このページの目次
相続した家の売却、何から始める?よくあるご相談事例
親御様が亡くなり、ご実家を相続したものの、誰も住む予定がないため売却を考えている。しかし、いざ売却しようにも「何から手をつけて良いのか全くわからない」という方は少なくありません。
手続きの順番は?相続人同士で揉めないためには?税金はどれくらいかかるの?…考えれば考えるほど、不安は募るばかりですよね。
実際に、当事務所にもこのようなご相談がよく寄せられます。
【実際にあったご相談】
「父が亡くなり、空き家になった実家を売却したいと考えています。不動産会社に相談したところ、『まず相続登記をしてください』と言われました。相続人は母と兄弟3人ですが、遺産分割協議もまだで、何から始めればいいのか分かりません。」
【司法書士からのアドバイス】
このケースでは、売却活動よりも先に「相続人の確定」と「遺産分割協議」が必要です。誰が不動産を取得するのか決まらなければ相続登記ができず、登記が終わらなければ原則として売却も進められません。
一見遠回りに見えるかもしれませんが、売却を急いでいても、まずは登記までの流れを一つひとつ整理することで、結果的にその後の手続きがスムーズに進みます。
(この後、当事務所で相続財産の調査から遺産分割協議書の作成、相続登記までをサポートし、提携する信頼できる不動産会社をご紹介することで、売却まで円滑に進めることができました。)
あなたも、今まさに同じような状況で悩んでいるのではないでしょうか。
この記事では、相続した家を売却する前に確認しておきたい手続きの全体像と、一般的な進め方の順番を整理して解説します。個別の事情によって必要な対応は異なるため、不安がある場合は専門家に相談しながら進めることが大切です。
【全体像】相続した家の売却は「売る前」の準備が重要です
相続した家の売却を考えたとき、多くの方がやってしまいがちなのが、「とりあえず不動産会社に相談してみる」という行動です。
もちろん、最終的には不動産会社の協力が不可欠ですが、実はこの「いきなり相談」が、後々のトラブルや手続きの遅延を招く原因になりかねません。
- 「売買契約寸前で、まだ相続登記が終わっていないことが発覚し、契約が白紙に戻ってしまった…」
- 「兄弟の一人が売却に反対し始め、遺産分割協議がまとまらなくなった…」
- 「売却後に想定外の税金がかかることを知り、手元に残るお金がほとんどなかった…」
こうした事態を避けるために最も重要なこと。それは、本格的な売却活動に入る前の「準備」です。相続した不動産を売却するメリット・デメリットをしっかり理解した上で、正しい手順で準備を進めることが、スムーズな売却につながります。

この図のように、まずは相続に関する問題をクリアにし、不動産の法的な状態を整える。そして、不動産の物理的な状況を把握する。この2つの準備が完了して、その後に本格的な売却活動へ進みやすくなります。相続不動産の売却では、売却前の準備を丁寧に進めることが重要です。
司法書士が解説!売却前にやるべき7つのステップと順番
ここからは、相続した家を売却するために「売る前に」やるべきことを、7つの具体的なステップに分けて、時系列で詳しく解説していきます。ご自身の状況と照らし合わせながら、読み進めてみてください。
ステップ1:相続人を確定させる【最重要】
売却準備の最初に確認したい手続きが「相続人の確定」です。
なぜなら、後のステップで解説する「遺産分割協議」は、相続人全員の参加が絶対条件だからです。一人でも欠けていると、その協議は法的に無効になってしまいます。
「相続人なんて、家族なんだから分かっているよ」と思われるかもしれません。しかし、法的な相続人を確定させるためには、亡くなった方(被相続人)の「生まれてから亡くなるまでの連続した全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)」を取得して、法的な親子関係・婚姻関係を証明する必要があります。
本籍地を何度も変更している方の場合、日本全国の市区町村役場に請求しなければならず、この作業だけでも大変な手間と時間がかかります。
そして、この戸籍調査の過程で、
- 前の配偶者との間に子どもがいた
- 認知している子どもがいた
など、ご家族が知らなかった相続人の存在が判明するケースも決して珍しくありません。万が一、先に亡くなっているお子様がいる場合には、そのお子様の子、つまりお孫さんが相続人となる代襲相続が発生することもあります。ご自身での判断は禁物です。まずは正確な戸籍調査で相続人を確定させることが、全ての始まりとなります。
相続登記の手続きについて、法務局が発行しているガイドブックも参考になります。
参照:法務局の相続登記ガイドブック【相続登記ガイドブック】
ステップ2:遺産分割協議で家の取得者を決める
相続人全員が確定したら、次にその全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。
