スマホが開かない!デジタル遺産の相続対策【司法書士解説】

【実例】父のスマホが開かない…デジタル遺産が見つからない!

「父が急に亡くなったのですが、スマホのロックがどうしても開かないんです…」

最近、このような切実なご相談が本当に増えています。先日ご相談に見えた方も、お父様を突然亡くされ、途方に暮れていらっしゃいました。

お父様は生前、紙の通帳を持たず、ネット銀行やスマホ証券、QR決済アプリなどを日常的に使っていたご様子。しかし、スマートフォンは指紋認証でロックされており、パスワードも誰にも伝えていませんでした。

ご自宅を探しても、キャッシュカードや取引明細のようなものはほとんど見当たらず、銀行からの郵便物もほぼありません。唯一の手がかりは、証券会社のものと思われる封筒が1通だけ。

「父のお金が、一体どこにどれだけあるのか全く分からないんです…」

ご家族の不安は計り知れません。故人が遺した大切なお金が、スマートフォンのロックという見えない壁の向こう側に取り残されてしまう。これは、もはや誰の身にも起こりうる、現代の相続が抱える深刻な問題なのです。

この事例では、当事務所で正式にご依頼を受け、郵便物の精査やクレジットカード明細の分析、金融機関への全店照会といった専門的な調査を進めました。その結果、ネット銀行2口座、スマホ証券1口座、そして約8万円のQR決済残高を発見し、無事に相続手続きを進めることができましたが、発見までに多大な時間と労力を要したのが実情です。

この記事では、このような「困った」に直面した方、そして将来の不安を感じている方のために、司法書士の視点からデジタル遺産の調査方法と、今からできる対策を具体的にお伝えしていきます。

そもそもデジタル遺産とは?相続の対象になるものを解説

「デジタル遺産」という言葉はよく耳にするようになりましたが、具体的に何を指すのか、正確に理解されている方は少ないかもしれません。実は、デジタル遺産は大きく2つの種類に分けられます。

一つは、ネット銀行の預金や電子マネーのように財産的な価値があり、相続の対象となる「デジタル遺産」。もう一つは、SNSアカウントや写真データのように、直接的な金銭価値はないものの、故人の思い出などが詰まった「デジタル遺品」です。

デジタル遺産とデジタル遺品の違いを比較した図解。相続財産になるネット銀行の預金や電子マネーと、思い出の品であるSNSアカウントや写真データなどを分かりやすく分類している。

この2つをきちんと区別して考えることが、スムーズな相続手続きの第一歩となります。相続財産の全体像を把握するための財産調査は、デジタル資産も含めて行う必要があります。

相続財産になる「デジタル遺産」の具体例

法的に相続財産として扱われ、遺産分割協議や相続税の対象となるものには、以下のようなものが挙げられます。

  • 預貯金:ネット銀行の預金、ネット支店の預金など
  • 有価証券:ネット証券で取引していた株式、投資信託、FXなど
  • 電子マネー・コード決済等:QR決済や電子マネーの残高(事業者の規約により相続できない/払い戻し等の取扱いが異なる場合があります)、交通系ICカードのチャージ残高等
  • 暗号資産(仮想通貨):ビットコイン、イーサリウムなど
  • ポイント・マイル:クレジットカードのポイント、航空会社のマイル、各種サービスのポイントなど

特に注意が必要なのは、ポイントやマイルです。これらは各社の利用規約によって相続の可否が定められており、一身専属(その人限り)の権利として相続が認められないケースも少なくありません。価値のある資産を見つけたからといって、必ずしも相続できるとは限らない点は覚えておきましょう。

財産価値はないが注意が必要な「デジタル遺品」

一方、直接的な財産価値はないものの、放置すると後々トラブルになりかねないのが「デジタル遺品」です。代表的なものを見てみましょう。

  • 各種アカウント:メールアカウント(Gmail、Yahoo!メールなど)、SNSアカウント(Facebook、X、Instagramなど)
  • オンラインデータ:クラウドストレージ(Google Drive、iCloudなど)内の写真、動画、文書ファイル
  • 有料サブスクリプション:動画配信(Netflixなど)、音楽配信(Spotifyなど)、ソフトウェアの利用契約など

特に危険なのが、有料のサブスクリプションサービスです。本人が亡くなったことを事業者が知る由もないため、解約手続きをしない限り、クレジットカードなどから料金が引き落とされ続けてしまいます。気づいた時には多額の支払いが発生していた、というケースも。これはまさに「負の遺産」と言えるでしょう。

