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親のもしも…「成年後見人、家族でもなれる?」
「最近、親の物忘れがひどくなってきた…」「実家の預金管理や契約手続きが心配…」
大切なお父様、お母様の将来を考えたとき、多くの方が「成年後見制度」という言葉を思い浮かべるかもしれません。
そして同時に、こんな切実な疑問が湧いてくるのではないでしょうか。
「成年後見人って、私たち家族でもなれるのだろうか?」
弁護士や司法書士といった専門家がなるイメージが強いかもしれませんが、できれば一番身近で本人のことを理解している家族が支えてあげたい。そう願うのは、ごく自然なことです。しかし、その一方で「なれるとしても、どんな条件があるの?」「責任は重いのでは?」といった不安も尽きないことでしょう。
この記事では、そんなあなたの疑問や不安に一つひとつ丁寧にお答えしていきます。成年後見制度の専門家である私、司法書士の猪狩が、親族が成年後見人になるための条件や手続き、そして知っておくべきメリット・デメリットまで、分かりやすく解説します。この記事を読み終える頃には、ご家族にとって最善の道筋が見えてくるはずです。どうぞ、ご安心ください。
結論:親族も成年後見人になれます。ただし条件があります

まず、一番の疑問にお答えします。はい、ご家族などの親族も成年後見人になることは可能です。
ただし、誰が成年後見人になるかを最終的に決定するのは、申立てをした家族ではなく「家庭裁判所」です。候補者として「長男の〇〇を希望します」と申し立てることはできますが、その通りに選任されるとは限りません。
最高裁の統計によれば、令和5年(2023年)において親族が後見人等に選任された割合は約18.1%で、非親族が約81.9%を占めています(最高裁『成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月―』)。残りの約8割は、司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門職が選ばれているのが現状です。
なぜ専門家が選ばれやすい?家庭裁判所の判断基準
なぜ、親族ではなく専門家が選ばれるケースが多いのでしょうか。それは、家庭裁判所が何よりも「ご本人の利益と財産を保護すること」を最優先に考えているからです。
その視点から、以下のようなケースでは、専門職後見人が選任されやすい傾向があります。
- ご本人の財産が多い、または複雑な場合
財産が相対的に多額で管理が複雑と判断される場合、専門職が選任されやすい傾向があります。具体的な金額に関する全国共通の基準は公表されていませんが、裁判所が個別具体的に判断します。 - 親族間に意見の対立がある場合
財産の使い道などを巡って親族間でもめている場合、中立的な立場の専門家が選ばれます。 - 後見人候補者である親族自身に、借金や経済的な問題がある場合
- 候補者とご本人の間で、過去に財産のやり取りなどで対立があった場合
また、申立て後の家庭裁判所調査官との面談での受け答えも、誰が後見人にふさわしいかを判断する上で重要な要素となります。
最高裁判所は「親族後見が望ましい」と考えている
専門職が選ばれやすいという現実がある一方で、実は最高裁判所は「ご本人の生活状況や気持ちを最もよく理解している、身近な親族が後見人になることが望ましい」という基本的な考え方を示しています。
私たち、いがり綜合事務所もその考え方に強く共感しています。専門家に任せきりにするのではなく、ご家族が主体となってご本人を支えていく形が理想だと考えています。だからこそ、私たちは「親族の方が後見人になりたい」というお気持ちを尊重し、家庭裁判所の理解を得られるよう、その実現を最大限サポートしたいと考えています。(司法書士・行政書士・社会保険労務士 いがり綜合事務所/代表 猪狩佳亮/神奈川県川崎市川崎区宮前町12-14/神奈川県司法書士会所属)
参考:成年後見関係事件の概況
【事例で解説】預金1200万円でも親族が後見人になれたケース

