権利証(登記識別情報)がない!紛失時の対処法を専門家が解説

権利証をなくした…!まず落ち着いて状況を確認しましょう

「家の権利証が見当たらない…」「どこを探してもない、もしかして盗まれた?」

大切な不動産の権利証(登記識別情報)が見つからないと、血の気が引くような思いがして、夜も眠れないほど不安になりますよね。悪用されて、知らない間に家を乗っ取られてしまうのではないかと、悪い想像ばかりが膨らんでしまうかもしれません。

でも、どうか少し落ち着いてください。権利証をなくしたからといって、すぐに不動産の所有者としての権利を失うわけではありません。

この記事では、相続専門の司法書士である私が、権利証を紛失してしまったときの正しい対処法を、順を追って分かりやすく解説します。この記事を最後までお読みいただければ、今あなたが何をすべきで、今後どのような手続きが必要になるのかが明確になり、きっと安心していただけるはずです。

司法書士が解説!権利証紛失でよくあるご相談事例

先日、10年以上前に相続手続きをお手伝いしたお客様から、慌てたご様子で一本のお電話がありました。

「先生、大変です!権利証(登記識別情報通知)がどこにもないんです。警察に届けた方がいいでしょうか?」

お話を伺うと、最後に見たのがいつかもはっきりせず、5年以上前かもしれないとのこと。鍵のかからないタンスに保管していたはずが、忽然と消えてしまったというのです。ご不安な気持ちがひしひしと伝わってきました。

私はまず、お客様に落ち着いていただくために、次のようにお伝えしました。

「最近ご自宅に誰かが侵入した形跡などがない限り、今すぐ警察に行っても、紛失届として受理されるだけで、積極的な捜査は期待できないかもしれません。もっと大切なのは、万が一に備えて、権利証が悪用されないように手を打つことです。

そして、重要な事実を説明しました。

「実は、権利証(登記識別情報通知)だけでは、不動産の名義を勝手に変えることは難しいです。通常の売買や贈与といった名義変更では、ご本人様の実印と印鑑証明書が必要になるからです。ただし、登記の種類や手続きによっては必要書類が異なる場合もありますので、一概には言えませんが、まずはご安心ください。」

この言葉に、お客様は電話口でほっと息をつかれたようでした。

「ただ…」と私は続けます。

「最近は巧妙な手口で印鑑証明書を偽造するような犯罪グループもいます。もし、どうしてもご心配で、夜も眠れないということであれば、権利証の暗号部分を無効にする『失効申出』という手続きがあります。これをすれば、たとえ権利証が誰かの手に渡っても、悪用される心配はなくなります。」

ただし、この手続きには注意点もあります。

「一度失効させると、後から権利証が見つかっても二度と元には戻せません。将来、ご自宅を売却したり、お子様に贈与したりする際には、別の方法で本人確認をする必要があり、少し費用がかかります。まずはもう一度、心当たりのある場所をよく探してみてから判断されても遅くはありませんよ。」

このご説明の結果、お客様は「やはり不安なので」と、登記識別情報の失効申出をご依頼されました。手続きを終えた後、「これで安心して眠れます」と仰っていただけたのが、何よりでした。

このように、権利証の紛失は誰にでも起こりうることです。大切なのは、パニックにならず、正しい知識を持って、適切な対応をとることなのです。

「権利証」と「登記識別情報」は何が違う?基本を整理

「権利証」と一括りにされがちですが、実は年代によって形式が異なります。ご自身がどの書類をなくしたのかを把握するためにも、ここで基本を整理しておきましょう。

不動産登記法が改正された2005年(平成17年)を境に、従来の「登記済証(いわゆる権利証)」から、新しい「登記識別情報」へと切り替わりました。

権利証(登記済証)と登記識別情報通知の違いを比較する図解。法改正を境に形式が変わったことを示している。
種類通称発行時期見た目の特徴
登記済証権利証2005年(平成17年)頃まで登記申請書の副本に「登記済」という赤いハンコが押されている書類。法務局の受付印などがある。
登記識別情報通知(新しい権利証)2005年(平成17年)頃から現在までA4サイズの緑色の紙で、下部に目隠しシールが貼られている。シールを剥がすと12桁の英数字(パスワード)が記載されている。
登記済証と登記識別情報の比較

昔からお持ちの不動産であれば「登記済証」、比較的最近に不動産を取得(購入、相続、贈与など)したのであれば「登記識別情報通知」のはずです。どちらも不動産の所有者であることを示す大切な書類ですが、紛失した場合の対応は基本的に同じです。

