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相続の戸籍集めが楽に!広域交付制度をご存知ですか?
ご家族が亡くなられて相続の手続きを進めようとするとき、多くの方が最初に直面するのが「戸籍謄本(こせきとうほん)を集める」という作業です。「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍が必要ですよ」と聞いて、途方に暮れてしまう方も少なくありません。
「本籍地が遠くて、どうやって請求すればいいんだろう…」
「結婚や転籍で本籍地が何度も変わっているみたいで、追いかけるのが大変そう…」
「一体、何通の戸籍を集めればいいのか見当もつかない…」
こうした戸籍集めの煩雑さは、相続手続きにおける大きな負担の一つでした。しかし、ご安心ください。2024年3月1日から始まった「戸籍の広域交付制度」によって、この戸籍集めがぐっと楽になりました。この記事では、相続手続きの専門家である司法書士が、この便利な新制度の使い方と注意点を分かりやすく解説していきます。
【司法書士の現場から】戸籍集めで多くの方が悩むこと
私たち司法書士が相続のご相談をお受けする中で、戸籍について多くの方がつまずかれるポイントがあります。
まず、「相続手続きには、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本がすべて必要」という点です。亡くなった時点の戸籍(除籍謄本)だけでは、法律上の相続人が誰であるかを確定できないため、生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍を遡って集める必要があるのです。中には、昔の縦書きで書かれた手書きの戸籍も含まれます。
さらに、多くの方は人生の中で結婚などを機に本籍地が変わります。例えば、北海道の札幌市で生まれ、結婚して神奈川県の横浜市に本籍を移し、その後さらに川崎市に転籍して亡くなられた、というケース。この場合、これまでは札幌市、横浜市、川崎市のそれぞれの役所に対して、個別に郵送などで請求手続きをしなければなりませんでした。これは本当に手間と時間がかかる作業でした。
戸籍の広域交付制度で何が変わったのか?
そこで登場したのが「戸籍の広域交付制度」です。この制度の最大のポイントは、「最寄りの市区町村の窓口で、他の市区町村が管理する戸籍謄本もまとめて請求できる」ようになったことです。
先ほどの例で言えば、お住まいの近くの役所の窓口に行くだけで、札幌市、横浜市、川崎市のすべての戸籍を一度に請求できるようになったのです。これにより、相続手続きで必要となる「出生から死亡まで」の戸籍集めが、原則として1か所の役場で完結できるようになりました。郵送でのやり取りにかかる時間や手間が大幅に削減され、手続きの負担が劇的に軽くなった、画期的な制度と言えるでしょう。
【自分でやってみよう】広域交付制度を利用する手順とメリット
「それなら自分で戸籍を集めてみようかな」と思われた方もいらっしゃるでしょう。ここでは、実際に広域交付制度を利用するための具体的な手順と、ご自身で手続きをされるメリットについて解説します。
請求できる人と必要なものリスト
まず、誰でもこの制度を利用できるわけではない点に注意が必要です。広域交付制度を使って戸籍を請求できるのは、以下の範囲の方に限られます。
- 本人
- 配偶者
- 父母、祖父母など(直系尊属)
- 子、孫など(直系卑属)
相続手続きで言えば、亡くなった方(被相続人)のお子さんや親御さんであれば、この制度を利用して被相続人の戸籍を集めることができます。広域交付制度では本人・配偶者・直系尊属・直系卑属のみが窓口請求の対象です。兄弟姉妹や甥姪は広域交付の本人請求の対象外ですが、正当な理由に基づく第三者請求や、司法書士等による職務上請求の制度が別にあるため、個別の事情によっては別途請求可能な場合があります。具体的な可否は事案により異なるため、事前に確認してください。この点は後ほど詳しく解説します。
次に、役所の窓口へ行く際に必要なものです。忘れると手続きができませんので、事前にしっかり準備しましょう。
【窓口での必要書類チェックリスト】
- 顔写真付きの身分証明書
(例:運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)
※官公署が発行した顔写真付きのものに限られます。健康保険証や年金手帳など、顔写真のないものは認められないためご注意ください。 - 手数料
窓口手数料は多くの市区町村で戸籍謄本が1通450円、除籍謄本・改製原戸籍が1通750円の例が多く見られますが、自治体により異なる場合があります。事前に請求先の市区町村の手数料を確認してください。何通取得することになるか分からない場合もあるので、少し多めに現金を持って行くと安心です。
請求する際は、窓口で「亡くなった〇〇(氏名、生年月日、最後の本籍地・筆頭者)の、出生から死亡までの一連の戸籍をお願いします」と伝えれば、職員の方が対応してくれます。
参考:戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)
費用を抑え、手続きをスムーズに進める大きなメリット
ご自身で戸籍を取得する最大のメリットは、何と言っても専門家への依頼費用を節約できることです。戸籍収集は司法書士などの専門家にも依頼できますが、当然ながら報酬が発生します。広域交付制度を使えば、ご自身で比較的簡単に集められるようになったため、その分の費用を抑えることができます。
また、事前に戸籍一式をご自身で揃えてから専門家に相談すると、その後の手続きが非常にスムーズに進みます。相続人の確定がすぐにでき、財産調査や遺産分割協議書の作成といった次のステップに素早く移れるため、結果的に相続手続き全体の時間短縮にも繋がります。
特に、亡くなった方がご自身の親御さんである場合などは、この制度のメリットを最大限に活かせます。とても便利になりましたので、ぜひ利用を検討してみてはいかがでしょうか。
