に新たなリスクの可能性を感じています。それは、遺言書の真贋(しんがん)、つまり「本当に本人が書いたものか?」をめぐる争いの増加です。

これまで、押印された印影は、本人の遺言であることの一つの証拠となっていました。特に実印が押され、印鑑証明書が添付されていれば、その証明力は非常に高いものとなります。しかし、押印がなくなると、その証拠の一つが失われることになります。

もし相続人の一人が「これは父(母)の字ではない」と主張した場合、残された証拠は筆跡しかありません。そうなると、高額な費用と時間がかかる筆跡鑑定に発展し、かえって相続人の負担を増大させ、家族間の紛争を深刻化させる恐れがあるのです。

手軽になるからといって、安易に押印を省略するのは得策とは言えません。たとえ法律上の義務がなくなっても、ご自身の意思を明確にし、残される家族を争いから守るためには、これまで通り、できれば実印で押印しておくことを強くお勧めします。もちろん、より安全性を考えるのであれば、初めから保管証書遺言や公正証書遺言を利用するのが賢明な選択と言えるでしょう。

新制度のメリット・デメリット総まとめ【専門家が比較解説】

ここまで解説してきた新しい遺言制度について、現行の方式と合わせて比較し、その特徴を整理してみましょう。ご自身にとってどの方式が最適か、判断する材料にしてください。

保管証書遺言(新設)自筆証書遺言(改正後)公正証書遺言(現行)
作成方法PC・スマホで作成本文は手書き(財産目録はPC作成等も可)公証人が作成
押印不要不要必要(実印または認印)
証人不要不要必要(2名以上)
安全性(偽造・紛失リスク)◎ 極めて低い(法務局が保管)△ 高い(自己管理)◎ 極めて低い(公証役場が保管)
検認不要必要不要
費用△ 数千円程度か◎ 0円~× 数万円~
内容の有効性△ 自己責任(専門家の確認推奨)△ 自己責任(無効リスクあり)◎ 極めて高い(公証人が確認)
こんな方におすすめ費用を抑えたいが、安全性も確保したい方。手書きが困難な方。とにかく費用をかけたくない方。内容がごくシンプルな方。公正証書遺言の作成費用、最も確実で安全な方法を選びたい方。
遺言方式の比較(法改正後)

デジタル遺言はいつから?今、遺言を作りたい方はどうすべきか

「ぜひ新しい制度を利用したい!」と思われた方も多いかもしれませんが、ここで最も重要な点をお伝えします。

今回の民法改正案は2026年4月に閣議決定されたばかりで、まだ国会で成立していませんし、施行日も決まっていません。法律が成立したとしても、施行は公布から3年以内の政令で定める日とされており、実際に「保管証書遺言」が利用できるようになるのは、まだ数年先になる見込みです。

では、法改正を待つべきなのでしょうか?

私たち専門家の答えは、明確に「いいえ、待つべきではありません」です。なぜなら、人の未来は誰にも予測できないからです。改正を待っている間に、もし万が一のことがあれば、ご自身の想いを形にする機会そのものを失ってしまいます。遺言は「明日やろう」ではなく、「今日やろう」が鉄則です。

今、遺言の作成を考えているのであれば、現行の制度の中で、ご自身にとって最善の選択をすることが重要です。具体的には、以下の2つの方法をお勧めします。

  • 確実性を最優先するなら「公正証書遺言」費用はかかりますが、専門家である公証人が作成に関与するため、内容の不備による無効リスクを大きく下げられます。偽造や紛失のリスクもなく、検認も不要です。入院中や施設入所中でも作成可能ですので、最もお勧めできる方法です。
  • 手軽さと安全性のバランスをとるなら「自筆証書遺言書保管制度」自筆証書遺言書保管制度は、本文は自書で作成した自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる現行の制度です(※財産目録はパソコン作成等も可能です)。これにより、紛失や改ざんのリスクを防ぎ、検認も不要になります。新しい保管証書遺言の「手書き版」とイメージすると分かりやすいかもしれません。
    詳しくは法務省の自筆証書遺言書保管制度についてのページもご覧ください。

まとめ:遺言制度は変わる。でも専門家の役割は変わりません

今回は、2026年4月に閣議決定された遺言制度の改正案について、いち早く解説しました。パソコンやスマホで遺言が作れるようになり、押印も不要になるなど、遺言作成のハードルはこれから大きく下がっていくでしょう。

しかし、忘れてならないのは、それはあくまで「形式」の話だということです。いくら簡単に作れるようになっても、その「内容」が原因で、残された家族が争うことになってしまっては元も子もありません。

どの財産を誰に、どのような割合で分けるのか。相続人全員の納得感を得るにはどうすればよいか。遺留分への配慮は十分か。そして、法的な効力以上に大切な、ご自身の想いや感謝の気持ちを伝える付言事項をどう記すか。

テクノロジーがどんなに進化しても、こうした本質的な部分を、ご家族一人ひとりの状況に合わせて最適に設計する作業は、決してなくなりません。むしろ、作成が手軽になるからこそ、内容の重要性はますます高まっていくはずです。

私たち司法書士は、法律の専門家として、常に最新の法改正情報をキャッチアップし、皆様に最適な選択肢をご提案します。そして何より、皆様一人ひとりの想いに寄り添い、それが争いの種ではなく、家族の絆を深める「最高の贈り物」となるような遺言書作りを、これからも全力でサポートしてまいります。

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