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【相談事例】明治生まれの曾祖父の戸籍に「高齢者消除」の記載が…
「先生、曾祖父名義のままになっている不動産の相続登記をお願いしたいのですが…」
ご相談に来られたAさんは、少し困惑した表情で切り出しました。何代にもわたって相続登記がされていなかった土地の名義を、この機会にきちんと整理したいとのこと。私たちは早速、登記名義人である曾祖父様の戸籍を遡って調査を始めました。
しかし、取得した戸籍には、死亡日を示す「除籍」の文字ではなく、「高齢者消除」という見慣れない記載がありました。
「曾祖父は明治生まれですので、亡くなっていることは間違いないんです。でも、親族に片っ端から聞いて回っても、いつ、どこで亡くなったのか誰も知らなくて…」
Aさんのおっしゃる通り、常識的に考えればご存命の可能性はまずないでしょう。しかし、法的な手続きの世界では「亡くなっているはず」という推測だけでは前に進むことができません。この「高齢者消除」の記載を根拠に、死亡したものとして相続登記を進めることはできるのでしょうか?
この問題は、長年放置されてきた不動産の相続手続きにおいて、しばしば私たちの前に立ちはだかる大きな壁となります。この記事では、この「高齢者消除」と相続登記の実務について、司法書士の視点から詳しく解説していきます。
結論:高齢者消除の記載だけでは相続登記はできません
早速、結論からお伝えします。戸籍に「高齢者消除」と記載されているだけでは、残念ながらそれを死亡の証明として相続登記を申請することはできません。
「亡くなっているのは確実なのに、なぜ?」と疑問に思われるかもしれません。その理由は、法的な観点と、登記実務上の観点の2つに分けられます。それぞれ見ていきましょう。
理由1:高齢者消除は「死亡」を法的に証明するものではない
「高齢者消除」とは、例えば120歳以上で戸籍の附票に住所の記載がない者等について、法務局等の長の許可を得て戸籍の記載を削除するなど、戸籍を整理するために行われてきた行政上の措置(実務運用)です。
重要なのは、これがあくまで「行政上の整理」に過ぎないという点です。法律上の死亡を確定させる「失踪宣告」とは異なり、高齢者消除の記載によって、その人が法律上も死亡したと扱われるわけではありません。
つまり、「行政上は死亡している可能性が高いとして戸籍から消除されているが、法律上はまだ生きている扱い」という、少し奇妙な状態になっているのです。そのため、高齢者消除の記載は、相続の発生(=死亡)を法的に証明する効力を持たないのです。
理由2:相続登記には「死亡年月日」の特定が不可欠
もう一つの理由は、相続登記の実務上のルールにあります。不動産の所有権が移転した際には、法務局に登記を申請しますが、その申請書には「登記原因及びその日付」を記載しなければなりません。
相続の場合は、登記原因が「相続」、そしてその日付は「被相続人が亡くなった日(死亡年月日)」となります。
しかし、高齢者消除の記載には、いつ消除されたかの日付はあっても、その方がいつ亡くなったかという「死亡年月日」は書かれていません。登記申請に必要な情報(登記原因日付の特定等)が欠けていると、法務局で補正を求められたり、申請が却下される可能性があります。
このように、「亡くなっているはず」という事実と、「法的に死亡を証明し、死亡日を特定する」ことの間には、大きな隔たりがあるのです。このテーマの全体像については、相続登記の必要書類リスト(ケース別に専門家が解説)で体系的に解説しています。

ではどうする?死亡日不明の場合の実務的な解決策
高齢者消除の記載だけでは相続登記ができないとなると、どうすればよいのでしょうか。ここからは、実務上の具体的な解決策をステップに沿って解説します。
STEP1:まずは死亡の事実を証明できる資料を探す
法的な手続きに入る前に、まずやるべきことは、死亡の事実と年月日を客観的に証明できる資料が本当にないか、徹底的に調査することです。
戸籍の調査だけでは見つからなくても、他の資料が残っている可能性はゼロではありません。例えば、以下のような資料を探してみましょう。
- 死亡届の記載事項証明書:本籍地以外の市区町村で届け出ている可能性も考え、心当たりのある役所に問い合わせてみる。
- 火葬(埋葬)許可証:お墓を管理しているお寺や霊園に記録が残っていないか確認する。
