相続不動産の評価額で対立!解決策と放置するリスクを解説

「実家の価値」で兄弟と対立…なぜ不動産の評価額は揉めるのか?

「兄さんは実家に住み続けるからいいけど、私たちは現金で公平にもらいたい」「この家の価値は、そんなに低いはずがない」

親御様が大切に残してくれたはずの実家をめぐり、相続人である兄弟姉妹の間で意見が食い違い、話し合いが前に進まなくなってしまう…。相続のご相談では、このようなケースが後を絶ちません。

なぜ、相続不動産の評価額はこれほどまでに揉めてしまうのでしょうか。その背景には、主に2つの根深い原因があります。ご自身の状況を客観的に見つめ直すためにも、まずはその原因から理解していきましょう。

立場が違えば希望額も違う「同床異夢」

相続不動産の評価額で対立が生まれる最大の原因は、相続人それぞれの立場によって、不動産に対する「思惑」がまったく異なるからです。

  • 不動産を相続して住み続けたい相続人(例:長男)
    他の相続人に対して、不動産の価値に応じた「代償金」を支払う必要があります。そのため、不動産の評価額はできるだけ低くしたいと考えます。評価額が低ければ、支払う代償金を抑えられるからです。
  • 不動産は不要で、現金で公平に分けたい相続人(例:長女・次男)
    不動産を相続する兄弟から受け取る「代償金」や、不動産を売却した場合の「売却代金」が自分の取り分になります。そのため、評価額はできるだけ高くしたいと考えます。評価額が高ければ、もらえるお金が増えるからです。

同じ不動産を見ているはずなのに、片や「安く」、片や「高く」と、真逆のゴールを目指している状態です。これでは、話し合いが平行線をたどってしまうのも無理はありません。

固定資産税評価額が書かれた書類と、不動産会社の査定書を指さす二つの手。相続不動産の評価基準が複数あることを示すイメージ。

どの数字を信じる?4つの異なる「不動産の価格」

対立をさらに複雑にするのが、不動産の価格には「唯一絶対の正解」がないという事実です。一般的に、不動産の価格を示す指標には、主に以下の4つがあります。

評価指標概要価格水準の目安
①実勢価格(時価)実際に市場で売買される価格。不動産会社が周辺の取引事例などを基に査定する。100%
②公示地価国が公表する土地の標準的な価格。公共事業の用地取得価格の基準になる。地域・時期により異なるが、一般に実勢価格に近い水準で公表されることが多い
③相続税路線価相続税や贈与税を計算するために国税庁が定める価格。一般に実勢価格より低めに設定される傾向があるが、比率は地域・年次で変動
④固定資産税評価額固定資産税などを計算するために市町村が定める価格。3年に1度見直される。一般に実勢価格より低めに評価されることが多いが、その差は地域・時期で変動
不動産の主な評価指標

このように、目的の異なる複数の「価格」が存在するため、「どの価格を基準にするか」で意見が分かれてしまうのです。例えば、家に住み続けたい相続人は「税金の計算に使う固定資産税評価額を基準にすべきだ」と主張し、現金が欲しい相続人は「実際に売れる価格である実勢価格を基準にすべきだ」と主張する、といった具合です。

評価額の対立を放置する末路|起こりうる3つの最悪シナリオ

「そのうち誰かが折れるだろう」「時間が解決してくれるかもしれない」
不動産評価額の対立は、精神的にも負担が大きく、つい問題を先送りにしたくなるかもしれません。しかし、この問題を放置することは、想像以上に深刻な事態を招く可能性があります。

シナリオ1:遺産分割協議が進まず、預貯金も引き出せない

不動産の評価額が決まらないと、遺産の総額が確定できません。その結果、遺産分割協議そのものが完全にストップしてしまいます。

これは、不動産だけの問題ではありません。亡くなった方の預貯金の解約・払戻しや、株式・投資信託の名義変更など、他の相続手続きも進めることが難しくなります。遺産分割協議書には、すべての相続財産の分け方を記載し、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要だからです。

いつまでも預貯金が引き出せないままでは、ご自身の生活にも影響が出かねません。

シナリオ2:相続税の申告遅延で、無駄な税金(加算税・延滞税)が発生

相続に関する手続きで最も注意すべきなのが、相続税の申告・納付期限です。この期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められており、遺産分割協議がまとまっていなくても待ってはくれません。

