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【ご相談事例】相続放棄をしたいけど、母が遺してくれた生命保険金は受け取れますか?
先日、お母様を亡くされた長女の方から、このようなご相談がありました。
「母が亡くなりました。母には借金こそありませんが、財産もそれほど多くありません。それに、正直なところ兄とあまり折り合いが良くなく、遺産分割の話し合いをするのが精神的に辛いので、相続放棄を考えています。
ただ、一つだけ気がかりなことがあります。母が、私のために生命保険をかけてくれていたようなのです。もし私が相続放棄をしてしまったら、この死亡保険金も受け取れなくなってしまうのでしょうか…?」
お兄様との関係や将来のことを考え、相続という手続き自体を避けたいというお気持ち。その一方で、お母様が遺してくれた最後の愛情ともいえる生命保険金は、何とか受け取りたい…。その切実な想いがひしひしと伝わってきました。
このようなご心配を抱えている方は、決して少なくありません。そして、このご相談に対する私の答えは、明確です。
ご安心ください。相続放棄をしても、お母様があなたを受取人に指定してくれていた生命保険金は、問題なく受け取ることができます。
ただし、注意すべき点もあります。特に、お母様が入院されていた場合に受け取れる「医療保険の給付金」などは、安易に受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる可能性があります。
この記事では、相続放棄をしても生命保険金を受け取れる理由から、注意すべき保険金の種類、税金の問題まで、相続の専門家である司法書士が分かりやすく解説します。あなたの不安が少しでも軽くなるよう、丁寧にご説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
ご安心ください。相続放棄をしても生命保険金は受け取れます
まず、読者の皆様が一番知りたい結論からお伝えします。亡くなった方の借金などの理由で相続放棄について手続きをしたとしても、ご自身が受取人に指定されている生命保険金(死亡保険金)は受け取ることができます。
「相続をすべて放棄するのだから、保険金ももらえなくなるのでは?」と心配されるお気持ちはよく分かります。しかし、法律上、生命保険金は特別な扱いを受けるため、相続放棄の影響を受けないのです。その理由を詳しく見ていきましょう。

なぜ?生命保険金が「相続財産」にならない理由
生命保険金(死亡保険金)が相続放棄をしても受け取れる最大の理由は、それが「相続財産」ではなく、「受取人固有の財産」だからです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、仕組みはシンプルです。
- 相続財産とは:亡くなった方(被相続人)が所有していた預貯金、不動産、株式などのプラスの財産や、借金などのマイナスの財産のことです。
- 生命保険金とは:保険契約に基づいて、保険会社から「受取人」として指定された人に対して直接支払われるお金のことです。
つまり、生命保険金は、一度亡くなった方の財産になってから相続人に渡されるのではなく、保険会社から受取人へダイレクトに支払われます。亡くなった方の財産を経由しないため、そもそも「相続財産」にはあたらないのです。
相続放棄は、あくまで「相続財産」のすべてを引き継がないという手続きです。したがって、相続財産ではない生命保険金は、相続放棄をしても問題なく受け取ることができる、というわけです。
保険金を受け取った後でも相続放棄は可能です
「保険金を受け取る前に、相続放棄の手続きを済ませないといけないの?」というご質問もよくいただきます。この点もご安心ください。生命保険金を受け取った後からでも、相続放棄の手続きは問題なく行えます。
相続放棄ができなくなるのは、「相続財産を処分した」とみなされる行為をした場合です。例えば、亡くなった方の預金を解約して使ってしまったり、不動産を売却してしまったりすると、相続する意思があるとみなされ(法定単純承認)、原則として相続放棄は認められません。
しかし、先ほどご説明したとおり、生命保険金は受取人固有の財産です。そのため、これを受け取る行為は「相続財産の処分」にはあたりません。ですから、安心して保険金の請求手続きを進めていただいて大丈夫です。
要注意!受け取ると相続放棄できなくなる保険金とは?
「生命保険金は受け取れる」と聞いて安心されたかもしれませんが、ここで一つ、非常に重要な注意点があります。保険金の中には、受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる可能性が高いものがあるのです。
この違いを知らずに手続きを進めてしまうと、「借金を放棄するはずが、できなくなってしまった」という取り返しのつかない事態になりかねません。どのようなケースに注意が必要か、具体的に見ていきましょう。

【要注意】医療保険の入院給付金・手術給付金
最も注意が必要なのが、医療保険から支払われる入院給付金や手術給付金です。
亡くなる前に入院や手術をされていた場合、これらの給付金を請求できる権利が発生していることがあります。しかし、この権利は誰のものでしょうか?