要注意!広域交付制度が使えない3つのケース
非常に便利な広域交付制度ですが、万能ではありません。残念ながら「このケースでは使えない」という注意点も存在します。役所に行ってから「できなかった…」とがっかりしないためにも、事前にしっかりと確認しておきましょう。

ケース1:兄弟姉妹・甥姪の戸籍は取得できない
最も重要な注意点がこちらです。亡くなった方にお子さんがおらず、ご両親もすでに他界している場合、相続人は兄弟姉妹や、先に亡くなった兄弟姉妹の子(甥・姪)になります。
しかし、先ほど説明した通り、広域交付制度を請求できるのは「直系」の親族などに限られます。兄弟姉妹や甥・姪は「傍系(ぼうけい)」の親族にあたるため、亡くなった兄弟(叔父・叔母)の戸籍を広域交付制度で取得することはできません。
この場合は、従来通り、それぞれの戸籍が保管されている本籍地の役所へ個別に請求する必要があります。これが、兄弟姉妹が相続人になるケースで戸籍集めが特に大変だと言われる大きな理由の一つです。
ケース2:郵送や代理人による請求はできない
広域交付制度は、なりすましなどを防ぐため、窓口での厳格な本人確認が必須とされています。そのため、以下の方法は認められていません。
- 郵送での請求
- 代理人(家族や知人など)による請求
「平日は仕事で役所に行く時間がない…」という方もいらっしゃるかと思いますが、必ず請求できるご本人が、顔写真付きの身分証明書を持って窓口に出向く必要があります。また、司法書士等の職務上請求(特定事務受任者による第三者請求)の取扱いについては、戸籍法上の規定があり、広域交付制度の運用や自治体ごとの取扱いにより異なります。職務上請求の可否・手続は事前に請求先の市区町村や法務局へ確認してください。
ケース3:一部の古い戸籍(コンピュータ化されていない戸籍)
現在、多くの市区町村で戸籍はコンピュータで管理されていますが、それ以前は紙の戸籍簿に手書きで記録されていました。相続手続きでは出生まで戸籍を遡るため、こうしたコンピュータ化される前の古い戸籍(改製原戸籍など)が必要になることがよくあります。
一部の市区町村では、このコンピュータ化されていない戸籍が広域交付の対象外となっている場合があります。その場合は、対象外となった戸籍だけ、本籍地の役所に直接請求しなければなりません。とはいえ、取得できる戸籍だけでもまとめて取れるメリットは大きいので、まずは最寄りの窓口で相談してみるのが良いでしょう。
【専門家が解説】戸籍集め、自分でやる?専門家に任せる?
ここまで広域交付制度のメリットと注意点を解説してきました。それを踏まえて、「自分の場合は、自分でやるべきか、それとも専門家に任せるべきか」を判断する基準を、専門家の視点からお伝えします。
「親の相続」なら、まずは自分で挑戦してみましょう
亡くなった方がご自身の親御さんや祖父母、あるいはお子さんといった「直系の親族」である場合は、広域交付制度のメリットを最大限に活用できます。
請求者であるご自身が制度の対象者となりますので、最寄りの役所の窓口へ行けば、まとめて戸籍を取得できる可能性が高いです。費用を抑えられ、手続きも比較的シンプルですので、まずはご自身で挑戦してみることを強くおすすめします。
「兄弟姉妹の相続」は司法書士への依頼がおすすめです
一方で、亡くなったのがご自身の兄弟姉妹である場合は、状況が大きく異なります。
先ほど解説した通り、このケースでは広域交付制度を利用できません。それだけでなく、集めなければならない戸籍の範囲が格段に広がるのです。
【兄弟姉妹相続で必要になる戸籍の例】
- 亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍
- 亡くなった方の両親(父・母)それぞれの出生から死亡までの戸籍
- (すでに亡くなっている兄弟姉妹がいる場合)その方の出生から死亡までの戸籍
このように、関係者の本籍地を一つひとつ追いかけ、全国の役所に何度も請求を繰り返す必要があり、その手間と時間は計り知れません。相続人の中に一人でも連絡の取れない方がいると、さらに手続きは複雑になります。
こうした煩雑な作業は、時間と労力を節約するためにも、戸籍収集と相続手続きの専門家である司法書士に任せるのが賢明な選択と言えるでしょう。私たちにご依頼いただければ、必要な戸籍を正確かつスピーディーに収集し、その後の相続手続きまで一貫してサポートいたします。
もし、ご自身のケースで戸籍の集め方が分からなかったり、手続きが大変だと感じたりした際には、どうぞお気軽に当事務所にご相談ください。ご相談を承ります。
事務所名:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号
担当:司法書士 猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
※ご相談内容によっては、お力になれない場合もございます。あらかじめご了承ください。
まとめ:広域交付制度を上手に活用し、円満な相続準備を
今回は、2024年3月から始まった新しい「戸籍の広域交付制度」について解説しました。
この制度は、相続手続きにおける戸籍集めの負担を大きく減らしてくれる、とても便利な仕組みです。特に、亡くなった方がご自身の親御さんである場合など、直系の親族の相続では大きな力を発揮します。
ただし、兄弟姉e妹が相続人になるケースでは利用できないなど、いくつかの注意点も存在します。大切なのは、ご自身の状況を正しく理解し、制度を上手に活用することです。
もし、ご自身で手続きを進める中で「やっぱり難しい」「時間がない」と感じたら、一人で抱え込まないでください。私たちのような相続の専門家は、あなたの不安な心に寄り添い、円満な相続を実現するためのお手伝いをするためにいます。どんな些細なことでも構いませんので、いつでもお気軽にご相談いただければ幸いです。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
