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「遺言書があれば相続登記費用が安くなる」は本当?
「遺言書があれば、相続登記の費用が安くなるって本当?」
ご親族が亡くなられ、相続手続きを前にした多くの方が抱く素朴な疑問です。結論から申し上げますと、一般的には遺言書があれば手続きが簡略化され、費用を抑えられる場合が多いとされています。ただし、遺言の種類や内容によっては費用や手続きが増えるケースもあります。
相続登記の費用は、大きく分けて「税金(登録免許税)」「書類取得などの実費」「専門家への報酬」の3つで構成されています。このうち、遺言書があることで特に大きく節約できる可能性があるのが「司法書士への報酬」の部分です。
遺言書は、単に財産の分け方を指定するだけでなく、残されたご家族のさまざまな負担を軽くしてくれる、大切な「道しるべ」となります。この記事では、なぜ遺言書があると費用を抑えられるのか、その具体的な仕組みと、知っておきたい注意点について、相続の専門家である司法書士が分かりやすく解説します。
相続登記にかかる費用の内訳を理解しよう
まず、相続登記にどのような費用がかかるのか、全体像を把握しておきましょう。主に以下の3つの費用から成り立っています。
①登録免許税:不動産の価値で決まる税金
登録免許税は、不動産の名義変更(登記)をする際に、法務局へ納める税金です。遺言書の有無にかかわらず、原則として支払う必要があります。
税額は、以下の計算式で算出されます。
登録免許税 = 不動産の固定資産税評価額 × 0.4%
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の土地と建物を相続する場合、登録免許税は8万円(2,000万円 × 0.4%)となります。この税率は、原則として遺言書があってもなくても変わりません。ただし、後述しますが「遺贈」というケースでは税率が変わることがあるため注意が必要です。
②必要書類の取得費用:戸籍謄本などの実費
相続登記を申請するには、亡くなった方(被相続人)や相続人の戸籍謄本、住民票、不動産の固定資産評価証明書など、さまざまな公的書類が必要です。これらの書類を取得するための手数料がかかります。
相続人の人数や、亡くなった方の本籍地が何度も変わっている場合などは、集める戸籍の数が多くなり、費用もかさみます。一般的には、数千円から1万円を超える程度が目安となります。
実はこの部分も、遺言書があることで必要な戸籍の範囲が狭まり、結果的に費用を抑えられる可能性があります。
③司法書士への報酬:手続き代行の専門家費用
相続登記はご自身で行うことも可能ですが、手続きが複雑で専門的な知識を要するため、多くの方が司法書士に依頼されます。その際に発生するのが、手続きを代行する専門家への報酬です。
この司法書士への報酬は遺言書の有無で変わることが多く、報酬が費用構成に占める割合が大きい場合には影響が目立ちます(事案によります)。一般的な相続登記の司法書士報酬の目安は事務所や事案により幅がありますが(例えば7万円〜15万円程度とする参考情報もあります)、具体的な金額は個別のお見積もりでご確認ください。

なぜ遺言書があると相続登記費用を節約できるのか?
では、具体的に「なぜ」遺言書があると司法書士の報酬や実費を抑えることができるのでしょうか。その主な理由を3つのポイントから解説します。
理由1:遺産分割協議書の作成が不要になる
遺言書がない場合、相続人全員で「誰がどの財産を相続するのか」を話し合い、その合意内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成する必要があります。この書類には、相続人全員が署名し、実印を押さなければなりません。
相続人同士が遠方に住んでいたり、関係性が複雑だったりすると、この話し合いと書類の取りまとめは大変な時間と労力がかかります。司法書士が遺産分割協議書の作成をサポートする場合、通常、数万円の報酬が別途発生します。
しかし、有効な遺言書があれば、原則として遺産分割協議は不要です。遺言書の内容に従って手続きを進められるため、協議書作成にかかる司法書士報酬がまるごと節約できるのです。これは費用面だけでなく、相続人間の話し合いという精神的な負担を軽減する「見えないコスト」の削減にも繋がる、非常に大きなメリットです。
理由2:必要となる戸籍謄本の収集範囲が狭まる
遺言書がない場合、法律で定められた相続人(法定相続人)が誰なのかを確定させるため、亡くなった方の「出生から死亡までの一連の戸籍謄本すべて」を取り寄せる必要があります。これは、他に相続人がいないことを証明するために不可欠な手続きです。
一方、遺言書で不動産を相続する人が明確に指定されていれば、必要な戸籍謄本の範囲を限定できる場合があります。特に、後述する「公正証書遺言」であれば、手続きがより簡略化されます。
集める戸籍が少なくなれば、取得にかかる実費はもちろん、司法書士に戸籍収集を依頼した場合の代行費用も抑えることができます。
理由3:「遺言執行者」がいれば手続きが格段にスムーズに
少し専門的な話になりますが、遺言書で「遺言執行者」を指定しておくと、手続きはさらにスムーズになります。遺言執行者とは、その名の通り、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う権限を与えられた人のことです。
遺言執行者がいれば、不動産の相続登記を、他の相続人の協力を得ることなく単独で申請できます。もし遺言執行者がおらず、かつ法定相続人でない方に遺言で不動産を譲る場合、不動産を取得する相続人と、それ以外の相続人全員が共同で登記申請(または委任状に署名押印)をしなければならないケースがあり、手続きが煩雑になる可能性があります。
手続きが迅速に進むということは、司法書士が費やす時間や工数も削減されるため、結果的に報酬の抑制に繋がるのです。
【相談事例】公正証書遺言で費用と手間を抑えられたケース
先日、ご相談にいらっしゃったAさんの事例をご紹介します。(※この事例は、内容を一般化・抽象化したものであり、特定の個人を識別できるものではありません。)Aさんはお父様を亡くされ、ご自宅不動産の相続登記について不安な面持ちで事務所のドアを叩かれました。