死亡保険金の受取人は相続人など特定の人が指定されていますが、医療保険の入院給付金などの受取人は、原則として「被保険者」、つまり亡くなった方ご本人です。
亡くなった方が受け取るはずだったお金(請求権)は、その方の「相続財産」となります。したがって、相続人がこの給付金を請求し、受け取ってしまうと、「相続財産を処分(取得)した」とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性が極めて高いのです。
死亡保険金と医療保険の給付金は、まったく性質が異なるものだとご理解ください。
保険金の受取人が「亡くなった本人」になっているケース
頻繁にあるケースではありませんが、死亡保険金の契約内容自体に注意が必要な場合もあります。それは、死亡保険金の受取人が「被相続人(亡くなった方)本人」と指定されているケースです。
この場合、死亡保険金はまず亡くなった方の財産となり、それを相続人が引き継ぐ形になるため、「相続財産」として扱われます。したがって、この保険金を受け取ってしまうと、相続放棄はできなくなります。
「そんな契約があるの?」と思われるかもしれませんが、保険契約を見直さないまま時間が経ってしまっている場合などに、このような設定になっている可能性もゼロではありません。保険金を受け取る前には、必ず保険証券などで「受取人」が誰になっているかを確認することが非常に重要です。
解約返戻金を受け取るのも「相続」とみなされます
亡くなった方が契約者となっていた保険を解約し、「解約返戻金」を受け取る行為も、相続財産の処分とみなされます。
解約返戻金は、保険契約という財産的な価値を持つ権利から生じるお金であり、これも「相続財産」の一部です。相続放棄を検討している場合は、絶対に保険の解約手続きを行ってはいけません。
もし保険料の引き落としが続いているなどの事情があっても、自己判断で解約するのではなく、まずは専門家にご相談ください。
生命保険金以外にも!相続放棄しても受け取れるお金
相続放棄をしても、相続人の生活を守るために受け取れるお金は、生命保険金だけではありません。ただし、これらは原則的な話であり、個別の契約内容や会社の規定によって取り扱いが異なる場合があるため、注意が必要です。法律上、相続財産とはみなされないものをいくつかご紹介します。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

死亡退職金・弔慰金
亡くなった方が会社員だった場合、勤務先の会社から死亡退職金や弔慰金(ちょういきん)が支払われることがあります。
これらの金銭も、会社の規程などで「死亡した従業員の遺族(配偶者や子など)」が受取人として明確に定められている場合は、遺族固有の権利とされ、相続財産には含まれません。したがって、相続放棄をしても受け取ることができます。
ただし、会社の規程に受取人の定めがなく、「本人に支払う」とされている場合などは、相続財産と判断される可能性もあります。判断に迷う場合は、勤務先の規程を確認した上で、専門家に相談することをおすすめします。
遺族年金・未支給年金
遺族年金や未支給年金も、相続財産には含まれません。
- 遺族年金:国民年金や厚生年金に加入していた方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。これは遺族の生活を保障するための制度であり、法律によって受給権者が定められているため、遺族固有の権利となります。
- 未支給年金:亡くなった方が受け取るはずだったまだ受け取っていない年金のことです。これも年金法の規定に基づき、一定の範囲の遺族が自己の権利として請求できるものであり、相続財産ではありません。
当事務所の代表は司法書士・行政書士に加えて社会保険労務士の資格も有しておりますので、こうした年金関係の手続きについてもワンストップでサポートすることが可能です。
香典・葬祭費・埋葬料
お葬式の際に受け取る香典は、法律上、葬儀の主宰者(喪主)に対する贈与と解釈されるため、相続財産にはあたりません。
また、国民健康保険や社会保険から支払われる葬祭費・埋葬料なども、実際に葬儀を行った人(喪主など)に対して支払われる費用であり、亡くなった方の財産ではないため、相続放棄をしても受け取ることができます。
相続放棄後の生命保険金と税金の関係【知らないと損をします】
ここまで読んで、「相続放棄をしても生命保険金はもらえるし、相続財産じゃないなら税金もかからないんだな」と思われたかもしれません。しかし、ここにも大きな落とし穴があります。
民法上は「相続財産ではない」生命保険金ですが、税法上は「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になるのです。そして、相続放棄をすることで、税金面で大きなデメリットが生じる場合があります。
相続税の対象になる「みなし相続財産」とは?
