「終われる後見」へ法改正|成年後見制度の変更点と相続対策

成年後見制度改正へ。法改正で「終われる後見」の実現が進む

ご親族の判断能力に不安を感じ始めたとき、財産管理の方法として「成年後見制度」が頭に浮かぶ方は少なくないでしょう。しかし、同時に「一度利用し始めたら、本人が亡くなるまでやめられない」という重いイメージが、利用への大きな壁となってきました。

そんな中、長年の課題だったこの点に光が差す、大きな法改正が進んでいます。2026年4月3日に、成年後見制度の見直しを盛り込んだ民法改正案が閣議決定され、今後、国会で審議される見通しです。

この法改正の最大の目玉は、目的を達成すれば終了できる、いわゆる「終われる後見」が実現することです。これまで「終わらない」ことがネックで利用をためらっていた多くのご家族にとって、これはまさに朗報と言えるでしょう。

この記事では、成年後見制度がどのように変わるのか、そしてその変更があなたの家族の相続や生前の対策にどのような影響を与えるのかを、相続の専門家である司法書士が分かりやすく解説していきます。

なぜ今、成年後見制度が変わるのか?現行制度の3つの課題

今回の法改正は、多くの人が感じていた現行制度の「使いづらさ」を解消するために行われます。なぜ、今、制度の大きな見直しが必要なのでしょうか。そこには、大きく3つの課題がありました。

  1. 原則として生涯続く「終身制」の壁
    現行制度の最大の問題点は、一度後見が開始されると、ご本人の判断能力が回復しない限り、亡くなるまで制度が続いてしまう「終身制」です。例えば、「認知症の母の不動産を売却したい」という一時的な目的で制度を利用した場合でも、売却が終わった後も後見は続き、後見人への報酬も継続的に発生してしまいます。この「終われない」という点が、利用の大きなハードルとなっていました。
  2. 必要以上の支援になりがちな「包括的」な権限
    現行制度は、ご本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。特に「後見」の場合、後見人には財産管理に関する包括的な代理権が与えられます。しかし、ご本人にとっては「この契約手続きだけ手伝ってほしい」といった限定的なニーズしかない場合でも、必要以上に広範なサポートを受けることになり、本人の意思決定の機会を奪いかねないという側面がありました。
  3. 専門家への報酬など「経済的」な負担
    専門家が後見人に就任した場合、継続的に後見人への報酬が発生します。制度が終身続くということは、この経済的な負担も生涯続くことを意味します。これが家計を圧迫し、制度利用を躊躇させる一因となっていました。

これらの課題を解決し、より多くの人が安心して利用できる制度を目指すのが、今回の法改正の大きな目的です。

【図解】成年後見制度改正の2大ポイント

今回の法改正で、制度はどのように使いやすくなるのでしょうか。特に重要な変更点を2つのポイントに絞って解説します。

成年後見制度の法改正による変更点を比較した図解。左側に「これまでの制度」として終身制や包括的支援といった課題を、右側に「これからの制度」として目的達成で終了可能、オーダーメイド型支援といったメリットを分かりやすく示している。

ポイント1:「終わりのない後見」から「目的達成で終われる後見」へ

今回の改正で最も注目されているのが、家庭裁判所の判断により、後見を終了できる仕組みが導入される点です。

具体的には、申立ての際に定めた制度利用の「目的」(例えば、遺産分割協議を成立させる、特定の不動産を売却するなど)が達成され、ご本人の保護のために後見を継続する必要性がなくなったと家庭裁判所が認めれば、後見を終了させることができるようになります。

これにより、従来のようにご本人が亡くなるまで制度が続き、専門家への報酬が発生し続けるという問題が解消され、一時的な支援が必要な場合に制度を利用しやすくなることが期待されます。

ポイント2:「すべてお任せ」から「必要なことだけ頼める」へ

もう一つの大きな変更点は、現行の「後見」「保佐」「補助」という3つの類型が、最も柔軟な「補助」に一本化されることです。

これまでは、判断能力のレベルによって支援の範囲が画一的に決まりがちでした。しかし改正後は、ご本人の状態や希望に合わせて、「この不動産の売却だけ」「この施設の入所契約だけ」といった形で、必要な支援内容を柔軟に設計する「オーダーメイド型」の支援が基本となります。

これにより、ご本人の意思やまだ残っている能力(残存能力)が最大限尊重され、自己決定権を大切にしながら、必要な部分だけを専門家がサポートするという、より本人本位の制度へと生まれ変わります。

【司法書士が解説】法改正は相続にどう影響する?

