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生前対策は何から始める?専門家が教える全体像と手順

2025-11-18

生前対策とは? なぜ今から始めるべきなのか

「自分にはまだ早い」「財産なんて大してないから関係ない」

ご自身の相続について考え始めたとき、多くの方がそう思われるかもしれません。しかし、生前対策は、決して特別な人だけのものではありません。むしろ、残される大切なご家族への「最後の贈り物」であり、愛情表現の一つだと私たちは考えています。

生前対策の最も重要な点は、ご自身の意思がはっきりしていて、元気なうちにしかできないということです。判断能力が低下すると新たに遺言書を書いたり贈与契約を締結したりすることは困難になります。したがって元気なうちに準備することが重要です。なお、既に有効に作成された遺言書は効力を持ち続けますし、判断能力低下後に備える制度(任意後見・家族信託等)もありますので、併せて検討してください。

対策を先延ばしにした結果、「もっと早く相談しておけば…」とご家族が大変な思いをされるケースを、私たちは専門家として数多く見てきました。この記事では、生前対策の全体像と、何から始めればよいのかを、分かりやすく丁寧にご説明します。まずは、なぜ今から始めるべきなのか、その理由から見ていきましょう。

残された家族を「争族」から守るために

生前対策の最大の目的は、ご家族間の無用な争い、いわゆる「争族」を防ぐことです。

「うちの家族は仲が良いから大丈夫」と思っていても、相続をきっかけに関係がこじれてしまうことは少なくありません。遺産分割で揉める原因は、財産の多い少ないではないのです。例えば、親の介護を一身に引き受けてきたお子様と、そうでないお子様との間で「貢献度」をめぐる意見が対立したり、分けにくい不動産が一つだけ残されてしまい、誰も住まないのに売却にも同意が得られず、固定資産税だけがかかり続ける…といったケースは、実によくある話です。

遺言書があることで多くのトラブルを防げますが、法的に保障された「遺留分」があるため、遺言の内容によっては遺留分侵害額請求が発生し得ます。遺留分の制度や注意点についても併せて確認してください。ご自身の想いを明確な形で残しておくことが、ご家族がこれからも仲良く暮らしていくための、何よりのお守りになるのです。

認知症など判断能力の低下に備えるために

高齢化が進む現代において、認知症は誰にとっても他人事ではありません。もし認知症などで判断能力が低下すると、ご本人の財産は事実上「凍結」されてしまいます。

  • 預貯金の引き出しや解約ができない
  • ご自宅の売却やリフォームができない
  • 介護施設の入居金が支払えない

このような事態に陥ると、ご本人だけでなく、ご家族の生活にも大きな支障が出てしまいます。そして、この「資産凍結」の問題は、残念ながら遺言書だけでは解決できません。判断能力が低下した後の財産管理や生活を守るためには、「任意後見」や「家族信託」といった、また別の対策が必要になります。元気なうちにご家族と話し合い、備えておくことが非常に重要です。

将来の相続税負担を軽減するために

生前対策には、将来の相続税の負担を軽くするという側面もあります。相続税には基礎控除額があり、すべての人にかかるわけではありませんが、ご自宅が都市部にあったり、ある程度の預貯金があったりする場合には、納税が必要になる可能性があります。

計画的に財産を贈与する「生前贈与」や、生命保険の非課税枠を活用するといった方法で、納税額を抑えたり、納税資金を準備したりすることが可能です。

ただし、私たちは常に「節税は、ご家族の円満という土台があってこそ意味がある」と考えています。税金の額だけにとらわれて、かえってご家族の関係を悪化させてしまっては本末転倒です。まずはご家族の幸せを第一に考え、その上で最適な方法を探っていくことが大切です。

三世代の日本の家族がリビングで仲良く微笑んでいる様子。生前対策が家族の幸せを守ることを象徴する画像。

生前対策の始め方|専門家が教える3つのステップ

「生前対策の重要性は分かったけれど、具体的に何から手をつければいいの?」
ここからは、そんな疑問にお答えするために、誰でも迷わず進められる具体的な3つのステップをご紹介します。ぜひ、ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。

ステップ1:財産と相続人の現状を把握する

すべての対策は、まず「現在地」を知ることから始まります。ご自身がどのような財産を持ち、誰がそれを受け継ぐことになるのかを正確に把握しましょう。

【財産の洗い出し】
預貯金、不動産(土地・建物)、有価証券(株・投資信託など)、生命保険といったプラスの財産はもちろん、住宅ローンや借入金などのマイナスの財産もすべてリストアップします。これが「財産目録」の基礎となります。何がどこにあるかをご家族がわかるようにまとめておくだけでも、残された方の負担は大きく軽減されます。より詳しい方法は財産目録の作成のページもご覧ください。

財産の種類具体的な内容おおよその価額
プラスの財産〇〇銀行の預金、自宅の土地・建物、△△社の株式約〇〇〇〇万円
マイナスの財産自宅の住宅ローン残債約△△△万円
簡易的な財産目録の例

【相続人の確認】
法律で定められた相続人(法定相続人)が誰になるのかを、戸籍謄本を取り寄せて正確に確認します。ご自身の思い込みとは違う方が相続人になるケース(例えば、前妻との間にお子様がいた場合など)もありますので、専門家と一緒に確認することをお勧めします。

ステップ2:目的を明確にする(誰に・何を・どうしたいか)

現状が把握できたら、次はいよいよ「ご自身の想い」を整理するステップです。何のために生前対策をするのか、その目的をはっきりさせましょう。

ご自身の心に、次のように問いかけてみてください。

  • 一番感謝の気持ちを伝えたいのは誰ですか?
  • ご自身の亡き後、ご家族にどんな暮らしを送ってほしいですか?
  • ご家族のことで、何か心配なことはありますか?
  • ご自身の将来(介護や施設入所など)について、どんな希望がありますか?

これらの問いへの答えが、あなただけの生前対策の「軸」となります。

専門家コラム:生前対策は「想い」を形にするプロセスです

定年退職や、お子様の結婚、お孫様の誕生といった人生の節目に、「そろそろ考えないと…」と生前対策に関心を持たれる方は非常に多いです。そして、ほとんどの方が「何から手をつけていいか分からない」という同じスタートラインに立たれています。

そんな時、私たちはまず「何のために対策をしたいですか?」とお伺いします。それは、ご自身の希望によって、選ぶべき道筋が全く変わってくるからです。

  • 「家族が揉めないように、遺産の分け方を決めておきたい」
    →これが一番の目的なら、まずは「遺言書」の作成が基本になります。
  • 「もし自分が認知症になったら…と不安。施設に入る時、家を売って費用にあてたい」
    →将来の資産凍結に備えるなら、「家族信託」や「任意後見」が有効です。
  • 「相続税がかかりそうだから、少しでも負担を減らしてあげたい」
    →節税が目的なら、「生前贈与」や「資産の組み換え」を検討します。

財産の多い少ないにかかわらず、ご家族が揉めてしまうことはあります。だからこそ、私たちはいつも「一番大切なのは、税金のことよりも、ご家族がこれからも仲良く暮らしていくことではないでしょうか?」とお伝えしています。あなたの「想い」をしっかりとお伺いし、それを実現するための最適なプランを一緒に考えること。それが、私たち専門家の役割です。

ステップ3:目的に合った対策方法を選択する

目的がはっきりすれば、ゴールまでの道筋が見えてきます。ステップ2で明確になった目的に合わせて、具体的な対策方法を選んでいきましょう。

  • 家族間のトラブルを防ぎたいなら → 遺言書
  • 将来の認知症や資産凍結に備えたいなら → 家族信託、任意後見
  • 相続税の負担を減らしたいなら → 生前贈与、資産の組み換え
  • 特定の誰かに確実に財産を渡したいなら → 生前贈与、遺言書

もちろん、これらの目的は一つだけとは限りません。「遺言書で分け方を決めつつ、家族信託で認知症にも備える」というように、複数の対策を組み合わせることで、より盤石な準備が可能になります。次の章で、それぞれの対策の詳しい特徴を見ていきましょう。

机の上で財産目録を作成している様子。預金通帳や権利証などの書類を整理しており、生前対策の第一歩をイメージさせる。

【目的別】生前対策の主な種類と特徴を比較

ここからは、代表的な生前対策について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを目的別にご紹介します。ご自身の目的に合った方法がどれか、比較しながら確認してみてください。