「みなし相続財産」とは、本来の相続財産ではないものの、被相続人の死亡を原因として相続人が受け取る財産であり、実質的に相続で財産を取得したのと同じ効果があることから、相続税の計算に含めましょう、という税法上の考え方です。生命保険金や死亡退職金は、この「みなし相続財産」の代表例です。
つまり、「民法(相続放棄のルール)」と「税法(相続税のルール)」では、財産の扱い方が違うという点を理解しておく必要があります。この複雑さが、専門家によるサポートが必要となる大きな理由の一つです。
【重要】相続放棄をすると生命保険金の非課税枠は使えない
ここが最も重要なポイントです。生命保険金には、相続人の生活保障などの観点から、税金の負担を軽くするための非課税枠が設けられています。
生命保険金の非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
しかし、この非課税枠を使えるのは、原則として「相続によって財産を取得した相続人」だけです。相続放棄をした人は、法律上「初めから相続人ではなかった」とみなされるため、原則としてこの非課税枠を適用することができません。個別の事案により詳細な判断が必要な場合は、税理士等の専門家にご確認ください。
具体例で見てみましょう。
【例】
- 法定相続人:子2人(長男、長女)
- 死亡保険金の受取人と金額:長女が2,000万円
- 長男は相続し、長女は相続放棄をしたケース
<非課税枠の計算>
法定相続人は長男と長女の2人なので、非課税限度額は「500万円 × 2人 = 1,000万円」です。<相続税の課税対象額>
- もし長女が相続放棄をしなかった場合:
受け取った保険金2,000万円から非課税枠1,000万円を差し引けるため、課税対象は1,000万円となります。- 長女が相続放棄をした場合:
非課税枠が使えないため、受け取った保険金2,000万円の全額が相続税の課税対象となります。
このように、相続放棄をするかどうかで、相続税の課税対象となる金額が大きく変わってしまう可能性があるのです。もちろん、相続財産全体の金額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば相続税はかかりませんが、保険金の額が大きい場合や、他に財産がある場合には注意が必要です。
自己判断は危険!相続放棄と保険金のご相談は専門家へ
ここまでお読みいただき、相続放棄と生命保険金の関係について、ご理解が深まったことと思います。しかし同時に、「受け取っていいお金とダメなお金の見極めが難しい」「税金のことが複雑でよく分からない」と感じられたのではないでしょうか。
その感覚は、まったくもって正しいものです。これらの判断を専門知識なしに行うことには、大きなリスクが伴います。大切なご家族が遺してくれた財産を確実に受け取り、ご自身の未来を守るためにも、ぜひ私たち専門家にご相談ください。
安全な財産の受け取りと確実な相続放棄を両立させるために
専門家にご相談いただく最大のメリットは、「うっかり財産に手をつけてしまい相続放棄が認められなくなる」というリスクを大幅に低減できることです。私たちは、どの保険金が受け取れるものなのかを法的な観点から正確に判断し、安全な手続きをナビゲートします。
当事務所は、相続手続きに関して豊富な相談・解決実績があり、同様のケースを数多く取り扱ってまいりました。あなたの「借金は放棄したいけれど、遺してくれた保険金は受け取りたい」という想いに寄り添い、その実現に向けて私たちが全力でサポートいたします。
複雑な税金計算や申告もワンストップで対応します
相続放棄後の生命保険金にかかる相続税の問題は、非常に専門的です。当事務所では、相続案件に精通した税理士と緊密に連携しておりますので、相続税の計算や申告が必要になった場合でも、ワンストップでスムーズに対応が可能です。
「司法書士に相談して、次は税理士を探して…」といったお手間は一切かかりません。法務から税務まで、安心してお任せいただける体制を整えています。
川崎・横浜で相続のご相談なら「いがり円満相続相談室」へ
司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所(屋号:いがり円満相続相談室)は、川崎市・横浜市を中心に、これまで多くの皆様の相続手続きをお手伝いしてまいりました。私たちは、大量の案件を機械的に処理するのではなく、司法書士である代表の猪狩 佳亮(神奈川司法書士会所属)が、原則として最初のご相談から手続き完了まで一貫して担当し、お一人おひとりに寄り添った丁寧なサポートをお約束します。(事務所所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号)
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司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
