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数年前に書いた自筆証書遺言、書き換えることはできる?
「昔、自分で書いた遺言書があるけれど、家族の状況も変わったし、内容を見直したい…」「財産の状況が変わったから、書き換えたいな」
このようにお考えになり、ご自身の遺言書を書き換える方法について調べていらっしゃるのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、自筆証書遺言は、いつでも、何度でも、ご自身の意思で書き換えることが可能です。どうぞご安心ください。
遺言書は、遺言者様の「最終の意思」を尊重するための大切な書類です。ですから、お気持ちやご家族、財産の状況に変化があれば、それに合わせて内容を見直すのはごく自然なことです。
ただし、書き換えには法律で定められたルールがあり、その方法を間違えてしまうと、せっかくの遺言書が無効になってしまう恐れもあります。そうなっては、元も子もありませんよね。
この記事では、相続の専門家である司法書士が、自筆証書遺言を法的に正しく書き換えるための具体的な方法や注意点を、分かりやすく解説していきます。最後までお読みいただければ、ご自身の状況に合った最適な方法が分かり、安心して手続きを進めることができるはずです。
自筆証書遺言を書き換える3つの基本パターン
自筆証書遺言を書き換える方法は、大きく分けて3つのパターンがあります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に最も適した方法を選びましょう。
①【最も確実】新しく全文を書き直す方法
実務上、安全性が高いとされる方法の一つは、遺言書を全文書き直すことです。事例やご本人の事情によって最適な方法は異なるため、個別に専門家と相談の上で方法を決めることをおすすめします。
この方法の主なメリットは、古い遺言書との内容の矛盾が生じにくく、解釈上の混乱を減らすことが期待できる点です。ただし、記載内容や個別事情によっては紛争が生じる可能性があるため、全文書き直しを検討する際は専門家と十分に確認してください。
新しい遺言書を作成した場合、混乱を避けるために古い原本を保管場所から撤去・破棄することが一般的に推奨されます。ただし破棄の方法やタイミングについては個別事情や保管の有無(法務局保管など)により異なるため、実際の対応は専門家と相談してください。
法務局に預けている遺言書について、預けた原本を受け取って手元で処分したい場合は、遺言者自身が保管の「撤回」手続きを行って原本を返還してもらう必要があります。なお、複数の遺言が存在すると解釈上の混乱が生じるため、作成の運用上は撤回・返還後に新たな遺言を保管することが推奨されます(法務省による手続説明を参照)。

②今ある遺言書の一部を修正(加除訂正)する方法
すでにある遺言書の一部分だけを変更したい場合、民法で定められた厳格なルールに従うことで、修正(法律用語で「加除訂正」といいます)することも可能です。
具体的には、以下の手順を踏む必要があります。
- 変更したい箇所を二重線などで消す、または新しい文言を書き加える。
- 変更した場所の近くに「この行の〇字削除、〇字追加」など、どこをどう変更したか分かるように書き記す(付記)。
- 変更箇所の付記部分に署名し、変更箇所に印を押す必要があります(民法の方式要件)。実務上は末尾に押した印と同一の印鑑を用いるなど訂正の一貫性を示すことが望ましいですが、法律文では「同一であること」を明文で要件化していないため、印鑑の扱いは専門家と確認してください。
しかし、この方法はルールが非常に複雑で、一つでも手順を間違えると、修正した部分が無効になるだけでなく、最悪の場合、遺言書全体が無効と判断されるリスクがあります。そのため、私たちはこの方法を積極的にはおすすめしていません。少しの手間を惜しんだ結果、ご自身の最後の想いが実現できなくなっては本末転倒です。よほどの事情がない限りは、①の「新しく全文を書き直す」方法を選びましょう。
③「前の遺言を撤回する」と明記した遺言書を新たに作る方法
遺言の内容は特に変えず、単に「遺言の存在そのものをなかったことにしたい」という場合に有効な方法です。具体的には、以下のような内容の新しい遺言書を作成します。
【文例】
遺言書
私、〇〇〇〇は、令和〇年〇月〇日付で作成した自筆証書遺言を、全部撤回する。
令和〇年〇月〇日
住所 神奈川県川崎市川崎区〇〇町〇丁目〇番〇号
氏名 猪狩 佳亮 ㊞
このように、「以前作成した遺言を撤回する」という意思だけを記した新しい遺言書を作成することで、前の遺言の効力を失わせることができます。