※各制度のより詳しい内容については、それぞれの解説ページへのリンクをご参照ください。

対策方法主な目的メリットデメリット・注意点
遺言書争族対策・法定相続より優先される
・相続手続きがスムーズになる
・書き方を間違えると無効になる恐れ・認知症対策にはならない
生前贈与相続税対策・計画的に行えば節税効果が高い
・渡したい相手に確実に渡せる
・贈与税がかかる場合がある
・やり直しがきかない
家族信託認知症対策・判断能力低下後も柔軟な財産管理が可能
・家族信託は、受益者の変更や二次承継の定めを設けることで次の承継先を想定できますが、税務・登記・契約設計の注意点が多いため、具体的な設計は専門家と詳細に検討してください。
・身上監護はできない
・専門的な知識が必要
任意後見認知症対策・財産管理と身上監護の両方を頼める
・任意後見では、判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任して監督が行われる。
・判断能力低下後にしか効力が発生しない
・積極的な資産活用は難しい
主な生前対策の目的別比較表

①遺産分割トラブルを防ぐ基本の対策【遺言書】

遺言書は、ご自身の財産を「誰に」「何を」「どれくらい」遺すかを決めることができる、最も基本的で強力な生前対策です。遺言書があれば、法律で定められた相続分(法定相続)よりもご自身の意思が優先されるため、相続人間の争いを未然に防ぐ効果が非常に高いです。

遺言書には自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」があります。法的な不備で無効になるリスクを避けるため、公正証書遺言は有効な選択肢の一つです。必要に応じて専門家と相談のうえ、公正証書遺言のメリット・デメリットを検討してください。遺言書の作成支援は、私たち司法書士の重要な業務の一つです。詳しくは「自筆証書遺言の注意点|無効になる書き方など専門家が解説」のページもご参照ください。

②相続税対策の代表的な方法【生前贈与】

生前贈与は、元気なうちにご自身の財産を家族などに分け与えておくことで、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減する目的で行われます。特に、年間110万円までの贈与であれば贈与税がかからない「暦年贈与」の仕組みを活用し、長い期間をかけて計画的に行うことで大きな節税効果が期待できます。

ただし、「言った・言わない」のトラブルを防ぐために贈与契約書を作成することや、相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に持ち戻されるルールがあるなど、専門的な注意点も多く存在します。税金が関わる手続きですので、安易な自己判断は禁物です。当事務所では、相続案件の経験がある税理士と連携しており、必要に応じて税務相談を調整・紹介しています。生前の贈与で不動産の名義を変える場合は、相続登記と贈与登記の違いや、関連する税金・手続きを比較し、最適な選択をすることが重要です。

③認知症による資産凍結を防ぐ【家族信託・任意後見】

判断能力の低下による資産凍結への備えとして、近年注目されているのが「家族信託」と「任意後見」です。

  • 家族信託:信頼できるご家族に財産を託し、ご自身の決めた目的に従って管理・運用してもらう制度です。判断能力が低下した後も、不動産の売却やアパート経営などをスムーズに行える柔軟性が魅力です。詳しくは「家族信託とは」をご覧ください。
  • 任意後見:将来、判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめご自身で選んだ代理人(任意後見人)に、財産管理や身上監護(介護サービスの契約など)を任せる契約です。家庭裁判所が選任する監督人がつくため、公的な監督下で安心して財産を任せられます。

どちらも元気なうちにしか契約できず、ご自身の希望やご家族の状況によって最適な選択肢は異なります。司法書士は、これらの手続きの専門家として、制度設計から契約書の作成、登記手続きまで一貫してサポートします。

④納税資金の確保や資産整理に【資産の組み換え】

「資産の組み換え」とは、今ある財産の形を変えることで、相続に備える対策です。

例えば、相続人間で分けにくい不動産(実家など)を元気なうちに売却して現金化しておけば、遺産分割がスムーズになり、争いを防ぐことができます。逆に、金融資産が潤沢にあり相続税の課税が想定される場合、これを不動産に変えておくことで課税対象となる資産の圧縮ができることもあります。

また、現金を生命保険に変えておくことも有効です。死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があるため、相続税の対象となる財産を減らしつつ、相続人が納税資金や当面の生活費としてすぐに使える現金を確保することができます。

司法書士は不動産売却の登記手続きに、社会保険労務士は公的保険や年金の知識に精通しています。当事務所では、複数の資格を活かした多角的な視点から、最適な資産の組み換えをご提案することが可能です。

司法書士が相談者の話を親身に聞いている相談風景。生前対策の専門家への相談をイメージさせる。

生前対策はいつから始めるべき?年代別のポイント

「いったい、何歳くらいから始めればいいのだろう?」という疑問を持つ方も多いでしょう。結論から言えば、生前対策を始めるのに「早すぎる」ということはありません。思い立ったが吉日であり、何よりもご自身の判断能力がはっきりしている元気なうちに取り組むことが大切です。

ここでは、年代ごとのライフイベントと、生前対策を考える上でのポイントをご紹介します。

50代:親の相続と自身の将来を考え始める時期

50代は、ご自身の親の相続を経験し、初めて相続を「自分ごと」として意識する方が多い年代です。まだ体力・気力ともに充実しているこの時期は、生前対策の準備を始めるのに絶好のタイミングと言えます。

まずは、ステップ1でご紹介した「財産の棚卸し」から始めてみましょう。また、ご自身の想いやご家族へのメッセージ、各種手続きに必要な情報を書き留めておく「エンディングノート」の作成から手をつけるのもお勧めです。長期的な視点で生命保険への加入を検討するなど、時間をかけた対策を始めやすい時期でもあります。

60代:定年退職を機に本格的に取り組む時期

60代になると、定年退職などを機にご自身の人生を振り返り、セカンドライフを考える時間的な余裕が生まれます。この時期は、生前対策に本格的に取り組むのに最適なタイミングです。

50代で整理した財産や想いをもとに、より具体的に「遺言書の作成」や「生前贈与の計画」などを進めていくと良いでしょう。長年連れ添った配偶者への感謝の気持ちや、お子様たちへの想いを法的な形で残すことは、ご自身の人生の集大成とも言える、非常に意義のある作業です。

70代以降:判断能力が確かなうちに急ぎたい時期

70代以降は、ご自身の健康状態にも変化が現れやすい年代です。もしもの時に備え、判断能力が確かであるうちに、必要な対策をできるだけ早く実行に移すことが重要になります。

特に、認知症による資産凍結に備える「家族信託」や「任意後見契約」の必要性は、この年代からぐっと高まります。また、以前に作成した遺言書がある場合でも、ご家族の状況や財産内容の変化に合わせて、内容を見直すことも検討しましょう。「まだ大丈夫」と思っているうちに、早めに専門家へ相談することをお勧めします。

50代、60代、70代の各年代の日本人が、それぞれのライフステージで将来について考えている様子をコラージュした画像。

生前対策の相談はどこにする?専門家の選び方

生前対策は多岐にわたるため、「誰に相談すればいいのか分からない」というのも当然の悩みです。ここでは、主な専門家の役割の違いをご説明します。

司法書士:遺言・後見・信託など手続きの専門家

私たち司法書士は、「手続き」と「権利関係」の専門家です。遺言書の作成支援、任意後見契約、家族信託契約の組成、そして相続発生後の不動産の名義変更(相続登記)まで、生前対策から相続完了までの一連の手続きを担う中心的な存在です。「争族対策」や「認知症対策」を軸に生前対策を考えたい場合、まず最初に相談するのに最も適した専門家と言えるでしょう。

税理士:相続税の計算・申告の専門家

税理士は、その名の通り「税金」の専門家です。相続財産が多く、相続税がどのくらいかかるか心配な方、具体的な節税対策を知りたいという方は、税理士への相談が不可欠です。当事務所では、相続案件の経験がある税理士と連携しており、必要に応じて税務相談を調整・紹介しています。

弁護士:相続トラブル・紛争解決の専門家

弁護士は、「紛争解決」の専門家です。すでにご家族の間で対立が起きてしまっている場合や、将来的に裁判などでの争いに発展する可能性が高い場合には、弁護士が頼りになります。生前対策は、そもそも紛争を「予防」するためのものですので、多くの場合は司法書士がご相談窓口となりますが、万が一の際には、当事務所から信頼できる弁護士をご紹介することも可能です。