「うちは預金が1,000万円を超えているから、家族が後見人になるのは難しいかもしれない…」
そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、諦めるのはまだ早いです。ここでは、実際に当事務所にご相談いただき、預金が1,200万円ありながらも、最終的にご長女様が後見人になることができた事例をご紹介します。(※この事例は、いくつかの事例を組み合わせたものです。)
ご相談者様(長女)が抱えていた不安
ある日、当事務所に一本のお電話がありました。お母様の認知症がだんだんと進み、成年後見制度の利用を考えているというご長女様からのご相談でした。
「母の財産は、預金が1200万円と自宅の不動産です。私がずっと母の世話をしてきたので、後見人にも私がなりたいと思っています。でも、預金が多いと家族はなれないと聞いて不安で…」
お話を伺うと、ご長女様は献身的にお母様を支えており、後見人としてお母様の財産を守っていきたいという強い意志をお持ちでした。しかし、まさに専門職が選任されやすい「預金額1,000万円以上」という基準に当てはまってしまいます。このまま申し立てても、ご長女様の希望が通らない可能性が高い状況でした。
当事務所からのご提案:解決の鍵は「後見制度支援信託」
そこで、私たちは一つの方法をご提案しました。
「まず、最初の申立て段階では私(司法書士)を後見人候補者とします。そして、家庭裁判所の許可を得て、財産の一部を信託銀行に預ける『後見制度支援信託』という仕組みを利用します。その手続きが完了すれば、後見人を司法書士からご長女様に引き継ぐことができる可能性が非常に高くなります。」
これは、いわば「最初の難しい部分だけ専門家が担当し、安全な管理体制を整えた上で、ご家族にバトンタッチする」という方法です。
結果:想いが叶い、ご長女様が後見人に
ご長女様はこの提案に納得され、当事務所がサポートさせていただくことになりました。
- まず、当事務所の司法書士を後見人候補者として、家庭裁判所に成年後見の申立てを行いました。
- 無事に司法書士が後見人に選任された後、家庭裁判所の指示のもと、1200万円の預金のうち1000万円を信託銀行に移す「後見制度支援信託」の契約を締結しました。
- これにより、大きな財産は信託銀行によって安全に保全され、日常的な支出の管理のみを行う体制が整いました。
- そして、家庭裁判所に後見人の変更を申し立て、当初の目的通り、ご長女様が新たにお母様の後見人に選任されました。当事務所の司法書士は、その役目を終え辞任しました。
ご長女様は、「希望が叶って本当に良かった。これからは安心して母のサポートができます」と、安堵の表情でおっしゃっていました。この事例のように、適切な手続きを踏むことで、財産が多い場合でも親族が後見人になる道は開かれています。
解決の鍵「後見制度支援信託」とは?
事例で登場した「後見制度支援信託」とは、どのような制度なのでしょうか。
簡単に言うと、「ご本人の財産のうち、日常的に使うお金は親族後見人が管理し、すぐに使う予定のないお金は信託銀行などが安全に管理する」という仕組みです。
この制度を利用すると、大きな財産は信託銀行が保全し、親族後見人が管理するのは日々の生活費などに限定されるため、家庭裁判所としても「これなら親族に任せても安心だ」と判断しやすくなります。高額な財産の使い込みや、管理の負担が原因で親族が疲弊してしまうといったリスクを減らすことができるのです。
財産が多くて親族後見を諦めかけていた方にとって、この制度は非常に有効な選択肢の一つと言えるでしょう。
参考:ご本人の財産の適切な管理・利用のための 後見制度支援信託 …
親族が後見人になるメリット・デメリット

