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借地権の相続、まず知っておきたい3つの基本
ご親族が亡くなり、その方が所有していた建物が「借地」の上にあると知ったとき、多くの方が「この土地と建物はどうなるのだろう?」「何か特別な手続きが必要なのだろうか?」と不安に思われることでしょう。特に、土地の所有者である「地主」さんとの関係もあり、手続きが複雑に感じられるかもしれません。
しかし、ご安心ください。借地権の相続には明確なルールと手順があります。まずは、手続きを進める上で最も大切な3つの基本ポイントを押さえることから始めましょう。
そもそも「借地権」とは?建物の所有を目的とする権利
借地権とは、「他人の土地を借りて、その上に自分の建物を所有するための権利」を指します。土地の所有権そのものを買うわけではなく、あくまで土地を借りる権利である、という点が大きな特徴です。
土地の所有権は地主さんにありますが、借地権者は地代を支払うことで、その土地を長期間にわたって使用し、自宅を建てて住むことができます。
借地権には、契約更新が原則として可能な「普通借地権」と、契約期間の満了によって権利が消滅する「定期借地権」などいくつかの種類があります。古くからのご契約の多くは、この「普通借地権」に該当します。
借地権は相続財産。地主の許可なく相続できる
「地主さんの土地だから、相続するには許可が必要なのでは?」と心配される方がいらっしゃいますが、その必要はありません。借地権は、預貯金や不動産の所有権と同じく、法律上の「財産」として扱われます。
そのため、亡くなった方(被相続人)が持っていた借地権は、相続人が当然に引き継ぐことができます。これを「包括承継」といいます。
第三者に借地権を売却(譲渡)したり、贈与したりする場合には地主の承諾が必要ですが、相続によって権利を引き継ぐ場合は、地主の承諾は不要です。ただし、遺贈(特定承継)や借地契約の種類・契約条項によっては地主の対応が必要となることがありますのでご注意ください。これは非常に重要なポイントですので、ぜひ覚えておいてください。
借地権自体の登記は不要、ただし建物は相続登記が必須
登記に関しても、少し複雑に感じられるかもしれません。ポイントは「借地権」と「その上の建物」を分けて考えることです。
- 借地権そのもの:一般には借地権が登記されていないことが多いですが、借地権や地上権が登記されていることもあるため、登記の有無は法務局で確認してください。事案により登記手続きが必要となる場合があります。
- 借地上の建物:建物は亡くなった方の所有物ですので、相続財産です。そして、この建物の名義を相続人に変更する「相続登記」は法律上の義務となります。
2024年4月1日から相続登記が義務化されており、正当な理由なく手続きを怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。したがって、借地権付き建物を相続した場合は、必ず建物の相続登記を行わなければなりません。
【5ステップで解説】借地権付き建物の相続手続きの流れ
借地権付き建物の相続は、どのような順番で進めていけばよいのでしょうか。ここでは、相続が発生してから手続きが完了するまでの一連の流れを、5つの具体的なステップに分けて解説します。この流れを把握することで、「次に何をすべきか」が明確になり、安心して手続きを進めることができます。
ステップ1:遺言書の確認と相続人の確定
まず最初に行うべきことは、亡くなった方が遺言書を遺していないかを確認することです。遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って相続手続きを進めます。
遺言書がない場合は、法律で定められた相続人(法定相続人)全員で遺産の分け方を話し合う必要があります。そのため、誰が相続人になるのかを正確に確定させなければなりません。
具体的には、亡くなった方の出生から死亡までの一連の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)と、相続人全員の現在の戸籍謄本を取得します。これにより、法的に相続権を持つ人が誰であるかを証明することができます。この戸籍収集は、後の遺産分割協議や相続登記でも必要となる重要な作業です。
ステップ2:遺産分割協議で借地権の承継者を決める
相続人が確定したら、相続人全員で遺産の分け方について話し合いを行います。これを「遺産分割協議」と呼びます。
借地権付き建物は、預貯金のように簡単に分割することができません。複数の相続人で共有名義にすることも可能ではありますが、将来的に売却や建て替えを検討する際に全員の同意が必要になるなど、権利関係が複雑になりがちです。そのため、専門家の視点からは、特定の相続人が単独で相続することが望ましいと考えられます。
話し合いがまとまったら、その内容を証明するために「遺産分割協議書」を作成します。この書類には、誰がどの財産(この場合は借地権と建物)を相続するのかを明確に記載し、相続人全員が署名と実印の押印をします。
ステップ3:地主への挨拶と報告
