相続登記と贈与登記の違いは?税金・手続きを比較し最適な選択を

相続か生前贈与か?不動産の名義変更でお悩みではありませんか

「親が元気なうちに、実家の名義を自分に変えておいた方がいいのかな?」
「相続と生前贈与、どちらが税金を安く抑えられるんだろう?」
「将来、兄弟と揉めないためには、どうすれば…?」

大切なご家族が所有する不動産。その名義変更を考え始めると、次から次へと疑問や不安が湧いてくるのではないでしょうか。特に「相続」と「生前贈与」は、どちらも不動産の名義を変える手続きですが、その性質は大きく異なります。

相続登記は所有者の死亡を原因とする取得について行う名義変更です。贈与登記は生前の無償譲渡を原因とする名義変更で、死後に効力を生じる遺贈や死因贈与とは区別されます。取得原因により登録免許税や適用される税制が異なるため注意が必要です。

この記事は、単に制度の違いを説明するだけではありません。あなたの状況を整理し、ご家族にとって最適な選択をするためのお手伝いをすることを目的としています。この記事を最後までお読みいただければ、

  • 相続と贈与にかかる税金や費用の違い
  • 手続きの手間や必要書類の違い
  • それぞれのメリット・デメリット

が明確になり、ご自身のケースで今何をすべきか、その道筋が見えてくるはずです。一緒に、円満な財産承継への第一歩を踏み出しましょう。

一目でわかる!相続登記と贈与登記の5つの違い比較表

まずは、相続登記と贈与登記の全体像を掴むために、5つの重要なポイントで比較してみましょう。細かい内容は後ほど詳しく解説しますので、ここでは「こんな違いがあるんだな」とイメージしてみてください。

比較項目相続登記贈与登記
タイミング所有者の死亡後所有者の生前
当事者相続人全員の協力が原則必要あげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)の2者間
主な税金・費用相続税
登録免許税(税率0.4%)
贈与税
登録免許税(税率2.0%)
不動産取得税
手続きの難易度戸籍収集が煩雑で、相続人全員の協力が必要当事者間の合意で進められるが、贈与者の意思能力が重要
将来のトラブルリスク遺産分割協議で揉める可能性がある遺留分を侵害すると、将来トラブルになる可能性がある
相続登記と贈与登記の比較

いかがでしょうか。税金の種類や手続きに関わる人の数が大きく違うことがお分かりいただけたかと思います。では、次からそれぞれの項目をさらに詳しく見ていきましょう。

【費用・税金編】相続登記と贈与登記、どちらが安い?

多くの方が最も気にされるのが、費用や税金の問題です。「生前に名義を変えれば贈与税がかかる」「亡くなった後なら相続税がかかる」というイメージをお持ちの方は多いですが、実は不動産の名義変更ではそれ以外にも重要な税金がかかわってきます。

ここでは、「登録免許税」「不動産取得税」「贈与税・相続税」の3つの観点から、どちらが安くなる傾向にあるのかを比較解説します。

※本記事で解説する税金に関する内容は、2025年11月3日現在の法令等に基づく一般的な情報です。個別の税務相談や税額の計算は税理士法に抵触する可能性があるため、当事務所では行っておりません。正確な税額については、提携する税理士をご紹介することも可能ですので、ご相談ください。

登記で必ずかかる「登録免許税」は相続が5倍安い

不動産の名義変更(登記)を法務局に申請する際には、「登録免許税」という税金を納める必要があります。この税率は、登記の原因によって大きく異なります。

  • 相続登記の場合:不動産の固定資産税評価額 × 0.4%
  • 贈与登記の場合:不動産の固定資産税評価額 × 2.0%

ご覧の通り、税率に5倍もの差があります。これが、一般的に「相続の方が登記費用は安い」と言われる大きな理由です。

例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産で計算してみましょう。

  • 相続登記:2,000万円 × 0.4% = 8万円
  • 贈与登記:2,000万円 × 2.0% = 40万円

この例では、登録免許税だけで32万円もの差が出ることになります。司法書士への報酬とは別に、これだけの費用がかかるという点は、必ず押さえておきたいポイントです。

不動産取得税は原則として相続では非課税だが…

次に、多くの方が見落としがちなのが「不動産取得税」です。これは、不動産を取得した際に、その不動産がある都道府県から課される税金です。

この不動産取得税は、

  • 相続の場合:非課税(かかりません)
  • 贈与の場合:原則として課税対象

という大きな違いがあります。税率は原則として固定資産税評価額の3%(土地・住宅の場合)ですが、様々な軽減措置があるため一概には言えません。しかし、贈与の場合は登録免許税に加えて、この不動産取得税も負担しなければならない可能性がある、ということを覚えておきましょう。

贈与税と相続税、どちらの負担が重い?

