AI作成の相続登記申請書は間違いだらけ?司法書士が解説

AI作成の登記申請書で相続登記に失敗した相談事例

「AIを使えば、専門家に頼まなくても自分で相続登記ができるかもしれない」
最近、技術の進歩は目覚ましく、そうお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その手軽さの裏には、思わぬ落とし穴が潜んでいることがあります。

先日、当事務所にこんなご相談が寄せられました。

【ご相談内容】
地方にお住まいだったお父様が亡くなり、長男である相談者様が、実家の不動産を相続することになりました。費用を抑えるため、ご自身で相続登記に挑戦しようと決意。

「今は便利なAIツールがある」と聞き、早速それを使って登記申請書や遺産分割協議書を作成。必要書類もなんとか揃え、遠方にある実家を管轄する法務局へ郵送で申請しました。

ところが数日後、法務局の登記官から一本の電話が。
「申請書のこの部分が違います」「添付書類が足りません」「ここをこう直してください」
矢継ぎ早に専門用語で指摘を受けましたが、電話口では何がどう違うのか、どう直せばいいのか、ほとんど理解できませんでした。

補正(書類の訂正)のためには、原則として法務局へ出向かなければならないとのこと。しかし、実家までは新幹線を使っても数時間かかります。補正のためだけに仕事を休んで遠くまで行くのは、時間的にも金銭的にも現実的ではありません。

ご自身で頑張って準備を進めてきたものの、完全に手詰まりになってしまい、途方に暮れて当事務所にご連絡をいただいた、というケースでした。

この事例は、決して特別なものではありません。便利なツールであるはずのAIですが、法律や実務の細かなルールまではカバーしきれず、結果的に時間と労力を無駄にしてしまう危険性があるのです。

【検証】AIはどこを間違える?登記の専門家が分析

では、AIが作成した相続登記申請書は、具体的にどのような点が問題になるのでしょうか。当事務所でも、実際にいくつかのAIツールを使い、登記申請書を作成させてみました。その結果、登記の専門家である司法書士から見ると、「これでは法務局から補正の連絡が来てしまうだろうな」と感じるポイントがいくつも見つかりました。

間違いポイント1:不動産の表示が登記簿と完全一致しない

相続登記の申請書には、対象となる不動産の情報を正確に記載する必要があります。この「正確に」というのがポイントで、登記事項証明書(登記簿)に書かれている情報を「一字一句違わずに」書き写さなければなりません。

しかし、AIはしばしばここで間違いを犯します。

  • 「地番」と「住所(住居表示)」を混同する: 不動産を特定する「地番」と、郵便物が届く「住所」は全くの別物です。AIは、一般的な住所を入力してしまうことがあります。
  • マンションの情報を正確に記載できない: マンションの場合、「専有部分の家屋番号」だけでなく、「敷地権の表示(土地の地番や持分割合など)」も正確に記載する必要がありますが、この部分が抜け落ちてしまうケースが見られました。

少しでも表記が異なれば、法務局は不動産を特定できず、登記申請は受け付けてもらえません。これは登記手続きの基本中の基本ですが、AIにとってはまだ難しいようです。

間違いポイント2:登記原因証明情報との整合性が取れていない

相続登記では、申請書だけでなく、なぜその登記が必要になったのかを証明する書類(登記原因証明情報)を添付します。具体的には、被相続人の死亡の事実や相続関係を証明する戸籍謄本一式や、遺産分割協議書などがこれにあたります。

登記官は、申請書とこれらの添付書類をすべて照らし合わせ、内容に矛盾がないか厳しくチェックします。AIが作成した書類では、この整合性が取れていないことがあります。

  • 相続人の住所が違う: 遺産分割協議書に記載した相続人の住所と、申請書に記載した住所が異なっているケースです。例えば、引っ越し前の古い住所のままになっている、といった間違いが考えられます。
  • 被相続人の情報が一致しない: 戸籍謄本からわかる死亡日と、申請書に記載した死亡日が違うなど、基本的な情報に食い違いが生じることもあります。