まとめ|円満な相続は、元気なうちの準備から

今回は、生前対策の全体像と、何から始めるべきかについて解説しました。

生前対策は、決して難しいことばかりではありません。まずは、今回ご紹介した3つのステップに沿って、ご自身の財産と想いを整理することから始めてみてください。

  1. ステップ1:財産と相続人の現状を把握する
  2. ステップ2:目的を明確にする(誰に・何を・どうしたいか)
  3. ステップ3:目的に合った対策方法を選択する

そして何より大切なのは、お一人で悩まないことです。生前対策は、ご自身の人生の集大成であり、ご家族への最後の贈り物です。その大切な想いを、間違いのない最適な形で実現するためには、専門家のサポートが不可欠です。

私たち、いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、代表司法書士:猪狩佳亮、所属:神奈川県司法書士会)は、川崎市・横浜市を中心に、これまで数多くのご家族の生前対策をお手伝いしてまいりました。司法書士・行政書士・社会保険労務士としての多角的な視点と、豊富な経験を活かし、あなたとあなたのご家族にとって最善のプランをご提案します。

「何から話せばいいか分からない」という方も、どうぞご安心ください。私たちが一つひとつ丁寧にお話を伺い、あなたの不安な心に「安心」をお届けします。まずは、お気軽にご相談ください。

まずは初回無料相談(60分)をご利用ください

代償分割とは?不動産相続での公平な分け方と税金を解説

2025-11-17

【相談事例】遺産は実家だけ…住み続けたい兄と、お金が欲しい弟

「母が亡くなったのですが、遺産は今、兄が一人で住んでいる母名義の実家だけ。預貯金はほとんどありません。兄はこれからも住み続けたいと言っていますが、家を継がない私としては、何ももらえないのは不公平だと感じてしまって…。兄弟仲は良いので、お金のことで揉めたくはないのですが、どうすれば円満に解決できるでしょうか?」

これは、当事務所に寄せられるご相談の中でも、特に多いケースの一つです。お母様が亡くなり、相続人は長男と二男のお二人。お母様は長年、長男様と同居されていました。二男様はすでに独立してご家庭を築いています。

お母様の遺産は、ご自宅の不動産がほとんど。長男様が今後もその家に住み続けることについては、兄弟間で特に異論はありませんでした。しかし、問題は「遺産の分け方」です。

このまま長男様が実家をすべて相続すると、二男様が受け取れる遺産はほとんどなくなってしまいます。二男様からすれば、「それはあまりにも不公平ではないか」と感じるのは当然のことです。かといって、大切な実家を売却して現金で分けるというのも、お母様やご先祖様に申し訳ない気持ちがする…。

このような、分けにくい不動産が遺産の中心である場合に、家族の想いを大切にしながら公平な分割を実現する解決策が「代償分割(だいしょうぶんかつ)」です。

この事例では、私たちは長男様から二男様へ、不動産の価値に見合った「代償金」を支払う方法をご提案しました。代償金の額は決して少なくありませんでしたが、分割で支払うことも可能であることをお伝えし、具体的な支払い計画を立てることで、最終的にはお二人ともご納得の上で円満に遺産分割協議を終えることができました。

この記事では、あなたと同じようなお悩みを抱える方のために、有力な選択肢の一つとしての「代償分割」について、その仕組みから税金の問題、資金が用意できない場合の対処法まで、専門家が分かりやすく解説します。

代償分割とは?不動産を公平に分けるための解決策

代償分割とは、特定の相続人が不動産や自社株といった分けにくい遺産を現物のまま相続する代わりに、その遺産をもらった人が、もらえなかった他の相続人に対して、自分の財産からお金(代償金)などを支払うことで、相続人間の公平を保つ遺産分割の方法です。

先ほどの事例でいえば、長男が実家(不動産)をすべて相続する代わりに、二男に対して不足分を補うためのお金(代償金)を支払う、という形になります。これにより、長男は家に住み続けることができ、二男もお金を受け取ることで、結果的に法定相続分に見合った公平な遺産分割が実現できるのです。

他の分け方(現物分割・換価分割)との違いは?

遺産の分け方には、代償分割の他に「現物分割」と「換価分割」があります。それぞれの特徴と、代償分割との違いを理解しておきましょう。

遺産分割の3つの方法

分割方法内容向いているケース
現物分割(げんぶつぶんかつ)遺産そのものを物理的に分ける方法。「土地Aは長男に、預貯金は二男に」というように、財産ごとに相続人を決めます。遺産に不動産、預貯金、有価証券など種類が豊富にあり、各相続人の相続分に応じて組み合わせられる場合。
代償分割(だいしょうぶんかつ)特定の相続人が不動産などを相続する代わりに、他の相続人へお金(代償金)を支払う方法。遺産の大部分が不動産で、相続人の一人がその不動産に住み続けたい・事業で使い続けたい場合。
換価分割(かんかぶんかつ)不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人間で分ける方法。詳しくは「換価分割の手続きと流れ|税金・社会保険料への影響も解説」でも解説しています。誰もその不動産に住む予定がなく、相続人全員が現金での分配を希望している場合。
遺産分割方法の比較

一番の違いは、代償分割が「不動産を残す」ことを目的とするのに対し、換価分割は「不動産を売却する」ことを前提とする点です。思い出の詰まった実家を残したい、事業で使っている土地を手放したくない、という場合には、代償分割が最適な選択肢となります。

どんなときに代償分割が選ばれるのか?

代償分割は、特に以下のようなケースで有効な解決策となります。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

  • 相続人の一人が実家(被相続人の家)に住み続けたい場合
    まさに冒頭の事例のような、最も典型的なケースです。同居していた相続人が、そのまま生活の拠点を維持したいと希望する場合に選ばれます。
  • 事業用の土地や建物を後継者が引き継ぐ場合
    家業を継ぐ相続人が、事業に必要な工場や店舗、農地などを一括して相続したい場合に活用されます。事業の継続性を保ちながら、他の相続人との公平性も確保できます。
  • 遺産が分けにくい不動産や自社株しかない場合
    遺産に現金や預貯金がほとんどなく、物理的に分割することが難しい財産しかない場合に、代償分割は唯一の解決策となることがあります。

代償分割のメリット・デメリットを専門家が解説

代償分割は多くのメリットがある一方、注意すべきデメリットも存在します。両方を正しく理解し、ご自身の状況に合った方法か冷静に判断することが大切です。

メリット:大切な不動産を残し、円満な解決を目指せる

  • 不動産を売却せずに済む
    最大のメリットは、故人との思い出が詰まった家や、先祖代々の土地、事業の基盤となる不動産などを手放さずに済む点です。
  • 公平な遺産分割が実現できる
    代償金を支払うことで、不動産を取得しない相続人との不公平感をなくし、法定相続分に基づいた実質的に平等な分割が可能になります。
  • 共有名義のリスクを避けられる
    不動産を複数の相続人の共有名義にすると、将来の売却や建て替えの際に全員の同意が必要になるなど、権利関係が複雑になりがちです。代償分割で単独名義にすることで、将来のトラブルの芽を摘むことができます。
  • 相続税の特例が使える可能性がある
    一定の要件を満たせば、自宅の土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」を適用できる可能性があります。

デメリット:お金と評価額の問題が大きな壁に

  • 不動産を取得する人に代償金を支払う資力が必要
    最も大きなハードルです。不動産の価値が高額であるほど、支払う代償金も高額になります。現金や預貯金がなければ、代償金の準備が困難になる場合があります。
  • 不動産の評価額で揉めやすい
    代償金の額を決める基準となる不動産の評価方法には、相続税路線価、固定資産税評価額、時価(実勢価格)など複数の基準があります。どの基準を使うかで評価額が大きく変わるため、相続人間で意見が対立し、トラブルの原因になりやすい点です。
  • 代償金の支払いが滞るリスクがある
    分割払いにした場合、支払いが途中で滞ってしまうリスクがあります。合意内容を遺産分割協議書にきちんと記載し、場合によっては公正証書を作成するなどの対策が必要です。

【重要】代償分割と税金の問題|贈与税はかかる?

