遺贈寄付とは?想いを未来へつなぐ相続のかたち【司法書士解説】

「財産の一部を社会に役立てたい」ご相談が増えています

「相続人はいるんですが、正直なところ、この財産を全部身内に残したいかと言われると、少し迷いがあって……」

そう静かに話し始めてくださったのは、70代の女性Aさんでした。ご主人はすでに他界され、お子様はいらっしゃいません。法律上の相続人は甥や姪にあたる方々ですが、もう何年も会っておらず、ほとんど交流がないとのことでした。

「もちろん、甥や姪の権利は尊重したいと思っています。ただ、自分が懸命に築いてきた財産の一部だけでも、何かの形で社会の役に立ってもらえたら、という気持ちがずっとあるんです。」

Aさんは若い頃、大きな病気で入院された経験があり、そのときに支えてくれた医療や福祉のありがたさを、今も深く心に刻んでいらっしゃいました。

一方で、大きな不安も抱えていらっしゃいました。

  • 相続人とトラブルにならないだろうか…
  • 本当に自分の意思は実現できるのだろうか…
  • きっと、難しい手続きが必要なのだろう…

「こんなことを考えるなんて、少しわがままでしょうか。誰に相談していいのかも分からなくて…」

相続の現場では、Aさんのように「家族への想い」と「社会への貢献」の間で、ご自身の財産の行く末を真剣に考えていらっしゃる方からのご相談が、年々増えているように感じます。遺贈寄付は、決して特別なことではなく、ご自身の人生の集大成として、未来へ想いをつなぐための大切な選択肢の一つなのです。

遺贈寄付とは?想いを未来につなぐ基本的な仕組み

遺贈寄付(いぞうきふ)とは、とてもシンプルに言うと「遺言によって、ご自身の財産の一部または全部を、応援したい社会貢献団体などに寄付すること」です。特定のNPO法人や公益法人、学校法人、自治体などを寄付先に指定できます。

生前の寄付と違い、ご自身の生活資金を確保しながら、亡くなった後に残った財産から寄付ができるため、「老後の生活も大切にしながら、社会貢献も実現したい」という方に選ばれています。

「相続人がいると、遺贈寄付はできないのでは?」と心配される方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。法律で定められた相続人の権利に配慮しつつ、ご自身の想いをかたちにすることは十分に可能です。この記事では、そのための具体的な方法を丁寧にご説明していきます。

穏やかな表情で遺言書を書くシニア女性。遺贈寄付という想いを未来へつなぐイメージ。

遺贈寄付には2つの方法がある「特定遺贈」と「包括遺贈」

遺贈寄付の具体的な方法には、「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があります。どちらを選ぶかによって、手続きや相続人に与える影響が変わるため、違いをしっかり理解しておくことが大切です。

特定遺贈包括遺贈
内容「A銀行の預金100万円」など特定の財産を指定して寄付する方法「全財産の3分の1」など財産の割合を指定して寄付する方法
メリット内容が明確で、手続きが比較的スムーズに進みやすい寄付する財産を具体的に決める必要がない
デメリット遺言作成後に財産状況が変化した場合、寄付が実行できなくなる可能性があるプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も割合に応じて引き継ぐことになる
実務上の推奨トラブル回避の観点から、こちらが推奨されることが多い負債を引き継ぐリスクがあるため、慎重な検討が必要
特定遺贈と包括遺贈の比較

司法書士の実務経験から申し上げると、相続人とのトラブルを避け、スムーズな手続きを実現するためには「特定遺贈」をおすすめすることがほとんどです。「包括遺贈」では、寄付先が借金などのマイナスの財産まで引き継ぐことになり、手続きが複雑化したり、最悪の場合、寄付先に受け取りを断られたりするリスクがあるためです。

メリットと知っておくべきデメリット

遺贈寄付には多くのメリットがありますが、注意すべき点も存在します。両方を正しく理解した上で、ご自身にとって最善の選択をすることが重要です。

メリット

  • ご自身の想いを実現できる:応援したい分野や団体を明確に指定し、社会に貢献できます。
  • 税制上の優遇措置がある:国や地方公共団体、一定の公益法人、認定NPO法人などへの寄付は、相続や遺贈で取得した財産を相続税の申告期限までに寄附するなど一定の要件を満たす場合、寄付した財産を相続税の課税対象としない特例があります。
  • 社会的な意義:ご自身の財産を未来へ活かし、社会課題の解決に貢献できます。

知っておくべきデメリット

  • 相続人とのトラブルの可能性:相続人の「遺留分」に配慮しない遺言は、トラブルの原因になります。
  • 寄付先に断られるケースがある:不動産など管理が難しい財産や、包括遺贈は受け付けていない団体もあります。
  • 手続きには専門知識が必要:法的に有効な遺言書の作成が不可欠です。