ご実家を売却することが前提の場合、最も一般的な分け方が「換価分割(かんかぶんかつ)」です。これは、相続人のうちの誰か一人が代表して不動産を相続・売却し、その売却代金を他の相続人と法律で定められた割合(法定相続分)など、協議で決めた割合に応じて分配する方法です。
換価分割は、不動産という分けにくい財産を現金化することで、1円単位で公平に分配できるという大きなメリットがあります。長年連絡を取っていなかったような、疎遠な兄弟がいる場合でも、トラブルになりにくい分け方と言えるでしょう。
相続人全員の合意が形成されたら、その内容を証明するために「遺産分割協議書」という正式な書類を作成します。この書類には、相続人全員が署名し、実印を押印。さらに、各自の印鑑証明書を添付する必要があります。この遺産分割協議書が、次のステップである相続登記の申請に不可欠な書類となります。
ステップ3:相続登記(名義変更)を申請する
遺産分割協議書が完成したら、いよいよ不動産の名義を亡くなった方から、協議で決まった相続人へと変更する「相続登記」を法務局に申請します。
2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、正当な理由なく登記をしないと過料の対象となる可能性があります。そして何より、この相続登記を完了させなければ、原則として不動産を売却することはできません。
亡くなった方の名義のままでは、買主への所有権移転登記を進める前提として相続登記が必要になるため、売却手続きに支障が生じます。相続登記にかかる期間はケースバイケースですが、準備から完了まで数ヶ月を要することも珍しくありません。
【司法書士の実務メモ】相続登記で詰まりやすいポイント
相続登記はご自身でも申請できますが、専門的な書類が多く、不備があると法務局から何度も補正(修正)の指示があり、大幅に時間がかかってしまうことがあります。特に、以下のような点でつまずく方が多い印象です。
- 戸籍謄本の不足:「生まれてから亡くなるまで」の戸籍が1通でも欠けていると申請は通りません。
- 遺産分割協議書の不備:不動産の表示(所在、地番、家屋番号など)が登記簿通りに正確に記載されていない、相続人全員の実印押印・印鑑証明書がない、などの不備は受理されません。
- 相続人の住民票:被相続人の最後の住所と登記簿上の住所が異なる場合、そのつながりを証明する「戸籍の附票」などが必要になります。
こうした細かなチェックポイントをクリアし、スムーズに登記を完了させるためにも、ご自身での対応が難しい場合は、司法書士への相談を検討するとよいでしょう。
ステップ4:売却の前に不動産の現状を調査する
相続登記の手続きと並行して、あるいは完了後に必ず行っておきたいのが、売却対象となる不動産の「現状調査」です。後々のトラブルを防ぎ、スムーズな売却を実現するために、以下の点は最低限確認しておきましょう。中には未登記建物が見つかることもあります。
- 境界の確認
隣地との境界が曖昧だと、売却後に買主と隣人がトラブルになる可能性があります。土地家屋調査士に依頼して境界を確定させる「確定測量」が必要になるケースもあります。 - 私道の有無と権利関係
土地に面している道路が公道ではなく私道の場合、その私道の所有関係や通行・掘削の承諾の有無などが売却価格に大きく影響します。私道に関する取り決めが書かれた書類がないか探したり、法務局で調査したりする必要があります。 - 抵当権の残存
亡くなった方が住宅ローンを組んでいた場合、完済していても抵当権の登記が残ったままになっていることがあります。また、何十年も前に設定された、今はもう存在しない会社の古い抵当権が残っていることも。売却するためには、これらの抵当権を抹消する手続きが必須です。
これらの調査は専門的な知識を要するため、司法書士や土地家屋調査士といった専門家に相談しながら進めるのが安心です。
ステップ5:査定依頼と残置物処分の最適なタイミング
「家の中の荷物(残置物)を全部片付けてからでないと、不動産会社に査定を頼めないのでは?」と心配される方も多いですが、そんなことはありません。
【実際にあったご相談】
「両親が長年住んでいた家なので、家具や荷物が大量に残っています。先に全て片付けるべきなのか、それとも査定を受けてからでもいいのでしょうか。」
【司法書士からのアドバイス】
必ずしも片付けを終えてから査定を受ける必要はありません。残置物がある状態でも査定は可能です。むしろ、先に複数の不動産会社に査定を依頼して売却価格の相場観を掴み、売却方針を決めてから不用品処分や遺品整理を進める方が効率的なケースも多いです。
(このケースでは、当事務所が窓口となり、相続登記・売却準備・残置物処分を並行して進めるスケジュールをご提案。提携の残置物処分業者や不動産業者と連携し、売却までワンストップで解決することができました。)
まずは現状のまま査定を受け、売却の見通しを立てましょう。買主によっては「荷物をいくつか残してほしい」と希望する場合や、「更地にして売りたい」など、売却方針によって処分の仕方が変わることもあります。焦って処分を始める前に、まずは査定を通じて専門家である不動産会社の意見を聞くことが大切です。空き家の管理には様々なリスクが伴うため、効率的に進めたいところです。
