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父の後に母も…「相続が重なる」数次相続でお困りではありませんか?
「父が亡くなった後、いろいろと忙しくて相続手続きを後回しにしていたら、今度は母まで亡くなってしまった…」
「実家を売却しようと思ったら、不動産会社から『まずお父様の名義を変えないと売れません』と言われてしまった」
相続が立て続けに起こり、誰が相続人で、何から手をつければ良いのか、途方に暮れていらっしゃいませんか。このように、最初の相続(一次相続)の手続きが終わらないうちに、相続人の一人が亡くなって次の相続(二次相続)が発生してしまう状態を「数次相続(すうじそうぞく)」と呼びます。
実は先日も、3年前にお父様を亡くされたご長女が相談に来られました。お母様がいらっしゃったので「相続は急がなくてもいいだろう」と考えていた矢先、そのお母様も亡くなられたとのこと。戸籍を調査すると、お父様の相続人はお母様とご長男、そしてご長女の3人。そしてお母様の相続人はご長男とご長女。一見シンプルに見えますが、このケースでは遺産分割協議書の作成に、専門家ならではのちょっとした工夫が必要になります。
この記事を読めば、あなた様が直面している複雑に絡み合った相続関係を正しく整理し、最も重要な書類である「遺産分割協議書」をどのように作成すればよいかが明確になります。司法書士としての豊富な実務経験に基づき、具体的な記載例や図解を交えながら、一歩ずつ丁寧にご案内しますので、どうぞご安心ください。
まず状況を整理しましょう|数次相続と代襲相続の決定的な違い
多くの方が混乱されるのが「数次相続」と「代襲相続」の違いです。この二つは全く異なるものですが、「亡くなった順番」という一点に注目するだけで、驚くほどスッキリと理解できます。この違いを正しく把握することが、誰と遺産分割の話し合いをすべきかを決めるための第一歩です。
亡くなった順番で相続人が変わる!イラストで見る違い
数次相続と代襲相続では、最終的に財産を受け継ぐ人が大きく変わります。特に、亡くなった相続人の「配偶者」が関わるかどうかが大きなポイントです。

【数次相続のポイント】
一次相続の後に相続人が亡くなるため、亡くなった相続人が本来受け取るはずだった相続権は、その人の相続人(二次相続の相続人)へと引き継がれます。上の図の例では、亡くなった長男の「妻」と「子」の両方が、祖父の遺産分割協議に参加することになります。
【代襲相続のポイント】
被相続人より先に相続人となるはずの子が亡くなっている場合に発生します。この場合、亡くなった子の相続権は、その子の子(孫)へと引き継がれます。数次相続とは異なり、亡くなった長男の「妻」は相続人にはなりません。代襲相続は、あくまで血のつながりを縦にたどっていくイメージです。
手続きを放置するとどうなる?数次相続の3つのリスク
「まだ大丈夫だろう」と数次相続の手続きを先延ばしにすると、事態はさらに複雑化し、取り返しのつかない状況に陥る可能性があります。主なリスクは次の3つです。
- リスク1:相続人がネズミ算式に増えていく
二次相続、三次相続と代を重ねるごとに、関係する相続人の数はどんどん増えていきます。会ったこともない親戚や、疎遠だった従兄弟なども話し合いの輪に加わることになり、全員の合意を取り付ける(遺産分割協議を成立させる)のは至難の業です。 - リスク2:必要書類の収集が困難になる
相続手続きには、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本など、多くの公的書類が必要です。しかし、除籍や改製原戸籍の保存期間(原則150年)を経過して廃棄されている場合や、役所の統廃合等により保存状況の確認に時間を要する場合には、相続関係の確認に支障が出るおそれがあります。 - リスク3:相続登記の義務化で過料(罰金)が科される
