公証人は出張可能!入院中でも公正証書遺言を作る方法

Hospital room scene: an elderly man in bed smiles as a woman and a businessman in a suit hold his hands, conveying warmth and support (Japanese headline about future, family bonds, and inheritance planning).

入院・入所中の遺言作成、まず確認すべき3つのこと

「残される家族のために、きちんと遺言書を作っておきたい。でも、身体が思うように動かず、公証役場まで行けない…」

ご高齢の方や、入院中、あるいは介護施設に入所中の方から、このような切実なご相談を数多くお受けしてきました。親の容態を案じ、「早くしなければ」と焦るお気持ちは痛いほど分かります。しかし、その焦りが思わぬトラブルを招くことも少なくありません。

まずは落ち着いて、現状を整理しましょう。公証人への出張を依頼する前に、必ず確認していただきたい3つのポイントがあります。これらを事前にクリアにしておくだけで、手続きは格段にスムーズに進みます。

このテーマの全体像については、生前対策は何から始める?専門家が教える全体像と手順で体系的に解説しています。

①本人の「遺言を作りたい」という意思は明確か?

何よりも大切なのが、ご本人の「遺言を作りたい」という明確な意思です。ご家族がどんなに必要性を感じていても、ご本人が乗り気でなければ、手続きを進めることはできません。

そして、法的に最も重要なのが「意思能力(遺言能力)」の有無です。これは、ご自身が作成する遺言の内容や、その結果どうなるのかを正しく理解できる判断能力を指します。もしこの能力が欠けていると判断されれば、せっかく作成した遺言も後から無効になってしまう可能性があります。

作成当日、公証人はご本人と直接会話し、「今日は何月何日ですか?」「この財産を、なぜこの方に残したいのですか?」といった質問を通じて、この意思能力を慎重に確認します。受け答えがしっかりしていれば、たとえ身体が不自由でも問題ありません。しかし、認知症の兆候が見られるなど少しでも不安がある場合は、後々の紛争を防ぐためにも、慎重な判断が求められます。特に相続人が認知症の場合は手続きが複雑になるため、事前の準備がより重要になります。

②病院や施設は外部の人の立ち入りを許可しているか?

入院中や施設入所中という特殊な環境では、物理的な制約も大きなハードルとなります。特に感染症対策などの観点から、外部の人の面会や立ち入りに厳しい制限を設けている病院や施設は少なくありません。

公証人や証人2名が立ち入れなければ、公正証書遺言の作成は不可能です。まずは担当の医師や看護師、ケアマネージャー、施設長などに「公正証書遺言を作成するため、公証人と証人に来てもらいたい」という意向を伝え、許可を得ることが最初の具体的なステップとなります。

また、遺言という極めてプライベートな内容を扱うため、プライバシーの確保も必須です。相部屋の場合は、個室や面談室などを一時的に利用できるかどうかも、併せて確認しておきましょう。

③時間的な余裕はあるか?公証人の手配には時間がかかる

「急がなければ」という気持ちはよく分かりますが、公証人の手配には想像以上に時間がかかることを知っておく必要があります。公証人も多忙なため、依頼してから実際に出張してくれるまで、1~2ヶ月ほどかかるケースも珍しくありません。

遺言を作成するご本人の体力や気力も必要です。残された時間から逆算し、計画的に準備を進めることが大切です。もし、時間的な余裕が本当にないという場合には、後ほど解説する「自筆証書遺言」や「危急時遺言」といった他の選択肢も視野に入れる必要があります。

より具体的な手順については、公正証書が無理でも大丈夫。最低限の自筆証書遺言が持つ本当の意味をご覧ください。

【実践】公証人に出張してもらう公正証書遺言の作り方

「公正証書遺言を作りたいけれど、外出ができない」というご相談は、私たちが日々お受けする中でも特に切実なものです。当事務所では、寝たきりの状態の方や、癌専門の病院に入院されている方など、多くのケースで公証人の出張による遺言作成をサポートしてきました。