「代償金を支払うと、贈与税がかかるのでは?」と心配される方が非常に多くいらっしゃいます。ここでは、代償分割にまつわる税金の重要なポイントを解説します。

代償金は贈与税の対象外。ただし遺産分割協議書が必須

結論から言うと、遺産分割協議に基づいて支払われる代償金は、原則として贈与税の対象にはなりません。

なぜなら、代償金の支払いは、あくまで遺産分割を公平に行うための一環であり、無償で財産を与える「贈与」とは根本的に性質が異なるからです。

ただし、税務署に贈与とみなされないためには、必ず「遺産分割協議書」を作成し、その中に以下の内容を明確に記載することが絶対条件です。

  • 誰がどの不動産を代償分割により取得したか
  • 不動産を取得した人が、他の相続人に対して代償金を支払う義務を負うこと
  • 代償金の具体的な金額、支払期日、支払方法

もし、口約束だけでお金のやり取りをしてしまったり、遺産分割協議書の記載が不十分だったりすると、後から税務署に「これは個人的な贈与ですね」と指摘され、高額な贈与税が課されてしまうリスクがあります。専門家として、この点は特に強く注意を促したいポイントです。

相続税はどう計算する?代償金の支払いで税額は変わる

代償分割を行った場合、相続税の計算は以下のようになります。

  • 代償金を支払った人(不動産を取得した人)
    相続した財産の価額 支払った代償金の額 = 課税価格
  • 代償金を受け取った人
    相続した財産の価額 受け取った代償金の額 = 課税価格

つまり、支払った人はその分だけ課税対象額が減り、受け取った人はその分だけ増える、という非常にシンプルな仕組みです。これにより、相続人間の税負担も公平になります。

売却するなら換価分割より税金が安くなることも

「最終的には家を売るかもしれない」と考えている場合でも、代償分割が有利になるケースがあります。

例えば、実家を相続人2人の共有名義にしてから売却する「換価分割」の場合、売却益(譲渡所得)に対して、2人それぞれに譲渡所得税がかかります。

一方、「代償分割」で長男が一人で実家を相続し、その後、長男が実家を売却したとします。この場合、長男が一定の要件を満たせば、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除などの特例を使える可能性があります。この特例が使えれば、譲渡所得税を大幅に抑えることができるのです。

将来的な売却の可能性も視野に入れるなら、どちらの方法が税金面で有利になるか、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

参考:No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算

代償金が払えない…現金がない場合の4つの解決策

「代償分割がベストなのは分かるけど、支払うためのお金がない…」これは、多くの方が直面する最も切実な問題です。しかし、すぐに諦める必要はありません。いくつか解決策があります。

代償金の支払いに悩み、書類と電卓を前に頭を抱える中年の日本人

解決策①:他の相続人と交渉し「分割払い」にしてもらう

最も現実的で、よく利用される方法です。冒頭の事例のように、他の相続人の理解を得て、数年間にわたる分割払いにしてもらう交渉をします。
この場合、後々のトラブルを防ぐため、遺産分割協議書に以下の項目を詳細に定めておくことが極めて重要です。

  • 分割払いの総額
  • 毎月の支払額
  • 支払期間(いつからいつまで)
  • 支払いが遅れた場合のペナルティ(遅延損害金など)

さらに、作成した遺産分割協議書を「公正証書」にしておけば、万が一支払いが滞った場合に、裁判を起こさなくても相手の財産を差し押さえる(強制執行)ことが可能になり、お金を受け取る側も安心できます。

解決策②:不動産を担保に金融機関から融資(ローン)を受ける

一括での支払いを求められている場合には、相続した不動産を担保にして、金融機関から融資(不動産担保ローンなど)を受ける方法があります。

メリットは、まとまった資金をすぐに用意でき、相続問題をスピーディーに解決できる点です。一方、デメリットとしては、金利の負担が発生することや、金融機関による審査が必要になる点が挙げられます。

解決策③:生命保険金や死亡退職金を代償金の原資にする

被相続人がかけていた生命保険金や、会社から支払われる死亡退職金は、原則として「受取人固有の財産」とされ、遺産分割の対象にはなりません。
もし、不動産を相続する人がこれらの受取人になっていれば、それを代償金の支払いに充てることができます。見落としがちな資金源ですが、有効な手段となり得ます。

解決策④:最終手段として「換価分割」も視野に入れる

あらゆる方法を検討しても、どうしても代償金の準備が難しい場合は、代償分割に固執せず、不動産を売却して現金で分ける「換価分割」に切り替えることも、円満解決のための一つの選択肢です。
大切なのは、相続人全員が納得できる着地点を見つけることです。一つの方法にこだわりすぎず、柔軟に考えることも時には必要です。

代償分割を円満に進めるための手続きと注意点

代償分割をスムーズに進め、トラブルを避けるためには、正しい手順を踏むことが大切です。ここでは、具体的な流れと各ステップでの注意点を解説します。

ステップ1:相続人全員で話し合い、合意形成を目指す

何よりもまず、相続人全員で集まり、遺産の分け方について話し合う「遺産分割協議」を行います。感情的にならず、お互いの希望や状況を尊重しながら、冷静に話し合うことが重要です。

この段階で、

  • 誰が不動産を取得するのか
  • 「代償分割」という方法で進めることについて全員が同意しているか

を明確に合意することが、すべてのスタートラインとなります。

ステップ2:代償金の基準となる不動産の評価額を決める

トラブルの最大の原因となりうるのが、不動産の評価額です。代償金の金額は、この評価額を基に算出されるため、全員が納得できる基準で決めなければなりません。

主な評価方法には以下のようなものがあります。

  • 相続税路線価:相続税や贈与税の計算に用いられる土地の価格。
  • 固定資産税評価額:固定資産税の計算に用いられる価格。
  • 公示価格:国が示す土地取引の目安となる価格。
  • 時価(実勢価格):実際に市場で売買されると見込まれる価格。

どの方法を選ぶべきか決まりはありませんが、相続人間の公平を期すためには、実際に売れる価格に近い「時価」を基準にすることが多いです。複数の不動産会社に査定を依頼し、その平均額を参考にしたり、より正確性を求めるなら不動産鑑定士に鑑定を依頼したりする方法が客観的でおすすめです。

ステップ3:合意内容を「遺産分割協議書」に正しく記載する

相続人全員の合意内容が固まったら、その内容を法的に有効な書面である「遺産分割協議書」にまとめます。この書類は、後の不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きにも必要となる非常に重要なものです。

代償分割を行う場合、特に以下の項目を正確に記載する必要があります。

【遺産分割協議書への記載必須項目(代償分割の場合)】

  • 相続人の一人である「〇〇(氏名)」が、以下の不動産を相続する。
  • 不動産を相続する代償として、相続人「〇〇(氏名)」は、他の相続人「△△(氏名)」に対し、金〇〇円を支払う。
  • 支払期日は、令和〇年〇月〇日までとする。
  • 支払方法は、「△△」名義の下記預金口座に振り込む方法により支払う。

繰り返しになりますが、この記載に不備があると、贈与税の問題が発生したり、代償金の支払いをめぐるトラブルに発展したりする可能性があります。作成には細心の注意が必要です。

まとめ:代償分割は専門家に相談することで解決の助けとなることが多く、適切な助言が円滑な協議の助けになります。

遺産が不動産ばかりで分け方に困っている場合、代償分割は、ケースによっては家族の想いを守りつつ公平な解決に寄与する手段となり得ます。

しかし、その一方で、

  • 不動産の評価額をどう決めるか
  • 代償金の支払いをどうするか
  • 贈与税などの税務リスクをどう回避するか
  • 法的に不備のない遺産分割協議書を作成できるか

など、クリアすべき課題が多く、専門的な知識がなければ思わぬトラブルに発展しかねない、難しい手続きでもあります。

特に、相続人間の話し合いがこじれてしまうと、本来は円満に解決できたはずの問題が、取り返しのつかない「争続」になってしまうことも少なくありません。

私たち、いがり円満相続相談室は、司法書士・行政書士として、不動産相続や代償分割の相談に対応しています。法律や税金の話を分かりやすくご説明することはもちろん、何よりも皆様のお気持ちに寄り添い、全員がご納得いただける最善の解決策を一緒に見つけ出すことを大切にしています。

