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「2010株のはずが10株?」単元未満株の相続で起こる“神隠し”
「父が遺した株式は、たしか2010株あったはずなんです。でも、信託銀行に問い合わせたら『当行でお預かりしているのは10株だけです』と言われてしまって…。残りの2000株は、一体どこに消えてしまったんでしょうか?」
これは、実際に当事務所にご相談に来られた方のお話です。お父様が亡くなり、毎年配当金の通知などを送ってくるA信託銀行に連絡すれば、すべての株式の相続手続きができると考えていらっしゃいました。しかし、返ってきたのは予想外の回答。残りの株式の行方が分からず、途方に暮れていらっしゃいました。
まるで“神隠し”にでもあったかのように、存在するはずの株式が見つからない。実はこれ、株式の相続、特に「単元未満株式」が絡むケースで非常によく起こる典型的な落とし穴なのです。
多くの方が、「通知が届く金融機関が、すべての株式を管理しているはずだ」と思い込んでしまいがちです。しかし、その思い込みが手続きを複雑にし、ときには財産の発見を遅らせてしまう原因になります。
この記事では、司法書士として数多くの株式相続に携わってきた経験から、見落とされがちな単元未満株式の相続について、その調査方法から具体的な手続き、そして相続後の選択肢まで、分かりやすく解説していきます。もしあなたが今、同じような状況で不安を感じているなら、この記事がきっと解決の糸口になるはずです。
まず理解したい「単元未満株」と2つの保管場所
なぜ、あるはずの株式が見つからなくなってしまうのでしょうか。その謎を解くカギは、「単元未満株」という言葉と、株式が保管されている「2種類の口座」にあります。
単元株と単元未満株(端株)の基本的な違い
日本の多くの上場企業の株式は、「単元株制度」というルールを採用しています。これは、株式を売買する際の最低単位を決めるもので、多くは「100株=1単元」と定められています。
単元株(100株、200株など100株単位の株)は、証券取引所で自由に売買でき、株主総会で議決権を行使する権利があります。
一方で、単元未満株(1株〜99株の株。端株とも呼ばれます)は、取引所では原則として単元(100株など)単位での売買となるため、単元未満のままでは取引しにくく、議決権もありません。しかし、だからといって価値がないわけではありません。配当金を受け取る権利はありますし、立派な相続財産です。そのため、会社は単元未満株の株主に対しても、配当金の通知や事業報告書などを送付します。
単元未満株は、株式分割(1株が2株、1株が3株になるなど)や合併など、株主の意思とは関係ないところで自然に発生することがあります。

なぜ株式はバラバラに?証券口座と特別口座の役割分担
ここからが最も重要なポイントです。株式の保管場所は、大きく分けて2種類あります。
- 証券口座: 証券会社で開設する、株式などを売買・管理するための一般的な口座です。
- 特別口座: 証券会社に預託されていない株式を管理するために、発行会社が信託銀行などに開設した特殊な口座です。
なぜ、このような分かりにくい仕組みになっているのでしょうか。それは、2009年に行われた「株券電子化」という制度変更に深く関係しています。
かつて株券は紙で発行されていましたが、電子化によってすべてデータで管理されることになりました。その際、証券会社の口座に預けられていた株券は、そのまま電子データとしてその証券口座で管理されることになりました。
しかし、タンス預金のように自宅で保管されていた株券や、証券会社に預けていなかった株券は、行き場を失ってしまいます。そこで、これらの株券の受け皿として、株主名簿を管理している信託銀行などに「特別口座」が自動的に開設され、そこで管理されることになったのです。
このとき、株券電子化の時点で証券会社に預託されていた株式は証券口座で管理され、預託されていなかった株式(手元保管の株券等)は発行会社が開設する特別口座に移行します。そのため、同じ銘柄でも保管先が証券口座と特別口座に分かれてしまうことがあります。
冒頭の事例で言えば、2000株(単元株)は証券会社の「証券口座」に、残りの10株(単元未満株)は信託銀行の「特別口座」に、という形で別々に管理されていたのです。これが、“神隠し”の正体です。
隠れた株式を見つけ出す「ほふり」での調査方法
では、故人がどの証券会社に口座を持っていたのか分からない場合、どうすればよいのでしょうか。一つひとつ心当たりのある証券会社に問い合わせるのは大変です。そこで頼りになるのが、「ほふり」という機関です。
相続財産の全体像を把握する方法については、自分で財産調査する具体的な方法で体系的に解説しています。
ほふり(証券保管振替機構)とは?
