代償分割とは?不動産相続での公平な分け方と税金を解説

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【相談事例】遺産は実家だけ…住み続けたい兄と、お金が欲しい弟

「母が亡くなったのですが、遺産は今、兄が一人で住んでいる母名義の実家だけ。預貯金はほとんどありません。兄はこれからも住み続けたいと言っていますが、家を継がない私としては、何ももらえないのは不公平だと感じてしまって…。兄弟仲は良いので、お金のことで揉めたくはないのですが、どうすれば円満に解決できるでしょうか?」

これは、当事務所に寄せられるご相談の中でも、特に多いケースの一つです。お母様が亡くなり、相続人は長男と二男のお二人。お母様は長年、長男様と同居されていました。二男様はすでに独立してご家庭を築いています。

お母様の遺産は、ご自宅の不動産がほとんど。長男様が今後もその家に住み続けることについては、兄弟間で特に異論はありませんでした。しかし、問題は「遺産の分け方」です。

このまま長男様が実家をすべて相続すると、二男様が受け取れる遺産はほとんどなくなってしまいます。二男様からすれば、「それはあまりにも不公平ではないか」と感じるのは当然のことです。かといって、大切な実家を売却して現金で分けるというのも、お母様やご先祖様に申し訳ない気持ちがする…。

このような、分けにくい不動産が遺産の中心である場合に、家族の想いを大切にしながら公平な分割を実現する解決策が「代償分割(だいしょうぶんかつ)」です。

この事例では、私たちは長男様から二男様へ、不動産の価値に見合った「代償金」を支払う方法をご提案しました。代償金の額は決して少なくありませんでしたが、分割で支払うことも可能であることをお伝えし、具体的な支払い計画を立てることで、最終的にはお二人ともご納得の上で円満に遺産分割協議を終えることができました。

この記事では、あなたと同じようなお悩みを抱える方のために、有力な選択肢の一つとしての「代償分割」について、その仕組みから税金の問題、資金が用意できない場合の対処法まで、専門家が分かりやすく解説します。

代償分割とは?不動産を公平に分けるための解決策

代償分割とは、特定の相続人が不動産や自社株といった分けにくい遺産を現物のまま相続する代わりに、その遺産をもらった人が、もらえなかった他の相続人に対して、自分の財産からお金(代償金)などを支払うことで、相続人間の公平を保つ遺産分割の方法です。

先ほどの事例でいえば、長男が実家(不動産)をすべて相続する代わりに、二男に対して不足分を補うためのお金(代償金)を支払う、という形になります。これにより、長男は家に住み続けることができ、二男もお金を受け取ることで、結果的に法定相続分に見合った公平な遺産分割が実現できるのです。

他の分け方(現物分割・換価分割)との違いは?

遺産の分け方には、代償分割の他に「現物分割」と「換価分割」があります。それぞれの特徴と、代償分割との違いを理解しておきましょう。

遺産分割の3つの方法

分割方法内容向いているケース
現物分割(げんぶつぶんかつ)遺産そのものを物理的に分ける方法。「土地Aは長男に、預貯金は二男に」というように、財産ごとに相続人を決めます。遺産に不動産、預貯金、有価証券など種類が豊富にあり、各相続人の相続分に応じて組み合わせられる場合。
代償分割(だいしょうぶんかつ)特定の相続人が不動産などを相続する代わりに、他の相続人へお金(代償金)を支払う方法。遺産の大部分が不動産で、相続人の一人がその不動産に住み続けたい・事業で使い続けたい場合。
換価分割(かんかぶんかつ)不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人間で分ける方法。詳しくは「換価分割の手続きと流れ|税金・社会保険料への影響も解説」でも解説しています。誰もその不動産に住む予定がなく、相続人全員が現金での分配を希望している場合。
遺産分割方法の比較

一番の違いは、代償分割が「不動産を残す」ことを目的とするのに対し、換価分割は「不動産を売却する」ことを前提とする点です。思い出の詰まった実家を残したい、事業で使っている土地を手放したくない、という場合には、代償分割が最適な選択肢となります。

どんなときに代償分割が選ばれるのか?

