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「費用をかけずに…」その自筆証書遺言、本当に大丈夫?
「大切な家族のために、きちんと遺言書を残しておきたい。でも、専門家に頼むと費用がかさむから、まずは自分で書いてみよう」
このように考えて、自筆証書遺言の作成を検討される方は少なくありません。ご自身の想いを形に残そうとするそのお気持ちは、本当に素晴らしいものです。
しかし、その一方で、費用を抑えたいという想いから安易に作成された遺言書が、法的な要件を満たさずに無効になってしまったり、内容が曖昧なためにかえってご家族の間で争いを引き起こしてしまったりするケースが後を絶たないのも、悲しい現実です。
良かれと思って残したはずの遺言書が、最愛の家族を苦しめる「争族」の火種になってしまう…。そんな、誰も望まない結末を迎えないために、何に気を付ければよいのでしょうか。
この記事では、相続の専門家である司法書士の視点から、自筆証書遺言を作成する際に絶対に知っておくべき注意点や、無効になってしまう典型的なケースを具体的に解説します。あなたの想いが詰まった大切な遺言書が、確実に家族の未来を守るものとなるよう、ぜひ最後までお読みください。
自筆証書遺言が無効になる6つの落とし穴
自筆証書遺言は、法律で厳格な書き方が定められています。一つでも要件を欠くと、遺言書全体が無効になってしまう可能性があります。ここでは、特に陥りやすい6つの「落とし穴」について、なぜそのルールが必要なのかという理由も踏まえて解説します。
1. 全文が自筆でない(財産目録を除く)
遺言書は、その名の通り「自筆」であることが大原則です。パソコンで作成した本文を印刷して署名・押印したり、手が不自由だからとご家族に代筆を頼んだりしたものは、残念ながら無効となります。これは、遺言者本人の真の意思に基づいて作成されたことを担保するための重要なルールです。
ただし、2019年の法改正により、相続財産を一覧にした「財産目録」については、パソコンでの作成や、通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などを添付することが認められるようになりました。
しかし、その場合でも財産目録のすべてのページに、遺言者本人が署名・押印する必要があります。この署名・押印を忘れがちなので、十分にご注意ください。
2. 日付が特定できない・記載がない
遺言書の作成日も、極めて重要な記載事項です。日付の記載がなかったり、「令和7年11月吉日」のように日付が特定できない書き方をしたりすると、その遺言書は無効になってしまいます。
なぜなら、もし遺言書が複数見つかった場合、法律上は最も日付の新しいものが有効とされるからです。また、遺言を作成した当時に、遺言者に十分な判断能力があったかどうかを判断する上でも、作成日は重要な意味を持ちます。必ず「令和7年11月8日」のように、誰が見ても一日を特定できる形で正確に記載してください。
3. 署名・押印がない
遺言書の末尾には、必ず遺言者本人が署名し、印鑑を押さなければなりません。署名・押印は、その遺言書を誰が作成したのかを最終的に証明するための、いわば「サイン」です。
押印は認印でも法律上は有効ですが、後のトラブルを防ぐためには、実印を使用し、印鑑登録証明書を一緒に保管しておくことを強くお勧めします。これにより、遺言書が本人の意思で作成されたことの証明力が高まります。
また、署名は戸籍上の氏名を正確に記載しましょう。普段使っている通称名などで署名すると、本人確認で問題が生じる可能性があります。
4. 修正方法が間違っている
一度書いた遺言書の内容を修正したい場合、修正テープで消したり、二重線を引いて書き加えたりするだけでは、その修正は認められません。遺言書の修正には、法律で定められた厳格なルールがあります。
具体的には、まず変更したい箇所を二重線などで示し、その近くに正しい文言を記載します。そして、その変更箇所に押印し、さらに遺言書の末尾などの余白に「〇行目、〇字削除、〇字加入」といったように、どこをどのように変更したかを付記して、そこにも署名する必要があります。
この手続きは非常に複雑で、一つでも間違えると修正が無効になるだけでなく、遺言書全体の有効性が争われる原因にもなりかねません。もし修正が必要になった場合は、安易に自分で直さず、全文を書き直すか、専門家に相談するのが安全です。
5. 財産の特定ができない
「自宅の土地と建物を長男に相続させる」といった書き方では、どの不動産を指すのかが曖昧で、法務局での名義変更(相続登記)手続きができない可能性があります。
