相続登記の義務化とは?罰則(過料)や期限を専門家が解説

相続登記の義務化、司法書士への相談が急増しています

こんにちは。川崎市・横浜市を中心に活動しております、司法書士・行政書士・社会保険労務士の猪狩佳亮です(神奈川県司法書士会所属、事務所:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号)。

2024年4月1日に相続登記を義務化する法律が施行されてから、私たちの事務所にも相続に関するご相談が明らかに増えました。特に、これまで不動産の名義変更をされていなかった方からのお問い合わせが目立ちます。

ご相談にいらっしゃる皆さまは、様々な不安や疑問を抱えていらっしゃいます。

<実際に寄せられるご相談例>

  • 「相続登記をしないと罰金はいくらですか?」
  • 「実家の名義が10年以上前に亡くなった父のままなのですが、今からでも大丈夫でしょうか?」
  • 「相続人が多くて話し合いがまとまりません。このままだと罰金を払うことになるのでしょうか?」
  • 「昔、親が原野商法で買ってしまった北海道の山林があります。価値もないのに、これも登記しないといけないのですか?」

こうした声をお聞きするたび、法改正によって多くの方がご自身の状況を心配されていることを実感します。もし、あなたも同じようなことでお悩みでしたら、まずは少し落ち着いてください。この記事では、相続登記の義務化について、皆さまが抱える疑問や不安に一つひとつ、専門家の視点から分かりやすくお答えしていきます。

例えば、「罰金」と聞いて焦ってしまうかもしれませんが、正しくは「過料」といい、すぐに科されるわけではありません。また、話し合いがまとまらない場合でも、ひとまず義務を果たすための簡単な手続きも用意されています。

この記事を読み終える頃には、ご自身の状況で「いつまでに」「何をすべきか」が明確になり、漠然とした不安が解消されているはずです。どうぞ、肩の力を抜いて読み進めてみてください。

【なぜ?】相続登記が義務になった背景とは

「なぜ、今までしなくても良かった相続登記が、急に義務になったの?」多くの方がそう思われるのも当然です。この法改正の背景には、日本社会が抱える深刻な「所有者不明土地問題」があります。

所有者不明土地問題の深刻さを象徴する、管理されず荒れた土地の風景。

社会問題化する「所有者不明土地」

所有者不明土地とは、登記簿を見ても現在の所有者が誰なのか、すぐに分からない土地のことです。実は、こうした土地が日本全国で増え続け、その面積は九州本島の大きさを超えるほどだと推計されており、大きな社会問題となっています。

では、なぜ所有者不明土地が生まれるのでしょうか。最大の原因は、土地の所有者が亡くなった後、相続登記がされないまま放置されてしまうことです。

例えば、ある土地の所有者Aさんが亡くなり、相続人がBさん、Cさん、Dさんの3人いたとします。しかし、誰も相続登記をしないまま年月が経ち、Bさん、Cさん、Dさんも亡くなってしまいました。すると、その土地の相続人はさらにその子どもたちへと枝分かれし、数十人、場合によっては百人以上に膨れ上がってしまうのです。こうなると、現在の所有者が誰なのかを特定するのは非常に困難になります。

所有者が分からない土地が増えると、次のような問題が起こります。

  • 公共事業(道路の拡幅など)を進めようとしても、用地買収の交渉相手が分からず計画が滞る。
  • 災害が起きても、復興事業の妨げになる。
  • 周辺の土地取引が阻害される。
  • 管理されずに放置され、空き家問題や治安の悪化につながる。

このように、所有者不明土地は私たちの暮らしに直接的な悪影響を及ぼす可能性があるのです。

参考:所有者不明土地の 実態把握の状況について

これまでの相続登記の問題点

では、なぜこれほどまでに相続登記が放置されてきたのでしょうか。理由は主に2つあります。

  1. 登記が「任意」だったこと: これまで相続登記に期限はなく、申請するかどうかは相続人の判断に委ねられていました。そのため、特に急いで売却する予定がなければ、後回しにされがちでした。
  2. 費用や手間がかかること: 相続登記には、登録免許税という税金や、戸籍謄本などの書類を集める手間と費用がかかります。特に、固定資産税評価額が低い山林や田舎の土地では、手続きにかかる費用のほうが高くつくこともあり、放置される一因となっていました。

こうした状況を解消し、未来の世代に負の遺産を残さないために、国は相続登記を「義務」とすることを決断したのです。

【なに?】相続登記義務化の重要ポイントを解説

それでは、具体的に何がどのように義務化されたのか、重要なポイントを3つに絞って見ていきましょう。

いつから?対象者は?期限は「3年」

相続登記の義務化は、2024年(令和6年)4月1日からスタートしました。

対象となるのは、不動産(土地・建物)を相続した相続人です。遺言によって不動産を取得した方も含まれます。

そして、最も重要なのが期限です。相続登記は、原則として以下の日から3年以内に行わなければなりません。

「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日」から3年以内

少し難しい表現ですが、簡単に言うと「自分が不動産を相続したと知った日から3年以内」と考えてください。多くの場合、「被相続人(亡くなった方)が亡くなった日」から3年、とイメージしておくと分かりやすいでしょう。

【重要】過去の相続も対象!起算点はいつ?

