遺言の付言事項とは?相続トラブルを防ぐ想いの伝え方【事例付】

遺言の付言事項とは?法的効力はないが最も重要な「最後の言葉」

遺言書と聞くと、財産の分け方など、法律に定められた事柄を書き記すもの、というイメージが強いかもしれません。もちろん、誰にどの財産を相続させるかを決める「法定遺言事項」は遺言書の核となる部分です。しかし、それだけでは、あなたの本当の想いは家族に届かないかもしれません。

そこで重要になるのが「付言事項(ふげんじこう)」です。付言事項とは、法定遺言事項以外の、家族へのメッセージや感謝の気持ち、財産分けの理由などを自由に書き記す部分を指します。

大切なことなので先にお伝えしますが、付言事項は、原則として法的な強制力(法的拘束力)はありません。例えば「兄弟仲良くするように」と書いても、それを法的に強制することはできないのです。しかし、私たち専門家は、この法的効力のない付言事項は、円満な相続を実現する上で重要な要素の一つだと考えています。なぜなら、法律だけでは解決できない「家族の感情」に直接働きかけることができる、唯一の手段だからです。

この記事では、なぜ法的効力のない「最後の言葉」が相続トラブルを防ぐ切り札になるのか、具体的な事例を交えながら、その書き方のコツを詳しく解説していきます。

法的効力はないが「事実上の効力」を持つ理由

「法的効力がないなら、書いても意味がないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、それは違います。付言事項には、法律の条文を超えた「事実上の効力」ともいえる、3つの大きな力があるのです。

  1. 遺産分割の理由を伝え、相続人を納得させる力
    なぜこのような財産の分け方にしたのか。その理由がわからなければ、相続人は不信感や不公平感を抱きがちです。付言事項でその背景を丁寧に説明することで、相続人は遺言者の真意を理解し、納得しやすくなります。
  2. 相続人間の感情的な対立を和らげる力
    相続トラブルの根源は、財産の金額よりも「親は自分のことをどう思っていたのか」という感情的なしこりであることが少なくありません。感謝の言葉や愛情のこもったメッセージは、相続人の心を和ませ、無用な対立を避ける潤滑油の役割を果たします。
  3. 遺留分など権利行使をためらわせる心理的効果
    たとえ法律上の権利(遺留分など)があったとしても、親からの心のこもった「最後の願い」を前にすると、権利の主張をためらう方は少なくありません。付言事項は、相続人の心に直接訴えかけ、権利行使を思いとどまらせる心理的な効果が期待できます。

多くの相続案件を見てきた中で、この付言事項の一文が、法的な主張を上回るケースを何度も目の当たりにしてきました。相続は単なる財産の移転ではなく、家族の感情が交錯する人間ドラマなのです。そのドラマを円満な結末に導くために、付言事項は欠かせない要素といえるでしょう。遺言書がない場合、相続人全員での遺産分割協議が必要になりますが、その話し合いがまとまらないケースも少なくありません。

付言事項が「争族」を防ぐ最後のひと押しになる

相続が「争族」になってしまう原因の多くは、お金の問題だけではありません。「なぜ自分だけ少ないのか」「兄(姉)ばかり優遇されていた」といった、長年にわたる感情的な不満が、相続をきっかけに爆発するのです。

遺言書で財産の分け方を指定しても、その理由がわからなければ、かえって火に油を注ぐことになりかねません。

そこで、付言事項が「最後のひと押し」として機能します。あなたがどのような想いで財産を築き、どのような想いで家族の将来を案じ、そして、なぜその財産配分にしたのか。その真心を伝えることで、相続人は「親は自分のことをきちんと考えてくれていたんだ」と感じることができます。この納得感こそが、相続トラブルを防ぐ最大の防御策なのです。付言事項は、単なる手紙ではなく、家族の絆を守るための、実務的で非常に強力なツールであるとご理解ください。

遺言書の付言事項に家族への想いを綴る高齢の女性。

【事例で学ぶ】相続人が納得した付言事項の書き方

理論だけでは、付言事項の本当の力は伝わりにくいかもしれません。ここでは、私が実際に経験した事例をもとに、付言事項がどのように機能し、相続人の心を動かしたのかをご紹介します。