「ほふり」は、株式会社証券保管振替機構(JASDEC)の愛称で、株式等振替制度のもとで振替の仕組みを運営している機関です。相続等の手続で行う「登録済加入者情報の開示請求」では、振替株式等に係る口座が開設されている証券会社・信託銀行等(口座管理機関)の一覧を確認できる、と理解するとよいでしょう(銘柄名や保有残高までは分かりません)。
相続人は、この「ほふり」に対して所定の手続きで開示請求(登録済加入者情報の開示請求)を行うことで、振替株式等に係る口座が開設されている証券会社・信託銀行等(口座管理機関)の一覧を確認できます。
開示請求で判明することと、その後のアクション
ほふりに開示請求をすると、「登録済加入者情報」という書類が届きます。これには、故人が口座を開設していた金融機関(証券会社や信託銀行など)の名称が一覧で記載されています。
ただし、注意点があります。この開示結果で分かるのは、「どの金融機関に口座があるか」までです。「どの銘柄を何株保有しているか」といった具体的な内容までは分かりません。
したがって、次のアクションは以下のようになります。
- ほふりから開示結果を受け取る。
- そこに記載されている金融機関(証券会社、信託銀行など)のすべてに、個別に連絡を取る。
- 各金融機関で、相続手続きと残高証明書の取得を依頼する。
この手順を踏むことで、故人が保有していたすべての株式を正確に把握し、相続手続きのスタートラインに立つことができるのです。

単元未満株の相続手続き|2つの窓口と具体的な流れ
財産の全体像が判明したら、いよいよ具体的な相続手続きに移ります。単元未満株がある場合、多くは「信託銀行」と「証券会社」という2つの窓口で、それぞれ手続きを進める必要があります。
ステップ1:信託銀行で「特別口座」の手続き
まずは、単元未満株が管理されている信託銀行(株主名簿管理人)での手続きです。配当金の通知などを送ってきているのがこの信託銀行です。
手続きの主な流れは以下の通りです。
- 相続が発生した旨を連絡し、手続きに必要な書類を取り寄せる。
- 戸籍謄本や遺産分割協議書など、指定された書類を提出する。
- 単元未満株をどうするか(後述する買取請求や移管など)を伝え、手続きを依頼する。
ステップ2:証券会社で「証券口座」の手続き
次に、ほふり調査などで判明した証券会社での手続きです。故人の口座を相続人の口座に移す(名義変更する)手続きがメインとなります。一般的な銀行・証券口座の手続きと同様の流れで進めます。
こちらも、相続発生の連絡、必要書類の提出という流れは信託銀行と同じです。信託銀行での手続きと並行して進めることで、全体の時間を短縮することができます。
要注意!手続きの二度手間と長期化を防ぐポイント
私が実務で見てきた中で、相続人の方が陥りがちな失敗は「手続きの二度手間」です。
例えば、まず信託銀行の手続きのために戸籍謄本一式を集め、提出したとします。その後、証券会社の口座の存在に気づき、また同じように戸籍謄本を集め直す…というケースです。金融機関によっては原本の提出を求められることもあり、時間も費用も余計にかかってしまいます。
最初に「ほふり」で全体像を把握し、必要な書類をまとめて取得した上で、各金融機関に同時にアプローチすることが、手続きをスムーズに進める最大のコツです。
相続した単元未満株はどうする?3つの選択肢と選び方
無事に相続手続きが終わった後、相続した単元未満株をどう扱うか、主に3つの選択肢があります。ご自身の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。
① 相続人の証券口座にそのまま移管する
故人の口座から、ご自身の証券口座へ株式をそのまま移す方法です。今後、株価が上がることを期待して保有し続けたい場合や、配当金を受け取り続けたい場合に適しています。特別口座にある単元未満株も、ご自身の証券口座に移管することで、同じ口座でまとめて管理できるようになります。
② 発行会社に時価で買い取ってもらう(買取請求)
単元未満株は市場で売買できませんが、「買取請求制度」を利用して、その株式を発行している会社自身に時価で買い取ってもらうことができます。これは最もシンプルに現金化できる方法で、手続きも比較的簡単なため、株式の管理をしたくない方や、すぐに現金化したい方に選ばれることが多い選択肢です。
③ 不足分を買い足して単元株にしてから売却する
