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「全財産を妻に」その想い、遺言書だけでは叶わないかもしれません
「私が生涯をかけて築いた財産は、すべて愛する妻に遺したい」
「特に、この思い出の詰まった自宅だけは、妻が安心して住み続けられるようにしてあげたい」
ご相談にいらっしゃる多くの方が、このような切実な想いを抱えていらっしゃいます。そして、その想いを実現するために「遺言書」を作成しようと考えられます。
しかし、もしあなたに離婚歴があり、前妻との間にお子さんがいらっしゃる場合、遺留分の影響で希望どおりにならない可能性があるため、個別状況の確認が必要です。
たとえ遺言で全財産を特定の人に遺しても、配偶者や子など法定の遺留分権利者は、基礎財産(相続財産のほか一定の贈与等を含む)をもとに遺留分を請求できます。具体的計算は個別事情により変わります。もし遺留分請求が行われた場合、現金が不足すれば不動産の換価(売却)などの対応が必要になり得ます。換価以外にも分割や交渉による解決方法があるため、早めの検討が重要です。
この記事では、そのような最悪の事態を避け、あなたの「遺す想い」と「遺されるご家族の生活」の両方を守るための具体的な対策について、当事務所で実際に解決した事例をもとに、専門家の視点から分かりやすく解説していきます。
【解決事例】遺留分請求で自宅売却の危機…生命保険で円満解決へ
遺言書と生命保険を組み合わせることで、どのように未来のトラブルを防ぐことができるのか。まずは当事務所にご相談くださったAさんの事例をご紹介します。

ご相談内容:離婚歴のあるAさん、後妻Bさんに全財産を遺したいが…
ご相談に来られたAさんは60代の男性。10年前にBさんと再婚し、穏やかな日々を過ごされていました。Aさんには離婚した前妻との間に息子Cさんがいますが、長年疎遠な状態が続いていました。
Aさんの財産は、現在Bさんと暮らしているご自宅(評価額4,000万円)と、預貯金(2,000万円)の合計6,000万円。Aさんはご自身の亡き後、Bさんがお金に困ることなく、今の自宅に住み続けてほしいと心から願っており、「全財産を妻Bに相続させる」という内容の遺言書を作成しようと考えていました。
しかし、Aさんには大きな不安がありました。
「もし私が亡くなった後、息子のCが遺留分を請求してきたらどうなるだろうか。預貯金だけでは支払いきれず、Bに家を売らせることになってしまうのではないか…」
このAさんの不安は、残念ながら現実になる可能性が非常に高いものでした。対策を何もしなかった場合、どのような未来が待っているのでしょうか。
対策なしの最悪シナリオ:遺言を書いても自宅を売るしかなくなる可能性
もしAさんが何の対策もしないまま亡くなられた場合、残されたBさんは非常に厳しい状況に立たされます。
【遺言書がない場合】
法定相続分に従い、妻Bさんが2分の1(3,000万円)、子Cさんが2分の1(3,000万円)を相続します。Aさんの預貯金は2,000万円しかないため、Cさんに3,000万円を渡すには、Bさんは自宅を売却して現金を作るしかありません。
【遺言書だけの対策をした場合】
「全財産を妻Bに相続させる」という遺言書は法的に有効です。しかし、子Cさんには遺留分(法定相続分のさらに2分の1)を請求する権利があります。Cさんの遺留分は、総財産6,000万円 × 法定相続分1/2 × 遺留分割合1/2 = 1,500万円となります。
(注)上記の計算は簡易例です。実際の遺留分額は『基礎財産』(相続財産に加え一定の贈与などを含む)を基に算定されるため、生前贈与や遺贈があると金額が変わります。
Cさんが遺留分侵害額請求を行うと、BさんはCさんに現金で1,500万円を支払わなければなりません。Aさんの遺産である預貯金は2,000万円ありますが、そこから1,500万円を支払うと、Bさんの手元に残る現金はわずか500万円。今後の生活費や固定資産税の支払いなどを考えると、とても心もとない金額です。
結局、Bさんは将来の生活不安から、Aさんが遺してくれた思い出の自宅を売却せざるを得なくなる可能性が極めて高いのです。Aさんの「妻に自宅で安心して暮らしてほしい」という一番の願いが、皮肉にも脅かされてしまうのです。