では、この法改正は、私たちにとって最も身近な問題である「相続」にどのような影響を与えるのでしょうか。司法書士としての実務的な視点から、メリットと注意点を解説します。このテーマの全体像については、相続人が認知症の場合どうする?遺産分割の正しい進め方で体系的に解説しています。

メリット:遺産分割協議のためだけに後見制度を利用しやすくなる

相続における最大のメリットは、遺産分割協議のためだけに成年後見制度を利用する、という選択肢が現実的になることです。

相続人の中に認知症の方がいる場合、その方が参加しない遺産分割協議は無効になってしまいます。そのため、成年後見人を選任し、ご本人に代わって協議に参加してもらう必要があります。しかし、これまでは「終身制」がネックとなり、「遺産分割のためだけに、一生続く後見制度を使うのは…」とためらうご家族が非常に多かったのです。

法改正後は、「遺産分割協議の完了」を目的として後見を開始し、無事に協議が終わり財産の分配が済めば、後見を終了させられる可能性が生まれます。これにより、相続手続きが停滞するリスクを大きく減らすことができるでしょう。

注意点:「自由にやめられる」わけではない!終了は裁判所の判断

ここで一つ、非常に重要な注意点があります。「終われる後見」といっても、申立人やご家族の都合で「自由に」やめられるわけではない、ということです。

あくまで後見を終了させるかどうかの最終的な判断権限は、家庭裁判所にあります。例えば、遺産分割協議は終わったものの、ご本人が多額の預貯金を相続することになり、その後の財産管理に依然として支援が必要だと裁判所が判断すれば、後見は継続される可能性があります。

「目的が終われば自動的に終了する」というわけではない点は、誤解のないように理解しておく必要があります。

司法書士から成年後見制度の注意点について説明を受ける老夫婦。専門家の話を真剣に聞くことで、制度のメリットだけでなくリスクも理解しようとしている様子。

実務から見る「終われる後見」のリアルと今後の対策

実は、私たち司法書士は、これまでも法改正を待たずに「実質的に終われる後見」を実現するお手伝いをしてきました。

当事務所にご依頼いただくケースは、大きく2つのパターンに分かれます。

一つは、身寄りのない方が施設に入所される際など、生涯にわたるサポートが必要なケースです。この場合は、文字通りご本人が亡くなるまで、収支のバランスを見ながら財産をお守りします。

もう一つが、まさに今回の法改正で焦点となっている「一時的な支援」が必要なケースです。例えば、ご親族はいるものの、認知症の親御さんの不動産売却や遺産分割協議のためだけに専門家のサポートが必要だ、というご相談です。

このようなご相談に対し、現行制度では「一度専門家が後見人になると、原則として外せない」という壁がありました。しかし、それではご家族の負担が大きすぎます。そこで当事務所では、不動産売却や遺産分割協議といった専門的な手続きが完了した段階で、後見人の役割をご親族に引き継ぐ「リレー型後見」という手法を裁判所に認めてもらい、実践してきました。

専門家が担うべき部分が終われば、あとはご家族のサポート(親族後見人)に切り替える。これにより、必要以上の専門家報酬がかかり続ける事態を避け、ご家族の負担を最小限に抑える工夫を重ねてきたのです。

この経験から言えるのは、法改正によって制度の入口は広がるものの、個々の状況に合わせて最適な形で制度を「終わらせる」ためには、やはり専門的な知識と裁判所との折衝経験が重要になるということです。

法改正を待つべき?今すぐ動くべき?専門家の判断基準

「新しい制度が始まるなら、それまで待った方がいいの?」と考える方もいらっしゃるでしょう。この問いに対する答えは、状況によって異なります。判断の基準となるのは「緊急性」と「目的」です。

今すぐ現行制度で動くべきケース

ご本人が悪質な訪問販売のターゲットになっている、すでに預金口座が凍結されて生活費や医療費の支払いに困っている、といった緊急性が高い場合は、法改正を待つべきではありません。ご本人の財産と生活を守ることが最優先です。このようなケースでは、迅速に後見開始の申立てを行う必要があります。

改正を視野に入れて準備するケース

「将来、親の財産をどう管理しようか」「いつか実家を売却する時が来るかもしれない」といった、緊急性はないものの将来に備えたいという段階であれば、慌てて現行制度で申し立てる必要はないかもしれません。法改正を待つ間に、他の選択肢をじっくり検討する時間があります。

特に後者の場合、「待つ」と言っても何もしないのではなく、判断能力がしっかりしている今だからこそできる最善の対策を検討することが重要です。具体的には、本人の意思で後見人や支援内容を決められる「任意後見契約」や、より柔軟な財産管理が可能な「家族信託」といった方法があります。どの方法がご家族にとって最適か、一度司法書士などの専門家に相談してみることをお勧めします。

まとめ:法改正後も「生前対策」の重要性は変わらない

成年後見制度の改正により、「終われる後見」が実現することは、制度の利用しやすさを格段に向上させる大きな一歩です。特に、相続手続きを進めるうえでのハードルが下がることは、多くのご家族にとってメリットとなるでしょう。

しかし、忘れてはならないのは、成年後見制度があくまでご本人の判断能力が低下した後に利用する「事後的な」対策であるという点です。

ご本人の意思を最も尊重し、ご家族の希望に沿った形で財産管理や承継を実現するための最善の策は、やはり判断能力がしっかりしているうちに行う「事前の」対策に他なりません。

具体的には、ご自身の想いを形にする遺言書の作成や、信頼できる家族に将来の財産管理を託す「任意後見契約」「家族信託」といった方法です。これらの生前対策をきちんと行っておけば、そもそも成年後見制度を利用する必要がなくなるケースも少なくありません。

今回の法改正をきっかけに、ご自身の、そしてご家族の将来について一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。少しでも不安な点があれば、ぜひお早めに専門家にご相談ください。

参照:法務省|法制審議会-民法(成年後見等関係)部会

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