たとえ寝たきりであっても、どのような遺言にしたいか、ご自身の意思をはっきりと表明できるのであれば、遺言書の作成は可能です。このことをお伝えすると、多くの方が安堵の表情を浮かべられます。

ただし、出張を依頼する場合、通常の作成手数料が50%増しになったり、公証人の交通費が別途かかったりといった点もご理解いただく必要があります。私たちは、こうした現実的な情報もしっかりとご説明し、ご納得いただいた上で、万全の体制を整えます。

ここからは、具体的な作成手順を3つのステップに分けて見ていきましょう。

ステップ1:遺言内容の整理と必要書類の準備

まずは、遺言作成の土台となる準備です。完璧を目指す必要はありませんので、ご自身の想いを整理するために、簡単なメモから始めましょう。

  • 誰に:財産を渡したい相手の名前(妻、長男など)
  • 何を:主な財産の種類(自宅の土地・建物、〇〇銀行の預貯金など)
  • どれくらい:どの財産を誰に渡したいかの割合や内容

このメモがあるだけで、後の手続きが驚くほどスムーズになります。遺言書で決められることには法的なルールもありますが、まずはご自身の希望を書き出すことが第一歩です。

同時に、以下の書類を準備しておくと、公証人との打ち合わせが効率的に進みます。

書類の種類内容・取得場所など
本人確認書類印鑑登録証明書と実印、または運転免許証、マイナンバーカードなど
戸籍謄本遺言者本人と、財産を渡す相手との関係がわかるもの。本籍地の役所で取得します。
財産に関する資料不動産の登記事項証明書や固定資産税納税通知書、預貯金通帳のコピーなど
公正証書遺言の作成に必要な主な書類

特に戸籍謄本は、本籍地が遠方にある場合など、収集に時間がかかることがあります。早めに準備を始めることをお勧めします。

戸籍証明書の取得方法については、地方公共団体情報システム機構のウェブサイトも参考にしてください。
参照:本籍地の戸籍証明書取得方法

ステップ2:公証役場への連絡と出張依頼

遺言内容のメモと必要書類がある程度そろったら、いよいよ公証役場に連絡します。連絡先は、遺言を作成する病院や施設の所在地を職務執行区域に含む公証役場です。日本公証人連合会のウェブサイトで、お近くの役場を探すことができます。

電話をかけたら、「公正証書遺言の作成のため、病院(または施設)まで出張をお願いしたい」と伝えましょう。その際、ご本人の状況や遺言内容の概要について尋ねられますので、ステップ1で準備したメモが役立ちます。

公証人は法律の専門家であり、守秘義務もあります。緊張せず、現状をありのままお話しください。近年では、公正証書遺言のデジタル化も進んでいますが、出張作成の場合は従来通り対面での手続きとなります。安心して相談しましょう。

ステップ3:証人2名の手配と当日の流れ

公正証書遺言を作成するには、必ず2名以上の証人の立ち会いが必要です。この証人には誰でもなれるわけではなく、法律で以下の人はなれないと定められています。

  • 未成年者
  • 推定相続人(将来相続人になる予定の人)、受遺者(遺言で財産をもらう人)およびその配偶者、直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族など

「頼める人がいない…」という場合でも、解決策はあります。公証役場で紹介してもらうか、私たちのような遺言作成をサポートする司法書士に依頼する方法です。専門家には守秘義務があり、手続き全体を円滑に進めやすいため、有力な選択肢の一つと言えるでしょう。

当日の大まかな流れは以下の通りです。

  1. 本人確認と意思の確認:公証人がご本人と面談し、本人であることと、遺言を作成する意思があることを確認します。
  2. 遺言内容の読み聞かせ:公証人が、作成した遺言書の文案を本人と証人に読み聞かせ、内容に間違いがないかを確認します。
  3. 署名・押印:内容に問題がなければ、遺言者本人、証人2名、公証人がそれぞれ署名・押印し、遺言書が完成します。

