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お兄様が遺産を開示してくれない…まず知っておくべきこと
「お父様が亡くなった後、遺産を管理している兄に財産の内容を聞いても、なんだかんだ理由をつけて教えてくれない…」
大切なご家族を亡くされた悲しみの中で、身内であるお兄様との間に溝ができてしまうのは、本当にお辛いことと思います。不信感が募り、ご自身の権利がきちんと守られるのか、不安で夜も眠れないという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、どうかご安心ください。相続において、特定の相続人が財産を開示してくれないというケースは、決して珍しいことではありません。そして、そのような状況でも、ご自身の権利として遺産の内容を調べる方法はきちんと用意されています。
この記事では、相続の専門家である司法書士が、お兄様が遺産を開示してくれない状況で、ご自身で財産を調査するための具体的な方法を、手順を追って分かりやすく解説します。感情的にならず、冷静に、着実に一歩を踏み出していきましょう。
なぜ教えてくれない?考えられる理由とあなたの権利
まず、お兄様がなぜ財産の内容を教えてくれないのか、その理由を少しだけ考えてみましょう。もちろん、「財産を独り占めしたい」という悪意のあるケースも考えられますが、必ずしもそれだけとは限りません。
- 単純に手続きが面倒で後回しにしている
- 親の財産は長男である自分が管理するのが当然だと思っている
- 財産の全体像をまだ把握できておらず、聞かれても答えられない
- あなたに財産を渡したくないという感情的なわだかまりがある
様々な理由が考えられますが、どのような理由であれ、あなたにも亡くなった方の財産を正確に知る正当な権利があります。これは法律で認められた相続人としての当然の権利です。ですから、財産調査に乗り出すことに、何らうしろめたさを感じる必要はありません。感情的な対立を避けるためにも、客観的な事実を明らかにするための第一歩として、冷静に調査を進めることが大切です。
【重要】相続財産に法的な「開示義務」はないという現実
ここで一つ、非常に重要な点をお伝えしなければなりません。それは、原則として、特定の相続人が他の相続人に対して遺産の内容をすべて開示する法的な「義務」はない、ということです。
「権利があるのに、義務はないの?」と矛盾しているように聞こえるかもしれません。これはつまり、お兄様に対して「財産をすべて見せなさい!」と強く迫っても、お兄様がそれに応じなければ、法的に強制することは難しい、ということを意味します。
だからこそ、お兄様との不毛な言い争いに時間を費やすのではなく、ご自身の権利に基づき、法的な手続きに則って客観的な財産調査を行うことが、最も確実で賢明な解決策となるのです。

【実践編】自分でできる遺産調査の具体的な3つのステップ
「何から手をつければいいか分からない…」という方のために、ここからは財産調査の具体的な手順を3つのステップに分けて解説します。この順番で進めれば、誰でも着実に調査を進めることができます。
- ステップ1:誰が相続人かを確定させる(戸籍謄本の収集)
- ステップ2:故人の遺品などから調査の手がかりを探す
- ステップ3:財産の種類別に専門機関へ照会する
相続手続きの第一歩は、財産の全体像を正確に把握することです。これは、お兄様が財産を教えてくれないケースに限らず、相続人全員が故人の財産を誰も知らない、といった場合でも同様に重要なプロセスです。まずはこの3ステップで全体像を掴みましょう。
ステップ1:相続人の確定(戸籍謄本の収集)
財産調査を始める前に、まず「誰が法的な相続人なのか」を確定させる必要があります。そのために、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの一連の戸籍謄本等を集めます。
「相続人は兄と自分だけのはずなのに、なぜ?」と思われるかもしれません。しかし、ご自身の知らない間に親が養子縁組をしていたり、前妻との間に子がいたりする可能性もゼロではありません。こうした戸籍謄本一式は、後のステップで金融機関や法務局に財産の照会をする際に、「あなたが正当な相続人であること」を証明するための必須書類となります。
戸籍は、本籍地の市区町村役場で取得します。遠方の場合は郵送で請求することも可能です。最近では、戸籍謄本の広域交付制度とは?相続手続きでの使い方と注意点という便利な制度も始まり、最寄りの役所でまとめて取得できる場合もあります。
ステップ2:故人の遺品や郵便物から手がかりを探す
相続人が確定したら、次はお父様のご自宅などにある遺品の中から、財産の存在を示す「手がかり」を探します。お兄様が協力的でなくても、見つけられるものはあるかもしれません。