最後に、贈与税と相続税そのものを比較してみましょう。どちらの税金にも、一定額までは税金がかからない「基礎控除」という仕組みがあります。

  • 贈与税の基礎控除(暦年課税):年間110万円
  • 相続税の基礎控-除:3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

例えば、相続人が子ども2人の場合、相続税の基礎控除は「3,000万円 + (600万円 × 2人) = 4,200万円」となります。つまり、遺産総額が4,200万円以下であれば、相続税はかかりません。

一方、贈与税は年間110万円を超える部分に課税されます。税率も相続税に比べて高く設定されているため、高額な不動産を一度に贈与すると、多額の税金が発生する可能性があります。

もちろん、「相続時精算課税制度」や「贈与税の配偶者控除」といった特例を使えば、贈与税の負担を大きく軽減できるケースもあります。しかし、基本的な仕組みとしては、相続税の方が控除額が大きく、税負担が軽くなりやすいと言えるでしょう。

参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

【手続き・書類編】相続登記と贈与登記、どちらが大変?

費用や税金だけでなく、手続きの手間も重要な比較ポイントです。「誰の協力が必要か」「どんな書類を集めるのか」という観点から、それぞれの違いを見ていきましょう。

贈与登記:あげる人ともらう人、2人の意思で進められる

贈与登記の大きなメリットは、手続きのシンプルさです。原則として、不動産をあげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)の2者間の合意があれば手続きを進めることができます。ただし、贈与者の判断能力に問題があったり、詐欺・強迫・錯誤などが認められたりした場合には、後に贈与が争われる可能性があるため、専門家による慎重な意思確認が重要です。

主な必要書類は以下の通りです。

  • 贈与契約書
  • 不動産の登記識別情報(または登記済権利証)
  • 贈与者の印鑑証明書
  • 受贈者の住民票
  • 固定資産評価証明書 など

相続登記に比べると、集める書類の範囲は限定的です。ただし、最も重要なのは「贈与者に明確な贈与の意思と判断能力があること」です。この点が曖昧だと、後から贈与の無効を主張されるリスクがあるため、司法書士が必ずご本人様と面談し、意思確認を慎重に行います。

相続登記:相続人全員の協力と多くの戸籍収集が必要

一方、相続登記は手続きが煩雑になる傾向があります。特に遺言書がない場合、遺産分割協議を行いますが、そのためには法定相続人全員の協力が不可欠です。

不動産を誰が相続するかを決めた「遺産分割協議書」には、相続人全員が署名し、実印を押印する必要があります。一人でも連絡が取れなかったり、協力が得られなかったりすると、手続きはストップしてしまいます。

また、必要書類の収集も大変です。

  • 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 不動産を相続する人の住民票
  • 固定資産評価証明書 など

特に、被相続人の戸籍を出生まで遡って集める作業は、本籍地の変更が複数回あると非常に手間と時間がかかります。これが、相続手続きをご自身で進めようとした方が挫折しやすいポイントの一つです。

机の上に置かれた贈与契約書と、複雑に広げられた戸籍謄本の束。贈与登記と相続登記の手続きの煩雑さの違いを対比させている。

司法書士が解説!あなたはどちらを選ぶべき?ケース別診断

ここまで費用と手続きの違いを見てきましたが、「結局、自分の場合はどうなんだろう?」と思われた方も多いでしょう。このセクションでは、実際の相談現場でよくお聞きするお悩みをもとに、どのような選択が考えられるかをケース別に解説します。

司法書士の現場から

「実家の名義を、親が元気なうちに私に変えたいんです」というご相談は、私たちの事務所にも頻繁に寄せられます。多くの方が、不動産の名義はいつでも自由に変更できると考えていらっしゃいますが、実は「相続」や「贈与」といった法律上の原因がなければ名義は変えられません。

私たちはまず、こうお尋ねします。「今すぐに名義を変えなければならない、何か特別なご事情はありますか?」と。なぜなら、多くの場合、税金や費用の面だけを考えれば、相続まで待った方が負担は軽いからです。

この質問に対して、お客様からは様々な答えが返ってきます。

  • 「贈与税がかからない特例があると聞いたから」
  • 「親が亡くなった後、他の兄弟にハンコをもらうのが面倒で…」
  • 「親の物忘れが心配で、認知症になったら家が売れなくなるのでは?」

これらのご心配には、それぞれに適した解決策があります。生前贈与がベストな選択とは限りません。例えば、「兄弟との協力が不安」という方には遺言書が有効なケースが多いですし、「認知症への備え」であれば家族信託という、より柔軟な選択肢もあります。私たちは、お客様のお話の奥にある本当の動機や不安を丁寧に紐解き、税金だけでなく、ご家族の将来的な関係性まで見据えた最適なプランをご提案することを心がけています。

ケース1:費用を少しでも抑えたい、家族仲は良好

【結論】相続まで待つのが合理的

特別な事情がなく、とにかく費用を抑えたい、そして将来の相続についても家族間で円満に話し合える見込みがある、という場合です。このケースでは、慌てて生前贈与をするメリットは少ないでしょう。

