共有者が行方不明でも不動産売却は可能!新制度を専門家が解説

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共有者が行方不明…不動産を売却できずお困りではありませんか?

「親から相続した実家を兄弟で共有名義にしたものの、弟と何年も連絡が取れず、行方も分からない…」「空き家になった実家を売却して、固定資産税の負担から解放されたいのに、共有者の一人が行方不明で手続きが進まない」

このようなお悩みで、当事務所にご相談に来られる方は少なくありません。不動産を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。そのため、共有者の一人でも行方が分からなくなると、不動産の売却(全体の処分)や一定の賃貸等の判断が進めにくくなり、『塩漬け』状態に陥ることがあります。

しかし、ご安心ください。このような八方ふさがりの状況を打開するため、令和3年改正で創設された制度が、2023年4月1日から施行されました。

この記事では、相続を専門とする司法書士の立場から、行方不明の共有者がいる不動産を売却するための新しい制度「所在等不明共有者の持分の譲渡」について、制度ができた背景から、具体的な手続きの流れ、費用や期間の目安まで、分かりやすく解説します。最後までお読みいただければ、長年の悩みを解決するための具体的な道筋が見えてくるはずです。

なぜ新制度が?従来の行方不明共有者問題と解決策の限界

今回の民法改正で新制度が作られた背景には、従来の法律では行方不明の共有者がいる不動産の取り扱いが非常に難しく、時間も費用もかかりすぎてしまうという深刻な問題がありました。

原則:不動産全体の売却には共有者全員の同意が必要

まず、大原則としてご理解いただきたいのは、共有名義の不動産全体を売却する行為は、法律上「処分行為」にあたるということです。そして民法では、この処分行為を行うには、持分の割合にかかわらず、共有者全員の同意がなければならないと定められています(民法第251条)。

たとえご自身の持分が99%であったとしても、残りの1%の持分を持つ共有者の同意がなければ、不動産全体を売却することはできません。この厳格なルールがあるからこそ、共有者の一人が行方不明になるだけで、すべての手続きが完全にストップしてしまうのです。

限界があった従来の解決策①:不在者財産管理人制度

これまで、行方不明の共有者がいる場合に不動産を売却するための方法として「不在者財産管理人制度」がありました。これは、行方不明者の代わりに財産を管理する「不在者財産管理人」を家庭裁判所に選任してもらう制度です。

選任された管理人(多くは弁護士などの専門家)が、家庭裁判所の許可を得て、行方不明者に代わって売却に同意することで、手続きを進めることができます。

しかし、この制度には大きなデメリットがありました。

  • 高額な費用:管理人の報酬として、数十万円から100万円以上になることもある「予納金」を裁判所に納める必要があります。
  • 長い時間:管理人の選任申立てから、売却の許可を得るまで、スムーズに進んでも半年から1年以上かかるケースも珍しくありませんでした。

このように、費用と時間の負担が非常に大きく、利用のハードルが高いのが実情でした。

限界があった従来の解決策②:共有物分割請求訴訟

もう一つの従来の方法が「共有物分割請求訴訟」です。これは、裁判を通じて共有状態そのものを解消する手続きです。

しかし、この方法も行方不明者がいる場合には課題がありました。訴訟の相手方である行方不明者に訴状を送達できないため、「公示送達」という特別な手続きが必要となり、時間と手間がかかります。また、裁判所が必ずしも「不動産全体を売却して代金を分ける(換価分割)」という判決を下すとは限らず、希望通りの結果にならない不確実性もデメリットでした。

【改正民法の新制度】所在等不明共有者の持分譲渡とは?

従来の制度が抱えていた「時間・費用・手続きの煩雑さ」といった課題を解決するために創設されたのが、「所在等不明共有者の持分の譲渡」制度(民法262条の3)です。

一言でいえば、「『裁判所の裁判(権限付与)を得て、一定の要件のもとで、所在等不明共有者の持分を特定の第三者に譲渡できる制度』」です。この制度の登場により、これまで「塩漬け」になっていた多くの共有不動産に、売却という出口が見えるようになりました。