【司法書士の実例】費用と手間を抑えたい方の書き換え相談
いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号)の司法書士 猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)は、日々多くの相続に関するご相談をお受けしています。ここでは、実際にあった遺言書の書き換えに関するご相談事例を通じて、専門家がどのように皆様のお気持ちに寄り添い、最適な解決策をご提案するのかをご紹介します。
遺贈相手の逝去に伴う書き換えのご相談
ある日、5年ほど前に遺言書の作成をお手伝いしたA子さんから、一本のお電話がありました。
「先生、実は遺言書で財産を渡すことにしていた相手が、私より先に亡くなってしまって…。遺言書を書き換えたいんです」
A子さんは5年前、公証役場で作成する公正証書遺言は手数料がかかるという理由から、ご自身で書く自筆証書遺言を選ばれ、その内容について当事務所がサポートさせていただいた経緯がありました。もちろん、その際には自筆証書と公正証書それぞれのメリット・デメリットを丁寧にご説明し、ご納得の上での選択でした。
しかし、遺言書に書かれた方が先に亡くなってしまうという、予期せぬ事態が発生してしまったのです。このままでは、A子さんの大切な財産の行き先が、意図しないものになってしまいます。すぐにでも書き換える必要がありました。
ご希望に寄り添った「一部撤回」という選択肢のご提案
A子さんのご希望は、今回も費用を抑えられる自筆証書で作成したい、というものでした。そして、もう一つ、隠れたご希望がありました。それは「なるべく文字をたくさん書くのは避けたい」ということです。
遺言書を全文書き直すのが最も確実な方法であることは間違いありません。しかし、A子さんの遺言書はそれなりの分量があり、全文を改めて手書きするのは、ご高齢のA子さんにとって大きな負担(荷が重い)であることは明らかでした。
そこで私たちは、A子さんの「費用と手間を抑えたい」というお気持ちに最大限寄り添う形で、別の方法をご提案しました。
「A子さん、全文を書き直さなくても、問題となっている部分だけを無効にして、そこだけ新しく書き直す方法もありますよ」
具体的には、「令和〇年〇月〇日に作成した遺言のうち、亡くなった方に関する第▲条は撤回し、その部分は、新しく次のとおり遺言します」という内容の、短い遺言書を新たに作成する方法です。これならば、A子さんの心身のご負担を最小限に抑えつつ、法的に有効な形でご希望を叶えることができます。
ただ手続きを代行するだけでなく、お一人おひとりの状況や想いを深く理解し、最善の道筋を一緒に見つけ出す。それが、私たちの仕事の信条です。
【最善策】そもそも書き換えが不要な遺言書の作り方
今回のA子さんの事例は、無事に解決へと向かいましたが、実はもっと良い方法があります。それは、そもそも「書き換える必要のない遺言書」を最初から作っておくことです。
将来起こりうる様々な可能性をあらかじめ予測し、それに対応できるような内容を盛り込んでおくのです。これを「予備的遺言」といいます。
例えば、先ほどのA子さんのケースであれば、最初の遺言書に次のような一文を加えておけば、今回のような書き換えは不要でした。
【予備的遺言の記載例】
「〇〇の不動産は、長男の〇〇に相続させる。もし、遺言者より先に長男〇〇が死亡していた場合は、その長男の子である△△に相続させる。」
このように、「もし〇〇が先に亡くなっていたら、次は△△に」というように、第二、第三の選択肢をあらかじめ指定しておくのです。これにより、ご自身の身に万が一のことがあっても、財産が意図しない人に渡ってしまう事態を防ぐことができます。
実は5年前、A子さんにもこの方法をご提案していました。しかし、「たくさん文字を書くのはいやだ」というご希望があり、当時は相続人や受贈者が全員ご存命であることを前提とした、最低限の内容の遺言書を作成するに至ったという背景がありました。
将来の書き換えの手間やリスク、そして何よりご自身の想いを確実に実現するためにも、最初の遺言書作成の段階で、ぜひ専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。
当事務所の遺言書作成業務についてもご覧ください。

書き換えで失敗しないための重要チェックポイント
最後に、自筆証書遺言を書き換える際に、多くの方が疑問に思われたり、失敗しがちだったりするポイントをQ&A形式で解説します。
法務局に預けている遺言書の書き換え手続きは?
