弟と連絡が取れない…自分の相続分だけ先に登記できますか?

A weathered stack of documents on a desk, a hand resting on top, with family photos on a sunlit windowsill in the background.

【相談事例】弟と連絡が取れない…父の持分、私の分だけ相続登記できますか?

先日、ご相談にいらっしゃったAさんの事例です。
お父様が亡くなり、相続登記の手続きを進めたいとのことでした。

お父様は土地の共有持分(2分の1)を所有しており、相続人はAさんと弟のBさんの2人だけ。しかし、Aさんは長年、弟のBさんと連絡が取れていない状況でした。

「弟と連絡が取れないので、父が持っていた土地の持分のうち、私の法定相続分(土地全体の4分の1)だけを先に登記することはできないでしょうか?」

Aさんは、手続きが停滞してしまうことへの焦りから、ご自身の権利だけでも早く確定させたい、という切実な思いでご相談に来られました。
このようにお考えになる方は、決して少なくありません。しかし、司法書士としての私の答えは「残念ながら、Aさんの持分4分の1だけを切り離しての相続登記はできないのです」というものでした。

なぜ、ご自身の分だけの登記は認められないのでしょうか?そして、連絡の取れない相続人がいる場合、一体どうすれば手続きを進められるのでしょうか?
この記事では、同じようなお悩みを抱える方のために、法的なルールと具体的な解決策を分かりやすく解説していきます。

結論:ご自身の持分だけを切り離しての相続登記はできません

まず、読者の皆様が一番知りたい結論からお伝えします。相続人のお一人であるAさんが希望されたように、ご自身の法定相続分(土地全体の4分の1)だけを抜き出して、Aさん単独名義にするような相続登記は、法律上認められていません。

「自分の権利なのに、なぜ?」と疑問に思われるかもしれませんね。これには、不動産登記制度の根本的なルールが関係しています。もしこの登記を認めてしまうと、「亡くなったお父様と、相続人であるAさん・Bさんが不動産を共有している」という、実態とは矛盾した登記状態が生まれてしまうからです。

なぜ「自分の分だけ」の登記は認められないのか?

不動産登記の大きな目的は、その不動産の「権利関係を正しく社会に示す(公示する)」ことです。誰が、どれくらいの権利を持っているのかを、誰が見ても分かるように記録しておくための制度なのです。

もしAさんの持分4分の1だけの登記を認めてしまうと、登記簿はどうなるでしょうか?

  • Aさん:持分4分の1
  • お父様(被相続人):持分4分の1(相続されるべき持分が残ってしまう)

このような形になり、登記簿上に亡くなったお父様の名義が残り続けてしまいます。これは「亡くなった人と、生きている人が不動産を共有している」という、あり得ない状態を公示することになり、登記制度の目的と矛盾します。そのため、このような登記申請は受け付けてもらえません。この考え方は古くから確立されており、昭和30年の登記先例(登記実務上のルールのようなもの)でも明確に示されています(昭和30年10月15日民事甲第2216号)。

「自分の分だけ」と「法定相続分」の登記は全くの別物

ここで、多くの方が混同しやすいポイントを整理しましょう。Aさんが希望された「自分の分だけの登記」と、法律上可能な「法定相続分の登記」は、全く異なる手続きです。

相続登記で自分の持分だけ登記することと、法定相続分で全員分を登記することの違いを比較した図解。前者は不可、後者は可能であることが示されている。

Aさんが希望されたのは、「① できないこと」、つまり、お父様の持分2分の1から、ご自身の相続分である4分の1だけを切り離して、Aさん単独の名義にすることです。

一方で、この記事で後述する「② できること」とは、お父様の持分2分の1全体について、相続人であるAさんとBさんが法律で定められた割合(法定相続分)で共同相続した、という内容の登記をすることです。この場合、登記の名義は「Aさん 持分4分の1、Bさん 持分4分の1」となります。

この2つは似ているようで全く意味が違います。「自分の分だけ」という言葉のイメージから誤解が生まれやすい部分ですので、この違いをしっかり理解しておくことが重要です。相続登記に関する全体像については、不動産の名義変更(相続登記)で体系的に解説しています。