不公平な相続割合でも長男が納得した「母の想い」

先日、あるお母様が亡くなり、遺言書の執行をお手伝いさせていただきました。相続人は、長男と長女のお二人。遺言書に書かれていた金融資産の相続割合は、「長女に8割、長男に2割」という、一見すると不公平な内容でした。

案の定、遺言書の内容を知った長男は、当初ご不満な様子でした。遺留分を主張することもできたはずです。しかし、彼が最終的にその内容を受け入れたのは、遺言書の最後に添えられていた、次のような付言事項があったからでした。

付言事項の要旨

「長男には、大学卒業までの学費を援助し、結婚式の費用も出してあげることができました。今では素敵な家庭を築き、毎年旅行に出かけるなど、充実した人生を送ってくれていることを、母としてとても嬉しく思っています。

一方で、長女は高校を卒業してからずっと家計を助けてくれました。結婚式も挙げられず、今は一人で子どもを育てながら、必死に頑張っています。あの子がこの先、お金に困らず生きていけるか、心配でなりません。

こうした事情から、このような財産の分け方をすることにしました。どうか私の気持ちを理解してください。二人とも、私にとってかけがえのない、可愛い子どもであることに変わりはありません。これからもどうか、仲良くしてください。」

このメッセージを読み、長男は(おそらく、しぶしぶではあったかもしれませんが)お母様の遺志に納得されたのです。

後日、長女の方からお話を伺うと、実はお母様は生前、「長男の家族がほとんど会いに来てくれない」と寂しさをこぼしていたそうです。もしかしたら、その不満が相続割合に反映されたのかもしれません。しかし、お母様は遺言書にそのネガティブな感情を一切記しませんでした。代わりに、それぞれの人生を思いやり、なぜ差をつけたのかというポジティブな理由を明確に示したのです。

もしここに長男への不満が書かれていたら、彼は感情的になり、遺留分の主張どころか、姉弟の関係に修復不可能な亀裂が入っていたかもしれません。この事例は、付言事項の言葉選びがいかに重要か、そしてそれが持つ力の大きさを物語っています。

遺留分侵害額請求を抑えるために検討したい付言事項の工夫

特定の相続人に多くの財産を遺したい場合、多くの方が心配されるのが「遺留分」の問題です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のこと。たとえ遺言書で「全財産を長男に」と書いても、他の相続人(例えば長女)は、遺留分に相当する金銭を請求する権利(遺留分侵害額請求)を持っています。

ここで大前提としてご理解いただきたいのは、付言事項によって、この遺留分侵害額請求という法的な権利をなくすことはできない、ということです。しかし、権利を行使するかどうかを決めるのは、相続人自身の「心」です。付言事項は、その心に働きかけ、請求を「思いとどまらせる」ための非常に有効なアプローチとなり得ます。

なぜ「お願い」が法的な権利行使を上回るのか

なぜ、法的に保証された強い権利に対して、付言事項という「お願い」が効果を発揮することがあるのでしょうか。それは、人が必ずしも法律や論理だけで動くわけではないからです。

遺留分侵害額請求を抑制する付言事項の3つの要素(感謝の表明、明確な理由、未来への願い)を示した図解。

特に親子という深い関係性においては、「親の最後の願い」は非常に重い意味を持ちます。たとえ自分に権利があると頭では分かっていても、「お父さん(お母さん)が、僕たちの将来を案じて、悩み抜いて決めたことなんだ」という想いが伝われば、「その遺志に反してまで権利を主張するのは忍びない」という気持ちが芽生えるのは、ごく自然なことです。

相続が裁判にまで発展するのは、多くの場合、法的な対立の前に感情的な対立があります。付言事項は、その感情の対立が生まれるのを未然に防ぎ、法廷闘争という最悪の事態を回避するための、いわば「お守り」のような役割を果たすのです。相続財産を社会に役立てたいと考える遺贈寄付を検討する場合も、他の相続人の遺留分に配慮し、付言事項でその想いを伝えることがトラブル防止につながります。

心を動かす文例:3つの要素で納得感を醸成する

では、具体的にどのように書けば、遺留分侵害額請求を思いとどまらせるような、心のこもったメッセージになるのでしょうか。ポイントは、以下の3つの要素を盛り込むことです。