制度の概要:行方不明者の持分ごと第三者に売却できる

この制度の仕組みは、以下のようになります。

  1. まず、行方不明者以外の共有者全員で、不動産の買主(特定の第三者)を見つけ、売買条件について合意します。
  2. その上で、共有者の一人が代表して、地方裁判所に「所在等不明共有者の持分を、合意した買主に譲渡する権限を与えてください」という申立てを行います。
  3. 裁判所が審査し、問題がなければ「譲渡権限付与」の決定を出します。
  4. この決定に基づき、申立人は行方不明者の代理人として売買契約を結び、不動産全体を買主へ売却することができます。

ポイントは、不在者財産管理人を選任することなく、直接的に売却手続きを進められる点にあり、これにより手続きの大幅な簡略化と迅速化が期待できます。

利用するための3つの要件

この便利な制度を利用するには、法律で定められた以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 共有者が「所在等不明」であること
    住民票や戸籍の附票を取得しても住所が分からない、登記簿上の住所に手紙を送っても届かない、現地を訪問しても誰も住んでいないなど、「相当な努力を尽くしても、その所在を知ることができない」状態を指します。
  2. 所在等不明共有者以外の共有者全員が、特定の第三者への売却に同意していること
    申立ての前に、連絡がつく共有者全員の間で「誰に、いくらで売るのか」という具体的な合意が固まっている必要があります。一人でも反対者がいる場合は、この制度は利用できません。
  3. 対象が不動産であること
    この制度の対象は、土地や建物といった不動産、または借地権などの不動産に関する権利に限られています。

【注意】相続した不動産には「10年ルール」が適用される

相続によって共有状態になった不動産の場合、一つ重要な注意点があります。それは、相続開始の時(被相続人が亡くなった時)から10年が経過していないと、原則としてこの制度は利用できないという特則です(民法262条の3第2項)。

これは、相続開始から10年以内は、遺産分割によって各相続人の最終的な取得分が変わる可能性があるため、その権利を保護するためのルールです。ご自身のケースがこの「10年ルール」に該当しないか、事前に確認が必要です。

なお、2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続不動産の手続きはより重要になっています。放置していると、このような新制度の利用にも影響が出ることがありますのでご注意ください。

持分譲渡制度の手続きの流れと期間・費用の目安

では、実際にこの制度を利用する場合、どのような流れで進むのでしょうか。ここでは、申立ての準備から売却完了までの具体的なステップと、期間・費用の目安を解説します。

ステップ1:事前準備(所在調査・買主との交渉)

まず、裁判所への申立て前に、以下の準備を整える必要があります。

  • 所在調査:行方不明の共有者の住民票や戸籍の附票を取得し、登記簿上の住所への郵便物が返送されてくることなどを確認し、「相当な努力をしても所在が不明である」ことを客観的に証明できる資料を集めます。
  • 買主の決定と共有者間の合意:不動産会社などに仲介を依頼して買主を見つけ、売買価格や条件を交渉します。そして、行方不明者以外の共有者全員から、その条件で売却することへの同意を取り付けます。

この事前準備が、手続きをスムーズに進めるための最も重要な鍵となります。

ステップ2:地方裁判所への申立て

準備が整ったら、不動産の所在地を管轄する地方裁判所へ「所在等不明共有者持分譲渡権限付与申立」を行います。申立てには、主に以下の書類が必要です。

  • 申立書
  • 不動産の登記事項証明書
  • 固定資産評価証明書
  • 所在調査に関する報告書や資料
  • 売買契約書の案
  • 他の共有者全員の同意書

これらの書類作成や収集は専門的な知識を要するため、司法書士などの専門家へ依頼するのが一般的です。

ステップ3:裁判所による公告と決定(約3ヶ月~)

申立てが受理されると、裁判所は行方不明の共有者に対し、異議を申し立てる機会を与えるための公告を行います。異議申出のための期間は、原則として3ヶ月以上とされています。

この期間内に本人から異議の申出がなければ、裁判所は申立てを認め、譲渡を許可する決定(権限付与決定)を下します。申立てから決定までは、手続きが順調に進んだ場合でも、この公告期間があるため最低でも3ヶ月以上はかかると考えておくとよいでしょう。