解決策:遺言書+生命保険で「遺す想い」と「遺される家族」両方を守る
そこで当事務所がAさんに提案したのは、遺言書の作成とあわせて、生命保険を活用するという方法でした。
当事務所が対応した事例(匿名化・抽象化しています)では、Aさんの状況を丁寧にお伺いした上で、具体的な対策をご提案しました。
専門家からの提案
まず、Aさんの「全財産を妻Bに相続させる」という想いを尊重し、その内容で公正証書遺言を作成することにしました。遺言書自体は有効ですし、もしCさんが遺留分請求をしてこなければ、Aさんの想い通りに実現できます。
その上で、万が一の遺留分請求に備えるため、預貯金2,000万円の一部(例えば1,000万円)を使って、Aさんを被保険者とする生命保険に加入することをお勧めしました。保険金の受取人は、妻Bさんに指定します。
この対策に期待できる主な効果は、以下の通りです。
遺留分の対象財産を減らせる
預貯金1,000万円が生命保険に変わることで、遺留分計算の基礎となる財産は、不動産4,000万円+預貯金1,000万円=5,000万円に減少します。これにより、Cさんが請求できる遺留分の額も「5,000万円 × 1/2 × 1/2 = 1,250万円」に減額できます。

なぜ生命保険が遺留分対策の有効なツールなのか?
なぜ、生命保険がこれほどまでに有効な遺留分対策となるのでしょうか。その理由は、生命保険金が持つ法的な性質にあります。
ポイント1:死亡保険金は「受取人固有の財産」
相続が発生した際に支払われる死亡保険金は、亡くなった方(被相続人)の財産ではなく、保険金受取人に指定された人の「固有の財産」とされています。これは、保険契約に基づいて受取人が直接保険会社から受け取るお金だからです。
そのため、死亡保険金は原則として遺産分割協議の対象となる「相続財産」には含まれません。つまり、他の相続人に分ける必要がなく、受取人が全額を受け取ることができるのです。これが、遺留分対策において生命保険が極めて強力なツールとなる最大の理由です。
ポイント2:遺留分を支払う「現金」を準備できる
Aさんの事例のように、財産の大部分が不動産というケースは少なくありません。不動産は価値が大きい一方で、すぐに現金化できないというデメリットがあります。
遺留分侵害額請求をされると、原則として現金で支払わなければなりません。手元に現金がない場合、不動産を売却してでも支払う義務が生じます。
生命保険に加入しておくことで、相続発生と同時に、受取人はまとまった現金を手にすることができます。これにより、遺留分を請求されても不動産を売却することなく、スムーズに金銭で解決することが可能になるのです。まさに「転ばぬ先の杖」として、遺されるご家族の生活を守るための大切な資金となります。
注意点:保険金が遺留分の対象になる例外的なケースとは?
原則として遺留分の対象外となる生命保険金ですが、注意すべき例外的なケースも存在します。
過去の判例(最高裁平成16年10月29日判決)では、死亡保険金の額が相続財産全体に対してあまりにも大きく、相続人間で著しく不公平な結果を生む場合には、その保険金も「特別受益」に準ずるものとして、遺留分の計算に含めるべき、と判断される可能性が示されました。
例えば、相続財産が1,000万円しかないのに、特定の相続人を受取人とする1億円の生命保険がかけられていた、といった極端なケースが想定されます。
どの程度のバランスであれば問題ないかは、個別の事情によって判断が異なるため、一概には言えません。だからこそ、ご自身の状況に合わせた最適な保険金額を設定するためにも、自己判断で進めるのではなく、相続に詳しい専門家に相談することが非常に重要です。
遺言を確実に実現する「遺言執行者」の重要性
遺言書を作成し、生命保険にも加入した。これで万全だ、と思われるかもしれません。しかし、もう一つ、あなたの想いを確実に実現するために欠かせない重要な役割があります。それが「遺言執行者」です。
遺言執行者とは、その名の通り、遺言書に書かれた内容を法的に実現するために、必要な手続きを執行する権限を与えられた人のことです。
なぜ専門家を遺言執行者に指定すべきなのか?