「うちは10年前に父が亡くなったけど、実家の名義はそのまま。これも対象になるの?」というご質問は非常に多いです。答えは、「はい、対象になります」です。

この法律は、施行日である2024年4月1日より前に発生した相続にも適用されます(これを「遡及適用」といいます)。

では、過去の相続の場合、3年の期限はいつから数え始めるのでしょうか? ご安心ください。法律が施行される前に相続したことを知っていたのに、いきなり「期限切れです」となるわけではありません。

過去の相続については、以下のいずれか遅い日から3年間の猶予が与えられます。

  • ① 法律の施行日(2024年4月1日)
  • ② 自分が不動産を相続したと知った日

遺産分割協議が成立した場合の期限

相続人が複数いる場合、誰がどの財産を相続するのかを話し合う「遺産分割協議」を行います。この遺産分割協議が成立し、「この不動産は長男が相続する」と決まった場合、その長男は、遺産分割協議が成立した日から3年以内に、その内容を反映した相続登記を申請する義務を負います。

【どうなる?】罰則(過料)の内容と科されるまでの流れ

義務化と聞いて、皆さまが最も心配されているのが罰則についてでしょう。「期限を過ぎたら、すぐに罰金を払わなければいけないの?」という不安にお答えします。

罰則は10万円以下の「過料」

正当な理由がないのに相続登記の申請を怠った場合、10万円以下の「過料」が科される可能性があります。

ここで知っておいていただきたいのは、「過料(かりょう)」は「科料(かりょう)」とは違うということです。

  • 過料: 行政上の秩序を維持するために科される金銭的な制裁。いわゆる「前科」にはなりません。
  • 科料: 刑法で定められた刑事罰の一つ。前科になります。

相続登記の義務違反で科されるのは、前科にならない「過料」です。とはいえ、払わなくていいお金を払うのは避けたいものです。

いきなり科されるわけではない!催告からのプロセス

「3年の期限を1日でも過ぎたら、すぐに10万円の通知が来る!」というわけではありませんので、ご安心ください。過料が科されるまでには、いくつかのステップがあります。

  1. 法務局が登記されていない不動産を把握します。
  2. 登記官が、登記義務を負う相続人に対して、登記をするよう「催告」の通知を送ります。
  3. 催告を受けたにもかかわらず、正当な理由なく、相当の期間内に登記を申請しない場合、登記官は地方裁判所にその事実を通知します。
  4. 通知を受けた裁判所が、事情を考慮して過料を科すかどうか、またその金額を決定します。

つまり、まずは法務局からの「催告」というお知らせが届くのが一般的です。この催告を無視し続けた場合に、初めて過料の対象となる可能性がある、ということです。いきなり罰則が科されるわけではないので、冷静に対応することが大切です。

過料を免除される「正当な理由」とは?

法律では、「正当な理由」があれば、期限内に登記ができなくても過料は科されない、と定められています。では、どのようなケースが「正当な理由」として認められるのでしょうか。

法務省は、以下のような例を挙げています。

  • 相続人が非常に多く、戸籍謄本などの必要書類の収集や他の相続人の把握に多くの時間がかかる場合。
  • 遺言書の有効性や遺産の範囲について、相続人間で争いがある(訴訟になっている)場合。
  • 登記を申請する義務を負う相続人自身が、重い病気であるなど、申請できない事情がある場合。
  • 相続した土地が、経済的価値に乏しく、費用をかけてまで相続登記を行う意欲が湧かないような場合(※個別具体的な事情による)

ただし、注意点があります。単に「遺産分割の話し合いがまとまらない」というだけでは、原則として「正当な理由」には当たらないと考えられています。このようなケースのために、次に説明する救済策が用意されています。

参考:相続登記の申請義務化がスタートします!

【どうする?】過料を回避するための2つの対策

「過料は避けたいけれど、具体的にどうすればいいの?」という疑問にお答えします。対策は大きく分けて2つあります。ご自身の状況に合わせて、最適な方法を選びましょう。

対策①:【原則】期限内に相続登記を完了させる

最も確実で、根本的な解決策は、期限内に遺産分割協議をまとめて、正式な相続登記を完了させることです。これにより、登記義務を完全に果たしたことになり、将来のトラブルを防ぐことにもつながります。

相続登記は、不動産を誰が相続するのかを法的に確定させ、社会に示す重要な手続きです。後回しにすると、相続人が増えて手続きが複雑になったり、不動産の売却や担保設定ができなくなったりと、様々なデメリットが生じます。

「戸籍を集めるのが大変」「書類の作り方が分からない」「相続人同士が遠方に住んでいる」など、手続きに不安や難しさを感じる場合は、お早めに私たち司法書士にご相談ください。専門家が間に入ることで、煩雑な手続きを正確かつスムーズに進めることができます。結果的に、それが一番の近道になることも少なくありません。当事務所でも不動産の名義変更(相続登記)のサポートを数多く手掛けております。