ステップ4:供託金の納付

裁判所の決定が出たら、申立人は行方不明の共有者のために、その持分に相当する売却代金を法務局(供託所)に預ける「供託」という手続きを行います。

これは、将来行方不明者が現れた際に、本来受け取るべきだったお金を確保しておくための重要な手続きです。裁判所が定めた期間内に供託を完了させないと、決定が効力を失うため、注意が必要です。供託する金額は、不動産の時価額(不動産鑑定士の評価などを参考にします)に基づいて計算されます。

ステップ5:不動産の売買契約・登記

供託が無事に完了すれば、いよいよ最終段階です。申立人は、裁判所の許可に基づき、行方不明の共有者の代理人として買主と正式に売買契約を締結します。そして、司法書士が所有権移転登記を申請し、不動産の名義が買主へと変更されます。

これにより、行方不明者の持分も完全に買主へ移転し、売却手続きはすべて完了です。売却代金から供託した金額を差し引いた残りが、他の共有者の持分に応じて分配されます。

【費用の目安】裁判所費用と専門家報酬

この制度を利用する際にかかる費用は、大きく分けて以下の3つです。

  1. 裁判所に納める費用
    申立ての印紙代、連絡用郵便切手代、官報公告費用(予納金)などが必要で、金額は裁判所・共有者数・対象持分数等により変動します(例:裁判所の案内に記載の印紙1,000円×対象持分数、郵便切手、官報公告費用〔予納金〕等)。
  2. 供託金
    行方不明者の持分に相当する不動産の時価額です。これは売却代金から支払うことになりますが、一時的に立て替えが必要になる場合もあります。
  3. 専門家への報酬
    司法書士や弁護士に申立てを依頼した場合の報酬です。事案の難易度や不動産の価格によって異なりますが、30万円~60万円程度が一般的な目安となるでしょう。

従来の不在者財産管理人制度で必要だった高額な予納金が不要になるため、トータルの費用を抑えられる可能性が高いです。

参考:所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて

司法書士が解説!持分譲渡制度のメリットと注意点

司法書士が持分譲渡制度のメリットと注意点を解説している様子

この新しい制度は非常に有用ですが、メリットと注意点の両方を正しく理解した上で利用を検討することが大切です。

メリット1:従来の方法より時間と費用を抑えられる

最大のメリットは、やはり手続きの効率性です。前述の通り、不在者財産管理人制度で必要だった高額な予納金が不要となり、選任手続きにかかる時間も短縮できます。また、共有物分割訴訟のように長期化するリスクも比較的少ないため、全体として迅速かつ低コストで問題を解決できる可能性が高まります。

メリット2:不動産全体を市場価格に近い価格で売却できる

ご自身の持分だけを専門の不動産業者に買い取ってもらう、という方法もあります。しかしこの場合、買い取った業者は他の共有者との交渉が必要になるなどリスクを負うため、買取価格は市場価格の半値以下になってしまうことも少なくありません。

一方で、本制度を利用すれば、不動産全体を一つの商品として一般の市場で売却できます。そのため、より市場価格に近い、有利な条件で売却できる可能性が高いのです。結果として、各共有者が最終的に手にする金額も大きくなることが期待できます。

注意点:事前に買主を見つけ、他の共有者全員の同意が必要

この制度を利用する上での最大のハードルは、裁判所に申し立てる前に、すでに「買主」と「他の共有者全員の売却への同意」が揃っている必要があるという点です。

  • なかなか買主が見つからない
  • 連絡がつく共有者の中に、一人でも売却に反対している人がいる

このようなケースでは、残念ながらこの制度を利用することはできません。この点が、他の共有者の意向にかかわらず最終的に共有関係を解消できる共有物分割請求訴訟との大きな違いです。

もう一つの新制度「持分取得制度」との違いは?

実は、2023年の民法改正では、もう一つよく似た制度「所在等不明共有者の持分の取得」制度(民法262条の2)が創設されました。この二つの制度の違いを理解し、ご自身の目的に合った方を選ぶことが重要です。

所在不明共有者の持分譲渡制度と持分取得制度の違いを比較する図解

持分取得制度:他の共有者が行方不明者の持分を買い取る

「持分取得制度」は、不動産を第三者に売却するのではなく、他の共有者(申立人)が、行方不明者の持分を裁判所の決定を経て買い取る(取得する)ための制度です。

この制度の目的は、共有関係を整理・単純化することにあります。例えば、兄弟3人共有の実家に長男が住んでおり、行方不明の次男の持分を長男が買い取って、単独所有にしたい、といったケースで利用されます。