親族が後見人になることを目指すかどうか、冷静に判断するためには、そのメリットとデメリットの両方をしっかりと理解しておくことが大切です。ここでは、それぞれの側面を詳しく見ていきましょう。
メリット:費用を抑え、本人の気持ちに寄り添える
親族が後見人になることの大きなメリットは、主に2つあります。
- 専門家への報酬が不要になる
司法書士や弁護士などが後見人になると、家庭裁判所が決定する報酬(通常、月額2万円~)をご本人の財産から支払う必要があります。親族が後見人になった後は、この費用負担がなくなります。(ただし、後見監督人が選任された場合は、監督人への報酬が発生します) - 本人の気持ちに寄り添ったサポートができる
長年連れ添った配偶者や、ずっと面倒を見てきたお子様であれば、ご本人の性格や好み、何に喜びを感じ、何を嫌がるのかを誰よりも深く理解しているはずです。その理解があるからこそ、財産管理だけでなく、介護や医療に関する決定(身上監護)においても、ご本人の意思を最大限に尊重した、きめ細やかなサポートが可能になります。
デメリット:大きな責任と事務負担、親族間トラブルの火種にも
一方で、親族が後見人になることには、覚悟しておくべき厳しい側面もあります。
- 家庭裁判所への報告義務という事務負担
後見人は、年に一度、家庭裁判所にご本人の財産状況や生活の様子をまとめた報告書と、通帳のコピーなどの資料を提出する義務があります。この事務作業が、想像以上に大きな負担となることがあります。 - 親族間トラブルの火種になる可能性
「兄さん(後見人)は、親の金を自由に使っているんじゃないか?」など、他の親族からあらぬ疑いをかけられてしまうケースは少なくありません。財産管理を一人で背負うことで、かえって親族関係がこじれてしまうリスクがあります。 - 重い責任と精神的な負担
成年後見人の最も重要な責務は「本人の財産を守ること」です。常にその重い責任を背負い続けることは、大きな精神的プレッシャーとなります。「もし自分の判断が間違っていたら…」という不安が、常に付きまとうことになるかもしれません。
これらのデメリットを理解した上で、「それでも自分が」と思えるか、ご自身の状況や他のご家族の協力体制なども含めて、慎重に考えることが重要です。
親族が後見人になるための手続きと専門家のサポート
「親族後見人を目指したい」。そう決意された場合、家庭裁判所への申立て手続きを進めることになります。
手続きの大まかな流れは以下の通りです。
- 必要書類の収集・作成
申立書のほか、ご本人の戸籍謄本や財産目録、収支状況報告書、診断書など、多くの書類が必要になります。 - 家庭裁判所へ申立て
管轄の家庭裁判所に書類一式を提出します。 - 家庭裁判所調査官との面談
申立人や後見人候補者が家庭裁判所に呼ばれ、なぜ後見人が必要なのか、候補者が適任である理由などを説明します。 - 審判
家庭裁判所が後見を開始するかどうか、誰を後見人にするかを決定します。
これらの手続きは、一般の方がご自身だけで行うには複雑で、大きな負担がかかります。特に、親族が後見人に選ばれるためには、申立書類の書き方や面談での説明に工夫が必要です。
私たち司法書士は、こうした手続きの専門家です。複雑な書類の作成をお手伝いすることはもちろん、「なぜこの親族が後見人としてふさわしいのか」を、法的な観点から説得力のある形で家庭裁判所に伝えるためのサポートをすることができます。一人で抱え込まず、まずは成年後見をご検討中の方へのページもご覧いただき、専門家の力を頼ってください。
まとめ:親族後見人という選択肢、専門家と一緒に考えませんか?

今回は、ご家族が成年後見人になれるのか、というテーマについて詳しく解説してきました。
結論として、親族が成年後見人になることは可能であり、それはご本人にとっても素晴らしい選択肢です。しかし、そのためには家庭裁判所の判断基準を理解し、場合によっては「後見制度支援信託」のような専門的な仕組みを活用するなど、適切な準備が必要です。また、後見人になった後の重い責任や事務負担も覚悟しなければなりません。
もし、あなたが「親族として後見人になりたい」と強く願うのであれば、その想いを諦めないでください。私たち、いがり綜合事務所は、ご家族が後見人になることを何よりも望ましく考え、その実現のために全力でサポートしたいと願っています。
「うちのケースでも親族が後見人になれるだろうか?」
「手続きの進め方が分からなくて不安…」
どんな些細なことでも構いません。一人で悩まず、まずは私たち専門家にご相談ください。あなたとご家族にとって最善の道を見つけるお手伝いをさせていただきます。
まずは、お気軽に当事務所の無料相談をご利用ください。あなたからのご連絡を心よりお待ちしております。(無料相談の対象範囲や時間については、お問い合わせ時にご確認ください。)

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