前述の通り、相続登記は贈与登記に比べて登録免許税が5分の1で済み、不動産取得税もかかりません。相続税も基礎控除額が大きいため、多くの場合で税負担を抑えることができます。コスト面を最優先するなら、相続発生後に手続きをするのが最も合理的な選択と言えます。

ただし、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、原則として「不動産を相続したことを知った日」から3年以内に登記申請を行う必要があります。この点には注意が必要です。

ケース2:特定の子供に確実に財産を渡したい、将来揉めそう

【結論】生前贈与が有効な選択肢

「事業を継ぐ長男に、工場と土地を確実に渡したい」「介護で世話になった娘に、実家を譲りたい」など、特定の相続人に財産を承継させたい明確な意思があり、他の相続人がそれに反対する可能性がある場合です。

この場合、生前贈与は、特定の受贈者に資産を移すことで、将来的に争いが生じるリスクを低減できる場合があります。

ただし、注意点として「遺留分」の問題があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分です。あまりに偏った贈与をすると、後から他の相続人に遺留分を請求され、金銭での解決が必要になる可能性があります。贈与を行う際は、他の相続人の遺留分にも配慮することが大切です。慎重な検討と専門家へのご相談をお勧めします。

ケース3:親の認知症が心配、将来不動産が塩漬けになるのを防ぎたい

【結論】判断能力があるうちに生前贈与、または「家族信託」を検討

親御様の判断能力の低下が心配な場合、対策は急を要します。もし認知症が進行し、意思能力がないと判断されると、不動産の売却、賃貸、担保設定といった法律行為が一切できなくなります。贈与契約も法律行為ですから、当然できなくなります。これが、いわゆる「資産の塩漬け」状態です。

このリスクを避けるため、判断能力がはっきりしているうちに生前贈与を行うことは有効な対策の一つです。しかし、贈与してしまうと不動産の所有権は完全に子どもに移り、管理や活用も子どもに委ねられます。親御様が生活費などでその不動産を将来活用する可能性も考えるなら、より柔軟な対策が必要です。

そこで検討したいのが家族信託という制度です。家族信託は、所有権を移すことなく、管理・処分する権限だけを信頼できる家族(例えば子)に託す仕組みです。これにより、親御様が認知症になっても、子が親のために不動産を売却したり、活用したりすることが可能になります。贈与に比べて登録免許税や不動産取得税の負担も軽く済むケースが多く、近年注目されている方法です。どちらが良いかは状況によりますので、ぜひ専門家にご相談ください。

年配の母親の手を、その娘が優しく握っているクローズアップ写真。親の将来を心配し、認知症対策を考える家族の温かい絆を表現。

【代替案】費用を抑えつつ希望を叶える「遺言書」という選択

「費用は抑えたい。でも、特定の子供に確実に渡したい」――このようなどちらの願いも叶えたい場合に有効なのが「遺言書」の作成です。

遺言書で「長男に自宅不動産を相続させる」と指定しておけば、原則としてその内容通りに相続手続きが進められます。相続発生後に他の相続人のハンコをもらう必要はなく、遺産分割協議書も不要です。

これにより、

  • 税制面のメリット:相続登記なので登録免許税は0.4%、不動産取得税は非課税。
  • 意思の実現:渡したい相手に財産を承継させられる。
  • 手続きの円滑化:相続人全員の協力がなくても手続きが進められる。

といったメリットを享受できます。生前贈与と並行して、遺言書作成も有力な選択肢として検討することをお勧めします。

まとめ:最適な選択はご家庭の状況次第。まずは専門家にご相談を

ここまで見てきたように、相続登記と贈与登記にはそれぞれメリット・デメリットがあり、「絶対にこちらが良い」と一概に言えるものではありません。

  • 費用を抑えるなら、原則として相続登記が有利。
  • 将来の争いを避け、確実に渡したいなら、生前贈与が有効。
  • 認知症対策なら、生前贈与家族信託を検討。
  • 費用を抑えつつ意思も実現したいなら、遺言書が効果的。

最適な選択は、財産の状況、ご家族の関係性、そして何よりも「なぜ名義を変えたいのか」という動機によって大きく変わってきます。

ご自身で判断に迷われたり、少しでも不安を感じたりしたときは、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。私たち、いがり綜合事務所では、単に手続きを代行するだけでなく、お客様一人ひとりのご家庭の状況やお気持ちを丁寧にヒアリングし、ご家族全員が納得できる円満な財産承継の形を一緒に考えます。ご相談は、司法書士・行政書士・社会保険労務士の猪狩佳亮(神奈川県司法書士会所属)が責任をもって対応いたします。

平日夜間や土日祝日のご相談にも対応しておりますので、お仕事でお忙しい方でも安心です。まずはお気軽にお話をお聞かせください。それが、安心への第一歩です。

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