親族は成年後見人になれる?条件や手続きを専門家が解説

Two Japanese women, younger and older, sit on a living room sofa examining letters and documents together as sunlight pours in.

親のもしも…「成年後見人、家族でもなれる?」という疑問にお答えします

「最近、親の物忘れがひどくなってきた…」「実家の預金管理や契約手続きが心配…」
大切なお父様、お母様の将来を考えたとき、多くの方が「成年後見制度」という言葉を思い浮かべるかもしれません。

そして同時に、こんな切実な疑問が湧いてくるのではないでしょうか。

「成年後見人って、私たち家族でもなれるのだろうか?」

弁護士や司法書士といった専門家がなるイメージが強いかもしれませんが、できれば一番身近で本人のことを理解している家族が支えてあげたい。そう願うのは、ごく自然なことです。しかし、その一方で「なれるとしても、どんな条件があるの?」「責任は重いのでは?」といった不安も尽きないことでしょう。例えば、認知症の親のスマホ解約のような身近な問題でさえ、壁にぶつかることがあります。

この記事では、相続や成年後見を専門とする司法書士の視点から、あなたの疑問や不安に一つひとつ丁寧にお答えしていきます。親族が成年後見人になるための条件や手続き、そして知っておくべき現実的なメリット・デメリットまで、分かりやすく解説します。この記事では、ご家族の状況に応じて検討すべき選択肢を整理できるよう、制度の基本と注意点を解説します。

結論:親族も後見人になれます。ただし、ご状況に応じて3つの道筋があります

まず、一番の疑問にお答えします。はい、ご家族などの親族も成年後見人になることは可能です。

ただし、誰が成年後見人になるかを最終的に決定するのは、申立てをした家族ではなく「家庭裁判所」です。候補者として「長男の〇〇を希望します」と申し立てることはできますが、その通りに選任されるとは限りません。

実際、最高裁判所の統計によれば、親族が後見人に選ばれる割合は約2割弱にとどまり、残りの約8割は、司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門職や法人、市民後見人など、親族以外の方が選ばれているのが現状です。

成年後見人に選ばれる人の割合を示す円グラフ。親族が約2割、司法書士などの専門職が約8割を占めていることを示している。

では、どのような場合に親族が選ばれ、どのような場合に専門家が選ばれるのでしょうか。ご自身の状況がどのパターンに当てはまるか、確認してみましょう。大きく分けて、3つの道筋が考えられます。

【A】親族後見人が「選任されやすい」ケース

家庭裁判所が親族を後見人として認めやすいのは、ご本人の財産を守る上で懸念点が少ないと判断される場合です。具体的には、以下のような状況が挙げられます。

  • 本人の財産が預貯金と自宅不動産のみなど、管理が比較的シンプルな場合
  • 預貯金の額が1,000万円未満など、多額ではない場合
  • 財産の使い道を巡って、親族間で争いや意見の対立がない場合
  • 後見人の候補者自身に借金がなく、経済的に安定している場合

実は、最高裁判所も「ご本人の生活状況や気持ちを最もよく理解している、身近な親族が後見人になることが望ましい」という考え方を示しています。上記の条件に当てはまるのであれば、自信をもって親族後見を目指すことができるでしょう。たとえ申立てに必要な書類が一部揃わない状況でも、諦める必要はありません。

【B】親族後見人を「目指せるが、工夫が必要な」ケース

多くの方がこのケースに当てはまるかもしれません。例えば、「親の預金が1,200万円ある」といった、財産が比較的多額な場合です。

なぜ財産が多いと親族後見が難しくなるのでしょうか。それは、家庭裁判所が「高額な財産を身内だけで管理すると、万が一の使い込みリスクが高まるのではないか」「管理の負担が重すぎるのではないか」と懸念するからです。

しかし、これは「絶対に無理」ということではありません。このような課題を乗り越え、親族が後見人になるための具体的な方法があります。その際に検討されることがあるのが、「後見制度支援信託」や「後見監督人」といった制度の活用です。これについては、次の章で実際の事例を交えて詳しく解説します。

【C】親族後見人が「選ばれにくい」ケース

残念ながら、状況によっては親族が後見人になるのが難しい、あるいは不適切と判断されるケースもあります。無駄な労力を費やさないためにも、率直にお伝えします。

  • 親族間に財産を巡る対立がある場合:「誰が介護費用を出すか」「実家をどうするか」などでもめていると、中立的な専門家が選ばれる可能性が高まります。
  • 候補者自身に借金がある場合:本人の財産を危険にさらすリスクがあると見なされてしまいます。
  • 本人と候補者の間に利益相反の可能性がある場合:例えば、本人の不動産を候補者が安く買い取りたいと考えているなど、利害が対立する状況です。