【ケース別】持分譲渡と持分取得、どちらを選ぶべきか

どちらの制度を選ぶべきか、目的別に整理すると以下のようになります。

  • 不動産全体を第三者に売却して、共有者全員で現金を分けたい場合
    『持分譲渡制度』(民法262条の3)が適しています。
  • 共有者の一人が不動産を単独で所有したい、または、まずは共有関係を整理してから将来の活用法(売却、賃貸など)を考えたい場合
    『持分取得制度』(民法262条の2)が適しています。

ご自身の希望がどちらに近いかによって、選択すべき手続きが変わってきます。

【解決事例】所在不明共有者がいる土地の売却サポート

ここで、当事務所で実際に「所在等不明共有者の持分の譲渡」制度を活用して問題解決に至った事例を、少し変えてご紹介します。この話は、多くの同じ悩みを抱える方々にとって、希望の光となるかもしれません。

ご相談に来られたのは、AさんとBさんというご兄弟でした。お二人は、数年前に亡くなられたお父様から相続した土地を、長年連絡が取れない親族Cさんと3人で共有していました。

「この土地を売って、そのお金で母の介護費用に充てたいんです。不動産業者X社も買い手として見つかっているのですが…」

AさんとBさんは、買主も売却価格の合意もできているのに、Cさんと連絡が取れないという一点だけで、契約に踏み切れずにいました。まさに、法律の壁に阻まれて途方に暮れているご様子でした。

私は、この状況を打開する最適な方法として、民法改正で新設された「所在等不明共有者の持分の譲渡」制度の利用をご提案しました。最初は「そんなことができるんですか?」と半信半疑だったお二人も、手続きの流れを丁寧にご説明すると、表情が明るくなっていきました。

当事務所のサポートで、早速手続きを開始しました。

  1. まず、私たちがCさんの所在調査を行い、戸籍や住民票を追っても現在の居所が不明であることを証明する報告書を作成しました。
  2. 次に、AさんとBさん、そして買主であるX社との売買契約書案を整え、地方裁判所への申立書類一式を作成・提出しました。
  3. 裁判所での3ヶ月間の公告期間が満了し、Cさんからの異議申立てもなく、無事に「譲渡権限付与」の決定が下りました。
  4. Aさんは、裁判所の指示に従い、Cさんの持分に相当する金額を法務局に供託しました。
  5. そして、決定の確定後、Aさん・Bさんと買主X社との間で正式に売買契約を締結。私たちが代理人として所有権移転登記を申請し、すべての手続きが完了しました。

ご相談から約半年後、AさんとBさんは無事に土地を売却し、目的だったお母様の介護費用を確保することができました。「もう諦めるしかないと思っていました。先生のおかげで、長年の胸のつかえが取れました」と涙ながらに感謝された時、この仕事のやりがいを改めて感じました。

まとめ:行方不明の共有者がいても、要件を満たせば売却できる場合があります

この記事では、共有者の一人が行方不明で行き詰ってしまった不動産の売却について、2023年の民法改正で新設された「所在等不明共有者の持分の譲渡」制度を中心に解説しました。

【この記事のポイント】

  • 共有者が行方不明でも、新制度を使えば不動産全体を第三者に売却できる
  • 従来の方法(不在者財産管理人など)に比べ、時間と費用を抑えられる可能性が高い。
  • 利用するには、事前に買主を見つけ、他の共有者全員の同意を得る必要がある。
  • 手続きには所在調査や裁判所への申立てなど、専門的な知識と実務経験が不可欠

長年「塩漬け」になっていた不動産問題も、法律の改正によって解決の道が開かれました。しかし、その手続きは複雑で、ご自身だけで進めるのは非常に困難です。どの制度が最適なのか、どのように手続きを進めればよいのか、判断に迷われることも多いでしょう。

そのような時は、ぜひ私たち相続と不動産の専門家にご相談ください。あなたの状況を丁寧にお伺いし、状況に応じた解決策の選択肢をご提案いたします。一人で悩まず、まずは第一歩を踏み出すことが、問題解決への一番の近道です。

当事務所では、平日夜間や土日祝のご相談にも対応しております。まずはお気軽にお問い合わせください。

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