【重要】権利証や登記識別情報は再発行できません

まず、最も大切なことをお伝えします。登記済証も登記識別情報も、一度紛失してしまうと、絶対に再発行することはできません。

これは、銀行のキャッシュカードの暗証番号と同じで、もし簡単に再発行できてしまうと、なりすましによる不正な不動産取引に使われるリスクが高まってしまうためです。

「再発行できないなんて、どうすれば…」と不安に思われたかもしれません。でも、ご安心ください。再発行はできませんが、権利証がなくても不動産の手続きを進めるための代替手段がきちんと用意されています。詳しくは後ほど解説しますので、まずは「再発行はされない」という事実だけ、しっかり覚えておいてください。

紛失・盗難による悪用を防ぐ2つの公的制度

権利証を紛失した場合、最も心配なのは「誰かに悪用されてしまうのではないか」という点だと思います。その不安を解消し、不正な登記を防ぐために、法務局には2つの公的な制度が用意されています。

ご自身の状況に合わせて、どちらの制度を利用すべきか検討しましょう。

【選択肢1】登記識別情報を無効化する「失効申出」

「失効申出」とは、その名の通り、登記識別情報が持つパスワードとしての効力を完全に失わせる(無効化する)手続きです。

この申出をすると、たとえ後から紛失した登記識別情報通知が見つかったとしても、その12桁のパスワードは二度と登記手続きに使うことができなくなります。これにより、当該登記識別情報を用いた登記手続きが悪用されるリスクを大幅に減らすことができます。

  • こんな方におすすめ:
    • 盗難された可能性が高い、または情報が漏洩した不安が強い方
    • とにかく悪用されるリスクをゼロにして、精神的な安心を得たい方
  • 手続き: 不動産の所有者本人またはその代理人(司法書士など)が、管轄の法務局に申し出ます。
  • 注意点: 一度失効させると、いかなる理由があっても取り消すことはできません。後から見つかっても、その登記識別情報は使えなくなりますので、慎重に判断する必要があります。

参考:登記識別情報の失効の申出 | 不動産登記手続

【選択肢2】不審な動きを監視する「不正登記防止申出」

「不正登記防止申出」とは、自分の不動産について、不審な登記申請がなされた場合に、法務局から連絡をもらえるように申し出ておく制度です。

この申出をしておくと、申出後3ヶ月以内に、あなたを登記義務者とする登記申請(例:売買による所有権移転など)があった場合、法務局からその旨の通知が届きます。身に覚えのない申請であれば、すぐに不正な動きを察知し、対応することができます。

  • こんな方におすすめ:
    • 権利証だけでなく、実印や印鑑証明書も一緒に盗まれたなど、不正な登記がされる差し迫った危険性が高い方
    • とりあえずの監視体制を敷いておきたい方
  • 手続き: 不動産の所有者本人が、管轄の法務局に出頭して申し出る必要があります。警察への被害届なども求められる場合があります。
  • 注意点: 効果は原則として申出から3ヶ月間です。不正な登記申請を直接止める効力はなく、あくまで「通知が来る」という制度です。

参考:不動産登記に関するよくある質問:松山地方法務局 – 法務省

失効申出と不正登記防止申出、どちらを選ぶべき?

どちらの制度を利用すべきか、迷われる方も多いでしょう。判断のポイントを比較表にまとめました。

登記識別情報を紛失した際の対策である「失効申出」と「不正登記防止申出」の目的や効果を比較する図解。
失効申出不正登記防止申出
目的登記識別情報を完全に無効化する不審な登記申請を監視・察知する
効果恒久的(一度手続きすると元に戻せない)原則3ヶ月間
おすすめの状況・盗難の可能性が高い・精神的な安心を優先したい・実印なども同時に紛失した・差し迫った危険がある
手続き司法書士による代理申請が可能原則、本人が法務局に出頭する必要がある
失効申出と不正登記防止申出の比較

実務的な観点から申し上げると、「ただ見つからないだけで、盗難の可能性は低い」という場合には、急いでどちらかの手続きをする必要はないケースが多いです。しかし、冒頭の事例のお客様のように、「万が一」を考えて精神的な安心を優先したいという方は、「失効申出」を選択されるのが良いでしょう。