代償分割は、特に以下のようなケースで有効な解決策となります。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

  • 相続人の一人が実家(被相続人の家)に住み続けたい場合
    まさに冒頭の事例のような、最も典型的なケースです。同居していた相続人が、そのまま生活の拠点を維持したいと希望する場合に選ばれます。
  • 事業用の土地や建物を後継者が引き継ぐ場合
    家業を継ぐ相続人が、事業に必要な工場や店舗、農地などを一括して相続したい場合に活用されます。事業の継続性を保ちながら、他の相続人との公平性も確保できます。
  • 遺産が分けにくい不動産や自社株しかない場合
    遺産に現金や預貯金がほとんどなく、物理的に分割することが難しい財産しかない場合に、代償分割は唯一の解決策となることがあります。

代償分割のメリット・デメリットを専門家が解説

代償分割は多くのメリットがある一方、注意すべきデメリットも存在します。両方を正しく理解し、ご自身の状況に合った方法か冷静に判断することが大切です。

メリット:大切な不動産を残し、円満な解決を目指せる

  • 不動産を売却せずに済む
    最大のメリットは、故人との思い出が詰まった家や、先祖代々の土地、事業の基盤となる不動産などを手放さずに済む点です。
  • 公平な遺産分割が実現できる
    代償金を支払うことで、不動産を取得しない相続人との不公平感をなくし、法定相続分に基づいた実質的に平等な分割が可能になります。
  • 共有名義のリスクを避けられる
    不動産を複数の相続人の共有名義にすると、将来の売却や建て替えの際に全員の同意が必要になるなど、権利関係が複雑になりがちです。代償分割で単独名義にすることで、将来のトラブルの芽を摘むことができます。
  • 相続税の特例が使える可能性がある
    一定の要件を満たせば、自宅の土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」を適用できる可能性があります。

デメリット:お金と評価額の問題が大きな壁に

  • 不動産を取得する人に代償金を支払う資力が必要
    最も大きなハードルです。不動産の価値が高額であるほど、支払う代償金も高額になります。現金や預貯金がなければ、代償金の準備が困難になる場合があります。
  • 不動産の評価額で揉めやすい
    代償金の額を決める基準となる不動産の評価方法には、相続税路線価、固定資産税評価額、時価(実勢価格)など複数の基準があります。どの基準を使うかで評価額が大きく変わるため、相続人間で意見が対立し、トラブルの原因になりやすい点です。
  • 代償金の支払いが滞るリスクがある
    分割払いにした場合、支払いが途中で滞ってしまうリスクがあります。合意内容を遺産分割協議書にきちんと記載し、場合によっては公正証書を作成するなどの対策が必要です。

【重要】代償分割と税金の問題|贈与税はかかる?

「代償金を支払うと、贈与税がかかるのでは?」と心配される方が非常に多くいらっしゃいます。ここでは、代償分割にまつわる税金の重要なポイントを解説します。

代償金は贈与税の対象外。ただし遺産分割協議書が必須

結論から言うと、遺産分割協議に基づいて支払われる代償金は、原則として贈与税の対象にはなりません。

なぜなら、代償金の支払いは、あくまで遺産分割を公平に行うための一環であり、無償で財産を与える「贈与」とは根本的に性質が異なるからです。

ただし、税務署に贈与とみなされないためには、必ず「遺産分割協議書」を作成し、その中に以下の内容を明確に記載することが絶対条件です。

  • 誰がどの不動産を代償分割により取得したか
  • 不動産を取得した人が、他の相続人に対して代償金を支払う義務を負うこと
  • 代償金の具体的な金額、支払期日、支払方法