時々、「遺贈寄付は怪しいものではないか」という声を聞くことがありますが、これは一部の団体に関する問題や、手続きの複雑さからくる誤解が原因だと思われます。信頼できる寄付先を選び、専門家と共に適切な手続きを踏むことで、不安やリスクを減らせる場合があります。

【最重要】相続人とのトラブルを避ける3つの鉄則

遺贈寄付を考える上で、多くの方が最も心配されるのが「相続人とのトラブル」です。大切なご家族との関係を損なうことなく、ご自身の想いも実現するためには、専門家として絶対に守っていただきたい「3つの鉄則」があります。

遺贈寄付で相続人とのトラブルを避けるための3つの鉄則(遺留分への配慮、寄付先への事前相談、清算型遺贈の検討)を図解したインフォグラフィック。

鉄則1:必ず「遺留分」に配慮した遺言内容にする

相続トラブルの最大の火種、それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、親など)に法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。

例えば、全財産を特定の団体に寄付する、という遺言書を作成したとします。この場合、遺留分を持つ相続人は、寄付を受けた団体に対して「私の最低限の取り分(遺留分)を金銭で支払ってください」と請求(遺留分侵害額請求)することができます。これが、深刻なトラブルに発展するのです。

トラブルを未然に防ぐためには、遺言書を作成する段階で、各相続人の遺留分を正確に計算し、トラブルを避けるためには、遺言書を作成する段階で、各相続人の遺留分を計算し、それを侵害しない範囲で寄付の割合を検討することが重要です。私たち司法書士は、不動産や預貯金など全ての財産を評価し、法的なバランスを考慮した遺言内容の設計をサポートします。

鉄則2:寄付先の団体へ事前に相談・確認する

「遺言書に書きさえすれば、寄付は必ず受け取ってもらえる」というのは、実は誤解です。団体によっては、遺贈寄付の受け入れ体制が整っていなかったり、特定の財産(特に不動産)の受け取りをお断りしていたりするケースが少なくありません。

なぜなら、団体側にも管理コストや税金の負担、現金化の難しさといった事情があるからです。せっかく遺言書を作成しても、寄付先に受け取ってもらえなければ、その財産は宙に浮いてしまい、結局は相続人間での話し合いが必要になるなど、かえって混乱を招きかねません。

このような事態を避けるため、遺言書を作成する前に、必ず寄付を希望する団体の担当窓口に連絡を取りましょう。受け入れが可能かどうか、どのような方法(特定遺贈か、現金かなど)での寄付を希望しているかなどを事前に確認することが、スムーズな実現への鍵となります。

鉄則3:不動産は「清算型遺贈」を検討する

ご自宅などの不動産を寄付したい、と考える方は多くいらっしゃいます。しかし、不動産をそのまま寄付する方法は、寄付先にとっても相続人にとっても、大きな負担となる可能性があります。

寄付先は管理や売却の手間、固定資産税を負うことになります。さらに、寄付先(受遺者)が法人等となる遺贈では、内容によってはみなし譲渡(所得税法59条)として譲渡所得課税が問題となり、相続人が準確定申告などの手続に関与する必要が生じる場合もあります。

そこでおすすめしたいのが「清算型遺贈」という方法です。これは、遺言執行者が不動産を売却して現金に換え、その売却代金から諸費用を差し引いた残額を寄付するというものです。不動産の換価分割の手続きと同様の考え方で、これにより寄付先は管理の負担なく現金を受け取れ、関係者間の調整や手続の複雑さを抑えられる場合があります。税務上の取扱いは個別事情で変わるため、事前に税理士等へ確認しておくと安心です。

想いを実現する唯一の手段「遺言書」の書き方と種類

ここで、非常に重要なことをお伝えします。遺贈寄付を「遺言で確実に実現する」ためには、法的に有効な「遺言書」を作成しておくことが重要です。「エンディングノートに書いた」「家族に口頭で伝えた」というだけでは、残念ながら法的な効力は一切ないのです。あなたの最後の想いを確実にかたちにするため、正しい遺言書の作成は不可欠です。

公正証書遺言と自筆証書遺言のメリット・デメリットを比較した図解。確実性、費用、手続きの違いがひと目でわかる。

確実性をとるか、手軽さをとるか?公正証書遺言と自筆証書遺言

遺言書には、主に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、特徴を理解して選びましょう。

公正証書遺言自筆証書遺言
作成方法公証役場で、公証人が作成に関与する全文、日付、氏名を自筆で書き、押印する
メリット・専門家が関与するため、無効になるリスクが極めて低い
・原本が公証役場で保管され、紛失や改ざんの心配がない
・家庭裁判所の「検認」が不要で、手続きがスムーズ
・費用がほとんどかからない
・いつでも手軽に作成できる
デメリット・作成に費用と手間がかかる
・証人2名の立ち会いが必要
・形式不備で無効になるリスクがある
・紛失、改ざんのリスクがある
・死後、家庭裁判所の「検認」が必要
公正証書遺言と自筆証書遺言の比較