2024年4月1日から相続登記が義務化され、正当な理由なく期限内(不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内)に登記をしないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。なお、2024年4月1日より前に開始した相続で未登記の不動産も義務の対象となり、原則として2027年3月31日まで(2024年4月以降に取得を知った場合はその日から3年以内)に相続登記が必要です。
これらのリスクを避けるためにも、今、行動を起こすことが何よりも大切です。
【雛形付】数次相続の遺産分割協議書、失敗しない作り方完全ガイド
ここからは、この記事の核心である遺産分割協議書の作り方を具体的に解説します。数次相続では、誰が、どの立場で、どの遺産について話し合ったのかを明確に示すことが非常に重要です。このセクションを参考にすれば、法的に有効な協議書を作成できます。数次相続の遺産分割協議については、遺産分割協議書の作成に関する基本を押さえた上で進めることが大切です。
あなたの場合はどっち?協議書を「1通にまとめる」か「2通に分ける」か
数次相続の遺産分割協議書は、一次相続と二次相続の内容を「1通にまとめる方法」と、「2通に分ける方法」があります。どちらが良いかはケースバイケースですが、以下のフローチャートでご自身の状況に合った方法を確認してみましょう。

【1通にまとめるメリット・デメリット】
- メリット:作成の手間が一度で済む。相続関係がシンプルな場合は分かりやすい。
- デメリット:相続関係が複雑な場合、内容が煩雑になりがち。誰がどの相続の当事者なのか分かりにくくなることがある。
【2通に分けるメリット・デメリット】
- メリット:それぞれの相続関係が明確になり、分かりやすい。特に相続人が異なる場合に適している。
- デメリット:作成の手間が2倍になる。署名押印も2回必要になる。
実務上は、相続人が同じであれば「1通にまとめる」ケースが多いですが、少しでも複雑な要素があるなら「2通に分ける」方が安全策と言えるでしょう。
【記載例】父の後に母が亡くなった場合の遺産分割協議書
ここでは、最もご相談が多い「父(一次相続)の後に母(二次相続)が亡くなり、相続人は子のみ」というケースを想定し、1通にまとめる場合の遺産分割協議書の記載例をご紹介します。
遺産分割協議書
第1 被相続人 山田 太郎の遺産分割
被相続人 山田 太郎(最後の本籍:東京都千代田区〇〇一丁目1番1号、最後の住所:神奈川県川崎市川崎区〇〇一丁目2番3号、令和3年5月10日死亡)の相続人として、その配偶者山田 花子、長男山田 一郎、長女鈴木 花子がおりましたが、山田 花子は遺産分割協議未了のまま令和5年8月15日に死亡し、その相続人である山田 一郎及び鈴木 花子が、山田 花子の相続人としての地位を承継しました。
上記相続人全員は、被相続人山田 太郎の遺産について、本日、次のとおり分割することに合意しました。
1. 不動産
下記の不動産は、山田 一郎が取得する。
【土地】
所在:神奈川県川崎市川崎区〇〇
地番:一丁目3番
地目:宅地
地積:150.00平方メートル
【建物】
所在:神奈川県川崎市川崎区〇〇一丁目
家屋番号:3番
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 60.00平方メートル、2階 50.00平方メートル
第2 被相続人 山田 花子の遺産分割
被相続人 山田 花子(最後の本籍:東京都千代田区〇〇一丁目1番1号、最後の住所:神奈川県川崎市川崎区〇〇一丁目2番3号、令和5年8月15日死亡)の相続人である山田 一郎及び鈴木 花子は、被相続人山田 花子の遺産について、本日、次のとおり分割することに合意しました。
1. 預貯金
下記の預貯金は、鈴木 花子が取得する。
〇〇銀行 川崎支店 普通預金
口座番号:1234567
(令和5年8月15日現在の残高)
上記協議の成立を証するため、本書を2通作成し、相続人全員が署名押印の上、各自1通を保有するものとします。
