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【相談事例】連絡がつかない相続人が…相続登記できずお困りではありませんか?
「昭和の時代に亡くなった祖父の名義のままになっている、田舎の土地があるんです。相続人の一人とどうしても連絡が取れなくて、遺産分割協議が全く進みません…」
最近、このようなご相談が非常に増えています。多くの方が、2024年4月から始まった相続登記の義務化のニュースを見て、「3年以内に登記しないと10万円以下の過料(罰金)が科される」という点に、大きな不安と焦りを感じていらっしゃいます。
「価値がある土地ならまだしも、正直、誰も欲しがらないような田舎の土地。できれば相続放棄したかったけれど、亡くなってから何十年も経っていて、今さら放棄もできない。かといって、連絡のつかない相続人がいるせいで登記もできない。このままだと、私たちは罰金を払うしかないのでしょうか…?」
お気持ちは痛いほどよく分かります。ご自身ではどうにもできない状況で、法律上の義務だけが迫ってくる。本当に途方に暮れてしまいますよね。
でも、ご安心ください。まだ打つ手はあります。
この記事では、あなたと同じように連絡が取れない相続人がいてお困りの方のために、相続登記義務化の罰則を回避するための一つの有効な手段である「相続人申告登記」という制度について、専門家が分かりやすく解説します。
この記事を最後までお読みいただければ、今の不安な状況を乗り越えるための具体的な次の一歩が見えてくるはずです。一人で抱え込まず、一緒に解決策を探していきましょう。
相続登記の義務化とは?まず現状を正しく理解しましょう
まずは、皆さまの不安の根源となっている「相続登記の義務化」について、正確に理解することから始めましょう。制度を正しく知ることで、過度な不安が和らぎ、冷静に対処できるようになります。
いつから?何をしないといけないの?
相続登記の義務化は、2024年(令和6年)4月1日からスタートしました。これにより、不動産を相続した方は、「ご自身のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続登記を申請することが法律上の義務となりました。
重要なポイントは、この義務は過去に発生した相続にも適用されるという点です。つまり、法律が施行された2024年4月1日より前に亡くなった方の不動産で、まだ相続登記が済んでいないものも対象となります。この場合、2027年(令和9年)3月31日までに相続登記を申請する必要があります。
より詳しい内容は「相続登記の義務化とは?罰則(過料)や期限を専門家が解説」のページでも解説していますので、併せてご覧ください。
本当に罰金(過料)を払うことになるの?
「3年以内に登記しないと10万円以下の過料」と聞くと、とても不安になりますよね。しかし、期限を過ぎたら即座に過料が科されるわけではありません。
法律では、「正当な理由」なく申請を怠った場合に、過料の対象となると定められています。
そして、法務省の見解では、この「正当な理由」には以下のようなケースが含まれるとされています。
- 相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース
- 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース
- 申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース
- 他の相続人によるDVや、他の相続人から音信不通の状態にあり、協力を得られないケース
つまり、「相続人の一人と連絡が取れず、遺産分割協議ができない」という状況は、この「正当な理由」に該当する可能性が十分にあるのです。ですから、ただちに過料の心配をする必要はありません。まずは落ち着いて、できることから対策を始めましょう。
参考:【法務省/相続登記の義務化】不動産を相続したらかならず …
相続人申告登記とは?義務化を回避する一つの選択肢
「正当な理由」があるとはいえ、何もしないでいるのは不安ですよね。そこで、具体的な解決策の一つとして登場するのが「相続人申告登記」という新しい制度です。これは相続登記の義務化と同時にスタートしました。
この制度は、一言でいえば、「ひとまず、私が相続人の一人であることを法務局に申し出ておきます」という手続きです。この申出をしておくことで、相続登記の申請義務を履行する一つの手段とされ、過料を免れることができます。
遺産分割協議がまとまらない、連絡が取れない相続人がいる、といった事情で、すぐに相続登記ができない場合に利用できる、いわば「緊急避難的」な措置と考えると分かりやすいでしょう。
相続登記との違いは?
従来の「相続登記」と、新しい「相続人申告登記」は、目的も効果も全く異なります。その違いをしっかり理解しておくことが重要です。
| 相続登記(通常の登記) | 相続人申告登記 | |
|---|---|---|
| 目的 | 不動産の所有権を確定的に移転する | 相続登記の申請義務を一時的に履行する |
| 効果 | 権利関係が確定し、売却や担保設定が可能になる | 権利関係は確定しない(売却等は不可) |
| 申請者 | 相続人全員の協力が必要(遺言等除く) | 相続人が単独で申請可能 |
| 費用(登録免許税) | かかる(固定資産税評価額の0.4%) | かからない。ただし、戸籍や住民票の取得実費、専門家への報酬などは別途必要です。 |
一番の大きな違いは、相続登記が不動産の権利を確定させる「本番」の手続きであるのに対し、相続人申告登記はあくまで義務を果たすための「仮」の報告に過ぎないという点です。
連絡が取れない相続人がいても申請できる?