「うちのケースでも代償分割は使える?」「何から手をつければいいか分からない」
どんな些細なことでも構いません。一人で悩まず、まずは私たち専門家にご相談ください。あなたの不安な心に「安心」を届け、解決に向けて支援いたします。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所
(屋号:いがり円満相続相談室)

代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
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相続登記で発覚!昔の抵当権の消し方【書類がなくても解決】

2025-11-13

【ご安心ください】相続登記で昔の抵当権が見つかっても解決できます

「親が亡くなって、実家の相続登記を進めようと登記簿謄本を取得したら、何十年も前に完済したはずの住宅ローンの抵当権が残っていた…」

このような状況に、大変驚かれ、どうすればよいのかご不安に思われていることでしょう。「完済したのになぜ?」「当時の書類なんて、どこにも見当たらない…」「このままでは、不動産を相続できないのでは?」と、次々に心配事が浮かんでくるかもしれません。

でも、どうぞご安心ください。実は、このようなケースは決して珍しいことではないのです。

金融機関でローンを完済しても、登記簿上の抵当権は自動的に消えるわけではありません。ご自身で「抵当権抹消登記」という手続きを法務局で行わない限り、登記上は残り続けてしまいます。昔は手続きを忘れてしまう方も少なくなかったため、相続のタイミングで発覚することがよくあるのです。

当事務所では、書類が見つからない場合でも登記手続きや代替手段を尽力して検討し、抵当権抹消が可能な場合が多いですが、最終的な可否は個別の事情により異なります。まずはご相談ください。

この記事では、相続手続きの専門家である司法書士が、書類のない古い抵当権を抹消するための具体的な手順や解決策を、分かりやすく解説していきます。この記事を最後までお読みいただければ、ご不安が解消され、何をすべきかが明確になるはずです。

【実例】相続登記とセットで解決!書類がない抵当権抹消の相談事例

まずは、当事務所で実際に解決したご相談事例をご紹介します。きっと「うちと全く同じ状況だ」と感じていただけるはずです。

ご相談者様の状況:突然見つかった古い抵当権への戸惑い

「先日父が亡くなり、川崎市にある実家の相続登記を進めようとしていました。登記簿を確認したところ、平成10年代に完済したはずの住宅ローンの抵当権が登記されたままになっていることに気づきました。父はきっちりした性格だったので、まさか手続きが残っているとは思わず、本当に驚きました。」

「もちろん、完済当時に銀行から受け取ったはずの抵当権解除証書などの書類は、探しても見つかりません。相続登記と一緒に、この抵当権も消してしまいたいのですが、どうしたら良いでしょうか…」

当事務所からのご提案と解決までの道のり

ご不安な気持ちでご相談に来られたお客様に、私たちはまず「ご安心ください。書類がなくても、相続登記とセットでしっかり解決できます」とお伝えし、具体的な手続きの流れをご説明しました。

  1. まず相続登記を行います。不動産の名義が亡きお父様のままでは抵当権抹消手続きの当事者になれないため、先に相続人様へ名義変更します。
  2. 次に、銀行へ連絡します。相続登記が完了し、名義が新しくなった登記簿をもって、銀行に抵当権抹消に必要な書類の再発行を依頼します。
  3. 最後に、抵当権抹消登記を申請します。ただし、抵当権の「登記済証」だけは絶対に再発行できません。そのため、「事前通知」という特別な手続きを利用しますが、これも司法書士にお任せいただければ全く問題ありません。

結果:煩雑な手続きから解放され、無事に解決

最終的に、相続登記と抵当権抹消登記をセットでご依頼いただきました。さらに、お客様の手を煩わせないよう、銀行への書類再発行の連絡や手続きもすべて当事務所で代行いたしました。結果、お客様はほとんど何もすることなく、無事に実家の名義変更を終え、長年残っていた抵当権もきれいに抹消することができました。「肩の荷が下りました」と安堵された表情が、今でも心に残っています。

司法書士が相談者に対して、書類を見せながら安心させるように丁寧に説明している様子。

相続登記と抵当権抹消、手続きの正しい順番と流れ

さて、ここからは具体的な手続きの流れを詳しく見ていきましょう。相続登記と抵当権抹消登記は、正しい順番で進めることが非常に重要です。結論から言うと、原則として相続登記を先に行う必要がある場合が多い(ただし事案により手続きの順序や対応が異なることがある)ので、個別にご相談ください。必要があります。

ステップ1:相続登記で不動産の名義を相続人へ変更する

なぜ、先に相続登記が必要なのでしょうか。それは、抵当権抹消登記を申請できるのは、その不動産の「現在の所有者」と「抵当権者(金融機関など)」だからです。

亡くなった方(被相続人)は、すでにこの世におらず、法律上の「人」ではないため、登記申請の当事者になることができません。そのため、まずは相続登記を行い、不動産の名義を相続人の方へ変更することで、新しい所有者として抵当権抹消登記を申請できるようになるのです。

ちなみに、2024年4月1日から相続登記が義務化されており、相続の開始を知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律上の義務となりました。抵当権の問題とは別に、相続登記は必ず行わなければならない手続きであることも覚えておきましょう。

ステップ2:金融機関へ連絡し、抹消書類の再発行を依頼する

無事に相続登記が完了し、不動産の名義がご自身に変わったら、次はいよいよ抵当権者である金融機関へ連絡します。連絡する際は、以下の点を伝えましょう。

  • 亡くなった親が組んでいた住宅ローンを完済していること
  • 相続により不動産の名義が自分に変わったこと
  • 抵当権抹消登記をしたいので、必要な書類を再発行してほしいこと

ここで重要なポイントがあります。金融機関から再発行してもらえる書類と、絶対に再発行できない書類があるのです。

【再発行できる書類の例】

  • 抵当権解除証書(または弁済証書)
  • 金融機関の委任状
  • 金融機関の資格証明書(代表者事項証明書など)

【絶対に再発行できない書類】

  • 登記済証(いわゆる「権利証」)または登記識別情報

この「登記済証」がないことが、今回の手続きの核心部分になります。これがなくても大丈夫ですので、安心してください。代替手段については、次のステップで詳しく解説します。

なお、ローンを組んだ金融機関が合併や統合で名前が変わっていたり、すでに存在しなかったりする場合もあります。その際は、現在の権利を引き継いでいる金融機関を探し出して連絡する必要がありますが、これも司法書士にご相談いただければ調査が可能です。

ステップ3:法務局へ抵当権抹消登記を申請する

金融機関から書類の再発行を受けたら、いよいよ法務局へ抵当権抹消登記を申請します。しかし、前述の通り、最も重要な「登記済証(登記識別情報)」が手元にありません。

このような場合、原則として「事前通知制度」という方法を利用して手続きを進めることになります。

これは、登記申請後に法務局から金融機関(登記義務者)宛に「本当に抵当権を抹消して良いですか?」という確認の通知書が送付される制度です。金融機関がその通知書に署名・押印して法務局へ返送し、内容に問題がなければ、登記が実行される仕組みです。

この制度を利用すれば、登記済証がなくても抵当権を抹消できます。ただし、通知の送付や返送に時間がかかるため、通常の登記申請よりも少し日数がかかる点は留意しておきましょう。司法書士に依頼すれば、こうした一連の複雑な手続きもすべて任せることができます。

参考:○登記済証(権利証)を紛失したのですが,どうしたらよいので …

書類がない場合の抵当権抹消|2つの代替手続き

「登記済証(権利証)」や「登記識別情報」がない場合に抵当権を抹消するための代替手続きについて、もう少し詳しく見ていきましょう。主な方法は「事前通知制度」と「本人確認情報作成制度」の2つです。

原則は「事前通知制度」を利用

先ほども触れましたが、最も一般的な方法がこの「事前通知制度」です。追加の費用がかからず、法務局の正規の手続きとして定められているため、多くの場合でこの方法が選択されます。

手続きの流れを簡単にまとめると以下のようになります。

  1. 登記済証(登記識別情報)を添付せずに、法務局へ抵当権抹消登記を申請する。
  2. 法務局が登記義務者に対して通知を送付する(法務局の定める送達方法による)。詳細は法務局の案内や司法書士にご確認ください。
  3. 金融機関が通知を受領後、所定の手続きを経て返送する(通常一定の処理期間を要するため時間を要する場合があります)。具体的な日数については、法務局の最新の案内を参照するか、司法書士にご確認ください。
  4. 法務局が返送された通知書を確認し、問題がなければ登記手続きを実行する。