令和8年2月17日
(住所)神奈川県川崎市川崎区〇〇一丁目2番3号
亡山田太郎の相続人兼亡山田花子の相続人
山田 一郎 (実印)
(住所)東京都大田区〇〇一丁目4番5号
亡山田太郎の相続人兼亡山田花子の相続人
鈴木 花子 (実印)
【書き方のポイント】
- 肩書きの重要性:署名欄の「亡山田太郎の相続人兼亡山田花子の相続人」という肩書きが非常に重要です。これにより、署名者が「父の相続人」と「母の相続人」という二つの立場を兼ねて合意したことが明確になります。
- 相続人の地位の承継:冒頭で「山田 花子は…死亡し、その相続人である山田 一郎及び鈴木 二郎が、山田 花子の相続人としての地位を承継しました」と明記することで、なぜ一郎さんと二郎さんが父・太郎さんの遺産分割に参加するのか、その法的根拠を示しています。
- 誰の遺産分割か明記:「第1 被相続人 山田 太郎の遺産分割」「第2 被相続人 山田 花子の遺産分割」と見出しを分けることで、どの財産が誰の遺産であるかを明確に区別しています。
法務局が公開している記載例も参考になります。
参照:Taro-17 相続(遺産分割のとき) 記載例 – 法務局
【応用編】叔父・叔母など親戚が関わる場合の注意点
数次相続は、時に疎遠だった親戚との話し合いを必要とします。私が以前担当したケースは、まさにそのような複雑な状況でした。
【ご相談事例】
ご相談者は、亡き祖父名義のままになっている不動産をどうにかしたい、という次男のAさんでした。戸籍をたどると、相続関係は次のようになっていました。
- 祖父が死亡(一次相続)。相続人は長男(Aさんの兄)と次男Aさんの2人。
- その後、遺産分割をしないうちに長男が死亡(二次相続)。長男の相続人は、その子であるBさんとCさん(Aさんの甥・姪)。
この結果、祖父の不動産について遺産分割協議をする権利を持つのは、次男Aさん、甥のBさん、姪のCさんの3名となっていたのです。Aさんは「実家の土地は、兄の子ども(BさんかCさん)に継がせたい」と希望されており、話し合いの結果、甥のBさんが不動産を単独で取得することに決まりました。
このケースでは、遺産分割協議書を1通にまとめるのか、それとも祖父の分と兄の分で2通作成するのか、さらには相続登記の申請書の書き方や相続関係説明図の作成方法にも専門的な工夫が必要となりました。特に、会ったこともない親戚と遺産分割協議を進めるのは精神的な負担も大きいものです。こうした複雑なケースでは、ご自身で進める前に、まずは相続人調査を含めて専門家にご相談いただくのが賢明です。
数次相続の手続きは複雑です。一人で悩まずご相談ください
ここまで数次相続の遺産分割協議書や相続登記について解説してきましたが、正直なところ、これは非常に専門性が高く、複雑な手続きです。ご自身で進めようとして書類に不備があり、法務局や金融機関で何度も手続きが止まってしまったり、良かれと思って作成した協議書が原因で親族間のトラブルに発展してしまったりするケースも少なくありません。
相続関係が複雑になればなるほど、どの専門家に相談すべきか迷われるかもしれません。不動産の相続登記はご本人でも申請できますが、登記申請の代理を業として行えるのは司法書士などの資格者に限られます。もし相続の相談先で迷ったら、司法書士にご相談いただくことで、二度手間を防ぎ、スムーズな解決につながります。
私たちは、まずあなた様の状況を丁寧にお伺いし、複雑に絡み合った相続関係を法的に正しく整理することから始めます。その上で、誰と、何を、どのように話し合えばよいのか、そして最もスムーズで円満な解決に至るための道筋をご提案いたします。
一人で悩み、貴重な時間を費やしてしまう前に、ぜひ一度、私たちの無料相談をご利用ください。あなた様が抱える不安を解消し、次の一歩を踏み出すお手伝いをさせていただきます。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