はい、申請できます。これこそが、相続人申告登記の最大の利点です。
通常の相続登記は、遺産分割協議に基づいて行うため、原則として相続人全員の協力(実印と印鑑証明書)が必要です。だからこそ、連絡が取れない相続人が一人でもいると、手続きがストップしてしまうのです。
しかし、相続人申告登記は、ご自身の判断で、ご自身お一人だけで申請することができます。他の相続人の同意も、実印も、印鑑証明書も一切不要です。
「他の親族に迷惑はかけられない」「自分だけでも、まずやるべきことをやっておきたい」
そうお考えの方にとって、この制度はまさに希望の光となるはずです。
相続人申告登記のメリットと注意すべきデメリット
一人でも申請できる相続人申告登記は非常に便利な制度ですが、実行する前にはメリットとデメリットの両方をしっかり理解しておく必要があります。専門家として、良い面だけでなく注意すべき点も誠実にお伝えします。

メリット:まずは罰則(過料)のリスクを回避できる
相続人申告登記のメリットは、何と言ってもその手軽さにあります。
- 過料のリスクを回避: この申出をすることで、相続登記の申請義務を果たしたとみなされ、ひとまず安心できます。
- 手続きが比較的簡単: 後述しますが、通常の相続登記に比べて集める書類が少なく、手続きの負担が軽いのが特徴です。
- 費用がかからない: 通常の相続登記で必要となる登録免許税(不動産の価格に応じた税金)が、相続人申告登記ではかかりません。戸籍謄本などの取得実費のみで手続きが可能です。
まずは3年という期限のプレッシャーから解放され、落ち着いて根本的な解決策に取り組むための時間を確保できるのが最大のメリットです。
【重要】デメリットと注意点
一方で、この制度はあくまで「一時しのぎ」であることから生じるデメリットも存在します。以下の点を必ずご理解ください。
- 根本的な解決にはならない: 相続人申告登記をしても、不動産の所有権が誰になるか決まったわけではありません。いずれ遺産分割協議を成立させ、最終的な相続登記を行う必要があります。いわば「二度手間」になる可能性はあります。
- 不動産の売却や担保設定はできない: この申出では、登記簿上の所有者は亡くなった方のままです。そのため、その不動産を売却したり、住宅ローンの担保に入れたりすることはできません。
- 固定資産税の通知が届く可能性がある: 相続人申告登記をすると、登記官から市町村役場へその旨が通知されます。これにより、これまで他の相続人に届いていた固定資産税の納税通知書が、申出をしたあなたに届くようになる可能性があります。
特に3点目は重要です。申出をする前に、その不動産の固定資産税が年間いくらくらいなのかを把握しておくことをお勧めします。
相続人申告登記の手続きの流れと必要書類
では、実際に相続人申告登記を行う場合、どのような流れで進めるのでしょうか。具体的なステップと必要書類を見ていきましょう。
ステップ1:必要書類を集める
相続人申告登記に必要な書類は、主に以下の3点です。
- 申出書: 法務局のホームページからダウンロードできます。
- 申出人が被相続人の相続人であることが分かる戸籍謄本等: ここがポイントですが、通常の相続登記に比べて戸籍収集の負担が軽くなる場合が多いものの、亡くなった方と申出人との関係性によっては、複数の戸籍謄本が必要になることもあります。亡くなった方の死亡が確認できる戸籍謄本と、申出をするご自身がその相続人であることが分かる戸籍謄本があれば足ります。通常の相続登記に比べ、戸籍収集の負担が大幅に軽減されています。最近では便利な「戸籍謄本の広域交付制度とは?相続手続きでの使い方と注意点」も利用できます。
- 申出人の住所を証明する書類: 住民票の写しなどが必要です。
ステップ2:申出書を作成し、法務局へ提出する
書類が集まったら、申出書を作成します。申出書には、対象となる不動産の情報を正確に記入する必要があります。不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)や、固定資産税の納税通知書に記載されている不動産の情報を見ながら、間違いのないように記載しましょう。
作成した申出書と必要書類を、不動産の所在地を管轄する法務局へ提出します。法務局の窓口へ直接持っていく方法のほか、郵送で提出することも可能です。
参考:相続人申告登記について
相続人申告登記はゴールではない!根本的な解決に向けて
相続人申告登記を無事に終え、過料の心配がなくなると、ひとまず肩の荷が下りるかと思います。しかし、これはあくまでスタートラインです。本当のゴールは、遺産分割協議をまとめて、不動産の名義をきちんと相続人へ移すことです。
