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「全財産を寄付する」父の遺言。私には何も残らないの?
「父の全財産が、知らない団体に遺贈されていました」
父が亡くなった後、遺言書が見つかりました。
内容は、「全財産を〇〇法人に遺贈する」というもの。
私は一人娘です。
父とは長年疎遠でしたが、まさか自分には一切残さないとは思ってもいませんでした。
「いきなり弁護士に行くほど争うつもりはない」
「できれば、話し合いで解決したい」
そう思い、司法書士に相談することにしました。
…これは、実際に当事務所に寄せられたご相談の一つです。遺言書の内容は、故人の最後の意思として尊重されるべきものです。しかし、残されたご家族にとって、あまりにも酷な内容であるケースも少なくありません。特に、特定の個人や団体への遺贈寄付などは、相続人にとってまさに寝耳に水の話でしょう。
「納得できないけれど、遺言だから仕方ない…」
「家族や他の相続人と争いたくない…」
そう考えて、泣き寝入りしてしまう方もいらっしゃいます。しかし、どうか諦めないでください。法律は、残されたご家族の生活を守るため、最低限の取り分を保障しています。この記事では、遺言書によって財産を受け取れなかった方が、ご自身の権利を穏便に取り戻すための「話し合い解決法」について、司法書士の視点から解説していきます。
諦めないで!法律で守られた最低限の取り分「遺留分」とは
遺言書の内容に納得がいかないとき、知っておいていただきたいのが「遺留分(いりゅうぶん)」という制度です。遺留分とは、簡単に言えば、法律によって定められた、相続人が最低限受け取れる財産の割合のことです。たとえ遺言書に「全財産を愛人に譲る」「すべてを寄付する」と書かれていたとしても、遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った相手に対して「遺留分に相当するお金を支払ってください」と請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」と呼びます。
この権利により、遺言や贈与等で遺留分が侵害されている限度で、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。ご自身の権利を主張することは、決して故人の意思をないがしろにすることではありません。法律が認めた、あなたの正当な権利なのです。なお、生命保険金は原則として相続財産ではなく、遺留分の算定基礎に当然に含まれるものではありません。ただし、保険金額等の事情によっては、遺産分割の場面で「特別受益に準じて持戻しの対象」と判断されることがあります。
遺留分を請求できる人・できない人
遺留分は、すべての相続人に認められているわけではありません。ご自身に権利があるかどうか、まずは確認しましょう。
| 請求できる人 | 請求できない人 |
|---|---|
| 配偶者 | 兄弟姉妹(およびその代襲相続人である甥・姪) |
| 子(子が亡くなっている場合は孫などの代襲相続人) | 相続放棄をした人 |
| 直系尊属(父母や祖父母など) | 相続欠格・廃除された人 |
最も重要なポイントは、亡くなった方の兄弟姉妹には遺留分がないという点です。一方で、子が先に亡くなっていて孫がいるようなケースでは、孫が代襲相続人として遺留分を請求できます。
あなたの遺留分はいくら?簡単な計算方法
では、具体的にどれくらいの金額を請求できるのでしょうか。計算は2ステップで考えます。
- 全体の遺留分を計算する
- それに自分の法定相続分を掛ける
まず、「全体の遺留分」は、相続財産の原則2分の1です。ただし、相続人が父母や祖父母などの直系尊属のみの場合は3分の1となります。
次に、この「全体の遺留分」に、ご自身の「法定相続分」を掛け合わせます。
【計算例】遺産総額6,000万円、相続人が配偶者と子1人の場合
- 全体の遺留分:6,000万円 × 1/2 = 3,000万円
- 配偶者の遺留分:3,000万円 × 1/2(法定相続分) = 1,500万円
- 子の遺留分:3,000万円 × 1/2(法定相続分) = 1,500万円
このケースで、遺言書に「全財産を第三者に遺贈する」と書かれていた場合、配偶者と子はそれぞれ1,500万円を請求できる可能性がある、ということになります。正確な遺産総額を把握するには、預貯金や不動産などの財産調査が必要不可欠です。
(参考:民法(第1048条:遺留分侵害額請求権の期間の制限)|e-Gov法令検索)
【要注意】遺留分には「1年」という短い時効があります
遺留分侵害額請求の権利を知って少し安心されたかもしれません。しかし、ここからが非常に重要です。この権利は、いつでも主張できるわけではありません。
遺留分侵害額請求権には、時効があります。具体的には、
「相続の開始と、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年間」
この期間内に請求の意思表示をしないと、権利が時効によって消滅してしまうのです。
「知った時」とは、例えば「遺言書の存在を知り、その内容を確認した時」などが該当します。親族間の問題だからと先延ばしにしたり、どうしようかと悩んでいるうちに、あっという間に1年は過ぎてしまいます。この「1年」という期間は、相続放棄の期限である3ヶ月よりは長いですが、決して十分な時間ではありません。
また、遺留分侵害の事実を知らなかったとしても、相続開始の時から10年が経過すると、権利は完全に消滅します(除斥期間)。
いずれにせよ、のんびりしている時間はない、ということだけは覚えておいてください。権利を失わないためには、迅速な行動が何よりも大切です。
「話し合いで」と軽く考えていませんか?自力解決の落とし穴
「権利があることは分かった。でも、事を荒立てたくないから、まずは自分で相手と話してみよう」
そう考えるのは自然なことです。しかし、当事者同士の話し合いには、思わぬ落とし穴が潜んでいます。
