実家の持分贈与は暦年で!税金と注意点を専門家が事例解説

実家の持分、暦年贈与で移せます【司法書士が解説】

「親が住んでいる実家が、兄弟や親戚との共有名義になっている」「将来のことを考えると、名義を一本化しておきたいけれど、贈与税が高額になるのでは…」

ご親族の高齢化などをきっかけに、このようなお悩みでご相談に来られる方は少なくありません。共有名義の不動産は、将来の売却や相続の際に手続きが複雑になり、思わぬトラブルの原因になることもあります。

この問題を解決する方法の一つが、「暦年贈与(れきねんぞうよ)」を活用して、毎年少しずつ不動産の持分を移転していく方法です。贈与税の負担を抑えながら、計画的に名義を整理することができます。

この記事では、相続・贈与に注力する司法書士の視点から、実家の持分を暦年贈与で移すための具体的な方法、税務署に否認されないための重要な注意点、そして実際の解決事例まで、分かりやすく解説します。

この記事を最後までお読みいただければ、ご自身の状況に合った最適な方法を見つけるための知識が身につき、具体的な第一歩を踏み出せるはずです。

共有名義の実家について司法書士に相談する男性。

【解決事例】父と叔父の共有名義だった実家。暦年贈与で解決

具体的なイメージを持っていただくために、まずは当事務所で実際に取り扱ったご相談事例を、ご相談者様の同意のもと、個人が特定されないよう内容を一部変更してご紹介します。

ご相談者様のお悩み

お父様と同居されている息子さんからのご相談でした。現在住んでいる実家の建物が、お父様と、遠方で暮らす叔父様(お父様の弟)の共有名義になっているとのこと。

もともとはお祖父様の名義でしたが、相続が発生した際に、特に深く考えず法定相続分で分割し、兄弟の共有名義にしてしまったそうです。

幸い、叔父様はすでに独立してご自身の家庭を築いており、実家を継ぐ意思はありませんでした。「兄さん(相談者のお父様)に持分を全部譲ってもいいよ」と快く協力してくれるとのこと。しかし、一度にすべての持分を贈与すると、建物の評価額から計算して高額な贈与税がかかってしまうことが判明し、お困りでした。

専門家としての解決策

当事務所では、まず提携している相続に強い税理士と連携し、税務面でのシミュレーションを行いました。その上で、ご相談者様親子と叔父様にご提案したのが、「複数年にわたる暦年贈与」です。

具体的には、贈与税の基礎控除(年間110万円)の範囲内に収まるように持分割合を計算し、複数年かけて叔父様の持分をすべてお父様へ移転する計画を立てました。

この計画で最も重要なのは、税務署から「これは実質的に一度の贈与を分割払いにしただけ(=連年贈与)」とみなされないようにすることです。そのために、私たちは以下の対策を徹底しました。

  • 毎年、贈与契約書を新たに作成する
  • 毎年、法務局で持分移転の登記手続きを行う

これらの手続きを毎年きちんと行うことで、「毎年、独立した贈与の意思があった」という客観的な証拠を残し、税務上のリスクを最大限に抑えました。結果として、ご家族は贈与税の負担なく、円満に実家の名義をお父様一人にまとめることができ、将来の不安を解消されました。

不動産の持分を暦年贈与する基本

先の事例のように、不動産の持分贈与でよく活用される「暦年贈与」。まずは、その基本的な仕組みについて確認しておきましょう。

年間110万円まで非課税になる「暦年贈与」とは

暦年贈与とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に、一人の人が受け取った贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからないという制度です。この110万円を「基礎控除額」といいます。

重要なポイントは、「贈与を受けた人(受贈者)」を基準に計算されるという点です。例えば、一人の人が父から100万円、母から100万円の贈与を受けた場合、合計で200万円の贈与を受けたことになり、110万円を超えた90万円に対して贈与税が課税されます。

この非課税枠を使って、不動産の評価額のうち110万円分に相当する持分を毎年少しずつ贈与していくのが、不動産の暦年贈与の基本的な考え方です。

不動産評価額から贈与する持分割合を計算する方法

現金と違って、不動産はそのまま「110万円分」を切り分けて渡すことはできません。そこで、不動産の「評価額」を基準に、贈与する持分の割合を計算します。

贈与税の計算で不動産の評価額を出す場合、一般的に土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」を基に計算しますが、ここでは分かりやすくするために、毎年市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されている「固定資産税評価額」を使うと、おおよその目安を掴むことができます。

具体的な計算方法は以下の通りです。

  1. ステップ1:不動産の全体の評価額を確認する
    固定資産税納税通知書や評価証明書で、贈与したい不動産(土地・建物)の評価額を確認します。
  2. ステップ2:贈与する持分割合を計算する
    贈贈与したい金額(例:110万円)を、不動産全体の評価額で割ります。