- 預金通帳、キャッシュカード、クレジットカード
- 銀行や証券会社、保険会社からの封筒やハガキ(取引残高報告書など)
- 固定資産税の納税通知書(毎年4月~6月頃に届きます)
- 権利証または登記識別情報通知(不動産の所有権を示す書類)
- 公共料金の領収書(引き落とし口座の手がかりになります)
- 確定申告書の控え
たとえ古いものでも構いません。金融機関の支店名や口座番号、証券会社の名前などが一つでも分かれば、それが調査の大きな足がかりとなります。
ステップ3:財産の種類別に調査を進める
手がかりが見つかったら、いよいよ財産の種類ごとに専門機関への照会手続きを進めていきます。主な財産である「預貯金」「不動産」「株式・投資信託」の調査方法について、次の章で詳しく解説します。

財産別|具体的な調査方法と必要書類
ここからは、ステップ3の具体的な中身について、財産の種類ごとに詳しく見ていきましょう。専門的な手続きも含まれますが、一つひとつ丁寧に進めれば大丈夫です。
預貯金の調査:金融機関への残高証明書請求
預貯金の調査は、取引があったと思われる金融機関に対して行います。通帳やキャッシュカードなどの手がかりがあれば、その金融機関の窓口で手続きをします。
【手続きの流れ】
- 金融機関の窓口で、相続が発生した旨を伝え、預金の調査をしたいと申し出る。
- 所定の依頼書に記入し、必要書類を提出する。
- 後日、亡くなった日時点の「残高証明書」や「取引履歴」が発行される。
【主な必要書類】
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- ご自身の戸籍謄本
- ご自身の実印と印鑑証明書
- ご自身の本人確認書類(運転免許証など)
もし手がかりが全くない場合は、お父様のご自宅や勤務先の近くにある金融機関(メガバンク、地方銀行、信用金庫など)に、一つひとつ「しらみつぶし」に照会をかけていくことになります。また、ゆうちょ銀行は全国どこにでも口座がある可能性が高いので、まずは「貯金照会」を試してみるのがおすすめです。
不動産の調査:名寄帳の取得と新制度の活用
お父様が所有していた土地や建物を調べるには、不動産が所在する市区町村の役所(都税事務所など)で「名寄帳(なよせちょう)」の写しを取得するのが最も確実です。
名寄帳とは、その市区町村内にある同一名義人の不動産を一覧にしたものです。固定資産税の納税通知書に記載されている物件以外にも不動産を所有している可能性がある場合に非常に有効です。
【さらに朗報:令和8年2月から新制度がスタート】
これまでは市区町村ごとに名寄帳を取得する必要がありましたが、令和8年2月2日(予定)から「所有不動産記録証明制度」という画期的な制度が始まります。この施行日は法務省の発表に基づくものです。これにより、法務局で手数料を納めれば、全国の登記情報を検索し、亡くなった方名義の不動産を一覧で証明してもらえるようになります。これにより、これまで発見が難しかった遠方の不動産なども把握しやすくなる可能性があります。
株式・投資信託の調査:「ほふり」への開示請求
株式や投資信託といった有価証券は、証券会社の名前が分からないと調査が難しいと思われがちです。しかし、「証券保管振替機構(しょうけんほかんふりかえきこう)」、通称「ほふり」に開示請求をすることで、お父様が口座を開設していた証券会社名を調べることができます。
【手続きの流れ】
- 「ほふり」のウェブサイトから開示請求書を入手し、必要事項を記入する。
- 戸籍謄本などの必要書類を揃え、郵送で請求する。
- 後日、「登録済加入者情報」が郵送で届き、取引のあった証券会社名が判明する。
- 判明した各証券会社に対し、預貯金と同様に残高証明書の請求手続きを行う。
この「ほふり」への開示請求は、一般の方にはあまり知られていませんが、有価証券の調査において非常に強力な手段です。

自分で調査が難しい…司法書士に依頼するメリットと費用
ここまでご自身で調査する方法を解説してきましたが、「戸籍集めが大変そう」「平日に役所や銀行に行く時間がない」「手続きが複雑で自信がない」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、無理せず専門家を頼ることを検討してください。
司法書士は相続手続きの専門家です
私たち司法書士は、相続手続きに関する専門的な業務を行います。具体的には、ご依頼に基づき、相続人を確定させるための戸籍謄本の収集や、各金融機関、役所、法務局、証券保管振替機構への照会手続き、そして不動産の名義変更(相続登記)の代理申請などを行うことができます。