対策②:【救済策】相続人申告登記制度を活用する

「3年の期限が迫っているのに、遺産分割の話し合いがまとまりそうにない…」
「相続人が多すぎて、全員の協力が得られない…」

このような場合に、ひとまず過料を回避するための簡単な手続きとして「相続人申告登記」という新しい制度が設けられました。

これは、

「私がこの不動産の相続人の一人です」

と、法務局に申し出る手続きです。この申出をすれば、期限内に相続登記の申請義務を果たしたものとみなされ、過料の心配はなくなります。

この手続きのメリットは、以下の通りです。

  • 相続人全員の協力は不要で、相続人の一人から単独で申し出ができる。
  • 添付書類は、自分がその不動産の相続人であることが分かる戸籍謄本などで済む。
  • 登録免許税がかからない。

ただし、これはあくまで一時的な措置です。相続人申告登記は、誰がどのくらいの割合で相続したかまでは公示しません。そのため、この登記をしただけでは不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりすることはできません。

最終的に遺産分割協議がまとまったら、その日から3年以内に、改めて正式な相続登記を行う必要があります。いわば「二度手間」になる可能性はありますが、差し迫った過料のリスクを回避するための有効な手段と言えるでしょう。

どちらの方法がご自身の状況に適しているか、判断に迷われる場合は、ぜひ一度相続登記に関するご相談はこちらからお問い合わせください。

相続登記義務化に関するよくある質問(Q&A)

最後に、相続登記の義務化に関して、特によくいただくご質問にお答えします。

Q. 価値のない山林や原野も登記が必要ですか?

A. はい、必要です。

不動産の資産価値の大小にかかわらず、相続したすべての不動産が義務化の対象となります。たとえ固定資産税がかからないような山林や、いわゆる「原野商法」で取得してしまった土地であっても、相続登記を行わなければなりません。

ただ、こうした利用価値のない土地を相続してしまい、管理に困るという方も多いでしょう。そのような場合には、相続登記を完了させた後、一定の要件を満たせば土地の所有権を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度についてを利用できる可能性があります。この制度の利用を検討する場合でも、前提として相続登記が完了している必要があります。

Q. 相続放棄をすれば登記義務はなくなりますか?

A. はい、その通りです。

家庭裁判所で相続放棄についての手続きを行い、それが正式に受理されると、その方は初めから相続人ではなかったことになります。したがって、不動産の相続登記義務も負うことはありません。

ただし、相続放棄は「不動産だけを放棄する」といった選択はできず、預貯金などのプラスの財産もすべて手放すことになります。また、原則として「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」に手続きをする必要があるため、注意が必要です。

Q. 自分で手続きできますか?専門家に頼むべき?

A. ご自身での手続きも可能ですが、専門家への依頼をおすすめします。

相続関係が非常にシンプル(例えば相続人が配偶者と子1人のみなど)で、不動産の数も少なく、平日の昼間に役所や法務局へ行く時間が確保できる方であれば、ご自身で手続きすることも不可能ではありません。

しかし、相続登記には、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や、相続人全員の現在の戸籍謄本、遺産分割協議書、登記申請書など、多くの専門的な書類が必要となります。一つでも不備があると、法務局で何度も補正のやり取りが必要になり、かえって時間と手間がかかってしまうことも少なくありません。

特に、以下のようなケースでは、司法書士に依頼するメリットが大きいと言えます。

  • 相続人が多い、または連絡が取りにくい相続人がいる
  • 不動産が遠方にある、または複数の市区町村にまたがっている
  • 平日に休みが取れない
  • 過去に何度も相続が発生していて、権利関係が複雑になっている

私たち司法書士は、相続登記の手続きを多数扱った経験があります。煩雑な戸籍の収集から、法的に有効な書類の作成、法務局への申請まで、すべてを代理で行うことができます。確実かつスピーディに手続きを完了させたい方は、ぜひ専門家の活用をご検討ください。

まとめ:相続登記の義務化は専門家への早期相談が安心です

今回は、2024年4月から始まった相続登記の義務化について、その背景から罰則(過料)、具体的な対策までを詳しく解説しました。

【この記事のポイント】

  • 相続登記の義務化は、社会問題となっている「所有者不明土地」をなくすために始まった。
  • 「自分が不動産を相続したと知った日から3年以内」に登記が必要。過去の相続も対象となる。
  • 正当な理由なく怠ると10万円以下の「過料」の可能性があるが、いきなり科されるわけではなく、まずは「催告」がある。
  • 対策は、原則である「期限内の相続登記」。難しい場合は、一時的な救済策「相続人申告登記」を活用する。

相続登記の義務化は、これまで先延ばしにされてきた問題に、社会全体で向き合うための重要な一歩です。放置すれば過料のリスクはありますが、この記事で解説したように、きちんと手順を踏んで対応すれば、何も心配することはありません。

もし、ご自身のケースでどうすればよいか分からない、手続きを進めるのが不安だ、と感じたら、どうか一人で抱え込まないでください。私たち「いがり円満相続相談室」は、川崎市・横浜市を中心に、これまで数多くの相続手続きをお手伝いしてまいりました。

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