【計算例】

実家(建物)の固定資産税評価額が1,000万円の場合

110万円 ÷ 1,000万円 = 0.11

この場合、1年間に建物の持分の「100分の11」(0.11)を贈与すれば、評価額が110万円となり、贈与税はかかりません。

この計算を毎年繰り返すことで、少しずつ持分を移転していくことができます。

不動産の評価額から贈与する持分割合を計算する方法を示した図解。

一括贈与と暦年贈与、どちらを選ぶ?メリット・デメリット比較

実家の持分を移すにあたり、「時間をかけて暦年贈与にするか」「贈与税を払ってでも一括で贈与するか」は非常に悩ましい問題です。単に税金の安さだけでなく、時間や手間、ご家族の状況といった様々な角度から比較検討することが大切です。

先の事例でも、一括贈与と暦年贈与の両方の選択肢をご提示し、叔父様がまだお若いことなども考慮した上で、最終的にご家族に暦年贈与を選んでいただきました。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。

暦年贈与(分割)のメリット・デメリット

メリットデメリット
税金贈与税の負担をゼロか、それに近い金額に抑えられる可能性がある。贈与の途中で贈与者が亡くなった場合、過去の贈与分が相続財産に加算され、相続税がかかる可能性がある(生前贈与加算)。
時間・手間一度に大きな資金を用意する必要がない。・すべての持分移転が完了するまで長期間かかる。・毎年、贈与契約書の作成と登記申請が必要で、手間と専門家費用がかかる。
確実性・リスク計画的に進められる。・贈与の途中で贈与者が認知症などになると、手続きが中断するリスクがある。・税制改正(例:生前贈与加算の期間延長)の影響を受ける可能性がある。
暦年贈与(分割)のメリット・デメリット

最大のメリットは、やはり贈与税の負担を大きく軽減できる点です。一方で、完了までに時間がかかるため、贈与する方の年齢が高い場合には注意が必要です。2024年からの税制改正で、亡くなる前7年以内に行われた贈与が相続税の対象となる(生前贈与加算)ようになり、このデメリットは以前より大きくなっていると言えます。

一括贈与のメリット・デメリット

メリットデメリット
税金将来、不動産の価値が大幅に上昇すると予想される場合、低い評価額のうちに贈与することで、結果的に税負担を抑えられる可能性がある。一度に多額の贈与税がかかる可能性がある。
時間・手間一度の手続き(契約書作成・登記)で完了するため、時間と手間がかからない。贈与税の納税資金を準備する必要がある。
確実性・リスク・確実に所有権を移転でき、名義が確定する。・将来の相続トラブルの種を完全に取り除ける。・将来の税制改正の影響を受けない。
一括贈与のメリット・デメリット

一括贈与の魅力は、一度の手続きでスピーディーかつ確実に名義を移せることです。将来の相続トラブルの心配がなくなり、気持ちの面でもスッキリするでしょう。デメリットは贈与税の負担ですが、「相続時精算課税制度」という別の制度を選択することで、負担を軽減できる場合もあります。

どちらが良いかは、ご家族の年齢、資産状況、そして「何を優先したいか」によって変わってきます。専門家と相談しながら、ご自身に合った方法を慎重に選ぶことが重要です。

税務署に否認されない!暦年贈与4つの鉄則

暦年贈与を行う上で最も気をつけなければならないのが、税務署から「定期贈与(または連年贈与)」とみなされてしまうリスクです。

これは、「毎年110万円ずつ贈与しているように見えるが、実態は最初から合計額(例えば1,100万円)を贈与する約束があり、それを分割で払っているだけだ」と判断されることです。もし定期贈与とみなされると、贈与を開始した年に合計額の贈与があったものとして、多額の贈与税が課されてしまう可能性があります。

そうならないために、「毎年、独立した贈与である」という客観的な証拠を残すことが不可欠です。ここでは、専門家が実践している4つの鉄則をご紹介します。

鉄則1:毎年「贈与契約書」を作成する

口約束での贈与は絶対に避けてください。「毎年、贈与者と受贈者の間で贈与の合意があった」ことを証明する最も重要な証拠が、贈与契約書です。

面倒でも必ず毎年作成し、以下の内容を明確に記載しましょう。

  • 贈与契約を締結した日付
  • 誰が(贈与者)、誰に(受贈者)
  • 何を(どの不動産の持分を、どれだけ)
  • いつ、どのように贈与するか

そして、贈与者と受贈者の双方が署名し、実印で押印した上で、大切に保管しておきましょう。私たち司法書士は、こうした契約書の作成もサポートしています。

鉄則2:毎年「所有権移転登記」を行う

不動産の贈与は、契約書を作成しただけでは完了しません。法務局で所有権移転登記(持分移転登記)を行って、初めて第三者にその権利を主張できます。

そして、この登記手続きを「毎年」行うことが、定期贈与とみなされないための強力な証拠となります。契約だけでなく、実際に公的な手続きを毎年行っているという事実は、それぞれの贈与が独立したものであることを客観的に示してくれます。