こうした書類間の不整合は、登記の正確性を揺るがす重大な問題とみなされ、必ず補正の対象となります。

間違いポイント3:登録免許税の計算が誤っている

相続登記を申請する際には、登録免許税という税金を国に納める必要があります。この税額は、不動産の固定資産評価額に一定の税率(相続の場合は0.4%)を掛けて算出します。

一見、単純な計算に見えますが、実は特定の条件を満たす場合に税が免除される特例措置が存在します。例えば、相続した土地の価額が100万円以下の場合などです。AIは、こうした個別の事情に応じた複雑な税制の特例までは考慮できず、本来であれば不要な税金を計算してしまったり、逆に必要な税額が不足してしまったりする可能性があります。

税額が1円でも間違っていれば、申請は受け付けられません。正確な税額の計算には、最新の法令に関する専門知識が不可欠なのです。

参考:相続登記の登録免許税の免税措置について – 法務局

郵送申請で補正指示…なぜ自分で対応するのが難しいのか?

もし、AIが作成した申請書で郵送申請し、冒頭の事例のように法務局から補正の連絡が来てしまったらどうなるのでしょうか。「電話で言われた通りに直せばいいだけ」と思われるかもしれませんが、現実はそう簡単ではありません。個人で対応するのが難しい、3つの大きな壁が立ちはだかります。

理由1:電話口での専門用語による指示が理解できない

法務局の登記官からの補正指示は、多くの場合電話で行われます。しかし、登記官が使う言葉は法律や登記実務に基づいた専門用語ばかりです。

例えば、「被相続人の登記記録上の住所と死亡時の住所の沿革が付かないので、つながりを証明する書類を追加してください」といった指示を、電話口で一度聞いただけで正確に理解し、何をすべきか判断するのは、一般の方には極めて困難です。

何をどう直せばよいのかが分からなければ、対応のしようがありません。

理由2:原則として法務局へ出向いて訂正する必要がある

郵送で申請した場合でも、書類に不備があった際の訂正(補正)は、原則としてその法務局の窓口に出向いて行う必要があります。

申請書に押した印鑑と同じ印鑑を持参し、登記官の目の前で訂正箇所に二重線を引いて訂正印を押す、といった作業が求められます。冒頭の事例のように、相続した不動産が遠方にある場合、補正のためだけに交通費と時間をかけて移動するのは、大きな負担となります。

理由3:定められた期間内に対応できないと申請が却下される

補正の指示には、通常1〜2週間程度の期限が設けられています。この期限内に正しく補正を完了できない場合、提出した申請は「却下」されてしまいます。

却下されると、申請は初めからなかったことになります。つまり、せっかく集めた戸籍謄本などの書類は一度返却され、再度申請し直さなければなりません。支払った登録免許税は返還されますが、それまでの時間と労力は全て水の泡となってしまいます。安易に自分で進めた結果、かえって時間も手間もかかってしまう最悪のケースです。

正確な相続登記申請書の書き方【司法書士作成の見本】

では、一体どのように書けば正確な登記申請書になるのでしょうか。ここで、司法書士が作成する相続登記申請書の基本的な記載例をご紹介します。AIが作成したものと比較し、その正確性の違いをご確認ください。

もしご自身で作成される場合は、AIツールに頼るよりも、法務局のウェブサイトにある記載例などを参考に、こちらの見本と照らし合わせながら慎重に作成することをおすすめします。

登記申請書(記載例)