相続人申告登記で確保した時間を使って、根本的な解決に向けて一歩ずつ進んでいきましょう。

連絡が取れない相続人を探す方法
まずは、連絡が取れない相続人の現在の住所を調べることから始めます。専門家は以下のような方法で調査を行います。
- 戸籍の附票(ふひょう)を取得する: 戸籍の附票とは、その人の住所の履歴が記録されている書類です。本籍地のある役所で取得でき、現在の住民票上の住所を突き止めることができます。
- 手紙を送ってみる: 住所が判明したら、まずは手紙を送って連絡を試みます。その際は、こちらの事情を丁寧に説明し、遺産分割協議への協力をお願いする内容にします。いきなり法律的な要求を突きつけるのではなく、あくまで「ご相談」という形でアプローチすることが大切です。普通郵便で反応がなければ、相手が受け取ったことが記録される内容証明郵便を利用することも有効です。
ご自身でこれらの調査を行うことも可能ですが、戸籍の読み解きや附票の取得は慣れていないと時間と手間がかかります。このような調査は、私たち司法書士のような専門家にご依頼いただくことも可能です。
どうしても連絡がつかない場合の法的手続き
手紙を送っても返信がない、あるいは住所地に住んでいる気配がないなど、どうしても連絡がつかない場合は、家庭裁判所を利用した法的な手続きを検討することになります。
- 不在者財産管理人の選任申立て: 相続人が行方不明の場合に、その人の代わりに財産を管理し、遺産分割協議に参加する「不在者財産管理人」を家庭裁判所に選んでもらう手続きです。
- 遺産分割調停の申立て: 相手の住所は分かっているものの、話し合いを無視されたり、協議がまとまらなかったりする場合に、家庭裁判所の調停委員を介して話し合いを進める手続きです。
これらの手続きは、申立てに専門的な書類作成が必要となり、時間も費用もかかります。どの手続きが最適かは状況によって異なるため、実行する前には必ず司法書士などの専門家にご相談ください。
まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください
連絡が取れない相続人がいる中での相続手続きは、精神的なご負担が本当に大きいものです。相続登記の義務化というプレッシャーも加わり、八方ふさがりのように感じてしまうかもしれません。
今回ご紹介した「相続人申告登記」は、そうした状況を打開するための、まず取り組むべき有効な一手です。この手続きでひとまず義務化の期限をクリアし、落ち着いて次のステップに進むことができます。
以前、当事務所にご相談に来られた方で、まさに同じような状況で悩んでいらっしゃるケースがありました。
【当事務所での解決事例】
ご相談者様は、何十年も前に亡くなった祖父名義の田舎の土地について、法定相続人が12名もいる上、そのうちの一人と全く連絡が取れない状況でした。相続放棄もできず、義務化の過料に怯えていらっしゃいました。
まず、私たちは「過料の適用時期は個々の事情で異なりますが、2024年4月1日より前に開始した相続については、2027年3月31日という一つの期限が設けられています。今から準備すれば十分間に合います」とお伝えし、安心いただくことから始めました。
その上で、まずは当事務所で相続人調査を行い、連絡が取れない方へ丁寧な手紙をお送りしましたが、残念ながらお返事はありませんでした。そこで、ご相談者様と連絡の取れた他の相続人様からご依頼をいただき、当事務所で相続人申告登記の手続きを代行しました。これにより、皆様の過料のリスクを低減することができました。
もちろん、これが根本的な解決ではないこと、将来的に固定資産税の通知が届く可能性があることなども丁寧にご説明し、ご納得いただいた上で手続きを進めました。今後は、不在者財産管理人の選任も視野に入れ、最終的な相続登記に向けたサポートを継続していく予定です。
このように、専門家が介入することで、複雑に絡み合った糸を一つひとつ解きほぐしていくことが可能です。
相続人申告登記はあくまで一時しのぎであり、その先の遺産分割協議や法的な手続きには、専門的な知識と経験が不可欠です。「自分の場合はどうすればいいんだろう?」と少しでも迷われたら、どうか一人で抱え込まず、私たちにご相談ください。
いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、代表司法書士:猪狩 佳亮、所属:神奈川県司法書士会)では、初回のご相談は無料で承っております。まずは現状をお話しいただくだけで、気持ちが楽になり、やるべきことが明確になるはずです。川崎市・横浜市を中心に、皆様からのご連絡を心よりお待ちしております。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