このように、公正証書遺言は厳格な手続きを経て作成されるため、他の遺言書の種類と比べても極めて信頼性が高いのです。

場所で変わる注意点|病院・施設・自宅での違い

公証人に出張してもらう場合、その場所が「病院」「介護施設」「自宅」のどこかによって、調整すべき事項や注意点が少しずつ異なります。ご自身の状況に合わせて、最適な準備を進めましょう。

病院の場合:医師の診断書と面会制限が鍵

病院で作成する場合、最も重要なのは医師との連携です。特にご本人の判断能力に少しでも不安がある場合は、後々のトラブルを避けるため、事前に主治医に相談し、「遺言の作成能力に支障なし」といった内容の診断書を取得しておくことを強くお勧めします。これが、遺言の有効性を客観的に証明する強力な証拠となります。

また、面会時間の制限や、感染症対策による立ち入り人数の制限など、病院独自のルールも確認が必要です。公証人と証人2名の計3名が同時に入れるか、事前にソーシャルワーカーなどに相談し、協力を得ておくとスムーズです。判断能力が著しく低下している場合は、成年後見制度の利用も検討する必要が出てきます。

介護施設の場合:施設側のルールとプライバシー確保

介護施設で作成する場合、まずは施設長やケアマネージャーへの事前確認が不可欠です。施設によっては、規則で入居者の法律行為に関与することを制限しているケースもあるためです。事前に遺言作成の意向を伝え、許可を得ておきましょう。

また、他の入居者の方も生活している環境のため、プライバシーの確保が病院以上に重要になります。遺言の内容が他人に聞かれることのないよう、個室や空いている相談室などを確保できるか、交渉しておく必要があります。

自宅療養の場合:公証人の管轄と環境整備

在宅医療を受けているなど、ご自宅で作成する場合は、比較的自由度が高い一方で、準備はすべてご家族で行う必要があります。

まず、公証人には職務執行区域があるため、ご自宅の所在地を職務執行区域に含む公証役場に相談する必要があります。また、ご本人が落ち着いて意思を伝えられる静かな環境を整えることも大切です。テレビの音や生活音などが妨げにならないよう、ご家族の協力が不可欠になります。

出張作成にかかる費用はいくら?内訳と目安を解説

費用について心配される方は非常に多いです。公証人に出張してもらう場合、通常の作成費用に加えて、いくつかの加算料金が発生します。費用の内訳は、主に以下の要素で構成されます。

  1. 基本手数料:遺言で渡す財産の価額に応じて法律で定められた手数料。
  2. 出張による加算料金(病床執務加算):基本手数料が原則として50%増しになります。
  3. 公証人の日当:公証人が役場の外で業務を行うための日当(4時間まで1万円、それを超えると2万円)。
  4. 公証人の交通費:役場から現地までの往復交通費(実費)。
  5. その他:証人を公証役場に依頼した場合の日当(1人1万円前後)や、手続きをサポートする専門家への報酬など。

例えば、5,000万円の財産を1人の相続人に渡す遺言書を作成する場合、大まかな公証人手数料は以下のようになります。

【シミュレーション例】財産5,000万円の場合

  • 基本手数料:29,000円
  • 遺言加算:11,000円
  • 病床執務加算:14,500円(基本手数料の50%)
  • 日当:10,000円(4時間以内の場合)
  • 交通費:実費
  • 合計:64,500円 + 交通費実費

※上記はあくまで目安です。財産の内容や相続人の数によって変動します。

正確な費用は財産の内容や場所によって変動しますので、事前に公証役場へ確認することをおすすめします。当事務所のような専門家の料金一覧も参考に、どこまでを自分で行い、どこから専門家に任せるかを検討するのも良いでしょう。

公証人手数料の規定については、法改正が行われることもあります。最新の情報は日本公証人連合会のウェブサイトなどで確認することをおすすめします。
参照:公証人手数料令の改正について