遺言執行者は、遺言書の中で指定することができます。相続人の中から指定することも可能ですが、Aさんの事例のように相続人間で利害が対立する可能性があるケースでは、法律専門職(司法書士など)を指定しておくことを強くお勧めします。
なぜなら、遺言執行者は相続人への通知や財産の調査・分配手続きなど多くの手続きを行いますが、それらの手続きにはさまざまな法的知識が必要になるとともに、遺言執行者には多くの法的義務・責任が課されているからです。
また、財産を受け取る側の相続人(例えば妻Bさん)が遺言執行者を兼ねてしまうと、他の相続人(子Cさん)から「手続きを不当に進めているのではないか」と疑念を抱かれ、新たなトラブルの火種になりかねません。その点、第三者である専門家が遺言執行者であれば、感情的な対立を排し、法律に則って淡々と、かつ正確に手続きを進めることができます。これにより、残されたご家族の精神的な負担を大きく軽減し、円滑な相続を実現できるのです。
司法書士に依頼するメリットと費用相場
遺言執行者には、弁護士や司法書士といった法律の専門家が就任することが一般的です。特に、Aさんのように相続財産にご自宅などの不動産が含まれる場合、司法書士を遺言執行者に指定するメリットは非常に大きいと言えます。
なぜなら、司法書士は不動産登記の専門家であり、遺言執行手続きの最終段階で必要となる不動産の名義変更(相続登記)まで、ワンストップでスムーズに対応できるからです。他の専門家に依頼した場合、別途司法書士を探して登記を依頼する必要があり、手間も費用も余計にかかってしまいます。
遺言執行者に支払う報酬は、遺産の額や手続きの複雑さによって異なり、個別のお見積りとなります。決して安い金額ではありませんが、あなたの最後の想いを確実に実現し、遺されるご家族を未来の紛争から守るための必要不可欠なコストと考えることができます。

まとめ:最適な遺留分対策は専門家との二人三脚で
今回は、遺言書だけでは防ぎきれない「遺留分」のリスクと、その最も有効な対策である「生命保険」の活用法について、実際の事例をもとに解説しました。
- 遺言書だけでは、遺留分請求によって自宅を売却せざるを得ない可能性がある。
- 生命保険金は「受取人固有の財産」であり、原則として遺留分の対象にならない。
- 遺留分相当額の生命保険に加入することで、不動産を守り、円満な相続が実現できる。
- 遺言の内容を確実に実現するためには、中立的な専門家を「遺言執行者」に指定することが重要。
遺留分対策は、ご家族構成や財産状況によって、最適な方法が異なります。今回ご紹介した生命保険の活用も、保険金額の設定などを誤ると、かえってトラブルの原因となる可能性もゼロではありません。
あなたの想いを最も良い形で未来へ繋ぐために、そして何より、遺される大切なご家族が安心して暮らしていくために。ぜひ一度、相続の専門家にご自身の状況をお聞かせください。私たち専門家が、あなたと共に考え、最適な解決策をご提案させていただきます。
初回相談は無料です|川崎・横浜の相続は当事務所へご相談ください
いがり円満相続相談室は、川崎市・横浜市を中心に、相続手続き・生前対策のご相談に多数対応してまいりました。(運営:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所/代表 司法書士 猪狩 佳亮/神奈川県司法書士会所属/所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号)
当事務所の特徴は、原則として司法書士である代表の猪狩が、お客様のご相談に最初から最後まで直接対応させていただくことです。流れ作業のような対応は一切いたしません。お一人おひとりのご事情や想いを丁寧にお伺いし、ご家族にとって最善の解決策をご提案いたします。
事前予約制にて、平日夜間(19時、20時開始など)や土日祝日のご相談にも対応しておりますので、お仕事でお忙しい方も、まずはお気軽にご連絡ください。ご家族の未来を守るための第一歩を、私たちが全力でサポートいたします。
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司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