- 過去帳:お寺によっては、檀家の死亡年月日や俗名などを記録した過去帳を保管している場合があります。
- 親族の古い手紙や日記:当時のやり取りの中に、死亡に関する記述が残っていることもあります。
こうした地道な調査は、出生から死亡までの戸籍をたどる作業と並行して行う必要があります。
STEP2:資料がない場合は「失踪宣告」を申し立てる
あらゆる手を尽くしても死亡を証明する資料が見つからなかった場合。そのときの最終手段が、家庭裁判所への失踪宣告の申立てです。
失踪宣告とは、生死不明の状態が一定期間(普通失踪の場合は7年間)続いた人について、家庭裁判所が審判をすることで、法律上死亡したものとみなす制度です。
この申立てが認められると、生死不明になってから7年間の期間が満了した時に死亡したものとみなされます。これにより、法的な「みなし死亡日」が確定するため、その日を登記原因の日付として、ようやく相続登記の手続きを進めることができるようになるのです。
失踪宣告の申立てには、申立書のほか、失踪を証明する資料や利害関係を明らかにするための戸籍謄本などが必要となり、手続きには数ヶ月から1年程度の期間がかかるのが一般的です。これは、相続人が行方不明のケースとは少し異なりますが、家庭裁判所の手続きが必要という点では共通しています。
【補足】認定死亡との違いは?
失踪宣告とよく似た制度に「認定死亡」があります。これは、水難や火災、震災といった災害で亡くなったことはほぼ確実であるものの、ご遺体が発見できない場合に、調査を行った官公署(警察など)が死亡を認定する制度です。
高齢者消除が「死亡の蓋然性が高い」という推測に基づくのに対し、認定死亡は「死亡したことが確実」という点で大きく異なります。認定死亡の場合、その死亡をもって相続が開始し、相続登記も可能になります。

数次相続で死亡日不明だと、さらに手続きは複雑化する
今回の相談事例のように、何代も前の名義人の死亡日が不明なケースでは、数次相続が発生していることがほとんどです。そうなると、問題はさらに複雑化します。
最初の相続人が確定できず、関係者が雪だるま式に増える
相続手続きは、ドミノ倒しのようなものです。最初の相続(一次相続)がいつ開始したのか、つまり曾祖父がいつ亡くなったのかが確定しなければ、その時点での相続人が誰だったのかを確定させることができません。
もし、一次相続の相続人である祖父もすでに亡くなっている場合(二次相続)、二次相続の相続人を確定させるためには、まず一次相続の相続人が誰であったかをはっきりさせる必要があります。最初のドミノが倒れなければ、次のドミノも倒れないのです。
死亡日が不明なまま放置すると、誰が相続人なのかすら確定できず、関係者が雪だるま式に増えていき、解決がどんどん困難になってしまいます。このような何十年も放置された相続登記は、専門家にとっても特に骨の折れる案件の一つです。
相続登記の義務化で放置は許されない時代に
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。これは過去に発生した相続にも適用され、正当な理由なく登記を怠れば、10万円以下の過料が科される可能性があります。
「相続人の数が多くて戸籍集めが終わらない」「失踪宣告の手続きに時間がかかっている」といった事情は、登記が遅れる「正当な理由」と認められる可能性はあります。しかし、だからといって何もしないで放置してよいわけではありません。解決に向けて具体的に行動していることが重要になります。
「亡くなっているはず」という思い込みが落とし穴に。まずは専門家へ相談を
「明治生まれなのだから、亡くなっているに決まっている」
「親族もみんな亡くなったと言っている」
その感覚は、ごく自然なものです。しかし、法務局は「決まっている」「みんなが言っている」という理由だけでは登記を受け付けてはくれません。客観的な資料に基づいた、厳格な証明が求められるのです。
戸籍に「高齢者消除」の記載を見つけたとき、それは手続きが複雑になるサインかもしれません。ご自身で解決しようとすると、膨大な時間と労力がかかってしまう可能性があります。
このような難しいケースに直面したときこそ、私たち司法書士の出番です。戸籍を深く読み解き、あらゆる可能性を探り、必要であれば家庭裁判所の手続きまでサポートし、複雑に絡み合った相続の糸を解きほぐしていきます。お困りの際は、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
