相続人が行方不明…遺産分割と相続登記の対処法を解説

相続人が行方不明…まず知るべき大原則

「相続人の一人とどうしても連絡が取れない…。このままでは遺産分割も相続登記も進まない…。」
相続手続きを進める中で、このような壁に突き当たってしまう方は少なくありません。先の見えない状況に、不安や焦りを感じていらっしゃるのではないでしょうか。

多くの方が最初に考えるのが、「行方不明の相続人を除外して、残りのメンバーだけで手続きを進められないか?」ということかもしれません。しかし、残念ながら、それは法的に認められていません。行方不明の相続人を無視して行った遺産分割協議は、原則として「無効」となってしまいます。

厳しい現実かもしれませんが、ご安心ください。法律は、このような困難な状況を乗り越えるための解決策をきちんと用意しています。この記事では、司法書士として数多くの相続案件に携わってきた経験から、行方不明の相続人がいる場合の具体的な対処法を、順を追って分かりやすく解説していきます。このテーマの全体像については、相続手続きの内容(遺産整理業務)で体系的に解説しています。

なぜ行方不明の相続人を除外できないのか?

そもそも、なぜ一人でも欠けてはならないのでしょうか。それは、遺産分割協議が「相続人全員の合意」によってはじめて成立する、という大原則があるからです。

相続権は、法律によって強く保障された個人の大切な権利です。たとえ長年音信不通であったとしても、その人の相続権が自動的に消滅することはありません。そのため、相続人のうち一人でも協議に参加していなければ、その決定は法的に効力を持たないのです。

もし、行方不明者を無視して手続きを進めてしまうと、後からその相続人が現れて権利を主張した場合、すべての手続きをやり直さなければならなくなる可能性があります。不動産の相続登記を済ませていたとしても、後から登記の抹消や更正などが必要になる可能性があり、大変なトラブルに発展しかねません。だからこそ、正しい手順を踏むことが、最終的にご家族全員を守ることにつながるのです。

最初に試すべきこと:行方不明の相続人の探し方

法的な手続きを検討する前に、まずはご自身でできる範囲で相続人を探してみましょう。意外なところから手がかりが見つかることもあります。

  1. 戸籍の附票(こせきのふひょう)を取得する
    戸籍の附票とは、その人の住所の履歴が記録された書類です。本籍地の市区町村役場で取得できます。現在の住民票上の住所が判明すれば、手紙を送るなどして連絡が取れる可能性があります。相続手続きのためであれば、他の相続人の戸籍の附票も取得することが可能です。
  2. 親族や共通の知人に聞いてみる
    ご自身の知らない連絡先を、他の親族や共通の知人が知っているケースはよくあります。昔の年賀状や手紙が残っていないかも確認してみましょう。

ただし、ご自身での相続人調査には限界があります。住民票の住所に住んでいない、手紙を送っても返事がない、という場合は、次のステップである法的な手続きを検討する必要があります。

行方不明の相続人を探すため、古い書類を前に頭を抱える女性。

【事例】音信不通の相続人がいても相続登記を完了できたケース

法的な手続きと聞くと、難しくて大変なイメージがあるかもしれません。しかし、実際に専門家が介入し、無事に解決できた事例は数多くあります。ここで、当事務所が関わったあるケースをご紹介しましょう。

ご相談に来られたのは、長野県にお住まいだった叔父様を亡くされた方でした。叔父様は生涯独身でお子さんもおらず、ご両親もすでに他界されていました。法定相続人は、ご相談者様とそのご兄弟、そして叔父様の妹(ご相談者様から見ると叔母様)の合計4名でした。

ご兄弟とはすぐに連絡がつき、相続手続きへの協力も得られましたが、叔母様とはまったく連絡が取れない状態でした。遺産には預金2,000万円とご自宅の不動産があり、遺言書もなかったため、遺産分割協議が必須です。

私たちは職権で叔母様の住民票を取得し、お手紙をお送りしましたが、何の反応もありません。ご相談者様が直接ご自宅を訪ねても、不在の様子…。まさに八方ふさがりの状況でした。

そこで、私たちは信頼できる弁護士と連携し、法的な手続きに移行することを決断しました。弁護士による調査を尽くしても叔母様の所在は不明だったため、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てたのです。