相続手続きをスムーズに進めるためには、誰が見ても財産を一つに特定できるように記載する必要があります。
- 不動産の場合:登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されている通りに、所在、地番、家屋番号などを正確に記載する。
- 預貯金の場合:「〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇」のように、金融機関名、支店名、預金種別、口座番号まで正確に記載する。
財産目録を正確に作成することが、残されたご家族の手間を大きく減らすことに繋がります。
6. 夫婦など複数人で作成している
仲の良いご夫婦が、「私たちの財産は、このように分けます」と、一つの用紙に連名で遺言書を作成することがあります。これは「共同遺言」と呼ばれ、法律で明確に禁止されており、無効となります。
遺言は、あくまで個人の最終的な意思表示であり、他人の意思に影響されることなく、いつでも自由に撤回・変更できるべきものだからです。ご夫婦であっても、遺言書は必ず各自が一通ずつ、別々に作成しなければなりません。
良かれと思って書いた遺言書が「争族」の火種に…最悪のシナリオ
もし、上記のような落とし穴にはまってしまい、作成した自筆証書遺言が無効と判断されたら、一体どうなるのでしょうか。
その場合、遺言書は「初めから存在しなかった」ものとして扱われます。そうなると、相続人全員で「遺産分割協議」を開き、誰がどの財産を相続するのかを改めて話し合って決めなければなりません。
あなたの「長男に事業で使っている土地を継がせたい」「介護で世話になった長女に多く財産を残したい」といった特別な想いは、法的な効力を失ってしまいます。相続人全員の合意が得られなければ、法律で定められた法定相続分で分けることになります。
その結果、
- 遺産分割協議がまとまらず、相続人同士の関係が悪化し、裁判にまで発展する。
- 話し合いが長引き、預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きが全く進まない。
- 家族間の信頼関係が完全に崩壊し、何年にもわたって憎しみ合う「争族」状態に陥る。
このような悲劇が、実際に多くのご家庭で起こっているのです。
費用を抑えるために自分で書いた遺言書が、結果的に家族に数十万、数百万円もの弁護士費用を負担させ、お金では解決できない深い溝を残してしまう…。これほど皮肉で、悲しいことはありません。
自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべき?費用と確実性を比較
では、どうすれば確実に想いを実現できるのでしょうか。遺言書には、自筆証書遺言のほかに「公正証書遺言」という方法があります。ここでは、両者を費用と確実性の観点から比較し、どちらを選ぶべきかを考えてみましょう。
費用だけで判断は危険!トータルコストで考える
多くの方が自筆証書遺言を選ぶ最大の理由は「費用がかからない」ことでしょう。確かに、紙とペンさえあれば作成できるため、初期費用はほぼ0円です。
一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらうため、財産の価額に応じた手数料がかかります。数万円から十数万円程度かかるのが一般的です。
しかし、ここで考えていただきたいのが「トータルコスト」です。
自筆証書遺言は、相続が始まった後、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります(法務局保管制度を利用しない場合)。これには、戸籍謄本などの書類収集の手間と、数千円から1万円程度の実費がかかります。
もし遺言書が無効になったり、内容が原因で紛争になったりすれば、前述の通り、弁護士費用などで何十万円もの出費が発生する可能性があります。
公正証書遺言の作成費用は、こうした将来のリスクを軽減し、ご家族の負担を和らげるための「備え」と考えることができます。
法務局保管制度のメリットと限界
2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」は、作成した自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度です。これにより、遺言書の紛失や改ざんのリスクがなくなり、面倒な家庭裁判所での「検認」手続きも不要になるという大きなメリットがあります。
これは非常に便利な制度ですが、一つだけ決定的な限界点があります。それは、法務局はあくまで遺言書を「保管」するだけで、その内容が法的に有効かどうかまではチェックしてくれないという点です。