もし公正証書が難しい場合の代替案

ご本人の容態が急変し、公証人の手配が間に合わない。あるいは、体力が持たず、作成手続きに耐えられないかもしれない。万が一、公正証書遺言の作成が難しい場合には、次善策として他の方法も存在します。

ただし、これらはあくまで緊急避難的な選択肢であり、それぞれにデメリットやリスクがあることを理解しておく必要があります。

選択肢① 自筆証書遺言:手軽だがリスクも大きい

自筆証書遺言は、その名の通り、全文を自分で手書きして作成する遺言書です。費用がかからず、思い立った時にすぐ作成できるのが最大のメリットです。

しかし、デメリットも少なくありません。

  • 形式不備で無効になるリスク:日付や署名がないなど、法律で定められた形式を守らないと無効になります。
  • 本人が書いたかどうかの争い:筆跡が違うなど、後から真偽を巡ってトラブルになる可能性があります。
  • 紛失・改ざんの恐れ:自宅で保管する場合、紛失したり、心ない人によって改ざんされたりするリスクがあります。
  • 死後の検認手続きが必要:遺言書を発見した相続人は、家庭裁判所で「検認」という手続きを経る必要があり、手間と時間がかかります。

病床で手が震えるなど、自筆が困難な状況では特に注意が必要です。財産目録はパソコンで作成できるようになりましたが、本文は必ず自筆でなければなりません。あくまで次善の策と考え、可能であれば専門家の内容チェックを受けることが望ましいでしょう。

より詳しい手順については、遺言書の検認をご覧ください。

選択肢② 危急時遺言:命の危険が迫っている最終手段

危急時遺言(死亡危急時遺言)は、病気や怪我で死期が迫り、自筆証書遺言すら作成する余裕がないという、まさに最終手段です。

この方式は、以下のような非常に厳格な要件が定められています。

  • 証人3人以上の立ち会いが必要。
  • 遺言者が証人の1人に遺言の内容を口頭で伝える(口授)。
  • 口授を受けた証人がそれを筆記し、遺言者と他の証人に読み聞かせる。
  • 各証人が署名・押印する。
  • 遺言の日から20日以内に家庭裁判所に請求し、その確認を得なければならない。

要件が極めて複雑で、利用されるケースは稀です。もしこの方法を検討せざるを得ない状況になった場合は、必ず速やかに専門家へ相談してください。

遺言制度の改正に関する情報については、法務省の資料もご参照ください。
参照:民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案(修正案)についての …

手続きが不安な方は専門家への相談が近道です

ここまでご自身で手続きを進める方法を解説してきましたが、ご本人の体調がすぐれない中、あるいはご家族が遠方にお住まいの場合、これらの手続きをご自身たちだけで行うのは、心身ともに大きな負担となるかもしれません。

そんな時は、決して無理をせず、私たち司法書士のような専門家を頼ってください。遺言作成の準備から公証役場との調整まで、必要な場面でサポートします。

【司法書士が代行・サポートできること】

  • 遺言内容の法的な整理・助言:ご希望が法的に実現可能か、将来のトラブルを避けやすい内容になっているかを専門家の視点で確認し、状況に応じた条文案を作成します。
  • 必要書類の収集代行:手間のかかる戸籍謄本や不動産の登記事項証明書などの取得をすべて代行します。
  • 公証役場とのすべての調整:公証人との事前打ち合わせ、日程調整、遺言案のすり合わせなど、すべての連絡・交渉を代行します。
  • 証人の手配:信頼できる証人を2名手配いたします。ご自身で探す必要はありません。
  • 病院・施設との調整サポート:場所の確保など、デリケートな交渉についてもサポートします。

遺言書は、残されるご家族に財産の承継方法やご本人の意思を明確に伝えるための重要な書面です。その大切な想いを、法的な不備をできるだけ避けながら形に残すために、専門家がいます。どのような相続に強い司法書士かを見極め、まずはご状況をお聞かせください。

手続きの負担を軽減することで、ご本人やご家族が必要な時間を確保しやすくなります。手続きは、私たち専門家にお任せいただけませんか。

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