「買増請求制度(買い増し制度)」を利用して、1単元(100株)に足りない分を発行会社から買い足し、単元株にしてから市場で売却する方法です。例えば80株を相続した場合、20株を買い足して100株にします。市場価格で売却できるため、買取請求よりも有利な価格で売れる可能性がありますが、追加の資金が必要になる点や、証券会社によっては対応していない場合もあるため、やや上級者向けの方法と言えます。

相続人が複数いる場合の注意点とよくある失敗例
相続人が一人ではなく複数いる場合、単元未満株の存在はさらに注意が必要です。株式、特に単元未満株は不動産のように物理的に分けることが難しいため、遺産分割でトラブルの種になりやすい財産です。
「分けにくい財産」をどう分ける?遺産分割の工夫
株式を公平に分けるには、遺産分割協議書の作成段階で工夫が必要です。実務上よく用いられるのは、以下の2つの方法です。
- 換価分割:代表相続人の一人がすべての株式を相続して売却し、得られた現金を他の相続人と分割する方法。最も公平で分かりやすい方法です。
- 代償分割:相続人の一人が株式をすべて相続する代わりに、他の相続人に対してその価値に見合う現金(代償金)を支払う方法。株式を保有し続けたい相続人がいる場合に有効です。特定の相続人が財産を取得する代わりに他の相続人へお金を払う代償分割は、分けにくい財産がある場合に便利な制度です。
実務で見た!単元未満株をめぐる失敗談
専門家として、単元未満株が原因で起こったトラブルをいくつも見てきました。特に多いのが、以下のようなケースです。
- 信託銀行の手続きだけで満足してしまう: 配当金通知を送ってきた信託銀行での手続きを終え、すべて完了したと思い込んでしまう。その後、ほふり調査をしなかったため証券口座の存在に気づかず、数年後に相続税の申告漏れを指摘される。
- 配当金だけが放置される: 証券口座の株式は名義変更したが、特別口座の単元未満株の存在に気づかない。その結果、配当金だけが故人名義の口座に振り込まれ続け、数年後に信託銀行からの通知で問題が発覚する。
こうした失敗を防ぐためにも、最初の段階で正確な財産調査を行うことが何よりも重要です。
複雑な株式相続は専門家へ|司法書士ができること
ここまでお読みいただき、「思ったより手続きが複雑で大変そうだ」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。特に、複数の金融機関に口座が分かれている場合、それぞれと個別にやり取りをするのは大きな負担です。
私たち司法書士は、相続手続きの専門家として、こうした複雑な株式相続をトータルでサポートすることができます。
- 正確な財産調査:戸籍謄本の収集から「ほふり」への開示請求まで、相続財産の全体像を正確に把握します。
- 煩雑な手続きの代行:複数の信託銀行や証券会社とのやり取りを、すべて代理人として行います。
- 遺産分割協議書の作成:相続人全員が納得できるような、法的に有効な遺産分割協議書を作成します。
- ワンストップ対応:不動産の名義変更(相続登記)はもちろん、必要に応じて税理士と連携し、相続税の申告までスムーズに繋ぎます。
当事務所では、こうした相続手続き全般を代行する遺産承継業務も承っております。もし手続きにご不安があれば、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ|「通知が届く=全部そこ」という思い込みに注意
単元未満株式の相続は、故人が株式投資にどれだけ詳しかったかに関わらず、誰にでも起こりうる問題です。そして、その手続きでつまずく最大の原因は、「配当金の通知が届く金融機関に、すべての株式があるはずだ」という思い込みです。
この記事でお伝えしたかった最も重要なポイントは以下の3つです。
- 株式の保管場所は「証券口座」と「特別口座」の2種類がある。
- 「ほふり」で開示請求すれば、故人が口座を持つすべての金融機関がわかる。
- 最初に関係金融機関をすべて特定し、同時に手続きを進めるのが効率的。
見えない株式の存在は、相続手続き全体を遅らせ、相続人間のトラブルの原因にもなりかねません。少しでも心当たりがあれば、まずは専門家による正確な財産調査から始めることをお勧めします。それが、円満な相続を実現するための最も確実な一歩となるはずです。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
