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【結論】相続放棄した人の子に相続権は移らない
ご親族が亡くなられ、相続の手続きを進める中で「相続放棄」や「代襲相続」といった言葉を耳にして、混乱されている方もいらっしゃるかもしれませんね。特に、「親が相続を放棄したら、その子どもである孫が代わりに相続することになるの?」という疑問は、多くの方が抱かれるものです。
まず、大切な結論からお伝えします。親が相続放棄をしても、その子ども(被相続人から見て孫)が代わりに相続人になることはありません。これは、民法第939条で、法律上、相続放棄をした人は「初めから相続人ではなかった」とみなされるからです。もともと相続人ではないのですから、その人に代わって誰かが相続する「代襲相続」という考え方自体が発生しないのです。
この記事では、多くの方が混同しがちな「相続放棄」と「代襲相続」の関係、そしてなぜ「相続放棄」と「死亡」とで結論が全く異なるのかを、具体的なケースを交えながら、できるだけ分かりやすく解説していきます。どうぞご安心ください。
【司法書士の相談事例】相続放棄と代襲相続を混同したケース
先日、当事務所にも、まさにこの問題で悩んでいらっしゃる方からのご相談がありました。
ご相談者は、お父様を亡くされたご子息でした。相続人は長男と二男のお二人です。
しかし、長男の方はご自身の考えで家庭裁判所にて相続放棄の手続きを済ませていました。これで相続人は二男の方ひとりになったと思いきや、ご相談者はインターネットで「代襲相続」という言葉を目にして、急に不安に駆られたそうです。
「兄には子どもが二人(父から見て孫)います。兄が相続放棄をしたことで、あの子たちが代わりに相続人になる『代襲相続』というのが発生するのではないでしょうか?もしそうなら、遺産分割協議書に甥や姪の署名捺印も必要になるのでしょうか…?」
ご相談者のご心配はもっともです。もし甥や姪も相続人となれば、手続きはより複雑になります。
私はご相談者に、まず落ち着いていただくようお伝えし、次のようにご説明しました。「ご安心ください。お兄様がされたのは『相続放棄』ですね。相続放棄をした場合、その方は『初めから相続人ではなかった』と扱われます。そのため、お子さんたちに相続権が移る代襲相続は発生しません。相続人はあなた様お一人だけですよ。」
この説明に、ご相談者は心から安堵されたご様子でした。その後、ご相談者から正式にご依頼いただき、お兄様の「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所から取り寄せるなど、必要な手続きを一つひとつ丁寧に進め、無事にご相談者単独名義での相続登記を完了することができました。
このように、少しの知識の違いが、手続きの負担や心労を大きく左右することがあります。早めに専門家に相談することが解決の助けになることが多いです。
代襲相続とは?基本をわかりやすく解説
それでは、そもそも「代襲相続」とはどのような制度なのでしょうか。基本から確認していきましょう。
代襲相続とは、本来、相続人になるはずだった人(子どもや兄弟姉妹)が、被相続人(亡くなった方)より先に亡くなっているなどの理由で相続できない場合に、その人の子どもが代わりに相続する制度のことをいいます。
例えば、祖父が亡くなったとします。本来であれば、祖父の子どもである父が相続人になります。しかし、もし父が祖父よりも先に亡くなっていた場合、父に代わってその子ども、つまり祖父から見ると孫が相続人になります。これが代襲相続の典型的な例です。
この制度があることで、下の世代へ財産が引き継がれる機会が確保されるのです。より詳しい内容は「法定相続人とは?図を使って分かりやすく解説②(代襲相続編)」でも解説していますので、ご参照ください。
代襲相続が発生する3つの原因
代襲相続はいつでも起こるわけではありません。法律で定められた、以下の3つの場合に限られます。
- ① 相続人の死亡
最も一般的なケースです。被相続人よりも先に、相続人となるはずの子どもや兄弟姉妹が亡くなっている場合です。 - ② 相続欠格(そうぞくけっかく)
相続人が、被相続人を殺害しようとしたり、遺言書を偽造したりするなど、相続において不正な行為をした場合に、法律上、相続権が強制的に剥奪されることです。 - ③ 廃除(はいじょ)
相続人が、被相続人に対して虐待や重大な侮辱を行った場合に、被相続人の意思で家庭裁判所に申し立て、その相続人の相続権を剥奪することです。
ここで重要なポイントは、この3つの原因の中に「相続放棄」は含まれていないということです。代襲相続は民法第887条等に定められた制度ですが、相続放棄は民法第939条により「初めから相続人ではなかった」と扱われるため、代襲は生じないのです。
なぜ?相続放棄と死亡で代襲相続の結論が違う理由
「相続する権利がなくなる」という点では、相続放棄も死亡も似ているように感じるかもしれません。しかし、法律上の扱いは全く異なり、それが代襲相続の有無という大きな違いを生み出します。
なぜ結論が違うのか、それぞれのケースを比較しながら、その理由を詳しく見ていきましょう。
ケース① 相続人が「相続放棄」した場合
相続放棄とは、家庭裁判所に申述することで、プラスの財産(預貯金や不動産)もマイナスの財産(借金など)もすべて引き継がないという意思表示をすることです。
相続放棄が受理されると、その人は「初めから相続人ではなかった」とみなされます。これが最も重要なポイントです。
もともと相続人ではなかったのですから、その人が持っていたはずの「相続権」というもの自体が存在しなくなります。存在しない権利を、その子どもが引き継ぐことはできません。そのため、代襲相続は発生しないのです。
では、放棄された相続権はどうなるのでしょうか?それは、次の順位の相続人に移っていきます。例えば、亡くなった方の子ども全員が相続放棄をした場合、相続権は親(第二順位)、親もいなければ兄弟姉妹(第三順位)へと移っていきます。なお、法定相続人の順位は民法第887条以下に定められています。
つまり、相続放棄は相続権を「下の世代」に渡すのではなく、「次の順位の相続人」にバトンタッチするイメージです。