もし、口約束だけでお金のやり取りをしてしまったり、遺産分割協議書の記載が不十分だったりすると、後から税務署に「これは個人的な贈与ですね」と指摘され、高額な贈与税が課されてしまうリスクがあります。専門家として、この点は特に強く注意を促したいポイントです。

相続税はどう計算する?代償金の支払いで税額は変わる

代償分割を行った場合、相続税の計算は以下のようになります。

  • 代償金を支払った人(不動産を取得した人)
    相続した財産の価額 支払った代償金の額 = 課税価格
  • 代償金を受け取った人
    相続した財産の価額 受け取った代償金の額 = 課税価格

つまり、支払った人はその分だけ課税対象額が減り、受け取った人はその分だけ増える、という非常にシンプルな仕組みです。これにより、相続人間の税負担も公平になります。

売却するなら換価分割より税金が安くなることも

「最終的には家を売るかもしれない」と考えている場合でも、代償分割が有利になるケースがあります。

例えば、実家を相続人2人の共有名義にしてから売却する「換価分割」の場合、売却益(譲渡所得)に対して、2人それぞれに譲渡所得税がかかります。

一方、「代償分割」で長男が一人で実家を相続し、その後、長男が実家を売却したとします。この場合、長男が一定の要件を満たせば、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除などの特例を使える可能性があります。この特例が使えれば、譲渡所得税を大幅に抑えることができるのです。

将来的な売却の可能性も視野に入れるなら、どちらの方法が税金面で有利になるか、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

参考:No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算

代償金が払えない…現金がない場合の4つの解決策

「代償分割がベストなのは分かるけど、支払うためのお金がない…」これは、多くの方が直面する最も切実な問題です。しかし、すぐに諦める必要はありません。いくつか解決策があります。

代償金の支払いに悩み、書類と電卓を前に頭を抱える中年の日本人

解決策①:他の相続人と交渉し「分割払い」にしてもらう

最も現実的で、よく利用される方法です。冒頭の事例のように、他の相続人の理解を得て、数年間にわたる分割払いにしてもらう交渉をします。
この場合、後々のトラブルを防ぐため、遺産分割協議書に以下の項目を詳細に定めておくことが極めて重要です。

  • 分割払いの総額
  • 毎月の支払額
  • 支払期間(いつからいつまで)
  • 支払いが遅れた場合のペナルティ(遅延損害金など)

さらに、作成した遺産分割協議書を「公正証書」にしておけば、万が一支払いが滞った場合に、裁判を起こさなくても相手の財産を差し押さえる(強制執行)ことが可能になり、お金を受け取る側も安心できます。

解決策②:不動産を担保に金融機関から融資(ローン)を受ける

一括での支払いを求められている場合には、相続した不動産を担保にして、金融機関から融資(不動産担保ローンなど)を受ける方法があります。

メリットは、まとまった資金をすぐに用意でき、相続問題をスピーディーに解決できる点です。一方、デメリットとしては、金利の負担が発生することや、金融機関による審査が必要になる点が挙げられます。

解決策③:生命保険金や死亡退職金を代償金の原資にする

被相続人がかけていた生命保険金や、会社から支払われる死亡退職金は、原則として「受取人固有の財産」とされ、遺産分割の対象にはなりません。
もし、不動産を相続する人がこれらの受取人になっていれば、それを代償金の支払いに充てることができます。見落としがちな資金源ですが、有効な手段となり得ます。

解決策④:最終手段として「換価分割」も視野に入れる

あらゆる方法を検討しても、どうしても代償金の準備が難しい場合は、代償分割に固執せず、不動産を売却して現金で分ける「換価分割」に切り替えることも、円満解決のための一つの選択肢です。
大切なのは、相続人全員が納得できる着地点を見つけることです。一つの方法にこだわりすぎず、柔軟に考えることも時には必要です。

