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相続登記で登記簿上の住所が古い…手続きが進まないお悩み
「亡くなった親の不動産を相続したので、自分で相続登記をしようとしたら、法務局から連絡があったんです。『登記簿に載っているお父様の住所と、亡くなった時の住所のつながりが証明できません』と言われて…。どういうことか分からず、手続きが止まってしまって困っています」
いがり円満相続相談室には、このようなご相談が後を絶ちません。
当事務所に寄せられる実際の相談事例
【ケース1:転勤族だったお父様】
転勤が多く、何度も引っ越しを繰り返していたお父様。不動産を購入した際に登記した住所は、何十年も前の、さらにその前に住んでいた場所でした。ご自身で戸籍や住民票を集めて相続登記を申請したものの、法務局から「住所の変遷が追えません」と指摘を受け、途方に暮れてご相談に来られました。古い住民票や戸籍の附票は、役所の保存期間が過ぎており、すでに廃棄されていたのです。
【ケース2:住居表示が実施されたお母様】
お母様が長年住んでいた地域で、過去に住居表示が実施されていました。登記簿には「川崎市川崎町XX番地」と記載されていますが、現在の住所は「川崎市川崎区東町一丁目2番3号」のように変わっています。住民票を取得しても、この住居表示による変更の経緯が記載されておらず、どうやって同一人物だと証明すればよいか分からず、お困りでした。
相続登記は、ただでさえ集める書類が多く複雑です。それに加えて「住所の不一致」という想定外の壁にぶつかると、多くの方が不安や焦りを感じてしまいます。
ご安心ください。このような状況には、解決するための確立された手順があります。
この記事では、相続手続きの専門家である司法書士が、なぜ登記簿の住所と最後の住所をつなげる必要があるのか、そして、住所がつながらない場合にどう対処すればよいのかを、ステップごとに分かりやすく解説します。

なぜ登記簿の住所と最後の住所をつなげる必要があるのか?
そもそも、なぜ法務局は登記簿上の古い住所と亡くなった時の住所の「つながり」を、これほど厳格に確認するのでしょうか。
それは、不動産の所有者が間違いなく同一人物であることを確認し、不正な登記を防ぐためです。これを「登記名義人の同一性の確認」と呼びます。
もし、この確認がなければ、同姓同名の別人が「自分が所有者だ」と偽って、他人の不動産を勝手に売却してしまうような事態が起こりかねません。そのような犯罪を防ぎ、国民の大切な財産である不動産の権利を守るのが、法務局の重要な役割なのです。
そのため、法務局の登記官は、相続登記の申請があった際に、
- 登記簿に所有者として記録されている人物(例:山田 太郎、住所:A)
- 亡くなった方(被相続人)として戸籍に記録されている人物(例:山田 太郎、住所:C)
この二者が、本当に同一人物なのかを客観的な公文書で確認します。具体的には、「住民票の除票」や「戸籍の附票」といった書類で、住所がA→B→Cと変遷した経緯を証明するよう求めているのです。
この「同一性の証明」が、相続登記における非常に重要なポイントとなります。
【ステップ別】住所の連続性を証明するための対処法
では、具体的にどうすれば住所の連続性を証明できるのでしょうか。証明のしやすさや確実性の高い順に、3つのステップで解説します。ご自身の状況がどのステップに当てはまるか、確認しながら読み進めてください。
ステップ1:公的書類で住所の変遷を証明する(基本)
まず最初に行うべき基本のステップは、公的な書類で住所の移転履歴を証明する方法です。主に以下の2つの書類を使用します。
- 住民票の除票(または改製原住民票):亡くなった方の最後の住所地の市区町村役場で取得します。一つ前の住所が記載されていることが一般的です。
- 戸籍の附票(または改製原戸籍の附票):本籍地の市区町村役場で取得します。その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所履歴が記録されています。
これらの書類を取得し、登記簿に記載されている住所から、亡くなった時の最後の住所までの変遷がすべてつながれば、問題なく相続登記を進めることができます。
【注意点】
住民票の除票・戸籍の附票の除票の保存期間は、住民基本台帳法施行令等の改正により令和元年(2019年)6月20日から5年から150年に延長されました。ただし、平成26年(2014年)6月19日以前に消除・改製された除票等は改正の対象とならず既に廃棄されている場合があるため取得できないことがあります。
ステップ2:権利証(登記済証)で本人であることを証明する
公的書類で住所のつながりが証明できない場合、次に有効な手段となるのが「権利証(登記済証または登記識別情報)」です。
権利証とは、不動産を取得した際に法務局から発行される、その不動産の所有者であることを証明する非常に重要な書類です。一般的には、所有者本人しか持っていないはずのものです。
そのため、法務局の実務では、この権利証を相続登記の申請書に添付することで、「登記簿上の所有者と亡くなった方は同一人物である」という強力な証明になると認められています。
平成29年の法務省の通達により、登記済権利証(登記識別情報)は被相続人と登記名義人の同一性を示す有力な資料と位置づけられ、他の代替書類が不要とされる場合が増えました。ただし、個別事案や登記所の判断により追加書類を求められることもあるため、権利証のみで必ず手続きが完了するとは限りません。ご自宅に権利証が保管されていないか、まずは探してみてください。