このような状況では、無理に親族後見を進めるよりも、初めから司法書士などの専門家に任せる方が、結果的にご本人のため、そして家族関係のためになることも少なくありません。

成年後見制度の全体像については、成年後見をご検討中の方へで体系的に解説しています。

(参考:最高裁判所「成年後見関係事件の概況」

【事例で解説】預金1200万円でも親族が後見人になれた方法

「うちは預金が1,000万円を超えているから、家族が後見人になるのは難しいかもしれない…」
前の章を読んで、そう不安に思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、諦めるのはまだ早いです。ここでは、実際に当事務所でサポートさせていただき、預金が1,200万円ありながらも、最終的にご長女様が後見人になることができた事例をご紹介します。

ご相談:預金1200万円、長女が後見人になるのは難しい?

お電話をくださったのは、お母様の認知症が進み、成年後見の利用を考えているというご長女様でした。ご相談内容は、まさに多くの方が直面する悩みでした。

「母の財産は、預金が1200万円と自宅の不動産です。私がずっと母の世話をしてきたので、後見人にも私がなりたいと思っています。でも、預金が多いと家族はなれないと聞いて不安で…」

お話を伺うと、ご長女様は献身的にお母様を支えており、後見人としてお母様の財産を守っていきたいという強い意志をお持ちでした。しかし、まさに専門職が選任されやすい「預金額1,000万円以上」という状況です。このまま申し立てても、家庭裁判所が懸念を示し、ご長女様の希望が通らない可能性が高いと考えられました。

誰が後見人になるかを決めるのは、家庭裁判所です。一度決まってしまうと、不服を申し立てることはできません。だからこそ、最初の申立ての戦略が非常に重要になるのです。

解決策:鍵は「後見制度支援信託」の活用

そこで、私たちは一つの道筋をご提案しました。

「まず、最初の申立て段階では私(司法書士)を後見人候補者とします。そして、無事に専門職である司法書士が選任された後、財産の一部を信託銀行に預ける『後見制度支援信託』という仕組みを利用します。その手続きが完了すれば、後見人を司法書士からご長女様に引き継ぐ(変更する)ことを家庭裁判所に申し立てる選択肢が考えられます。」

後見制度支援信託を利用し、専門職後見人から親族後見人へスムーズに移行する流れを示した3ステップの図解。

この「後見制度支援信託」とは、日常的に使わない高額な預金を信託銀行に預け、家庭裁判所の許可なく引き出せなくすることで、財産の安全性を担保する仕組みです。これにより、家庭裁判所の「使い込みリスク」への懸念を払拭できるため、親族が後見人として認められやすくなるのです。専門家が当初の手続きや管理体制の整備を担い、その後、家庭裁判所の判断を経て親族への後見人変更を検討する方法です。

(参考:ご本人の財産の適切な管理・利用のための 後見制度支援信託(裁判所)

結果:想いが叶い、長女が後見人に就任

ご長女様はこの提案に納得され、当事務所がサポートさせていただくことになりました。手続きは以下の流れで進みました。

  1. 当事務所の司法書士を後見人候補者として、家庭裁判所に成年後見の申立てを行いました。
  2. 無事に司法書士が後見人に選任された後、1200万円の預金のうち1000万円を信託銀行に移す「後見制度支援信託」の契約を締結しました。
  3. これにより、大きな財産は信託銀行によって安全に保全される体制が整いました。
  4. そして、家庭裁判所に後見人の変更を申し立て、当初の目的通り、ご長女様が新たにお母様の後見人に選任されました。当事務所の司法書士は、その役目を終え辞任しました。

ご長女様は、「希望が叶って本当に良かった。これからは安心して母のサポートができます」と、安堵の表情でおっしゃっていました。この事例のように、適切な手続きを踏むことで、財産が多い場合でも親族が後見人になる道は開かれています。

知っておくべき後見人のリアル:3つの重い義務と報酬の話

「家族が後見人になれた!よかった!」と安心する前に、知っておかなければならない現実があります。成年後見人には、継続的な責任と義務が伴います。引き受ける前に、具体的な負担や注意点を確認しておくことが重要です。

義務①:全財産の把握と日々の収支管理

後見人に就任して最初に行うのが、ご本人の全財産を調査し、「財産目録」を作成することです。預貯金、不動産、保険、有価証券、借金に至るまで、すべてをリストアップします。確認すべき資料が多く、一定の時間と手間がかかる作業です。

そして、その後は日々の収入と支出をすべて記録し、レシートや領収書を一枚残らず保管しなければなりません。「家族だからこれくらいは…」という甘えは一切通用しません。他人の財産を預かるという、厳格な管理責任が求められるのです。