代償分割を円満に進めるための手続きと注意点

代償分割をスムーズに進め、トラブルを避けるためには、正しい手順を踏むことが大切です。ここでは、具体的な流れと各ステップでの注意点を解説します。

ステップ1:相続人全員で話し合い、合意形成を目指す

何よりもまず、相続人全員で集まり、遺産の分け方について話し合う「遺産分割協議」を行います。感情的にならず、お互いの希望や状況を尊重しながら、冷静に話し合うことが重要です。

この段階で、

  • 誰が不動産を取得するのか
  • 「代償分割」という方法で進めることについて全員が同意しているか

を明確に合意することが、すべてのスタートラインとなります。

ステップ2:代償金の基準となる不動産の評価額を決める

トラブルの最大の原因となりうるのが、不動産の評価額です。代償金の金額は、この評価額を基に算出されるため、全員が納得できる基準で決めなければなりません。

主な評価方法には以下のようなものがあります。

  • 相続税路線価:相続税や贈与税の計算に用いられる土地の価格。
  • 固定資産税評価額:固定資産税の計算に用いられる価格。
  • 公示価格:国が示す土地取引の目安となる価格。
  • 時価(実勢価格):実際に市場で売買されると見込まれる価格。

どの方法を選ぶべきか決まりはありませんが、相続人間の公平を期すためには、実際に売れる価格に近い「時価」を基準にすることが多いです。複数の不動産会社に査定を依頼し、その平均額を参考にしたり、より正確性を求めるなら不動産鑑定士に鑑定を依頼したりする方法が客観的でおすすめです。

ステップ3:合意内容を「遺産分割協議書」に正しく記載する

相続人全員の合意内容が固まったら、その内容を法的に有効な書面である「遺産分割協議書」にまとめます。この書類は、後の不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きにも必要となる非常に重要なものです。

代償分割を行う場合、特に以下の項目を正確に記載する必要があります。

【遺産分割協議書への記載必須項目(代償分割の場合)】

  • 相続人の一人である「〇〇(氏名)」が、以下の不動産を相続する。
  • 不動産を相続する代償として、相続人「〇〇(氏名)」は、他の相続人「△△(氏名)」に対し、金〇〇円を支払う。
  • 支払期日は、令和〇年〇月〇日までとする。
  • 支払方法は、「△△」名義の下記預金口座に振り込む方法により支払う。

繰り返しになりますが、この記載に不備があると、贈与税の問題が発生したり、代償金の支払いをめぐるトラブルに発展したりする可能性があります。作成には細心の注意が必要です。

まとめ:代償分割は専門家に相談することで解決の助けとなることが多く、適切な助言が円滑な協議の助けになります。

遺産が不動産ばかりで分け方に困っている場合、代償分割は、ケースによっては家族の想いを守りつつ公平な解決に寄与する手段となり得ます。

しかし、その一方で、

  • 不動産の評価額をどう決めるか
  • 代償金の支払いをどうするか
  • 贈与税などの税務リスクをどう回避するか
  • 法的に不備のない遺産分割協議書を作成できるか

など、クリアすべき課題が多く、専門的な知識がなければ思わぬトラブルに発展しかねない、難しい手続きでもあります。

特に、相続人間の話し合いがこじれてしまうと、本来は円満に解決できたはずの問題が、取り返しのつかない「争続」になってしまうことも少なくありません。

私たち、いがり円満相続相談室は、司法書士・行政書士として、不動産相続や代償分割の相談に対応しています。法律や税金の話を分かりやすくご説明することはもちろん、何よりも皆様のお気持ちに寄り添い、全員がご納得いただける最善の解決策を一緒に見つけ出すことを大切にしています。

「うちのケースでも代償分割は使える?」「何から手をつければいいか分からない」
どんな些細なことでも構いません。一人で悩まず、まずは私たち専門家にご相談ください。あなたの不安な心に「安心」を届け、解決に向けて支援いたします。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所
(屋号:いがり円満相続相談室)

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