ステップ6:税金の概算を把握する
売却後の手取り額を大きく左右するのが「税金」です。売却前にどのくらいの税金がかかる可能性があるのか、概算だけでも把握しておくと安心です。
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税(所得税・住民税)」が課税されます。この税金は、換価分割を行う場合など、特に注意が必要です。
ただし、一定の要件を満たせば、税金の負担を大幅に軽減できる特例が用意されています。代表的なものが「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」で、一定の要件を満たす場合に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。なお、相続人の数などによって控除額が異なる場合があります。

【実際にあったご相談】
「実家を売れば現金化できますが、相続税や譲渡所得税がどのくらいかかるのか分かりません。税金が心配で売却を決断できません。」
【司法書士からのアドバイス】
相続登記は司法書士、相続税・譲渡所得税の計算や申告は税理士が専門です。売却前の段階で税理士とも連携して税額を試算しておくことで、「売った後に想定外の税金が発生し、手元にお金が残らなかった」という最悪の事態を防ぐことができます。
(このケースでは、当事務所が提携する税理士と共同でご面談を実施。手取り額が明確になったことで、お客様は安心して売却を進めることができ、大変お喜びいただけました。)
税金の計算は非常に複雑で専門性が高いため、必ず税理士に相談しましょう。司法書士にご相談いただければ、適切なタイミングで信頼できる税理士をご紹介することも可能です。
ステップ7:不動産会社を選び、媒介契約を結ぶ
これまでのステップ1から6までの準備がすべて整って、ようやく不動産会社と「媒介契約」を結び、本格的な売却活動がスタートします。
不動産会社を選ぶ際は、複数の会社に査定を依頼し、査定額だけでなく、
- 査定価格の根拠を明確に説明してくれるか
- その地域での売却実績が豊富か
- 担当者とコミュニケーションが取りやすく、信頼できるか
といった点を総合的に比較検討することが大切です。相続した不動産は、共有者が行方不明といった複雑な事情を抱えていることもあり、相続案件に精通した不動産会社を選ぶことも重要です。
媒介契約には、複数の会社に依頼できる「一般媒介契約」と、1社に絞って依頼する「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があります。それぞれのメリット・デメリットを不動産会社からしっかり説明してもらい、ご自身の状況に合った契約形態を選びましょう。
相続した家の売却は司法書士に相談するメリット
ここまで、相続した家を売る前にやるべき7つのステップを解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。「思ったよりやることが多くて大変そうだ…」と感じた方も多いかもしれません。
戸籍の収集、遺産分割協議書の作成、複雑な登記申請、不動産の権利関係の調査、そして税金の問題。これら全てを、ご家族を亡くされた悲しみの中で、ご自身たちだけで進めるのは精神的にも時間的にも大きな負担となりますし、手続きのどこかでミスがあれば、売却がストップしてしまうリスクもあります。
そんな時こそ、私たち司法書士のような専門家を頼ってください。相続不動産の売却において、司法書士にご相談いただくことには、以下のような大きなメリットがあります。
- 手続きの全体像を整理し、最適な段取りを組んでくれる
何から手をつけるべきか分からない状況でも、司法書士が全体の流れを整理し、今何をすべきか、次は何をすべきかを明確に示します。複数の手続きの順番を整理し、必要な対応を進めやすくします。 - 戸籍収集や登記申請の負担を軽減できる
時間と手間のかかる戸籍謄本の収集、専門知識が必要な遺産分割協議書の作成、法務局への相続登記申請について、司法書士が必要な範囲でサポートします。 - 各専門家との「窓口」となり、ワンストップで解決に導ける
不動産の売却には、税理士(税金)、土地家屋調査士(境界)、不動産会社(売却活動)など、様々な専門家の協力が必要です。司法書士が必要に応じて各専門家と連携することで、お客様が相談先を探す負担を軽減し、手続きを進めやすくします。
良い相続に強い司法書士は、単に登記手続きをするだけではありません。相続から売却完了までの流れを整理し、状況に応じた進め方を一緒に検討する相談相手です。
もしあなたが今、相続したご実家の売却でお悩みなら、一人で抱え込まずに、まずはお気軽にご相談ください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