代替案:法定相続分で「全員分」の登記なら単独申請が可能です

「自分の分だけの登記はできない」と聞いて、がっかりされたかもしれません。しかし、ご安心ください。連絡が取れない相続人がいても手続きを進める方法はあります。

それが、相続人の一人から、他の相続人の分も含めて「法定相続分どおりの相続登記」を単独で申請する方法です。これは、民法上の「保存行為」として認められており、相続人全員の協力がなくても、申請人一人の意思で手続きが可能です。

今回のAさんのケースで言えば、Aさんが単独で申請して、お父様の持分2分の1を「Aさん 持分4分の1、Bさん 持分4分の1」という内容の登記をすることができます。この方法には、メリットとデメリットの両方があります。

メリット:他の相続人の協力なしで登記義務を果たせる

この方法の最大のメリットは、連絡が取れない、あるいは非協力的な相続人がいても、その人の実印や印鑑証明書なしで手続きを進められる点です。
Aさんがご自身の身分を証明する戸籍謄本など、相続登記に必要な書類を揃えれば、弟Bさんの協力は必要ありません。

これにより、2024年4月1日からスタートした相続登記の義務化にも対応でき、ひとまず義務を履行したことになります。相続手続きが前に進まずお困りの方にとっては、現状を打破する有効な一手と言えるでしょう。

デメリット:権利証が発行されず、根本解決にならない

一方で、この方法には注意すべき重要なデメリットが2つあります。

第一に、登記完了後に発行される登記識別情報通知(いわゆる権利証)は、申請人であるAさんの分しか発行されません。弟Bさんの分は発行されないため、将来Bさんが自分の権利証が必要になった際に、別途手続きが必要になる可能性があります。

第二に、そしてこれが最も重要な点ですが、この登記はあくまで暫定的なものに過ぎず、問題の根本的な解決にはならないということです。登記後の不動産はAさんとBさんの共有状態になります。そのため、この不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりするには、結局のところBさんの協力(実印や印鑑証明書)が不可欠となります。

つまり、この方法は問題を先送りにしているだけであり、最終的に不動産をどうしたいのかという目的を達成するためには、やはりBさんと連絡を取り、話し合いをする必要があるのです。

司法書士が相続登記に関する書類を真剣に確認している様子。専門家への相談の重要性を象徴している。

連絡が取れない弟さん…どう対応すべきか?

では、法定相続分での登記を進めるにしても、最終的な解決を目指すにしても、連絡が取れない弟のBさんに対して、具体的にどのようなアクションを取ればよいのでしょうか。ただ待っているだけでは状況は変わりません。以下のステップで、能動的に動くことが大切です。

ステップ1:戸籍の附票で現在の住所を調査する

まず最初に行うべきは、Bさんの現在の住所を調べることです。最も基本的な方法は「戸籍の附票(こせきのふひょう)」を取得することです。

戸籍の附票とは、その人の戸籍が作られてから現在までの住所の履歴が記録された書類です。Bさんの本籍地が分かっていれば、その市区町村役場で取得できます。相続手続きのためであっても、BさんとAさんが同一戸籍でない場合などは、委任状が必要になったり、第三者請求として「正当な理由」を示す資料の提出が求められることがあります。これにより、現在の住民登録地を特定できる可能性が高まります。なお、登記簿上の住所が古い場合の調査方法としても使われる手法です。

ステップ2:手紙を送る(内容証明郵便の活用)

住所が判明したら、次は手紙を送ってみましょう。まずは普通の郵便で、お父様が亡くなったこと、不動産の相続手続きを進めるために遺産分割協議が必要であることを丁寧に伝えます。

もし手紙を送っても返信がない、あるいは受け取りを拒否されるといった場合には、「内容証明郵便」を活用することも有効です。内容証明郵便は、いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったのかを郵便局が証明してくれるサービスです。法的な強制力はありませんが、「こちらとしては話し合いを試みました」という客観的な証拠を残すことができ、後の法的な手続きで有利に働く場合があります。

ステップ3:不在者財産管理人の選任を申し立てる

調査を尽くしてもBさんの所在が不明な場合、あるいは手紙を送っても全く応答がない場合の最終手段として、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる制度があります。