法律上、相続に地主の承諾は不要ですが、だからといって何も連絡しなくてよいわけではありません。今後も地主さんと良好な関係を維持していくために、挨拶と報告は非常に重要です。
タイミングとしては、遺産分割協議がまとまり、建物を相続する人が正式に決まった後がよいでしょう。新しい借地権者(建物の相続人)が地主さんのもとへ出向き、以下の内容を誠実に伝えることをお勧めします。
- 前の借地権者が亡くなったこと
- 自分が建物を相続し、新たな借地権者となったこと
- 今後の地代の支払い方法について(振込先口座の確認など)
このような丁寧な対応が、将来の更新や建て替えなどの際に円滑なコミュニケーションを築く礎となります。
ステップ4:法務局で建物の相続登記(名義変更)を行う
借地上の建物の名義を、亡くなった方から新しい相続人へ変更する手続きが「相続登記」です。これは、管轄の法務局に申請して行います。
申請には、主に以下のような書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書
- 建物を相続する人の住民票
- 建物の固定資産評価証明書
これらの書類を収集・作成し、法務局へ提出します。前述の通り、この手続きは法律で義務化されていますので、必ず行わなければなりません。手続きが複雑で難しいと感じる場合は、相続登記に注力している司法書士にご依頼いただくことで、正確かつスムーズに進めることが可能です。
ステップ5:賃貸借契約書の名義変更(覚書など)
建物の相続登記が完了したら、その証明書である「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得できます。これを持って、改めて地主さんに報告に行くとよいでしょう。
その際、地主さんとの間で交わされていた土地の賃貸借契約書の名義変更について話し合います。一般的には、以下のいずれかの方法が取られます。
- 元の契約書をベースに、借主の名義を変更した覚書を取り交わす
- 新たな契約内容で、契約書自体を新たに作成し直す
建物の登記事項証明書を提示することで、自分が法的に正当な建物の所有者(=借地権者)であることを客観的に証明できるため、地主さんとの話し合いもスムーズに進みやすくなります。
司法書士が解説!借地権相続でよくある質問と注意点

借地権の相続は、普段あまり馴染みのない手続きのため、多くの方が様々な疑問や不安を抱えてご相談に来られます。ここでは、特にご質問の多い点について、専門家の視点からQ&A形式でお答えします。
- 【専門家の現場から】川崎市・横浜市でよくある借地権相続のご相談
当事務所がある川崎市や隣接する横浜市では、古くからの市街地も多く、「実家が実は借地だった」というご相談を頻繁にお受けします。ご相談者様は、「父が亡くなったが、建物は父の名義で土地は地主さんから借りている。相続登記はどうすれば?地主さんにはいつ、何を話せばいいのだろうか?」といった共通の悩みを抱えていらっしゃいます。
このようなご相談に対し、私たちはいつも「まずは落ち着いて、一つずつ手順を踏んでいきましょう」とお伝えしています。最初にやるべきは、借地上の建物の相続登記です。これが法的な義務であり、すべての手続きの基礎となります。借地権自体は登記されていないことがほとんどなので、登記手続きは不要です。
建物の相続登記が完了したら、その登記簿謄本を持って地主さんのもとへご挨拶に行くのが最もスムーズな流れです。これにより、ご自身が正当な権利者であることを明確に示せます。地主さんとの間では、賃貸借契約の名義変更について覚書を交わすことが多いですが、これは当事者間の話し合いで決まります。
多くの方が心配される「名義書換料」は、相続の場合は原則不要です。また、借地権は建物自体の評価額が低くても、土地の権利としての評価額が高くなる傾向があり、相続税の申告が必要になるケースも少なくありません。私たちは相続税に強い税理士とも連携しておりますので、その点も併せてご相談いただけます。
Q1. 地主から名義書換料や承諾料を請求されたら払うべき?
これは最も多く寄せられるご質問の一つです。結論から申し上げますと、法定相続人が相続によって借地権を引き継ぐ場合、原則として地主に対して名義書換料(譲渡承諾料ともいいます)を支払う法的な義務はありません。
相続は、売買や贈与のように当事者の意思で権利を移転させる「特定承継」とは異なり、亡くなった方の権利義務を包括的に引き継ぐ「包括承継」だからです。そのため、地主の承諾が不要であり、承諾の対価である承諾料も発生しないのです。名義書換料については、相続(法定相続・包括承継)の場合に法的な支払い義務は原則としてないと解されます。ただし、実務上は地主から請求される場合や当事者間で協議の結果支払われるケースもあるため、具体的には専門家に相談してください。
ただし、遺言によって法定相続人以外の人(例えば、お孫さんや内縁の妻など)に財産を遺す「遺贈」の場合は、扱いが異なります。遺贈は特定承継とみなされるため、地主の承諾が必要となり、承諾料の支払い義務が生じるのが一般的です。
もし地主さんから相続の際に承諾料を請求された場合は、まずは相続による承継であることを丁寧に説明し、話し合うことが大切です。
Q2. 借地権の相続税評価額はどうやって調べる?