「父が亡くなったのですが、相続登記には一体どれくらいの費用がかかるのでしょうか…」
お話を伺うと、幸いにもAさんのお父様は生前に「自宅不動産は長男であるAに相続させる」という内容の公正証書遺言をきちんと作成されていました。この一点が、Aさんの負担を大きく軽減することになります。
私たちはAさんにこうご説明しました。
「お父様が公正証書遺言を残してくださったおかげで、手続きはとてもスムーズに進められますよ。まず、相続人の皆さんで話し合って『遺産分割協議書』を作る必要がありません。これだけで、司法書士の費用も数万円は抑えられますし、何よりご兄弟と書類のやり取りをする手間が省けます。必要な戸籍も少なくて済みますから、実費も時間も節約できます。」
Aさんは当初、何十万円もかかるのではないかと心配されていましたが、遺言書がない場合に比べて費用を抑えられること、そして手続きがシンプルになることをご理解いただくと、みるみる表情が和らいでいきました。
最終的に、私たちは遺言書の内容に沿ってスムーズに相続登記を完了させることができ、Aさんからは「父が遺言書を書いておいてくれて本当に良かった。安心しました。」と、心からの感謝の言葉をいただくことができました。この事例は、適切な遺言書が、残されたご家族にとってどれほど大きな「安心」に繋がるかを物語っています。
注意!遺言書があっても費用が高くなる・複雑化する3つのケース
ここまで遺言書のメリットをお伝えしてきましたが、「遺言書さえあれば万事OK」というわけではありません。遺言書の種類や内容によっては、かえって費用が高くなったり、手続きが複雑になったりするケースもあります。専門家として、そうしたリスクについても正直にお伝えします。
ケース1:自筆証書遺言の「検認」で手間と費用がかかる
ご自身で手書きする「自筆証書遺言」は、費用をかけずに手軽に作成できるのがメリットです。しかし、亡くなった後にその遺言書を使って手続きをするには、原則として家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを経なければなりません。(※法務局の保管制度を利用した場合は不要)
検認手続きのためには、相続人全員の戸籍謄本などを集めて裁判所に申し立てる必要があり、数千円の実費と数ヶ月の時間がかかります。司法書士に依頼する場合はさらに数万円の報酬が上乗せされます。せっかく費用を抑えるために自筆で書いたのに、結果的に手間と実費がかさんでしまう可能性があるのです。
参考:遺言書の検認
ケース2:遺言書の文言が曖昧で登記に使えない
「自宅の土地建物を長男に相続させる」
一見、問題なさそうに見えるこの一文も、法務局の登記手続きでは通用しないことがあります。登記申請では、不動産を登記簿(登記事項証明書)に記載されている通りに、地番や家屋番号まで正確に特定して記載する必要があるからです。
もし遺言書の記載が不正確・不十分だと、その遺言書だけでは登記ができず、結局、相続人全員で遺産分割協議書を作成し直すことになりかねません。そうなれば、遺言書を作成した意味がなくなってしまいます。
ケース3:相続人以外への「遺贈」で登録免許税が5倍になる
「お世話になった知人に不動産を譲りたい」「孫に不動産を遺したい」といったケースです。法定相続人ではない人に遺言で財産を譲ることを「遺贈(いぞう)」と言います。
この遺贈によって不動産の名義変更をする場合、登録免許税の税率が、相続の場合の0.4%から2.0%へと5倍に跳ね上がります。
例えば、評価額2,000万円の不動産の場合、相続なら8万円の登録免許税が、遺贈だと40万円にもなってしまうのです。良かれと思ってしたことが、かえって高額な税負担を強いる結果になる可能性があるため、十分な注意が必要です。
最も確実な節約方法は「登記を見据えた公正証書遺言」です
では、どうすれば将来の相続登記費用と手間を、最も確実かつ効果的に節約できるのでしょうか。
その答えは、「将来の登記手続きまで見据えて、専門家が関与して作成する公正証書遺言」を備えておくことです。
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成に関与するため、法的な不備や内容の曖昧さがなく、無効になるリスクが極めて低いのが特徴です。
- 家庭裁判所での検認手続きが不要で、すぐに手続きに入れる。
- 不動産の表示など、登記に使える正確な記載が担保される。
- 原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がない。
作成時に費用はかかりますが、自筆証書遺言で起こりうる様々なリスクや、将来相続人が負担するであろう費用・手間・精神的ストレスを考えれば、結果的に最も安く、そして安心な方法と言えるでしょう。当事務所でも、ご状況に応じた遺言書作成業務についてサポートを行っております。(事務所名:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所、所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、司法書士:猪狩 佳亮、所属:神奈川県司法書士会)
相続登記の費用でお悩みなら、いがり綜合事務所へご相談ください
この記事では、遺言書と相続登記費用の関係について解説してきました。遺言書は、多くの場合で費用と手間の節約に繋がりますが、その内容や種類によっては意図しない結果を招くこともあります。
「自分の場合はどうなんだろう?」
「どの方法が一番良いのか分からない…」
そうお感じになるのは当然のことです。相続の形は、ご家族の数だけ存在します。
私たち、いがり綜合事務所(いがり円満相続相談室)は、川崎市・横浜市を中心に、これまで数多くの相続手続きをお手伝いしてまいりました。お金のことはもちろん皆様が気にされる大切な点です。だからこそ、私たちは一人ひとりのお話をじっくりと伺い、ご状況を正確に把握した上で、費用面にも配慮した最適な手続き案をご提案します。
初回のご相談は無料です。ご状況を丁寧に伺い、手続きや費用について分かりやすくご説明します。まずはお気軽にお問い合わせください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