  1. すべての相続人への感謝の表明
    まず大切なのは、財産を多く渡す相続人だけでなく、少なくなる相続人に対しても、これまでの感謝や愛情を具体的に伝えることです。「〇〇(遺留分を侵害される相続人)がいてくれたから、お父さんは幸せな人生を送ることができた。本当にありがとう」といった言葉は、相手の心を開く第一歩になります。
  2. 財産配分の明確な理由
    なぜ、このような分け方にしたのか、その理由を正直に、かつ丁寧に説明します。例えば、「長男には事業の継続のため会社の株式をすべて相続させますが、これは従業員の生活を守るためでもあります」「介護で世話になった長女に多く残すのは、私の感謝の気持ちです」など、具体的で誰もが納得できる理由を示すことが重要です。
  3. 他の相続人への配慮と将来への願い
    財産を多く受け取る相続人に対して、「他の兄弟のことも気にかけ、何か困ったときには助けてあげてほしい」といった一文を加え、遺産が少なくなる相続人への配慮を示します。そして最後に、「これからも兄弟仲良く、助け合って生きていってほしい。それが私の最後の願いです」と締めくくることで、遺言書全体が家族の絆を守るためのメッセージとなります。

一方的に理由を押し付けるのではなく、すべての子供を平等に愛しているという姿勢を貫くこと。それが、相続人全員の納得感を得るための鍵となります。

逆効果に?付言事項で絶対に書いてはいけないこと

良かれと思って書いた付言事項が、かえって家族の間に溝を作り、トラブルを深刻化させてしまうケースもあります。ここでは、専門家の立場から、絶対に避けるべきNGな書き方について解説します。

特定の相続人への非難や不満

最も避けるべきは、特定の相続人やその家族に対するネガティブな感情を書き残すことです。

【NG文例】

  • 「長男の嫁は、私の気に入らないことばかりしていた」
  • 「次男は生前、全く顔を見せに来なかったから、財産は渡さない」
  • 「長女は昔から言うことを聞かず、親不孝者だった」

このような一方的な非難は、残された相続人たちの対立感情を激しく煽ります。それだけでなく、「こんなひどいことを父(母)が言うはずがない。誰か(他の相続人)に無理やり書かされたに違いない」と、遺言書そのものの有効性を争う絶好の口実を与えてしまいかねません。「死人に口なし」の状況で、誰かを傷つける言葉を残すことは、百害あって一利なしです。

曖昧な表現や遺言本文と矛盾する内容

相続人を混乱させ、新たな争いの火種となるのが、曖昧な表現や遺言本文との矛盾です。

【NG文例】

  • 「財産は、みんなで仲良く、よしなに分けてください」(曖昧な表現)
  • 「長男にはできるだけ多く財産をあげてほしい」(曖昧な表現)
  • (本文)「A不動産は長男に相続させる」
    (付言事項)「A不動産は、本当は次男に使ってほしかった」(本文との矛盾)

このような記述は、あなたの真意を伝えるどころか、相続人を困惑させるだけです。「よしなに」と言われても基準が分からず、結局争いになります。「本当は次男に」と書かれていれば、長男は罪悪感を抱き、次男は不満を募らせるでしょう。付言事項は、あくまで遺言本文の意図を補強し、明確にするためのものです。本文と矛盾する内容や、解釈の余地がある曖昧な表現は絶対に避けましょう。

司法書士に遺言書作成の相談をする老夫婦。専門家が親身に話を聞いている様子。

まとめ:想いを託す遺言書作成は専門家にご相談ください

この記事では、遺言の付言事項が持つ、法的効力を超えた重要な役割について解説してきました。

付言事項は、法律では縛れない「人の心」に働きかけ、家族間の感情的なトラブルを防ぐための、いわば最後の切り札です。財産分けの理由を伝え、すべての家族への感謝と愛情を記すことで、相続は単なる財産の移転ではなく、あなたの想いを次世代へつなぐ大切な儀式となります。

しかし、想いを正確に、かつ法的に有効な形で遺言書に落とし込むには、法律と感情の両面から緻密に内容を設計する必要があります。特に、付言事項の言葉選び一つで、結果が大きく変わってしまうことも少なくありません。ご自身のケースに合わせた遺言書の作成費用はかかるかもしれませんが、それ以上に円満な相続を実現する価値は大きいはずです。

あなたの最後の言葉が、家族の未来を照らす光となるように。遺言書の作成でお悩みの方は、ぜひ一度、相続実務の経験が豊富な私たち専門家にご相談ください。あなたの想いに寄り添い、最適な形で遺言書を作成するお手伝いをさせていただきます。

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