不動産登記は司法書士の専門分野です。毎年確実に手続きを行うためにも、専門家にご依頼いただくのが安心です。

鉄則3:贈与の時期や金額(持分)を毎年変える

より安全性を高めるための工夫として、贈与の内容を毎年少しずつ変えるという方法があります。例えば、

  • 毎年1月15日に行っていた贈与を、ある年は3月10日にする
  • ある年は110万円分の持分、次の年は105万円分の持分にする

このように、日付や金額(持分割合)が毎年全く同じだと、「あらかじめ決められた計画通りの分割払い」と見なされるリスクがわずかに高まります。少し変化をつけることで、「毎年、その都度話し合って決めた贈与である」という主張をしやすくなります。

暦年贈与が税務署に否認されないための4つの対策をまとめた図解。

鉄則4:【上級編】あえて111万円贈与し、少額の贈与税申告をする

これは、税務署に贈与の事実を公的に記録として残すための、非常に確実性の高い方法です。

あえて基礎控除額をわずかに超える111万円分の持分を贈与し、贈与税の申告と納税を行うのです。111万円の贈与にかかる贈与税は、計算式((111万円 – 110万円)× 10%)からわずか100円です。

数百円の税金を納める手間はかかりますが、これにより税務署に「〇〇年〇月〇日に、確かに贈与が行われた」という確定した記録が残ります。この記録は、将来の相続税調査などで過去の贈与について指摘された際に、非常に強力な反証となります。否認されるリスクを限りなくゼロに近づけたい場合に有効な方法です。

参考:令和6年分贈与税の申告のしかた

実家の持分贈与にかかる手続きと費用

実際に持分贈与を進める際の、具体的な手続きの流れと費用の全体像を把握しておきましょう。

手続きの流れ【5ステップ】

持分の暦年贈与は、一般的に以下のステップで進めます。

  1. 不動産の評価額調査
    まずは贈与の対象となる不動産の評価額を正確に把握します。固定資産税評価証明書などを取得します。
  2. 贈与する持分割合の決定
    評価額を基に、その年に贈与する持分の割合を決定します(例:110万円分など)。
  3. 贈与契約書の作成
    贈与者と受贈者の間で、決定した内容に基づき贈与契約書を作成し、署名・押印します。
  4. 所有権移転登記の申請
    必要書類(登記済権利証または登記識別情報、印鑑証明書など)を揃え、法務局に所有権移転登記を申請します。この手続きは司法書士が代理で行うのが一般的です。
  5. 贈与税の申告(必要な場合)
    基礎控除額を超える贈与を行った場合は、翌年の2月1日から3月15日までの間に、税務署へ贈与税の申告と納税を行います。

暦年贈与の場合、このステップ2〜4(場合によっては5)を毎年繰り返すことになります。

贈与税以外にかかる2つの税金と専門家費用

不動産の贈与では、贈与税以外にも以下のような費用がかかります。特に暦年贈与の場合は、これらの費用が毎年発生することになるので注意が必要です。

1. 登録免許税
登記を申請する際に、法務局に納める税金です。贈与の場合の税率は、固定資産税評価額の2%(1000分の20)です。
(例:評価額1,000万円の不動産の100分の11(評価額110万円分)を贈与する場合、110万円 × 2% = 22,000円)

2. 不動産取得税
不動産を取得したことに対して、後日、都道府県から課税される税金です。税率は原則として固定資産税評価額の3%〜4%(土地・建物の種類や時期により軽減措置あり)です。

3. 専門家への報酬
贈与契約書の作成や登記申請を司法書士に依頼する場合の報酬です。また、税務申告を税理士に依頼する場合には別途報酬が必要になります。報酬額は事務所や案件の難易度によって異なります。

これらの費用総額も考慮した上で、贈与計画を立てることが大切です。

実家の持分贈与は専門家への相談が安心です

ここまで見てきたように、実家の持分を暦年贈与で移転する方法は、贈与税の負担を抑える上で非常に有効な手段です。しかし、その一方で、税務署に否認されないための専門的な知識や、毎年の煩雑な法務手続きが不可欠です。

司法書士への相談を終えて安心した表情の親子。

もし、ご自身で手続きを進めた結果、後から「定期贈与」とみなされてしまっては、節税どころか思わぬ追徴課税を受けてしまうことになりかねません。

また、どのくらいの期間で、どのような方法で贈与を進めるのが最適なのかは、ご家族の状況や資産の全体像によって大きく異なります。自己判断で進めてしまう前に、一度専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所(いがり円満相続相談室)では、不動産登記の専門家である司法書士として、安全・確実な贈与契約書の作成から毎年の登記手続きまで、責任を持ってサポートいたします。また、必要に応じて相続に強い税理士と連携し、税務面も含めた最適なプランをご提案することも可能です。
【事務所情報】
代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号

「うちの場合、暦年贈与と一括贈与、どっちがいいんだろう?」「何から始めたらいいか分からない」といった漠然としたご不安でも構いません。初回のご相談は無料(60分まで)ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。あなたとご家族の「円満」な未来のために、私たちが全力でサポートいたします。

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