特に手続きを急ぐ理由がなければ、この方法で着実に抵当権を抹消することができます。

お急ぎの場合は司法書士の「本人確認情報」を活用

一方で、まれに事前通知に対応していない金融機関があります。

あるいは、「相続した不動産をすぐに売却する予定がある」など、抵当権抹消を急ぐ必要があるケースも存在します。事前通知制度は、郵便のやり取りに時間がかかるため、売買の決済日に間に合わない可能性があります。

そのような場合に活用できるのが、司法書士が作成する「本人確認情報」を法務局に提供する方法です。

これは、司法書士が登記義務者(この場合は金融機関の担当者)と面談し、運転免許証などの本人確認資料の確認や、登記申請の意思確認を行った上で、「この登記申請は、間違いなく本人の意思に基づくものです」という内容の証明書を作成し、登記申請書に添付するものです。

この本人確認情報を添付すれば、法務局からの事前通知を省略できるため、スピーディーに登記を完了させることができます。ただし、司法書士が専門家としての責任を負って作成する書類のため、別途費用がかかります。

どちらの方法が最適かは状況によって異なりますので、司法書士と相談しながら進めるのが良いでしょう。

司法書士が「本人確認情報」と書かれた書類に印鑑を押している様子。専門性と信頼性を表している。

相続登記と抵当権抹消を司法書士に依頼するメリットと費用

ここまで読んで、「手続きが思ったより複雑そうだ…」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。相続登記と古い抵当権の抹消は、セットで司法書士に依頼することで、多くのメリットがあります。

複雑な手続きや金融機関とのやり取りもすべてお任せ

司法書士に依頼する最大のメリットは、時間的・精神的な負担から解放されることです。

  • 相続人の調査(戸籍収集)や遺産分割協議書の作成
  • 法務局への相続登記申請
  • 金融機関への連絡、抹消書類の再発行依頼
  • 登記済証がない場合の特別な登記申請(事前通知など)

これら一連の煩雑な手続きを、すべて専門家が窓口となって代行します。特に、金融機関とのやり取りは、担当部署を探したり、必要書類を正確に伝えたりと、慣れていないと手間取ることも少なくありません。すべてを専門家に任せることで、あなたは安心して日常を過ごしながら、手続きが完了するのを待つだけです。

山積みの複雑な相続書類と、きれいに整理された一つのファイル。司法書士による手続きの整理を象徴する画像。

費用の目安は?(登録免許税+司法書士報酬)

司法書士に依頼する場合の費用は、大きく分けて「実費」と「司法書士報酬」の2つで構成されます。

【実費】

  • 登録免許税(登記申請時に国に納める税金)
    • 相続登記:不動産の固定資産税評価額 × 0.4%
    • 抵当権抹消登記:不動産1個につき1,000円
  • その他:戸籍謄本や住民票の取得費用、郵送費など

【司法書士報酬】

事務所によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

  • 相続登記:7万円~15万円程度
  • 抵当権抹消登記:1万5,000円~2万円程度

当事務所では、相続登記と抵当権抹消登記をセットでご依頼いただくことも多く、その場合は効率的に進められるため、費用面でもご納得いただけるご提案が可能です。詳しい料金については、当事務所の料金一覧をご覧ください。初回のご相談は無料ですので、まずはお見積りだけでもお気軽にお問い合わせください。

まとめ:まずは司法書士へ無料相談を

相続登記の際に発覚した、何十年も前の古い抵当権。書類もなく、どうすればよいかと途方に暮れてしまうお気持ちは、痛いほどよく分かります。

しかし、この記事でお伝えしてきたように、解決への道筋はきちんと用意されています。相続登記と抵当権抹消は手続きが複雑に絡み合いますが、一つひとつを専門家と一緒に整理していけば、必ずゴールにたどり着けます。

大切なのは、一人で抱え込まず、まずは専門家である司法書士に相談してみることです。それが、ご不安を「安心」に変えるための、最も確実で、最も早い第一歩となります。

いがり綜合事務所では、相続手続きや抵当権抹消に関するご相談を無料で承っております。平日夜間や土日祝のご相談にも柔軟に対応しておりますので、お仕事でお忙しい方も、どうぞご遠慮なくお問い合わせください。あなたのお悩みに寄り添い、円満な解決まで全力でサポートいたします。

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遺言書で相続登記費用は安くなる?費用の仕組みと節約のコツを解説

2025-11-12

「遺言書があれば相続登記費用が安くなる」は本当?

「遺言書があれば、相続登記の費用が安くなるって本当?」

ご親族が亡くなられ、相続手続きを前にした多くの方が抱く素朴な疑問です。結論から申し上げますと、一般的には遺言書があれば手続きが簡略化され、費用を抑えられる場合が多いとされています。ただし、遺言の種類や内容によっては費用や手続きが増えるケースもあります。

相続登記の費用は、大きく分けて「税金(登録免許税)」「書類取得などの実費」「専門家への報酬」の3つで構成されています。このうち、遺言書があることで特に大きく節約できる可能性があるのが「司法書士への報酬」の部分です。

遺言書は、単に財産の分け方を指定するだけでなく、残されたご家族のさまざまな負担を軽くしてくれる、大切な「道しるべ」となります。この記事では、なぜ遺言書があると費用を抑えられるのか、その具体的な仕組みと、知っておきたい注意点について、相続の専門家である司法書士が分かりやすく解説します。

相続登記にかかる費用の内訳を理解しよう

まず、相続登記にどのような費用がかかるのか、全体像を把握しておきましょう。主に以下の3つの費用から成り立っています。

①登録免許税:不動産の価値で決まる税金

登録免許税は、不動産の名義変更(登記)をする際に、法務局へ納める税金です。遺言書の有無にかかわらず、原則として支払う必要があります。

税額は、以下の計算式で算出されます。

登録免許税 = 不動産の固定資産税評価額 × 0.4%

例えば、固定資産税評価額が2,000万円の土地と建物を相続する場合、登録免許税は8万円(2,000万円 × 0.4%)となります。この税率は、原則として遺言書があってもなくても変わりません。ただし、後述しますが「遺贈」というケースでは税率が変わることがあるため注意が必要です。

参考:No.7191 登録免許税の税額表

②必要書類の取得費用:戸籍謄本などの実費

相続登記を申請するには、亡くなった方(被相続人)や相続人の戸籍謄本、住民票、不動産の固定資産評価証明書など、さまざまな公的書類が必要です。これらの書類を取得するための手数料がかかります。

相続人の人数や、亡くなった方の本籍地が何度も変わっている場合などは、集める戸籍の数が多くなり、費用もかさみます。一般的には、数千円から1万円を超える程度が目安となります。

実はこの部分も、遺言書があることで必要な戸籍の範囲が狭まり、結果的に費用を抑えられる可能性があります。

③司法書士への報酬:手続き代行の専門家費用

相続登記はご自身で行うことも可能ですが、手続きが複雑で専門的な知識を要するため、多くの方が司法書士に依頼されます。その際に発生するのが、手続きを代行する専門家への報酬です。

この司法書士への報酬は遺言書の有無で変わることが多く、報酬が費用構成に占める割合が大きい場合には影響が目立ちます(事案によります)。一般的な相続登記の司法書士報酬の目安は事務所や事案により幅がありますが(例えば7万円〜15万円程度とする参考情報もあります)、具体的な金額は個別のお見積もりでご確認ください。

相続登記費用の内訳を計算するイメージ。そろばんと電卓、現金が置かれている。

なぜ遺言書があると相続登記費用を節約できるのか?