ケース② 相続人が「死亡」していた場合
一方、相続人が被相続人より先に亡くなっていた場合は、状況が全く異なります。
亡くなった相続人は、相続が発生した時点ではこの世にいませんが、法律上「相続人であった」という事実に変わりはありません。その人が本来持っていたはずの「相続権」は消滅せず、そのまま子どもに引き継がれます。
これが「代襲相続」です。
つまり、相続人の死亡は、相続権を消滅させるのではなく、「下の世代」に承継させる効果があるのです。
このように、「相続放棄」と「死亡」では、相続権の扱いが根本的に異なります。
- 相続放棄 → 相続権が消滅し、次順位の相続人に移る
- 死亡 → 相続権が承継され、その子ども(孫など)に移る
この違いを理解することが、相続の全体像を正しく把握する鍵となります。

相続人の特定は相続手続きの第一歩
ここまで見てきたように、相続放棄や代襲相続が発生すると、誰が本当の相続人なのか、その関係は一気に複雑になります。
そして、この「誰が相続人なのか」を正確に確定させる「相続人調査」は、すべての相続手続きにおける最も重要で、最初に行うべきステップです。
なぜなら、もし相続人が一人でも漏れた状態で遺産分割協議を行っても、その協議は法的に無効となってしまうからです。後から本当の相続人が現れた場合、すべての手続きを最初からやり直さなければならず、大きなトラブルに発展する可能性もあります。
自分で判断は危険!戸籍の収集・読解は専門家へ
相続人を法的に確定させるためには、亡くなった方(被相続人)の「生まれてから亡くなるまで」の連続したすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)を取得する必要があります。
しかし、この作業は想像以上に大変です。
- 結婚や転籍で本籍地が何度も変わっている場合、全国の複数の役所に請求しなければならない。
- 古い戸籍は手書きで書かれており、達筆すぎて読めない、あるいは独特の言い回しで解読が難しい。
- 戸籍を読み解き、前妻との間の子どもや、認知した子どもがいないかなど、すべての相続関係を正確に把握するには専門的な知識が必要。
「自分たちには、他に相続人はいないはず」という思い込みで進めてしまうのは、非常に危険です。戸籍を正確に収集し、法的な観点から読み解く作業は、私たち司法書士のような専門家にお任せいただくのが、最も確実で安心な方法です。

相続人の特定でお悩みなら、いがり円満相続相談室へ
「うちのケースは、一体誰が相続人になるんだろう…」
「相続放棄した人がいるけど、手続きはどう進めたらいいの?」
「戸籍を集めてみたけれど、これで全員なのか自信がない…」
相続に関する不安や疑問は、ご家庭の事情によって様々です。一人で悩んでいても、なかなか答えは見つからないかもしれません。
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司法書士・行政書士・社会保険労務士 いがり綜合事務所
代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