実務的な経験から、わずかな手がかりを糸口に財産を突き止めるノウハウも持っています。何より、調査で判明した不動産の名義変更(相続登記)まで、ワンストップでスムーズに対応できるのが司法書士の大きな強みです。
【専門家の視点】ご相談者様の不安を「安心」に変えた事例
以前、まさに「お兄様が亡き父の財産を何も教えてくれない」と、不安な面持ちでご相談に来られた方がいらっしゃいました。ご相談者様は若くして実家を出ており、お父様の財産状況は全く分からず、お兄様との間に距離ができてしまったことにも心を痛めておられました。
このような状況で、相続人同士が直接やり取りをしても、感情的な対立が深まるばかりで、強制的に開示させることは困難です。そこで、私たちはまず、法的な手続きに則って冷静に財産を確定させることをご提案しました。
具体的には、まずご依頼に基づき、職務上の必要性が認められる範囲で戸籍一式を収集し、相続人を確定させました。その後、有価証券については「ほふり」への開示請求を行い、お父様が複数の証券会社に口座をお持ちであることを突き止めました。各証券会社に残高証明を請求し、保有銘柄や評価額もすべて判明しました。
不動産については、令和8年から始まる新制度にも触れつつ、まずはご実家近隣の役所で名寄帳を取得。預金口座については、ご実家周辺の金融機関に丁寧にしらみつぶしで照会をかけ、複数の口座を発見することができました。
客観的な財産リストが完成したことで、ご相談者様は初めて安心した表情を浮かべられました。感情的な対立ではなく、事実に基づいてお兄様と話し合う準備ができたのです。このように、専門家が間に入ることで、精神的なご負担を大きく軽減し、円満な解決への道筋をつけることができます。
依頼費用の目安と当事務所の料金体系
司法書士に財産調査を依頼した場合の費用は、調査する財産の種類や数によって異なりますが、一般的には5万円~15万円程度(消費税別、戸籍等取得実費別途)が目安となります。これには、専門家としての報酬が含まれます。ご依頼いただく前には、必ず個別の状況に応じた明確なお見積もりを提示いたしますので、ご安心ください。
ご自身で時間と労力をかけて手続きを行う手間や、調査漏れのリスクを考えれば、専門家に任せるメリットは大きいと感じていただけるはずです。当事務所では、ご依頼いただく前に必ず明確なお見積もりを提示しておりますので、安心してご相談ください。詳しい料金については、当事務所の料金一覧ページもご覧ください。
調査が終わったらどうする?円満な遺産分割に向けて
財産調査が完了し、遺産の全体像が明らかになったら、次はその財産を相続人全員でどのように分けるかを話し合う「遺産分割協議」に進みます。
調査によって作成された客観的な財産目録(財産の一覧表)をベースに話し合うことで、感情的な対立を避け、冷静な協議がしやすくなります。誰がどの財産を相続するかが決まったら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめ、相続人全員が署名・押印します。
この遺産分割協議書の作成も、私たち司法書士がサポートできます。法的に有効で、後の手続き(不動産の名義変更や預金の解約)にもスムーズに使える書類を作成いたしますので、お気軽にご相談ください。詳しくは「遺産分割協議書の作成」のページもご参照ください。
まとめ|一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください
お兄様が遺産を開示してくれないという困難な状況でも、ご自身の権利として財産を調査する方法があることをご理解いただけたでしょうか。
まずは戸籍を集め、手がかりを探し、財産ごとに一つひとつ照会をかけていく。ご自身でできることもたくさんあります。しかし、そのプロセスで少しでも「難しい」「時間がない」「精神的に辛い」と感じたら、どうか一人で抱え込まないでください。
私たち「いがり円満相続相談室」(司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所)は、川崎市・横浜市を中心に、これまで数多くの相続手続きをお手伝いしてまいりました。あなたのお気持ちに寄り添い、煩雑な財産調査からその後の遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更まで、円満な相続が実現できるよう全力でサポートすることをお約束します。(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、代表者:司法書士 猪狩 佳亮、所属:神奈川県司法書士会)
初回の相談は無料です。まずはお話をお聞かせいただくことで、きっと心が軽くなるはずです。お気軽にお問い合わせください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