つまり、日付や署名・押印といった外形的な要件は確認してくれますが、「財産の記載が曖昧で特定できない」「特定の相続人の遺留分を侵害していて、将来の紛争の種になる」といった内容面の問題点までは指摘してくれません。せっかく法務局に預けても、内容が原因でトラブルになるリスクは依然として残るのです。
確実性を高めたい場合の選択肢としての公正証書遺言
公正証書遺言は、相続に関するトラブルの可能性を減らし、ご自身の想いを実現するための一つの有力な方法です。
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が、遺言者ご本人から直接内容を聞き取りながら作成します。その過程で、法律的な要件を満たしているかはもちろん、内容が不明確でないか、遺留分など将来トラブルになりそうな点はないかといったことまでチェックしてくれます。
完成した遺言書の原本は公証役場に厳重に保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。
特に、相続人同士の関係が少し複雑な場合や、特定の誰かに財産を多く残したいと考えている場合など、少しでも将来に不安要素があるのなら、公正証書遺言を作成しておくべきです。当事務所では、お客様の想いを形にする遺言書作成業務について、全面的にサポートしています。
費用を抑えたい…そんなお悩みこそ専門家にご相談ください
先日、当事務所にも「できるだけ費用をかけずに、自分で遺言書を作成したい」というお客様がご相談に来られました。
そのお客様は、インターネットや本で書き方を一生懸命に調べ、ご自身で下書きまで作成されていました。その熱意に、私も心から敬意を表しました。
私はまず、お客様が調べてこられた自筆証書遺言の基本的なルール(自署、日付、署名押印など)が正しいことを確認し、財産目録の作成方法や、法務局の保管制度についてもご説明しました。
その上で、正直にこうお伝えしたのです。
「お客様が書かれた内容は、基本的な要件は満たしています。しかし、このままですと、将来ご長男とご長女の間で揉めてしまう可能性が残っています。また、法務局に預けても、この内容面のリスクは解消されません。今、費用を節約することが、将来のご家族の負担になってしまうかもしれません」
そして、自筆証書遺言を相続開始後に家庭裁判所で検認する際の手間や費用、そして公正証書遺言を作成する費用を具体的にお示しし、長い目で見れば、確実性を手に入れるための費用は、決して高すぎるものではないことを丁寧にご説明しました。
お客様は深く頷かれ、「先生の話を聞いて、目先の費用だけにとらわれていたことに気づきました。家族が揉めないことが一番大事です。ぜひ、公正証書でお願いします」とおっしゃってくださいました。
私たちは、ただ手続きを代行するだけではありません。お客様の「費用を抑えたい」というお気持ちに寄り添いながら、何がご家族にとって本当に最善の選択なのかを一緒に考え、ご提案する。それが、私たちの使命だと考えています。
川崎・横浜で遺言書作成なら、いがり円満相続相談室へ
あなたの想いを、法的に有効なだけでなく、残されたご家族が円満に未来へ進むための「道しるべ」として残すお手伝いを、私たちにお任せいただけませんか。
司法書士である代表が直接・丁寧に対応
いがり円満相続相談室では、代表司法書士である猪狩佳亮が、最初のご相談から遺言書の完成まで、責任をもって一貫して対応いたします。司法書士・行政書士・社会保険労務士の3つの国家資格を持つ専門家が、お客様一人ひとりのお話にじっくりと耳を傾け、大量処理ではない、丁寧で温かみのあるサポートを心がけています。
「円満相続」の実現に向けた遺言内容をご提案
私たちは、単に法律の要件を満たすだけの遺言書を作成するわけではありません。遺留分をはじめとする将来の紛争リスクを検討し、ご家族が納得できる円満な相続の実現に向けた遺言内容をご提案するよう努めています。相続税が心配な場合には提携する税理士と、複雑な法律問題が絡む場合には弁護士と連携し、あらゆるお悩みにワンストップで対応できる体制を整えています。
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事務所所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号
所属司法書士会:神奈川県司法書士会
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司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