ステップ3:権利証もない場合の代替書類による立証方法
「公的書類は廃棄されていて、権利証も見つからない…」
このような最も困難なケースでは、複数の書類を組み合わせて、総合的に「登記簿上の所有者と被相続人は同一人物である」ということを登記官に立証していく必要があります。ここからは、専門的な知識と経験が求められる領域であり、まさに司法書士の腕の見せ所となります。
具体的には、以下のような書類を収集・作成し、状況に応じて組み合わせて提出します。
- 固定資産税の課税明細書(または名寄帳)
市区町村が固定資産税を課税するために管理している情報です。通常、不動産の所有者本人に送付されるため、被相続人宛ての納税通知書や課税明細書があれば、被相続人がその不動産の所有者であったことの間接的な証明になります。 - 不在住証明書・不在籍証明書
「登記簿上の住所に、被相続人と同じ氏名の人物は他に住んでいなかった」「登記簿上の住所を本籍地とする、被相続人と同じ氏名の人物は他に存在しなかった」ことを証明する書類です。消極的な証明ではありますが、他の書類と組み合わせることで説得力が増します。 - 相続人全員の上申書
「登記簿上の所有者は、私たちの被相続人に間違いありません」という内容の書面を作成し、相続人全員が署名し、実印を押印します。これに全員分の印鑑証明書を添付します。
どの書類をどのように組み合わせれば登記が認められるかは、個別の事案や管轄の法務局の判断によっても異なります。そのため、この段階に至った場合は、ご自身で判断せず、相続登記の専門家である司法書士に相談することを強くお勧めします。
こんなケースはどうする?特定の状況への対応
上記3ステップのほかにも、特定の状況に応じた対処法があります。代表的な2つのケースをご紹介します。
住居表示の実施で住所が変わっている場合
市区町村が「〇〇町△△番地」といった土地の地番で住所を表していたものを、「〇〇一丁目△番□号」といった分かりやすい表記に変更することがあります。これを「住居表示の実施」といいます。
この住居表示や、町名・字名の変更によって登記簿の住所と現在の住所が異なっている場合は、市区町村役場で「住居表示実施証明書」や「町名変更証明書」といった書類を取得できます。この証明書を登記申請書に添付すれば、住所のつながりを簡単に証明することができ、問題は解決します。
登記簿上の住所と本籍地が一致している場合
これは稀なケースですが、不動産を購入した際に、当時の本籍地を住所として登記していることがあります。もし、登記簿上の住所と、戸籍に記載されている被相続人の本籍地が完全に一致している場合は、他の証明書類がなくても、登記名義人と被相続人の同一性が認められる可能性があります。
ただし、これはあくまで例外的な取り扱いですので、まずは基本のステップに沿って書類を準備することが原則となります。
住所がつながらない相続登記は司法書士への相談が安心です
ここまで解説してきたように、相続登記で登記簿上の住所と最後の住所がつながらない場合でも、解決するための方法は複数あります。
しかし、特にステップ3の「権利証もないケース」に該当する場合、どの書類を集め、どのように主張を組み立てれば登記官に認めてもらえるのかを一般の方が判断するのは、非常に困難です。上申書の作成には法的な知識も必要ですし、万が一、書類の不備で申請が却下(取下げ)となれば、時間も労力も無駄になってしまいます。
【専門家の視点】なぜ司法書士に任せるべきか
私たち司法書士は、日々、法務局の登記官とやり取りをしています。そのため、「どのような書類を、どのような理屈で提出すれば、登記官が納得してくれるか」という実務上の感覚を熟知しています。これは、数多くの案件を経験しなければ得られない知見です。
ご自身で試行錯誤する時間と労力、そして精神的なご負担を考えれば、最初から専門家である私たちにお任せいただくのが、最も確実で安心な解決策だと考えています。当事務所は、相続登記手続の代行を行い、可能な限り迅速かつ正確に対応いたします。
当事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号)、司法書士 猪狩 佳亮(所属:神奈川県司法書士会)では、川崎市・横浜市を中心に相続登記の対応実績がございます。
「自分のケースはどの方法で解決できるだろうか」「もう何をすれば良いか分からない」とお悩みでしたら、どうぞお一人で抱え込まず、無料相談をご利用ください。司法書士が事情をお伺いし、可能な手続きや選択肢をご説明します。(事務所所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、司法書士 猪狩 佳亮、所属:神奈川県司法書士会)

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