借地権も相続税の課税対象となる財産です。その評価額は、相続税を計算する上で非常に重要になります。
借地権の評価額は、以下の計算式でおおよその目安を算出します。
借地権評価額 = 自用地評価額 × 借地権割合
- 自用地評価額:その土地を更地(所有権)として評価した価額です。主に国税庁が定める「路線価」を用いて計算します。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算出します。
- 借地権割合:その土地の価値のうち、借地権が占める割合のことです。これも路線価図にアルファベット(A~G)で記されており、Aなら90%、Cなら70%というように国税庁によって定められています。
路線価や借地権割合は、国税庁のウェブサイトで確認することができます。ただし、これはあくまで計算の概要です。実際の相続税申告における評価や税額の計算は、税理士の専門領域となります。当事務所では、相続税に精通した税理士と連携しておりますので、相続税申告が必要な場合もワンストップでサポートが可能です。
参考:路線価 – 国税庁
Q3. 遺産分割協議書にはどう書けばいい?
遺産分割協議書を作成する際は、後々のトラブルや手続きの遅延を防ぐため、財産を正確に特定して記載することが極めて重要です。
借地権付き建物を記載する場合、「借地上の建物」と「土地の賃借権(借地権)」を分けて、両方を明記する必要があります。建物の情報は、登記事項証明書(登記簿謄本)や固定資産税の納税通知書に記載されている通り、正確に書き写します。
【記載例】
- 下記の建物
所在 川崎市川崎区宮前町〇番地〇
家屋番号 〇番
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 〇〇.〇〇平方メートル
2階 〇〇.〇〇平方メートル - 上記建物が存する土地(地番:川崎市川崎区宮前町〇番〇)の賃借権
このように、不動産登記の情報に基づいて正確に記載することで、法務局での相続登記や、地主さんとの手続きをスムーズに進めることができます。
Q4. 手続きを放置するとどんなリスクがある?
「手続きが面倒だから」「地主さんと話したくないから」といった理由で相続手続きを放置してしまうと、将来的に様々なリスクが生じる可能性があります。
- 過料(罰金)のリスク
前述の通り、建物の相続登記は義務化されています。正当な理由なく期限内(相続の開始を知った日から3年以内)に登記をしないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。 - 売却や建て替えができないリスク
将来、その建物を売却したり、建て替えたりしようと思っても、名義が亡くなった方のままでは手続きを進めることができません。いざという時に、慌てて過去の相続手続きから始めなければならなくなります。 - 権利関係が複雑化するリスク
手続きをしないうちに、相続人が亡くなって次の相続(二次相続)が発生すると、関係者がネズミ算式に増えていきます。そうなると、遺産分割協議をまとめるのが非常に困難になり、最悪の場合、不動産が塩漬け状態になってしまう恐れもあります。
これらのリスクを避けるためにも、相続が発生したら速やかに手続きに着手することが重要です。
借地権の相続手続きは専門家への相談が安心です
ここまで借地権の相続手続きについて解説してきましたが、地主さんとの関係性の構築、複雑な権利関係の整理、法的に不備のない書類の作成など、ご自身ですべてを行うにはご不安な点も多いかと存じます。
特に借地権の相続は、法律の知識だけでなく、地主さんとの円満なコミュニケーションといった実務的な対応も求められます。このような手続きこそ、私たち相続の専門家である司法書士がお力になれる分野です。
いがり円満相続相談室では、川崎市・横浜市を中心に、借地権相続のサポートをさせていただいております。ご依頼いただければ、戸籍の収集から遺産分割協議書の作成、法務局への相続登記申請、そして地主さんへのご報告に向けたアドバイスまで、一貫して司法書士である代表が責任を持って対応いたします。
「何から手をつけていいか分からない」「地主さんにどう話せばいいか不安だ」といったお悩みでも構いません。初回のご相談は、ご来所の場合に限り60分まで無料です。どうぞお一人で抱え込まず、まずはお気軽に私たちにご相談ください。皆様の不安な心に「安心」を届け、円満な相続が実現できるよう、誠心誠意サポートさせていただきます。
司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所
代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