やがて家庭裁判所によって不在者財産管理人が選任され、その管理人が叔母様の代理人として遺産分割協議に参加。ついに協議が成立し、滞っていた預金の解約と不動産の相続登記を無事に完了させることができました。

この事例のように、一見すると解決不可能に思える状況でも、専門家が法的な手続きを適切に進めることで、大切な財産をきちんと承継させることができるのです。

行方不明の相続人がいる場合の2つの解決策

それでは、具体的にどのような法的手続きがあるのでしょうか。行方不明の相続人がいる場合、代表的な制度として「不在者財産管理人制度」や「失踪宣告制度」があります。どちらも家庭裁判所を利用する手続きですが、その性質は大きく異なります。

行方不明の相続人がいる場合の解決策、「不在者財産管理人」と「失踪宣告」の制度概要を比較した図解。

解決策①:不在者財産管理人を選任する

不在者財産管理人制度は、行方不明の相続人が「生存している」ことを前提とした手続きです。家庭裁判所が、行方不明者の財産を管理する代理人(不在者財産管理人)を選任します。この管理人が、行方不明者に代わって遺産分割協議に参加することで、手続きを進めることが可能になります。

【不在者財産管理人の役割】

  • 行方不明者の財産の調査・管理・保存
  • 家庭裁判所の許可を得て、遺産分割協議に参加する

選任された管理人は、あくまで行方不明者の利益を守るための存在です。そのため、遺産分割協議に参加する際には、行方不明者の法定相続分を確保する内容でなければ、家庭裁判所の許可は得られません。

【手続きの流れ】

  1. 申立て:利害関係人(他の相続人など)が、行方不明者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に選任を申し立てます。
  2. 審理・選任:家庭裁判所が調査を行い、管理人を選任します。弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが一般的です。
  3. 財産管理・権限外行為許可:管理人は財産を管理し、遺産分割協議に参加するためには別途「権限外行為許可」を家庭裁判所に申し立てます。
  4. 遺産分割協議:許可を得た管理人が協議に参加し、遺産分割協議書を作成します。

【費用について】
申立て自体の費用は数千円程度ですが、最も大きな負担となる可能性があるのが、裁判所に納める「予納金」です。これは管理人の報酬や経費に充てられるもので、事案によりますが数十万円から100万円以上になることもあります。なお、不在者財産管理人と似た制度に成年後見制度がありますが、目的や対象者が異なります。

より詳しい情報については、裁判所のウェブサイトもご参照ください。
参照:不在者財産管理人選任 | 裁判所

解決策②:失踪宣告を申し立てる

失踪宣告制度は、長期間にわたって生死が不明な人について、法律上「死亡した」とみなす制度です。これにより、その人は相続関係から外れることになり、残りの相続人で遺産分割協議を進めることができます。

失踪宣告には2つの種類があります。

  • 普通失踪:生死が7年間明らかでない場合。7年の期間が満了した時に死亡したとみなされます。
  • 特別失踪(危難失踪):戦争、船舶の沈没、震災などの危難に遭い、その危難が去った後、1年間生死が明らかでない場合。危難が去った時に死亡したとみなされます。

【手続きの流れ】

  1. 申立て:利害関係人が、行方不明者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
  2. 調査・公示催告:家庭裁判所が調査を行い、官報などで一定期間、行方不明者やその生存を知る人からの届出を促します。
  3. 審判:届出がない場合、家庭裁判所が失踪宣告の審判を下します。
  4. 届出:審判が確定した後、10日以内に市区町村役場に失踪の届出をします。

この制度は、行方不明者を死亡したものとして扱う非常に強力な効果を持ちます。そのため、単に連絡が取れないというだけでは認められず、長期間にわたり生死不明であることが客観的に証明できなければなりません。

手続きに関する書式などは、裁判所のウェブサイトで確認できます。
参照:失踪宣告の申立書 | 裁判所

不在者財産管理人と失踪宣告、どちらを選ぶべき?