では、具体的に「なぜ」遺言書があると司法書士の報酬や実費を抑えることができるのでしょうか。その主な理由を3つのポイントから解説します。

理由1:遺産分割協議書の作成が不要になる

遺言書がない場合、相続人全員で「誰がどの財産を相続するのか」を話し合い、その合意内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成する必要があります。この書類には、相続人全員が署名し、実印を押さなければなりません。

相続人同士が遠方に住んでいたり、関係性が複雑だったりすると、この話し合いと書類の取りまとめは大変な時間と労力がかかります。司法書士が遺産分割協議書の作成をサポートする場合、通常、数万円の報酬が別途発生します。

しかし、有効な遺言書があれば、原則として遺産分割協議は不要です。遺言書の内容に従って手続きを進められるため、協議書作成にかかる司法書士報酬がまるごと節約できるのです。これは費用面だけでなく、相続人間の話し合いという精神的な負担を軽減する「見えないコスト」の削減にも繋がる、非常に大きなメリットです。

理由2:必要となる戸籍謄本の収集範囲が狭まる

遺言書がない場合、法律で定められた相続人(法定相続人)が誰なのかを確定させるため、亡くなった方の「出生から死亡までの一連の戸籍謄本すべて」を取り寄せる必要があります。これは、他に相続人がいないことを証明するために不可欠な手続きです。

一方、遺言書で不動産を相続する人が明確に指定されていれば、必要な戸籍謄本の範囲を限定できる場合があります。特に、後述する「公正証書遺言」であれば、手続きがより簡略化されます。

集める戸籍が少なくなれば、取得にかかる実費はもちろん、司法書士に戸籍収集を依頼した場合の代行費用も抑えることができます。

理由3:「遺言執行者」がいれば手続きが格段にスムーズに

少し専門的な話になりますが、遺言書で「遺言執行者」を指定しておくと、手続きはさらにスムーズになります。遺言執行者とは、その名の通り、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う権限を与えられた人のことです。

遺言執行者がいれば、不動産の相続登記を、他の相続人の協力を得ることなく単独で申請できます。もし遺言執行者がおらず、かつ法定相続人でない方に遺言で不動産を譲る場合、不動産を取得する相続人と、それ以外の相続人全員が共同で登記申請(または委任状に署名押印)をしなければならないケースがあり、手続きが煩雑になる可能性があります。

手続きが迅速に進むということは、司法書士が費やす時間や工数も削減されるため、結果的に報酬の抑制に繋がるのです。

【相談事例】公正証書遺言で費用と手間を抑えられたケース

先日、ご相談にいらっしゃったAさんの事例をご紹介します。(※この事例は、内容を一般化・抽象化したものであり、特定の個人を識別できるものではありません。)Aさんはお父様を亡くされ、ご自宅不動産の相続登記について不安な面持ちで事務所のドアを叩かれました。

「父が亡くなったのですが、相続登記には一体どれくらいの費用がかかるのでしょうか…」

お話を伺うと、幸いにもAさんのお父様は生前に「自宅不動産は長男であるAに相続させる」という内容の公正証書遺言をきちんと作成されていました。この一点が、Aさんの負担を大きく軽減することになります。

私たちはAさんにこうご説明しました。

「お父様が公正証書遺言を残してくださったおかげで、手続きはとてもスムーズに進められますよ。まず、相続人の皆さんで話し合って『遺産分割協議書』を作る必要がありません。これだけで、司法書士の費用も数万円は抑えられますし、何よりご兄弟と書類のやり取りをする手間が省けます。必要な戸籍も少なくて済みますから、実費も時間も節約できます。」

Aさんは当初、何十万円もかかるのではないかと心配されていましたが、遺言書がない場合に比べて費用を抑えられること、そして手続きがシンプルになることをご理解いただくと、みるみる表情が和らいでいきました。

最終的に、私たちは遺言書の内容に沿ってスムーズに相続登記を完了させることができ、Aさんからは「父が遺言書を書いておいてくれて本当に良かった。安心しました。」と、心からの感謝の言葉をいただくことができました。この事例は、適切な遺言書が、残されたご家族にとってどれほど大きな「安心」に繋がるかを物語っています。

注意!遺言書があっても費用が高くなる・複雑化する3つのケース

ここまで遺言書のメリットをお伝えしてきましたが、「遺言書さえあれば万事OK」というわけではありません。遺言書の種類や内容によっては、かえって費用が高くなったり、手続きが複雑になったりするケースもあります。専門家として、そうしたリスクについても正直にお伝えします。

ケース1:自筆証書遺言の「検認」で手間と費用がかかる

ご自身で手書きする「自筆証書遺言」は、費用をかけずに手軽に作成できるのがメリットです。しかし、亡くなった後にその遺言書を使って手続きをするには、原則として家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを経なければなりません。(※法務局の保管制度を利用した場合は不要)

検認手続きのためには、相続人全員の戸籍謄本などを集めて裁判所に申し立てる必要があり、数千円の実費と数ヶ月の時間がかかります。司法書士に依頼する場合はさらに数万円の報酬が上乗せされます。せっかく費用を抑えるために自筆で書いたのに、結果的に手間と実費がかさんでしまう可能性があるのです。

参考:遺言書の検認

ケース2:遺言書の文言が曖昧で登記に使えない

「自宅の土地建物を長男に相続させる」

一見、問題なさそうに見えるこの一文も、法務局の登記手続きでは通用しないことがあります。登記申請では、不動産を登記簿(登記事項証明書)に記載されている通りに、地番や家屋番号まで正確に特定して記載する必要があるからです。

もし遺言書の記載が不正確・不十分だと、その遺言書だけでは登記ができず、結局、相続人全員で遺産分割協議書を作成し直すことになりかねません。そうなれば、遺言書を作成した意味がなくなってしまいます。

ケース3:相続人以外への「遺贈」で登録免許税が5倍になる

「お世話になった知人に不動産を譲りたい」「孫に不動産を遺したい」といったケースです。法定相続人ではない人に遺言で財産を譲ることを「遺贈(いぞう)」と言います。

この遺贈によって不動産の名義変更をする場合、登録免許税の税率が、相続の場合の0.4%から2.0%へと5倍に跳ね上がります。

例えば、評価額2,000万円の不動産の場合、相続なら8万円の登録免許税が、遺贈だと40万円にもなってしまうのです。良かれと思ってしたことが、かえって高額な税負担を強いる結果になる可能性があるため、十分な注意が必要です。

最も確実な節約方法は「登記を見据えた公正証書遺言」です

では、どうすれば将来の相続登記費用と手間を、最も確実かつ効果的に節約できるのでしょうか。

その答えは、「将来の登記手続きまで見据えて、専門家が関与して作成する公正証書遺言」を備えておくことです。

公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成に関与するため、法的な不備や内容の曖昧さがなく、無効になるリスクが極めて低いのが特徴です。

  • 家庭裁判所での検認手続きが不要で、すぐに手続きに入れる。
  • 不動産の表示など、登記に使える正確な記載が担保される。
  • 原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がない。

作成時に費用はかかりますが、自筆証書遺言で起こりうる様々なリスクや、将来相続人が負担するであろう費用・手間・精神的ストレスを考えれば、結果的に最も安く、そして安心な方法と言えるでしょう。当事務所でも、ご状況に応じた遺言書作成業務についてサポートを行っております。(事務所名:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所、所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、司法書士:猪狩 佳亮、所属:神奈川県司法書士会)

相続登記の費用でお悩みなら、いがり綜合事務所へご相談ください

この記事では、遺言書と相続登記費用の関係について解説してきました。遺言書は、多くの場合で費用と手間の節約に繋がりますが、その内容や種類によっては意図しない結果を招くこともあります。

「自分の場合はどうなんだろう?」
「どの方法が一番良いのか分からない…」

そうお感じになるのは当然のことです。相続の形は、ご家族の数だけ存在します。

私たち、いがり綜合事務所(いがり円満相続相談室)は、川崎市・横浜市を中心に、これまで数多くの相続手続きをお手伝いしてまいりました。お金のことはもちろん皆様が気にされる大切な点です。だからこそ、私たちは一人ひとりのお話をじっくりと伺い、ご状況を正確に把握した上で、費用面にも配慮した最適な手続き案をご提案します。

初回のご相談は無料です。ご状況を丁寧に伺い、手続きや費用について分かりやすくご説明します。まずはお気軽にお問い合わせください。

まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください

相続放棄した人の子は相続できる?代襲相続との違いを解説

2025-11-11

【結論】相続放棄した人の子に相続権は移らない

ご親族が亡くなられ、相続の手続きを進める中で「相続放棄」や「代襲相続」といった言葉を耳にして、混乱されている方もいらっしゃるかもしれませんね。特に、「親が相続を放棄したら、その子どもである孫が代わりに相続することになるの?」という疑問は、多くの方が抱かれるものです。