登記の目的
所有権移転

原因
令和○年○月○日 相続

相続人
(被相続人 A)
住所 〇〇県〇〇市〇〇町○丁目○番○号
氏名 (持分) B (実印)
連絡先の電話番号 ○○○-○○○-○○○○

添付情報
登記原因証明情報 住所証明情報

登記識別情報の通知
□ 希望しない
☑ 希望する

令和○年○月○日申請 ○○法務局(または地方法務局)○○支局(または出張所) 御中

課税価格
金 ○○○○円

登録免許税
金 ○○○○円

不動産の表示
【土地】
不動産番号 (分かる場合に記載)
所在 〇〇市〇〇町○丁目
地番 ○番○
地目 宅地
地積 ○○○・○○平方メートル

【建物】
不動産番号 (分かる場合に記載)
所在 〇〇市〇〇町○丁目 ○番地○
家屋番号 ○番○
種類 居宅
構造 木造かわらぶき2階建
床面積 1階 ○○・○○平方メートル
    2階 ○○・○○平方メートル

結論:AIは下調べに便利。でも確実な登記は司法書士へ

ここまで見てきたように、AIは相続登記に関する一般的な情報収集や書類のひな形作成の「下調べ」としては便利なツールかもしれません。しかし、個別の事情が複雑に絡み合う実際の相続手続きにおいて、法的に完璧で、一発で受理される申請書類を作成するには、まだ力不足と言わざるを得ません。

特に、2024年4月1日から相続登記が義務化され、正当な理由なく期限内に登記をしないと過料の対象となる可能性があります。このような状況で、不確かな情報をもとに手続きを進めるのは非常にリスクが高いと言えるでしょう。

確実かつスムーズに相続登記を完了させるためには、やはり登記の専門家である司法書士にご依頼いただくのが最も賢明な選択です。詳しくは「相続登記を司法書士に依頼するメリットは?自分でやる場合との違い」の記事でも解説していますが、主なメリットは以下の通りです。

時間と労力の節約:煩雑な手続きはすべてお任せ

司法書士にご依頼いただければ、相続登記に必要な戸籍謄本の収集から、遺産分割協議書の作成、法務局への申請、登記完了後の書類受け取りまで、煩雑な手続きをすべて一括で代行いたします。相続人の皆様は、面倒な書類作成や役所とのやり取りに時間を費やすことなく、故人を偲ぶ時間やご自身の生活に集中していただけます。

ミスの防止:法的要件を満たした正確な書類作成

私たち司法書士は、日々登記実務に携わる国家資格者です。最新の法令や通達、各法務局の運用を踏まえて正確な書類作成を行います。補正や却下のリスクを低減するため、専門家の支援が有効です。当事務所は相続登記に多数の実績があります。

関連手続きのワンストップ対応

相続の問題は、不動産の名義変更(相続登記)だけで終わらないケースがほとんどです。当事務所の代表は、司法書士に加えて行政書士、社会保険労務士の資格も保有しています。そのため、相続放棄の手続き、預貯金の解約、未支給年金の請求など、相続登記に関連して発生する様々な手続きにもワンストップで対応することが可能です。あちこちの専門家を探す手間なく、一か所でご相談を完結できるのが大きな強みです。

まとめ:相続登記でお悩みなら、まずは無料相談へ

AIによる相続登記申請書の作成は、一見すると手軽で費用もかからない魅力的な選択肢に思えるかもしれません。しかし、その裏には専門家でなければ気づきにくい多くの落とし穴があり、特に郵送申請で補正指示を受けた場合の対応は極めて困難です。

「自分でやってみたけど、途中で分からなくなってしまった」
「法務局から補正の連絡が来て、どうしていいか分からない」
「そもそも、何から手をつけていいか見当もつかない」

少しでもこのような不安をお持ちでしたら、どうか一人で抱え込まず、私たち相続の専門家にご相談ください。当事務所では、ご依頼いただくかどうかに関わらず、皆様の状況を丁寧にお伺いする無料相談を実施しております。
【事務所情報】
いがり綜合事務所(代表:猪狩 佳亮)
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号
所属:神奈川県司法書士会

平日お忙しい方のために、平日夜間や土日祝日のご相談にも柔軟に対応しております(事前予約制)。円満な相続を実現し、皆様の心に「安心」をお届けするため、私たちが全力でサポートいたします。

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