不在者財産管理人とは、行方不明者(不在者)の財産を本人に代わって管理する人のことです。この管理人を家庭裁判所に選任してもらうことで、管理人がBさんの代理人として遺産分割協議に参加し、手続きを進めることが可能になります。

ただし、この手続きは弁護士などの専門家が管理人に選任されることが多く、その報酬などの費用がかかります。また、管理人はあくまでBさんの利益を守る立場ですので、Bさんの法定相続分を確保する方向で協議に臨むことになります。必ずしもAさんの思い通りに分割できるわけではない点には注意が必要です。
より詳しい手順については、相続人が行方不明…遺産分割と相続登記の対処法を解説をご覧ください。このように、疎遠な兄弟との遺産分割は専門的な手続きが必要になるケースが少なくありません。

相続登記義務化への対応策「相続人申告登記」とは?

相続登記の義務化が始まり、「とりあえず義務だけでも果たしておきたい」と考える方もいらっしゃるでしょう。そのような場合に、もう一つの選択肢として2024年4月1日に新設されたのが「相続人申告登記」という制度です。

これは、遺産分割協議がまとまらないといった事情がある場合に、相続人が単独で「私がこの不動産の相続人の一人です」と法務局に申し出ることで、相続登記の申請義務を簡易に履行できる制度です。前述した「法定相続分での登記」が難しい、あるいは費用をかけたくない場合に有効な手段となり得ます。

この制度について、詳しくは法務省のウェブサイトもご参照ください。
参照:相続人申告登記について|法務省

相続人申告登記のメリットと申請方法

この制度のメリットは、その手軽さにあります。

  1. 申請する相続人自身の分だけで義務を履行できる
    他の相続人の分まで申し出る必要はなく、Aさんがご自身の分だけ申し出れば、Aさん自身の義務は果たしたことになります。
  2. 必要書類が比較的少ない
    申し出る方が被相続人の相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出すればよく、法定相続人全員の戸籍謄本を集める必要はありません。
  3. 登録免許税が非課税
    不動産の価格にかかる登録免許税を納める必要がありません。

手続きが非常に簡便で費用も抑えられるため、時間や費用の面で制約がある方にとっては有効な選択肢です。

注意点:権利関係は確定せず、売却などはできない

しかし、この相続人申告登記にも大きな注意点があります。それは、この手続きは権利関係を確定させるものではない、ということです。

登記簿には「相続人 住所 氏名」と記録されるだけで、Aさんの持分が4分の1である、といった権利の割合までは登記されません。そのため、この登記をしただけでは、不動産を売却したり、融資の担保にしたりすることはできません。

あくまで相続登記の義務を果たすための「仮の措置」と理解しておく必要があります。不動産を処分したり活用したりするためには、最終的にBさんと遺産分割協議を行い、正式な相続登記を申請しなくてはならないのです。
より具体的な手順については、連絡が取れない相続人がいる…相続登記義務化と相続人申告登記を解説で詳しく解説しています。

まとめ:連絡が取れない相続人がいる場合は、まず専門家へご相談を

今回は、連絡が取れない相続人がいる場合の相続登記について解説しました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。

  • ご自身の法定相続分だけを切り離しての相続登記はできない
  • 代替案として、相続人の一人から「法定相続分で全員分の登記」を単独申請することは可能。
  • 相続登記義務化への簡易な対応策として「相続人申告登記」という選択肢もある。
  • しかし、どちらの方法も不動産が共有状態であることに変わりはなく、売却などには他の相続人の協力が必要で、根本的な解決にはならない。

連絡が取れない相続人がいるケースでは、戸籍をたどっての住所調査から、不在者財産管理人選任の申立てといった法的な手続きまで、専門的な知識と経験が不可欠です。ご自身で判断して進めるのは非常に困難ですし、思わぬトラブルに発展するリスクもあります。

「自分の分だけなら簡単にできるはず」と思っていたことが、実際には共有者全員に関わる複雑な問題だった、ということは珍しくありません。手続きが止まってしまい、どうして良いか分からなくなってしまったら、一人で悩まずに、まずは相続問題に精通した司法書士のような専門家にご相談ください。円満な解決を目指すうえでは、できるだけ早期に専門家のサポートを得ることが有効です。どのような司法書士に相談すべきか迷われた際も、お気軽にお声がけいただければと思います。

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