もし、この期限までに申告・納付が間に合わないと、

  • 本来の税額に加えて「無申告加算税」が課される
  • 納付が遅れた日数に応じて「延滞税」が課される

といったペナルティが発生し、本来払う必要のなかった税金を負担することになります。さらに、遺産分割が未了のまま申告(未分割申告)をすると、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった大幅な節税につながる特例が使えません。

評価額の対立を長引かせた結果、数百万円、数千万円単位で損をしてしまう可能性もあるのです。

参考:No.9205 延滞税について

シナリオ3:感情的な対立が激化し、家族関係が崩壊

お金の問題以上に深刻なのが、家族関係の破綻です。最初は不動産の評価額という事務的な話だったはずが、話し合いが長引くにつれて、「昔から兄さんばかり優遇されていた」「お前は親の面倒を何も見てこなかったくせに」といった過去の不満や感情的なしこりが噴出し、収拾がつかなくなるケースは少なくありません。

お互いへの不信感が募り、やがて憎しみ合う関係にまで発展してしまうと、その亀裂を修復するのは非常に困難です。お金では決して取り戻すことのできない、最も悲しい結末と言えるでしょう。

【解決策】不動産評価額の対立を円満に解決する3ステップ

では、どうすればこの困難な状況を乗り越え、円満な解決に至ることができるのでしょうか。感情的な対立を避け、客観的な事実に基づいて冷静に話し合うための具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:複数の不動産会社から査定書を取得する

まず、議論の土台となる客観的な判断材料を集めることが重要です。1社だけの査定では、その価格が妥当なのか判断が難しいため、できれば3社程度の不動産会社に査定を依頼し、査定価格とその根拠が記載された「査定書」を取得しましょう。

このとき、相続人がそれぞれバラバラに査定を依頼すると、「自分に都合の良い査定額を持ってきた」と相手に不信感を与えかねません。相続人同士で合意の上、代表者がまとめて依頼するか、全員立ち会いのもとで査定を依頼するなど、プロセスを共有することで公平性を保つことが大切です。

これにより、相続人全員が「おおよその相場観」を共有することができます。

ステップ2:客観的な資料を基に、評価額の着地点を探る

集めた複数の査定書や、固定資産評価証明書などの客観的な資料をすべてテーブルの上に並べ、相続人全員で冷静に話し合います。感情論ではなく、「どの資料を基準に、いくらと評価するのが最も合理的か」という視点で着地点を探っていきましょう。

例えば、以下のような方法が考えられます。

  • 複数の査定額の平均値を取る
  • 最も高い査定額と最も低い査定額の中間の金額で合意する
  • 査定額の平均と、固定資産税評価額などを考慮して調整する

遺産分割における不動産の評価方法に、法律上の決まりはありません。相続人全員が納得し、合意できれば、どのような価格を基準にしても良いのです。

とはいえ、当事者だけではどうしても感情的になりがちです。そんなときは、司法書士のような相続の専門家が第三者として間に入ることで、冷静な話し合いを促進し、法的な観点から公平な解決策をご提案することも可能です。

ステップ3:合意が難しい場合は不動産鑑定士に依頼する

どうしても当事者間での合意が難しい場合の最終手段として、国家資格者である不動産鑑定士による「鑑定評価」があります。

不動産鑑定士が作成する「不動産鑑定評価書」は、専門家による詳細な評価であり、裁判所や税務署等で重要な参考資料として扱われることが多いです。ただし、評価の前提や手法が争点となる場合には異論が出ることもあります。この評価額を基準とすることで、争いに終止符を打つ有力な材料となり得ます。

ただし、不動産鑑定の費用は通常30万円~50万円程度が相場とされますが、物件によって大きく変動します。作成期間も数週間から1ヶ月以上かかる場合があるため、これはあくまで最終手段と考え、できる限りステップ2までの話し合いで解決を目指すのが望ましいでしょう。

不動産鑑定士が専門的な道具を使って物件を調査している様子。相続トラブル解決の最終手段である不動産鑑定をイメージした写真。

【相談事例】評価額2,500万円と1,200万円の対立はどう解決した?

