このページの目次
「すでに取り壊した実家」の相続登記は必要?【司法書士が解説】
「相続登記が義務化されたと聞いて、慌てて実家の手続きをしようと思ったのですが…」
先日、Aさんという方から、このようなご相談をいただきました。お父様が亡くなり、長野県にあるご実家の土地と建物を相続されたとのこと。相続登記の義務化のニュースを見て、早めに手続きを済ませたいとお考えでした。
土地については無事に手続きを進められたのですが、建物について問題が起きました。Aさんが市役所で固定資産税評価証明書を取得しようとしたところ、「対象の建物は存在しないため、証明書は発行できません」と言われてしまったのです。
驚いたAさんが現地を確認すると、確かに建物はすでに取り壊されていました。私が「その場合は、まず土地家屋調査士に依頼して『建物滅失登記』という手続きが必要ですね」とお伝えしたところ、Aさんはさらに不安そうな顔でこう尋ねられました。
「先生、その取り壊した建物についても、相続登記をしなくてはいけないのでしょうか?」
田舎の不動産を相続された方から、実は非常によくいただくご質問です。あなたも、Aさんと同じような状況で、どうすれば良いのか悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。
結論:建物の相続登記は不要!ただし建物滅失登記は義務です
結論から申し上げますと、Aさんのようにすでに取り壊されている建物について、相続登記をする必要はありません。なぜなら、相続登記は「不動産の権利を、亡くなった方から相続人へ移す」手続きですが、物理的に存在しない建物の権利を移すことは意味がないからです。
しかし、「何もしなくて良い」というわけではありません。ここが最も重要なポイントです。
建物がなくなった場合、「建物滅失登記(たてものめっしつとうき)」という手続きを法務局に申請することが、法律(不動産登記法第57条)で義務付けられています。この申請は、建物の取り壊しから1ヶ月以内に行わなければなりません。
相続登記の義務化について、より全体像を知りたい方は相続登記の義務化とは?罰則(過料)や期限を専門家が解説の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
建物滅失登記とは?なぜ必要なのか
「建物滅失登記」という言葉を初めて聞いた方も多いかもしれませんね。これは、法務局にある不動産の公式な記録である「登記簿」から、取り壊された建物の情報を削除する手続きのことです。
この手続きの目的は、登記簿上の記録と、不動産の実際の状況を一致させることにあります。もし滅失登記をしないと、現地にはもう建物がないのに、登記簿上はずっと建物が存在し続けるという、いわば「幽霊物件」のような状態になってしまいます。これでは、不動産を売買したり、担保に入れて融資を受けたりする際に、正しい情報がわからずトラブルの原因になってしまうのです。
社会全体の不動産取引の安全性を保つためにも、非常に重要な手続きだとご理解ください。
【重要】土地の相続登記は別途必要です
ここで一つ、絶対に間違えてはいけない点があります。それは、建物がなくなったとしても、その下の土地の相続登記は別途必要だということです。
建物は物理的に消えてしまいましたが、土地は相続財産として残り続けます。そして、2024年4月1日から始まった相続登記の義務化は、この土地にも適用されます。したがって、「建物の相続登記は不要だったから、土地も何もしなくていいや」と考えるのは大変危険です。

この関係性を整理すると、以下のようになります。
- 取り壊した建物:建物滅失登記が必要(相続登記は不要)
- 建物が建っていた土地:相続登記が必要
土地の相続登記は誰の名義にすべきかについては、ご家庭の状況によって最適な選択が異なりますので、慎重に検討することが大切です。
建物滅失登記を放置する3つの深刻なリスク
「1ヶ月以内に申請が必要と言われても、忙しくてなかなか…」「昔に取り壊したまま、ずっと忘れていた」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、建物滅失登記を放置することは、単なる「手続き忘れ」では済まされない、深刻なデメリットにつながる可能性があります。
リスク1:10万円以下の過料(行政上の制裁金)が科される可能性
不動産登記法第164条では、正当な理由なく建物滅失登記の申請を怠った場合、10万円以下の過料に処すると定められています。
「実際にはめったに請求されないらしい」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、それはあくまで過去の話です。法律に罰則規定がある以上、いつ請求されても文句は言えません。特に、空き家問題が社会問題化し、相続登記が義務化された流れを考えると、今後はこのような表示に関する登記についても、行政の目が厳しくなる可能性は十分にあるでしょう。
リスク2:土地の売却や担保設定がスムーズにできない
将来、その土地を売却したり、家を建てるためにローンを組んだりする際に、この問題が大きな足かせとなります。
いざ土地を売ろうとしても、登記簿上に「幽霊建物」が残っていると、買主は安心して取引できません。金融機関も、現況と異なる不動産を担保に融資はしてくれないでしょう。
結局、売却や融資の直前になって慌てて滅失登記の手続きをすることになり、余計な時間と手間がかかってしまいます。その間に買主の気が変わってしまったり、金利が上がってしまったりと、売却の絶好のタイミングを逃してしまうことにもなりかねません。将来の不動産の価値を損なわないためにも、「問題の先送りは損をするだけ」と覚えておいてください。

相続人が建物滅失登記を行う手続きの流れと必要書類
では、具体的に建物滅失登記はどのように進めればよいのでしょうか。ここでは、相続人が申請する場合の一般的な流れと必要書類を解説します。
ステップ1:必要書類を収集する
まずは、申請に必要な書類を集めます。主に以下の書類が必要となります。
| 書類名 | 取得場所 | 備考 |
|---|---|---|
| 登記申請書 | 法務局の窓口、またはウェブサイトからダウンロード | 自分で作成します。 |