また、SNSアカウントは乗っ取りなどのリスクもあるため、各事業者が定める手順に従って、追悼アカウントへの移行やアカウント自体の削除といった手続きを検討する必要があります。

デジタル遺産を放置する3つのリスク

「よく分からないし、面倒だから…」とデジタル遺産の調査や手続きを後回しにすると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。主に考えられる3つのリスクを解説します。

  1. 遺産分割協議のやり直し
    相続人全員で話し合って遺産の分け方を決める「遺産分割協議」が成立した後に、新たに高額なネット銀行の預金などが見つかった場合でも、直ちに協議全体が無効になるとは限らず、見つかった財産について改めて分け方を協議するのが一般的です(状況によっては全体を見直すこともあります)。
  2. 相続税の申告漏れによる追徴課税
    デジタル遺産も当然、相続税の課税対象です。もし調査が不十分で申告から漏れてしまうと、後日税務署から指摘を受け、本来納めるべき税金に加えて「過少申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課せられる恐れがあります。知らなかったでは済まされない、非常に重いリスクです。場合によっては相続税の申告が必要になるケースもありますので、正確な財産把握が不可欠です。
  3. サブスク料金の継続的な支払い
    先ほども触れましたが、故人が契約していた有料サービスを解約しない限り、料金は発生し続けます。毎月の支払額は小さくても、積み重なれば大きな金額になります。相続財産から無駄な支出が続くことは、誰にとっても避けたい事態でしょう。

【実践】デジタル遺産の調査方法|パスワード不明でも諦めない

「でも、スマホのロックもパスワードも分からないのに、どうやって調べればいいの?」ここが一番知りたい点だと思います。大丈夫です、諦める必要はありません。調査は段階的に進めていきます。

ステップ1:手掛かりを探す(スマホ・PC・郵便物)

まず、ご自身でできることから始めましょう。故人の身の回りにある物理的な「手掛かり」を探すことが全てのスタート地点です。

故人の机の前に座り、スマートフォンや郵便物を確認しながらデジタル遺産の手がかりを探す相続人。
  • スマホ・PCが使える場合:もしロックを解除できるなら、大きな一歩です。銀行や証券、決済系のアプリが入っていないか、ブラウザのブックマークや閲覧履歴に金融機関のサイトがないか、金融機関からの取引メールが届いていないかなどをくまなく確認しましょう。
  • スマホ・PCが使えない場合:ここからが本番です。自宅に届いている郵便物を徹底的にチェックします。金融機関からの取引報告書や案内、クレジットカードの利用明細は非常に有力な手掛かりです。特に、カード明細にはサブスクリプションサービスの支払先が記載されていることも多く、契約状況を把握するのに役立ちます。また、机の引き出しや本棚などに、口座開設時の書類やキャッシュカードが眠っている可能性もあります。

こうした地道な遺品の整理から、思わぬ資産が見つかることは少なくありません。

ステップ2:金融機関への問合せと相続手続き

ステップ1で見つかった手がかりを元に、金融機関へアプローチする方法を解説します。ネット銀行やネット証券は実店舗を持たないことがほとんどなので、公式サイトに記載されているカスタマーセンターや相続専門部署に電話で連絡するのが基本です。

その際、IDやパスワードが不明でも全く問題ありません。相続人であることを証明できれば、金融機関所定の手続に沿って残高証明の発行や解約等の相続手続を進められるのが一般的です。

一般的に、以下のような書類の提出を求められます。

  • 被相続人(亡くなった方)の死亡の事実がわかる戸籍謄本
  • 相続人であることがわかるご自身の戸籍謄本
  • ご自身の本人確認書類(運転免許証など)と印鑑証明書

これらの書類を提出することで、口座の残高証明書を発行してもらったり、解約手続きを進めたりすることが可能になります。金融機関によって必要書類や手続きの流れは異なりますので、まずは電話で確認しましょう。なお、金融機関に死亡の事実を伝えると、原則として口座が凍結されますので、その点はご留意ください。

【専門家の手法】どうしても見つからない場合の最終手段

「手掛かりが全く見つからない…」そんな八方ふさがりの状況でも、まだ方法はあります。私たち司法書士のような専門家は、より網羅的な調査を行うことができます。

  • 預貯金の調査(全店照会):メガバンクやゆうちょ銀行、主要な地方銀行などでは、相続人から依頼があれば、その銀行の全ての支店に口座がないかを調査してくれる「全店照会」という手続きがあります。これにより、故人が忘れていたような口座や、家族も知らなかった口座を発見できる可能性があります。
  • 株式等の調査(ほふり=JASDECへの開示請求):上場株式等は、証券保管振替機構(ほふり/JASDEC)の制度により電子的に管理されています。相続人等は有料の「登録済加入者情報の開示請求」により、被相続人の口座が開設されている証券会社・信託銀行等(口座管理機関)の一覧を確認できます(銘柄名・取引履歴・保有残高は開示請求では確認できないため、開示結果をもとに各社へ照会します)。