- 感情的になって話がこじれる
お金の話、特に相続が絡むと、冷静ではいられなくなるものです。「なぜ自分だけ…」という不満や、「遺言を書いた親の気持ちを考えろ」といった反論がぶつかり合い、解決どころか関係が悪化してしまうケースは少なくありません。 - 相手に言いくるめられてしまう
相手が法律知識に詳しかったり、口が達者だったりすると、「遺言は絶対だ」「そんな権利はないはずだ」などと言いくるめられ、本来主張できるはずの権利を諦めさせられてしまうことがあります。 - そもそも話し合いに応じてくれない
財産を受け取った側からすれば、できれば支払いたくないのが本音です。電話に出なかったり、会うのを拒否されたりして、話し合いのテーブルにすらつけないこともあります。 - 証拠が残らず「言った言わない」になる
口頭で「分かった、支払うよ」という約束を取り付けたとしても、後になって「そんなことは言っていない」と覆される危険性があります。時効が迫る中、何の進展もないまま時間だけが過ぎていくことになりかねません。
穏便な解決を目指すはずが、かえって溝を深めてしまう…。それが自力解決の難しさなのです。
司法書士が「話し合い」を円満解決に導く3つのサポート
「では、弁護士に頼んで裁判するしかないの?」というと、そうではありません。実は、本格的な紛争になる前の「話し合い」の段階で、司法書士がお手伝いできることはたくさんあります。
司法書士は、弁護士のようにあらゆる紛争について代理人として相手方と直接交渉することはできません。ただし、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)は、簡易裁判所の管轄に属する一定範囲(訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求事件等)で、裁判外の和解等を代理できる場合があります。ここでは、司法書士ができる3つの具体的なサポート内容をご紹介します。
① 時効を止める「内容証明郵便」の作成支援
まず、何よりも先に行うべきは、時効を止めることです。そのためには、相手方に対して「遺留分侵害額を請求します」という意思を明確に表示する必要があります。この意思表示は、後から「言った言わない」の争いにならないよう、証拠が残る形で行うのが鉄則です。
そこで活用するのが「内容証明郵便」です。これは、「いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるサービスです。これにより、「遺留分侵害額請求を行使した」ことを証拠として残しやすくなり、期間徒過による権利消滅を避けるうえで有効です。
司法書士は、ご依頼者様のお話を丁寧にお伺いした上で、法的に有効で、かつ請求の意思が明確に伝わる内容証明郵便の文案作成をサポートします。専門家が関与することで、相手方も「本気なのだ」と認識し、その後の話し合いに応じやすくなる効果も期待できます。これは、遺言書の検認など、相続における他の法的手続きと同様に、正確さが求められる重要な第一歩です。
② 冷静な話し合いの土台となる資料準備と助言
感情論を排し、建設的な話し合いをするためには、客観的な事実に基づいた資料が不可欠です。司法書士は、遺留分額を正確に計算するための資料収集をサポートします。
- 不動産の固定資産評価証明書や査定書の取得
- 預貯金の残高証明書の取り寄せ
- 有価証券の評価額の調査
これらの資料を集め、法的に正確な遺留分額を算出します。そして、その計算根拠を相手方に分かりやすく説明するための資料作成をお手伝いすることも可能です。例えば、相続不動産の評価額で揉めるケースは非常に多いですが、客観的な資料があれば冷静な議論がしやすくなります。
あくまで話し合いの主役はご本人ですが、私たちはその「後ろ盾」として、法的な根拠を固めることで、有利な立場で話し合いに臨めるようサポートします。
③ 話し合いのゴール「遺留分侵害額に関する合意書」の作成
無事に話し合いがまとまったら、それで終わりではありません。最も重要なのは、その合意内容を法的に有効な書面として残すことです。口約束だけでは、後になって「支払いが滞る」「金額が違うと言い出す」といったトラブルに発展しかねません。
司法書士は、話し合いのゴールである「遺留分侵害額に関する合意書」の作成をサポートします。これは、遺産分割協議書と同様に、後日の紛争を防ぐための重要な契約書です。
合意書には、
- 誰が誰に
- いつまでに
- いくらを
- どのように支払うか
- 支払いがない場合の取り決め
といった内容を、法的に不備なく、かつ明確に記載します。双方が納得した内容を正確に書面に残すことで、ようやく本当の意味での円満解決が実現するのです。この「最後の詰め」まで、専門家として責任をもってサポートいたします。
遺留分の問題でお悩みなら、まずは専門家の視点からのアドバイスを受けてみませんか。
まずは無料相談で状況をお聞かせください
司法書士への相談で、穏便な解決への第一歩を
遺言書の内容に納得がいかないとき、あなたには「遺留分」という法律で守られた正当な権利があります。しかし、その権利を行使できる期間は「知った時から1年」と、決して長くはありません。
「争いごとは避けたい」というお気持ちは、とてもよく分かります。だからこそ、いきなり弁護士に依頼して裁判に臨むのではなく、まずは司法書士と一緒に「話し合いによる円満解決」を目指してみませんか。
私たちは、時効を止めるための確実な手続きから、冷静な話し合いのための資料準備、そして合意内容を形にする書面作成まで、ご依頼者様が安心して話し合いに臨めるよう、法的な側面から全力でサポートします。
相続が「争続」になってしまう前に、ぜひ一度、あなたの胸の内をお聞かせください。不安な気持ちに寄り添い、納得のいく解決への道を一緒に探していくことが、私たちの役目です。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