「自分の場合は、どちらの制度を使えばいいのだろう?」と悩まれる方も多いでしょう。どちらを選ぶべきかは、状況によって異なります。以下の3つのポイントを参考に、ご自身のケースを整理してみてください。

項目不在者財産管理人失踪宣告
前提生存している法律上、死亡したとみなす
主な対象不在者(従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者)で、生存の可能性がある場合など生死が7年間明らかでない場合(普通失踪)/危難が去った後1年間生死が明らかでない場合(危難失踪)
費用予納金が高額になる可能性あり(数十万~)比較的低額(数千円~)
期間比較的短い(数か月~)長い(半年~1年以上)
本人が戻った場合管理していた財産を返還失踪宣告が取り消され、遺産分割が遡って無効になる可能性
不在者財産管理人と失踪宣告の比較

判断のポイント①:行方不明からの期間と状況

最も重要な判断基準は、行方不明になってから7年が経過しているかどうかです。7年というのが、普通失踪の要件だからです。

  • 7年未満の場合:原則として「不在者財産管理人」制度を利用します。
  • 7年以上経過している場合:「失踪宣告」が選択肢に入ります。

ただし、単に期間だけでなく、「なぜ連絡が取れなくなったのか」「生きている可能性はどのくらいか」といった状況も考慮すべきです。例えば、7年以上経過していても、どこかで元気に暮らしているという噂があるような場合は、失踪宣告ではなく不在者財産管理人制度の利用を検討する方が適切かもしれません。

判断のポイント②:費用と手続きにかかる時間

現実的な問題として、費用と時間も重要な判断材料です。

  • 不在者財産管理人:予納金が高額になる可能性がありますが、手続き自体は失踪宣告より早く進む傾向があります。
  • 失踪宣告:申立て費用は比較的安いですが、公示催告などの期間が必要なため、解決までに1年近くかそれ以上かかることもあります。

「費用がかかっても早く解決したい」のか、「時間はかかっても費用を抑えたい」のか、ご自身の希望や他の相続人の意向も踏まえて検討する必要があります。

判断のポイント③:将来的なリスクの違い

万が一行方不明だった本人が戻ってきた場合のリスクも考えておかなければなりません。

  • 不在者財産管理人:管理人が本人のために確保していた財産を返還すれば済みます。遺産分割協議自体が無効になることはありません。
  • 失踪宣告:本人が生存していた場合、失踪宣告の取消しを申し立てることができます。宣告が取り消されると、その人が死亡したことを前提に行った遺産分割は根本から覆ってしまう可能性があります。すでに分割した財産を返還しなければならなくなり、非常に複雑な事態に陥るリスクがあります。

このリスクの大きさから、失踪宣告は、生存の可能性が極めて低い場合に用いられる、より慎重な判断が必要な手続きといえるでしょう。

司法書士に相続の相談をし、安心した表情を浮かべる夫婦。

行方不明者がいる相続、専門家への相談が解決の近道です

ここまで解説してきたように、行方不明の相続人がいる場合の手続きは、法律的な知識と複雑な手順を要します。ご自身で戸籍を読み解き、家庭裁判所への申立書類を作成し、適切な制度を選択するのは、精神的にも時間的にも大きな負担となるでしょう。

このような状況に陥ってしまったときこそ、私たち司法書士のような専門家の力を頼ってください。一人で抱え込まずに相談することが、解決への一番の近道です。

司法書士ができること、弁護士との連携

私たち司法書士は、まず相続の専門家として、複雑な戸籍を収集・解読し、正確な相続関係を確定させるお手伝いができます。その上で、不在者財産管理人の選任申立てや失踪宣告の申立てなど、家庭裁判所に提出する書類の作成支援を行うことができます。

そして、最終的なゴールである不動産の相続登記まで、責任を持って担当いたします。また、事案が複雑で弁護士の代理行為が必要になった場合でも、当事務所では信頼できる弁護士と緊密に連携しておりますので、改めて探す手間なく、ワンストップでスムーズに対応を進めることが可能です。

相続登記を司法書士に依頼する」ことは、このような複雑な状況において、有力な選択肢の一つとなるでしょう。

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当事務所では、相続に関する無料相談を承っております。どんな些細なことでも構いません。あなたの状況を丁寧にお伺いし、最適な解決策を一緒に考えさせていただきます。どうぞ、一人で悩まずにお気軽にご連絡ください。

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