これらの手続きは、必要書類の準備などが煩雑なため、専門家に依頼するのがスムーズです。

将来の「困った」を防ぐための生前対策とエンディングノート

ここまで読んで、「自分の場合は大丈夫だろうか…」と不安になった方もいらっしゃるかもしれません。デジタル遺産の相続トラブルを防ぐ有力な方法の一つは、元気なうちに「生前対策」をしておくことです。特に重要なのが、エンディングノートの活用です。さまざまな生前対策の中でも、これはすぐに始められます。

最低限これだけは!エンディングノートに書くべき項目

家族に「どこに何があるか」を伝えるため、最低でも以下の4つの情報をエンディングノートに書き残しておきましょう。

エンディングノートに記載すべきデジタル遺産に関する4つの重要項目(ロック解除方法、サービス一覧、ログイン情報、二段階認証)をまとめた図解。
  1. デジタル機器のロック解除方法
    スマートフォンやPCのパスワード、PINコード、ロックパターンなどを記載します。これがなければ、全ての情報へのアクセスが絶たれてしまいます。
  2. 利用しているサービス一覧
    契約しているネット銀行、ネット証券、QR決済アプリ、有料サブスクリプションなどのサービス名をリストアップします。銀行名や証券会社名だけでなく、「〇〇Pay」「〇〇銀行アプリ」といった具体的なアプリ名で書いておくと、家族がより見つけやすくなります。
  3. 各サービスのログイン情報
    サービスごとに利用しているIDや登録メールアドレスを記載します。ただし、パスワードそのものを直接書き記すのはセキュリティ上、推奨できません。「ペットの名前+誕生日」のように、家族なら分かるヒントを書いておくのが良いでしょう。
  4. 二段階認証の方法
    ログイン時にSMSや認証アプリを求められるサービスも増えています。どの電話番号でSMSを受け取る設定にしているか、どの認証アプリを使っているかなどをメモしておくと、手続きが格段にスムーズになります。

法務局でもエンディングノートの様式を公開していますので、参考にしてみるのも良いでしょう。
参照:神戸地方法務局「~相続で未来へ~わたしのエンディングノート」について

エンディングノートと遺言書の違いと使い分け

「エンディングノートさえ書いておけば、遺言書はいらないのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、それは大きな誤解です。この2つは役割が全く異なります。

  • エンディングノート:家族へのメッセージや情報の引き継ぎが目的。法的な拘束力はありません。
  • 遺言書:誰にどの財産を相続させるかなど、法的な意思を示すための書類。厳格な法的効力を持ちます。

つまり、デジタル資産のIDやパスワードといった「情報」はエンディングノートに、そして「このネット銀行の預金は長男に」といった財産の分け方に関する「意思」は遺言書に記す、という使い分けが理想です。デジタル遺産を含め、遺言書の作成も検討することで、より盤石な相続対策となります。

まとめ|デジタル遺産の相続は専門家への相談が安心

この記事では、デジタル遺産の相続について解説してきました。最後に大切なポイントを振り返ります。

  • デジタル遺産は「そもそも存在に気づきにくい」「パスワードが壁になる」という特有の難しさがある。
  • 相続が発生したら、まずは郵便物やカード明細など、物理的な手掛かりを探すことが第一歩。
  • パスワードが不明でも、相続人であることを証明すれば金融機関は手続きに応じてくれる。
  • どうしても見つからない場合は、専門家による網羅的な調査も可能。
  • 最も有効な対策は、元気なうちにエンディングノートなどで情報を残しておくこと。

デジタル化が進む現代において、この問題は避けて通れません。もしご家族のデジタル遺産のことでお困りの場合や、ご自身の生前対策について考えたい場合は、一人で抱え込まずに専門家へご相談ください。

当事務所は相続案件を継続的に取り扱い、相続に関する手続に対応している司法書士事務所です。デジタル遺産のような新しい分野の相続手続きにも、豊富な経験に基づいて対応しています。どの専門家に相談すればよいか迷ったときは、不動産の名義変更(相続登記)まで一貫して対応できる司法書士に相談するのが安心への近道です。初回のご相談は無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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