義務②:年1回の家庭裁判所への定期報告

親族後見人の方が最も負担に感じられるのが、この定期報告です。年に一度、作成した収支計算書や最新の財産目録に、すべての通帳のコピー(1年間の取引がすべて記載されたもの)を添付して家庭裁判所に提出しなければなりません。

成年後見人の義務である家庭裁判所への定期報告の準備で、大量の書類を前に頭を抱える女性。

これは単なる事務作業ではありません。家庭裁判所から財産管理の状況を厳しくチェックされるという精神的なプレッシャーが伴います。「この支出は本当に本人のためですか?」と説明を求められることもあります。この義務を、ご本人が亡くなるまで、何年も、場合によっては何十年も継続できるか、冷静に考える必要があります。

(参考:成年後見人・保佐人・補助人の報告書式(裁判所)

後見人の報酬:親族でも請求できる?相場は?

これほど重い責任を負うのですから、後見人には報酬を受け取る権利があります。専門職が後見人になる場合、財産額に応じて月額2万円から6万円程度が相場です。

親族後見人の場合、多くは「無報酬で」と考える方が多いですが、もちろん報酬を請求することも可能です。その場合は、家庭裁判所に「報酬付与の申立て」を行い、裁判所が仕事内容に見合った金額を決定します。

後見人の大変な役割を引き受けるのですから、報酬を請求することは正当な権利です。ただし、その報酬はご本人の財産から支払われるということも忘れてはなりません。より具体的な報酬の仕組みや、費用を抑える方法については、成年後見人の報酬に関する情報でも解説していますので、併せてご覧ください。

「親族後見」以外の選択肢も知っておこう

ここまで読んで、親族が後見人になることのメリットと大変さの両方が見えてきたのではないでしょうか。「自分には荷が重いかもしれない…」と感じた方もいるかもしれません。ただし、ご家族を支える方法は親族後見だけではありません。ここでは、他の2つの有力な選択肢をご紹介します。

生前の対策全般については、生前対策の全体像の記事で詳しく解説しています。

選択肢①:専門家にすべてを任せる「専門職後見人」

司法書士や弁護士などの専門家が後見人になる方法です。

メリット

  • 煩雑な財産管理や裁判所への報告義務から解放される。
  • 中立的な立場で公平な財産管理が期待でき、親族間のトラブルを避けられる。
  • 法律や手続きのプロなので、安心して任せられる。

デメリット

  • ご本人の財産から継続的な報酬(月額2〜6万円程度)が発生する。
  • 事務的な対応になりがちで、家族のような柔軟な対応は期待しにくい場合がある。

財産が複雑な場合や親族間でもめている場合には、専門職後見人は非常に心強い選択肢となります。

選択肢②:裁判所の監督を受けない「家族信託」

近年、成年後見制度に代わる方法として注目されているのが「家族信託」です。

メリット

  • 家庭裁判所の監督を受けずに、家族だけで柔軟な財産管理ができる。
  • 本人の判断能力があるうちに契約するため、本人の意思を財産管理に反映しやすい。
  • 後見制度では難しい、積極的な資産活用(不動産の建て替えなど)も可能。

デメリット

  • 本人の判断能力がしっかりしているうちしか契約できない。
  • 身上監護(介護サービスの契約など)はできず、財産管理に限定される。

まだ親が元気で、将来の認知症に備えたいと考えている方にとって、家族信託は非常に有効な選択肢です。成年後見制度のように、一度始まると原則亡くなるまで続くという重さがなく、より柔軟な対策が可能になります。

まとめ:ご家族にとって最善の選択をするために

この記事では、ご家族が成年後見人になれるかどうか、その条件や手続き、そして現実について詳しく解説してきました。

結論として、親族が成年後見人になることは可能ですが、財産状況や親族関係によって目指すべき道筋が異なります。特に、預金が1,200万円を超えるような場合でも、「後見制度支援信託」といった仕組みを活用することで、親族が後見人になる道が開けることをご理解いただけたかと思います。

しかし、忘れてはならないのは、後見人には重い義務と責任が伴うという事実です。その大変さを理解した上で、本当にご自身で最後までやり遂げられるのか、あるいは専門職後見人や家族信託といった他の選択肢の方がご家族にとって幸せなのか、多角的に検討することが何よりも大切です。

近年では、目的を達成したら終了できる「終われる後見」への法改正も進んでおり、制度のあり方も変化しています。

「うちのケースでは、どの方法が一番合っているのだろう?」
もし少しでも迷われたら、一人で悩まずに専門家にご相談ください。あなたとご家族の状況を丁寧にお伺いし、最善の選択をするためのお手伝いをさせていただきます。

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