遺贈寄付のように、内容が複雑になりがちで、相続人以外の第三者が関わるケースでは、私たち専門家は「公正証書遺言」の作成を強く推奨します。費用はかかりますが、それ以上に「想いを確実に実現できる」という安心感は何物にも代えがたいからです。一方で、自筆証書遺言にも法務局の保管制度など、利便性を高める仕組みがありますので、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。

【文例付】相続人に想いを伝える「付言事項」の活用術

遺言書には、法的な効力を持つ本文とは別に、「付言事項(ふげんじこう)」として、ご自身の想いやメッセージを自由に書き残すことができます。これが、相続人との円満な関係を築く上で、非常に大きな力を発揮します。

なぜ財産を寄付しようと思ったのか、その背景にある感謝の気持ちや社会への願いを、ご自身の言葉で綴るのです。法的な効力はありませんが、この「最後のメッセージ」が、相続人の心を動かし、遺言内容への理解と納得を促すことにつながります。

【付言事項の文例】

私がこの遺言を書いたのは、長年にわたりお世話になった〇〇(地域名)と、未来の子どもたちのために、何か少しでも恩返しがしたいと思ったからです。特に、闘病中に支えてくださった医療関係者の皆様への感謝は尽きません。その想いから、財産の一部を〇〇法人へ寄付することに決めました。
甥の〇〇、姪の〇〇、あなたたちの幸せを心から願っています。この私の想いをどうか理解してください。

手続きの要「遺言執行者」は誰に頼むべきか?

遺言書の内容を、責任を持って実現してくれる人、それが「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」です。遺言執行者は、亡くなった方に代わって、預貯金の解約や不動産の名義変更、そして寄付先への財産の引き渡しなど、全ての相続手続きを行います。

遺贈寄付を行う場合は、この遺言執行者を必ず遺言書で指定しておくべきです。相続人を指定することも可能ですが、手続きが複雑であったり、他の相続人との間で心理的な負担が生じたりすることもあります。そのため、遺言執行者には中立的な立場の専門家(司法書士など)を指定することで、全ての関係者が安心して、スムーズに手続きを進められるという大きなメリットがあります。

遺贈寄付と税金の基礎知識

「寄付をすると、税金が高くなるのでは?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、税金の基本的な考え方について、ポイントを絞ってご説明します。

寄付した財産に相続税はかかるのか?

結論から言うと、国や地方公共団体、一定の公益法人、認定NPO法人などへの寄付は、相続や遺贈で取得した財産を相続税の申告期限までに寄附し、所定の手続を行うなど一定の要件を満たす場合、寄付した財産を相続税の課税対象としない特例が適用されます。

例えば、1億円の財産のうち2,000万円を寄付した場合、相続税の計算対象となるのは残りの8,000万円となります。これにより、相続人全体の相続税負担が結果的に軽くなる可能性もあります。ただし、これはあくまでご自身の想いを実現した結果であり、節税が主目的ではありません。詳しい相続税の申告が必要かどうかについては、提携する税理士と連携してサポートいたしますのでご安心ください。

(参考)

司法書士があなたの想いを法的なかたちにします

ここまでお読みいただき、遺贈寄付を実現するためには、法律的な知識や専門的な手続きが必要であることをご理解いただけたかと思います。しかし、どうか難しく考えすぎないでください。私たち司法書士は、あなたの「想い」に寄り添い、それを法的に有効で、誰にとっても円満な「かたち」に整えるためのパートナーです。

私たちの役割は、単に書類を作成することではありません。

  • あなたのお話をじっくり伺い、想いを整理するお手伝いをします。
  • 相続人の遺留分など、法的なリスクを洗い出し、最適な遺言内容をご提案します。
  • 寄付先団体との事前調整や、公証役場での手続きもサポートします。
  • 遺言執行者として、あなたの亡き後、責任を持って想いを実現します。

不動産の相続登記をはじめとする複雑な手続きも、全て私たちにお任せください。あなたの心にある大切な想いを、安心して私たちにお聞かせいただけませんか。

ご自身の想いをかたちにするための第一歩として、まずはお気軽にご相談ください。あなたの未来への願いを、私たちが全力でサポートします。

遺贈寄付に関する無料相談はこちら

まとめ:遺贈寄付は、誰もが選べる「想い」のかたちです

遺贈寄付は、一部のお金持ちや特別な人が行うものではありません。ご自身の人生で築き上げた財産の使い道を、ご自身の意思で決めるための、誰もが選べる選択肢の一つです。

大切なのは、財産の金額の大小ではありません。「この社会に、未来に、こんな形で貢献したい」という、あなた自身の「想い」です。そして、その想いを実現するために、事前にきちんと準備をすれば、相続人との関係も円満に保ちながら、未来へ確実につなげていくことができます。

もし、少しでも心に迷いや不安があるのなら、どうか一人で抱え込まないでください。専門家への相談は、あなたの想いを実現するための、最も確実で、最も安心できる第一歩です。

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