| 建物滅失証明書(取毀(とりこわし)証明書) | 建物を解体した業者 | 解体業者の印鑑証明書、代表者事項証明書も併せて発行してもらうのが一般的です。 |
| 相続があったことを証明する書類 | 市区町村役場 | 亡くなった方(被相続人)の死亡の事実がわかる戸籍謄本(または除籍謄本)と、申請する相続人の現在の戸籍謄本が必要です。 |
| 申請人の住所証明情報 | 市区町村役場 | 申請する相続人の住民票の写しなどです。 |
| 案内図(地図) | 自分で用意 | 建物の所在地がわかる地図のコピーなどで構いません。 |
特に、建物を解体した業者から発行される「建物滅失証明書」が重要になります。もし紛失してしまった場合や、かなり昔の解体で業者がわからない場合は、手続きが複雑になる可能性があります。
また、相続人が申請するため、亡くなった方との関係を証明するための戸籍謄本なども必要になります。相続登記の必要書類と重なる部分もありますが、収集には手間と時間がかかることが多いです。
ステップ2:建物滅失登記の申請書を作成・提出する
書類が揃ったら、建物滅失登記の申請書を作成します。申請書は法務局のウェブサイトから雛形をダウンロードできますが、不動産の表示など、登記簿謄本を見ながら正確に記載する必要があります。
作成した申請書と収集した書類一式を、建物があった場所を管轄する法務局に提出します。提出方法は、窓口に直接持参する方法と、郵送で行う方法があります。
申請書に不備があると、法務局から修正を指示され、何度も足を運ぶことになる可能性もありますので、注意が必要です。
申請書の記載例については、法務局のウェブサイトで確認できます。
参考:法務局「建物滅失登記申請書 記載例」
注意点:相続人の一人から申請できるが…
相続人が複数いる場合、この建物滅失登記の「申請」は、相続人のうちの一人が代表して単独で行うことができます。他の相続人全員から委任状をもらう必要はありません。
ただし、ここで一つ注意すべき点があります。それは、登記申請の前提となる建物の「取り壊し」という行為そのものは、遺産分割が終わる前であれば、相続人全員の同意が必要だったという点です。
もし、他の相続人の同意を得ずに建物を解体してしまっていた場合、後から「なぜ勝手に壊したんだ」「建物にも価値があったはずだ」といったトラブルに発展する可能性があります。特に疎遠な兄弟がいる場合などは、慎重に進める必要があります。
滅失登記の費用は?司法書士に相談すべき?
ここまで手続きの流れを見てきて、「自分でやるのは大変そう…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。では、費用はどのくらいかかるのでしょうか。また、誰に相談すれば良いのでしょうか。
自分で手続きする場合と専門家に依頼する場合の費用比較
費用を比較すると、以下のようになります。
- 自分で手続きする場合:戸籍謄本や住民票の取得費用など、数千円程度の実費のみです。登録免許税はかかりません。
- 専門家に依頼する場合:土地家屋調査士への報酬が発生します(費用は地域や難易度、必要書類の有無などによって異なります)。
もちろん、これに加えて、土地の相続登記も済んでいない場合は、別途司法書士への報酬が必要になります(費用は不動産の数や相続関係の複雑さ、戸籍収集の範囲などによって異なります)。相続登記の費用と合わせて、全体の予算感を把握しておくと良いでしょう。
滅失登記は「土地家屋調査士」、相続登記は「司法書士」へ
ここで専門家の役割分担を整理しておきましょう。同じ「登記」でも、内容によって専門家が異なります。
- 建物滅失登記:建物の大きさや構造、所在など、不動産の「物理的な状況」を記録する『表示に関する登記』です。これは土地家屋調査士の専門分野です。
- 相続登記:誰が所有者かといった不動産の「権利関係」を記録する『権利に関する登記』です。これは司法書士の専門分野です。
「じゃあ、両方の専門家を探さないといけないの?」とご心配になるかもしれませんが、ご安心ください。私たちのような司法書士事務所にご相談いただければ、提携している信頼できる土地家屋調査士と連携し、土地の相続登記から建物の滅失登記までをワンストップで対応することが可能です。相続手続きの専門家選びで迷われた際は、まずはお気軽にお声がけください。
専門家への依頼をおすすめするケース
費用を抑えるためにご自身で手続きを行うことも可能ですが、以下のようなケースに当てはまる場合は、専門家への依頼を強くおすすめします。
- 平日の日中に、役所や法務局へ行く時間を確保するのが難しい
- 集めるべき書類が多く、何から手をつけて良いかわからない
- 相続人が多く、関係が複雑で連絡を取りづらい
- 解体証明書を紛失してしまった、または解体業者がわからない
- 土地の相続登記もまだ済んでおらず、まとめて任せたい
司法書士に依頼するメリットは、単に手間が省けるだけでなく、手続きの正確性が担保され、将来のトラブルを防ぐことができるという「安心感」にあります。一つでも当てはまる方は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ|取り壊した建物の登記手続きは専門家にご相談ください
今回は、取り壊した建物の登記手続きについて解説しました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。
- 取り壊した建物の「相続登記」は不要。しかし「建物滅失登記」は義務。
- 滅失登記を放置すると、過料や余計な固定資産税、将来の売却トラブルなどのリスクがある。
- 建物がなくなった後も、その下の「土地の相続登記」は別途必要なので忘れずに。
こうした複雑で間違いが起きやすい手続きは、専門家にご相談いただくことで、手続きの負担軽減やミス防止につながります。当事務所では、初回のご相談は無料でお受けしております。あなたの状況を丁寧にお伺いし、必要な手続きと費用について分かりやすくご説明いたしますので、どうぞお気軽にご連絡ください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