当事務所に寄せられた、実際の相談事例をご紹介します。理論だけでなく、具体的な解決プロセスを知ることで、ご自身の状況を乗り越えるヒントが見つかるかもしれません。

このケースは、長男Aさんと長女Bさんが相続人でした。遺産はご実家の土地建物と預貯金が数百万円。Aさんは「このまま実家に住み続けたい」と希望し、その代わりにBさんへ代償金を支払うことで話を進めようとしました。

しかし、その前提となる不動産の評価額について、二人の意見は真っ向から対立してしまったのです。

  • Aさんの主張:「固定資産評価額は1,200万円程度。市場で売っても同じくらいのはずだ」
  • Bさんの主張:「近所の不動産会社に聞いたら2,500万円と言われた。代償金として半分の1,250万円はもらわないと納得できない」

Aさんは「そんな高値で売れるはずがない」と反論し、Bさんも「査定は専門家の客観的な意見だ」と一歩も譲りません。お二人の主張の隔たりは1,000万円以上。これでは話が進むはずもなく、遺産分割協議は何ヶ月も停滞してしまいました。

ご相談を受け、私はまず、感情的になっているお二人を落ち着かせ、客観的な事実に基づいて着地点を探るための具体的なステップをご提案しました。

それは、先ほどご紹介した「解決策」のステップそのものです。まず、当事者間で信頼できる不動産会社を3社選び、共同で査定を依頼しました。その結果は、「2,100万円」「2,300万円」「2,400万円」という、Bさんの主張に近い数字でした。

この3社の査定書という客観的な資料を前にお話し合いの場を設けたところ、Aさんも当初の主張に固執することなく、冷静に現実を受け入れてくださいました。最終的には、3社の査定額の真ん中あたりである「2,300万円」で評価することに双方が納得され、無事に遺産分割協議書を作成することができたのです。

この事例の教訓は、感情的な言い争いをやめ、誰もが認めざるを得ない「客観的な材料」を揃えることが、解決への何よりの近道だということです。

争いを未然に防ぐために、今からできること

ここまで、すでに対立が起きてしまった場合の解決策についてお話ししてきました。しかし、最も望ましいのは、そもそもこのような争いが起きないようにしておくことです。

将来の相続で、大切な家族が不動産の評価額を巡って争うことを防ぐために、最も有効な対策は「遺言書を作成しておくこと」です。

遺言書で、「誰にどの不動産を相続させるか」を明確に指定しておくだけでも、争いの火種を大きく減らすことができます。さらに、「不動産の評価は、相続開始時点における固定資産税評価額を基準とする」といったように、評価の基準まで具体的に定めておくと、相続人たちが評価方法で揉める余地がなくなります。

遺言書は、残された家族への最後のメッセージであり、家族を争いから守るための強力なツールです。もしご自身の相続で家族に同じ思いをさせたくないとお考えでしたら、ぜひ遺言書を作成しなくてはいけない理由の記事もご覧ください。

不動産評価額の対立は、相続の専門家と一緒に解決しませんか?

相続不動産の評価額をめぐる対立は、当事者だけで解決しようとすると、どうしても感情的になりやすく、問題をこじらせてしまいがちです。

そんなときこそ、私たち司法書士のような相続の専門家にご相談ください。第三者である専門家が間に入ることで、冷静な話し合いの場を設け、円満な解決へのお手伝いができます。

司法書士が間に入る3つのメリット

  1. 公平な立場での資料収集と情報整理
    対立する相続人のどちらか一方の味方をするのではなく、中立・公平な立場で、不動産査定書の手配など客観的な資料収集をサポートします。複雑な情報を整理し、話し合いの土台を整えます。
  2. 冷静な話し合いの進行役
    専門家が同席することで、感情的な発言が抑えられ、建設的な話し合いがしやすくなります。法的な観点から、それぞれの主張の妥当性を判断し、お互いが納得できる落としどころをご提案します。
  3. 合意内容を法的に有効な「遺産分割協議書」に
    話し合いでまとまった内容は、法的に有効な「遺産分割協議書」として正確に文書化する必要があります。登記の専門家である司法書士が作成することで、後の不動産名義変更(相続登記)までスムーズに進めることができます。

いがり円満相続相談室が選ばれる理由

川崎市・横浜市を中心に活動する当事務所は、「円満な相続」の実現を第一に、多数の相続手続きをお手伝いしています。

当事務所の最大の特徴は、司法書士である代表の猪狩佳亮(いがり よしあき)が、最初のご相談から手続き完了まで一貫して直接対応させていただくことです。流れ作業のような対応は一切せず、お客様一人ひとりのお気持ちに丁寧に寄り添い、最適な解決策を一緒に考えます。

また、お仕事でお忙しい方でもご相談いただきやすいよう、平日夜間や土日祝日のご相談にも柔軟に対応(要予約)しております。

不動産の評価額で兄弟と対立し、どうすればよいか分からずお悩みでしたら、どうか一人で抱え込まないでください。あなたの不安な心に「安心」を届け、円満な相続が実現できるよう、私たちが全力でサポートいたします。

まずは無料相談からはじめてみませんか?お気軽にご連絡ください。

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