自筆証書遺言書保管制度を利用している遺言書の内容を書き換えたい場合、まずは保管の申請を「撤回」する手続きが必要です。撤回手続きを行うと、預けていた遺言書の原本が返却されます。
その後、新しい内容の遺言書を作成し、改めて保管の申請を行う、という流れになります。
なお、遺言書の内容ではなく、ご自身の住所や本籍、受遺者等の氏名・住所が変わっただけの場合は、内容を書き換える必要はなく、「変更の届出」という手続きで対応できます。ご自身の状況がどちらに当たるか、事前に法務局に確認するとよいでしょう。
参考:保管申請の撤回や変更届出について:東京法務局 – 法務省
古い遺言と新しい遺言、どちらが有効になる?
ご自宅から複数の遺言書が見つかった場合、どちらが有効になるのでしょうか。このルールは非常に明確です。
原則として、「日付が最も新しい遺言書」が有効になります。
これは、遺言書の種類(自筆証書遺言か、公正証書遺言か)に関係ありません。例えば、5年前に公正証書遺言を作り、1年前に自筆証書遺言を作っていた場合、日付の新しい自筆証書遺言の内容が優先されます。「公正証書の方が格上」といったことは一切ありません。
また、古い遺言書と新しい遺言書の内容が部分的に矛盾(抵触)する場合は、その矛盾する部分についてのみ、新しい遺言書の内容が有効となり、矛盾しない部分は古い遺言書も有効なまま残ります。しかし、このような状態は解釈を巡るトラブルの原因になりやすいため、やはり全文を書き直すのが最も安全です。
認知症になると書き換えはできない?
遺言書を作成したり、書き換えたりするためには、「遺言能力」が必要です。遺言能力とは、ご自身の行う遺言という行為がどのような結果を生むのかを、正しく理解・判断できる能力のことを指します。
もし認知症が進行し、この遺言能力がないと判断される状態で遺言書を書き換えた場合、その遺言書は後から「無効」であると主張される可能性が非常に高くなります。
「認知症の診断を受けた=即、遺言能力がない」というわけではありませんが、将来の紛争リスクを考えると、判断能力に少しでも不安を感じ始めたら、お早めに行動することが重要です。
具体的には、医師に判断能力に関する診断書を作成してもらった上で、公証人と証人の前で意思確認を行う「公正証書遺言」で作成し直すといった対策が有効です。これにより、遺言書を作成した時点では確かに遺言能力があった、という強力な証拠を残すことができます。
まとめ|遺言書の書き換えは専門家への相談が安心です
今回は、自筆証書遺言の書き換え方法について解説しました。
大切なポイントをもう一度振り返ってみましょう。
- 自筆証書遺言はいつでも書き換えが可能。
- 最も安全で確実な方法は、新しく「全文を書き直す」こと。
- 一部修正はルールが厳格でリスクが高いため、避けた方が無難。
- 複数の遺言書がある場合、日付が最も新しいものが優先される。
- 将来の書き換えを防ぐ「予備的遺言」を盛り込むのが最善策。
- 判断能力に不安がある場合は、早めに専門家へ相談することが重要。
ご自身で遺言書を書き換えることは可能ですが、見てきたように、守るべきルールや注意すべき点が数多く存在します。せっかくの想いを込めて書いた遺言書が、小さなミスで無効になってしまっては、悔やんでも悔やみきれません。
少しでもご不安な点があれば、私たち相続の専門家である司法書士にご相談ください。いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、司法書士 猪狩 佳亮、神奈川県司法書士会所属)では、初回のご相談(個人のご相談者様を対象とした事務所でのご面談)は無料でお受けしており、平日夜間や土日祝日のご相談にも柔軟に対応しております。
あなたの最後の想いを、最も確実で安心できる形で残すお手伝いをさせていただきます。どうぞお一人で悩まず、お気軽にご連絡ください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