一方で、「不正登記防止申出」は、実印なども含めて危険が迫っている場合の緊急避難的な措置という側面が強い制度です。

どちらがご自身の状況に適しているか、判断に迷う場合は、ぜひ一度専門家にご相談ください。

権利証なしで売却や贈与はできる?3つの代替手段と費用

「権利証がないと、この家はもう売れないの?」
「子どもに家を贈与したいのに、手続きできないの?」

ご安心ください。権利証(登記識別情報)がなくても、不動産の売却、贈与、相続などの登記手続きを行うことは可能です。そのための代替手段が3つ用意されています。

司法書士が作成する本人確認情報について、依頼者に説明している様子の写真。

方法1:司法書士による「本人確認情報」の作成

これは、最も一般的で確実な方法です。司法書士が、登記を申請する方が「間違いなく不動産の所有者ご本人である」ことを証明する書類(=本人確認情報)を作成し、権利証の代わりに法務局へ提出します。

司法書士は、運転免許証などの本人確認書類の確認に加え、ご本人との面談を通じて、不動産を取得した経緯や不動産に関する情報などを質問させていただき、ご本人に間違いないことを確認します。この厳格なプロセスにより、登記の安全性が担保されるのです。

  • メリット: 手続きがスムーズで確実。特に不動産売買のように、決済日(代金の支払い日)に確実に名義変更を完了させる必要がある場面では、ほぼこの方法が使われます。
  • デメリット: 司法書士への報酬(費用)がかかります。
  • 費用の目安: 5万円~10万円程度が一般的ですが、不動産の評価額や事案の複雑さによって変動します。

方法2:法務局からの通知を待つ「事前通知制度」

これは、権利証がない状態で登記申請を行った後、法務局から不動産の所有者本人に対して、「このような登記申請がありましたが、間違いありませんか?」という確認の通知を送ってもらう制度です。

通知は「本人限定受取郵便」という特殊な郵便で届きます。受け取った書類に記載された方法に従い、期限内(通常2週間以内)に法務局へ申し出をすることで、登記手続きが進みます。この際、通知書に署名し、実印を押して返送するよう求められることが一般的です。

  • メリット: 司法書士への本人確認情報の作成費用がかからないため、コストを抑えられます。
  • デメリット:
    • 通知の発送・返送に時間がかかり、手続き完了まで日数を要します。
    • 不動産売買の決済(代金授受と同時に名義変更)には、時間的な問題で利用できません。
    • 期限内に返送し忘れると、登記申請が却下されてしまいます。

方法3:公証役場での「委任状等の認証」

これは、公証役場に出向き、公証人の面前で司法書士への委任状などに署名・押印し、その書類が「本人の意思によって作成されたものである」という認証を受ける方法です。

この認証を受けた書類を、権利証の代わりに法務局へ提出します。

  • メリット: 司法書士による本人確認情報の作成よりは、費用が安価になる場合があります。
  • デメリット: ご本人が公証役場まで出向く手間がかかります。また、この方法に対応している司法書士が限られる場合もあります。

どの方法が最適かは、ご状況や今後のご予定によって異なります。特に不動産取引を控えている場合は、安全かつスムーズに進めるためにも、方法1の「司法書士による本人確認情報の作成」を選択するのが一般的です。

権利証の紛失でお困りなら、まずは専門家にご相談ください

権利証(登記識別情報)を紛失した際の対応は、ただ書類が見つからないだけなのか、盗難の可能性があるのか、近々不動産を売却する予定があるのかなど、お客様一人ひとりの状況によって最適な選択肢が変わってきます。

ご自身で判断して手続きを進めることも不可能ではありませんが、誤った対応をしてしまうと、後で余計な手間や費用がかかってしまう可能性もあります。

私たち、司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所(神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号)は、川崎市・横浜市を中心に、これまで数多くの不動産登記や相続手続きに携わってまいりました。代表の猪狩佳亮(神奈川県司法書士会所属)が、皆様からのご相談をお受けします。

例えば、相続が発生した際に権利証が見つからないというケースは非常によくあります。そのような場合でも、相続人様の確定から遺産分割協議書の作成、そして権利証がない状態での相続登記を含む各種相続手続きまで、私たちがワンストップで対応することが可能です。

「どうしたらいいか分からない」「話だけでも聞いてほしい」
そんな時は、一人で抱え込まずに、どうぞお気軽に当事務所の無料相談をご利用ください。あなたの不安な心に寄り添い、最善の道筋を一緒に見つけさせていただきます。

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