まず、大切な結論からお伝えします。親が相続放棄をしても、その子ども(被相続人から見て孫)が代わりに相続人になることはありません。これは、民法第939条で、法律上、相続放棄をした人は「初めから相続人ではなかった」とみなされるからです。もともと相続人ではないのですから、その人に代わって誰かが相続する「代襲相続」という考え方自体が発生しないのです。

この記事では、多くの方が混同しがちな「相続放棄」と「代襲相続」の関係、そしてなぜ「相続放棄」と「死亡」とで結論が全く異なるのかを、具体的なケースを交えながら、できるだけ分かりやすく解説していきます。どうぞご安心ください。

【司法書士の相談事例】相続放棄と代襲相続を混同したケース

先日、当事務所にも、まさにこの問題で悩んでいらっしゃる方からのご相談がありました。

ご相談者は、お父様を亡くされたご子息でした。相続人は長男と二男のお二人です。

しかし、長男の方はご自身の考えで家庭裁判所にて相続放棄の手続きを済ませていました。これで相続人は二男の方ひとりになったと思いきや、ご相談者はインターネットで「代襲相続」という言葉を目にして、急に不安に駆られたそうです。

「兄には子どもが二人(父から見て孫)います。兄が相続放棄をしたことで、あの子たちが代わりに相続人になる『代襲相続』というのが発生するのではないでしょうか?もしそうなら、遺産分割協議書に甥や姪の署名捺印も必要になるのでしょうか…?」

ご相談者のご心配はもっともです。もし甥や姪も相続人となれば、手続きはより複雑になります。

私はご相談者に、まず落ち着いていただくようお伝えし、次のようにご説明しました。「ご安心ください。お兄様がされたのは『相続放棄』ですね。相続放棄をした場合、その方は『初めから相続人ではなかった』と扱われます。そのため、お子さんたちに相続権が移る代襲相続は発生しません。相続人はあなた様お一人だけですよ。」

この説明に、ご相談者は心から安堵されたご様子でした。その後、ご相談者から正式にご依頼いただき、お兄様の「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所から取り寄せるなど、必要な手続きを一つひとつ丁寧に進め、無事にご相談者単独名義での相続登記を完了することができました。

このように、少しの知識の違いが、手続きの負担や心労を大きく左右することがあります。早めに専門家に相談することが解決の助けになることが多いです。

代襲相続とは?基本をわかりやすく解説

それでは、そもそも「代襲相続」とはどのような制度なのでしょうか。基本から確認していきましょう。

代襲相続とは、本来、相続人になるはずだった人(子どもや兄弟姉妹)が、被相続人(亡くなった方)より先に亡くなっているなどの理由で相続できない場合に、その人の子どもが代わりに相続する制度のことをいいます。

例えば、祖父が亡くなったとします。本来であれば、祖父の子どもである父が相続人になります。しかし、もし父が祖父よりも先に亡くなっていた場合、父に代わってその子ども、つまり祖父から見ると孫が相続人になります。これが代襲相続の典型的な例です。

この制度があることで、下の世代へ財産が引き継がれる機会が確保されるのです。より詳しい内容は「法定相続人とは?図を使って分かりやすく解説②(代襲相続編)」でも解説していますので、ご参照ください。

代襲相続が発生する3つの原因

代襲相続はいつでも起こるわけではありません。法律で定められた、以下の3つの場合に限られます。

  • ① 相続人の死亡
    最も一般的なケースです。被相続人よりも先に、相続人となるはずの子どもや兄弟姉妹が亡くなっている場合です。
  • ② 相続欠格(そうぞくけっかく)
    相続人が、被相続人を殺害しようとしたり、遺言書を偽造したりするなど、相続において不正な行為をした場合に、法律上、相続権が強制的に剥奪されることです。
  • ③ 廃除(はいじょ)
    相続人が、被相続人に対して虐待や重大な侮辱を行った場合に、被相続人の意思で家庭裁判所に申し立て、その相続人の相続権を剥奪することです。

ここで重要なポイントは、この3つの原因の中に「相続放棄」は含まれていないということです。代襲相続は民法第887条等に定められた制度ですが、相続放棄は民法第939条により「初めから相続人ではなかった」と扱われるため、代襲は生じないのです。

なぜ?相続放棄と死亡で代襲相続の結論が違う理由

「相続する権利がなくなる」という点では、相続放棄も死亡も似ているように感じるかもしれません。しかし、法律上の扱いは全く異なり、それが代襲相続の有無という大きな違いを生み出します。

なぜ結論が違うのか、それぞれのケースを比較しながら、その理由を詳しく見ていきましょう。

ケース① 相続人が「相続放棄」した場合

相続放棄とは、家庭裁判所に申述することで、プラスの財産(預貯金や不動産)もマイナスの財産(借金など)もすべて引き継がないという意思表示をすることです。

相続放棄が受理されると、その人は「初めから相続人ではなかった」とみなされます。これが最も重要なポイントです。

もともと相続人ではなかったのですから、その人が持っていたはずの「相続権」というもの自体が存在しなくなります。存在しない権利を、その子どもが引き継ぐことはできません。そのため、代襲相続は発生しないのです。

では、放棄された相続権はどうなるのでしょうか?それは、次の順位の相続人に移っていきます。例えば、亡くなった方の子ども全員が相続放棄をした場合、相続権は親(第二順位)、親もいなければ兄弟姉妹(第三順位)へと移っていきます。なお、法定相続人の順位は民法第887条以下に定められています。

つまり、相続放棄は相続権を「下の世代」に渡すのではなく、「次の順位の相続人」にバトンタッチするイメージです。

相続放棄をした場合の相続権の流れを示す家系図。相続権が次順位の相続人に移っている。

ケース② 相続人が「死亡」していた場合

一方、相続人が被相続人より先に亡くなっていた場合は、状況が全く異なります。

亡くなった相続人は、相続が発生した時点ではこの世にいませんが、法律上「相続人であった」という事実に変わりはありません。その人が本来持っていたはずの「相続権」は消滅せず、そのまま子どもに引き継がれます。

これが「代襲相続」です。

つまり、相続人の死亡は、相続権を消滅させるのではなく、「下の世代」に承継させる効果があるのです。

このように、「相続放棄」と「死亡」では、相続権の扱いが根本的に異なります。

  • 相続放棄 → 相続権が消滅し、次順位の相続人に移る
  • 死亡 → 相続権が承継され、その子ども(孫など)に移る

この違いを理解することが、相続の全体像を正しく把握する鍵となります。

相続人が死亡した場合の相続権の流れを示す家系図。相続権が子(孫)に代襲相続されている。

相続人の特定は相続手続きの第一歩

ここまで見てきたように、相続放棄や代襲相続が発生すると、誰が本当の相続人なのか、その関係は一気に複雑になります。

そして、この「誰が相続人なのか」を正確に確定させる「相続人調査」は、すべての相続手続きにおける最も重要で、最初に行うべきステップです。

なぜなら、もし相続人が一人でも漏れた状態で遺産分割協議を行っても、その協議は法的に無効となってしまうからです。後から本当の相続人が現れた場合、すべての手続きを最初からやり直さなければならず、大きなトラブルに発展する可能性もあります。

自分で判断は危険!戸籍の収集・読解は専門家へ

相続人を法的に確定させるためには、亡くなった方(被相続人)の「生まれてから亡くなるまで」の連続したすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)を取得する必要があります。

しかし、この作業は想像以上に大変です。

  • 結婚や転籍で本籍地が何度も変わっている場合、全国の複数の役所に請求しなければならない。
  • 古い戸籍は手書きで書かれており、達筆すぎて読めない、あるいは独特の言い回しで解読が難しい。
  • 戸籍を読み解き、前妻との間の子どもや、認知した子どもがいないかなど、すべての相続関係を正確に把握するには専門的な知識が必要。

「自分たちには、他に相続人はいないはず」という思い込みで進めてしまうのは、非常に危険です。戸籍を正確に収集し、法的な観点から読み解く作業は、私たち司法書士のような専門家にお任せいただくのが、最も確実で安心な方法です。

虫眼鏡で古い戸籍謄本を読んでいる様子。相続人調査の難しさを示している。

相続人の特定でお悩みなら、いがり円満相続相談室へ

「うちのケースは、一体誰が相続人になるんだろう…」
「相続放棄した人がいるけど、手続きはどう進めたらいいの?」
「戸籍を集めてみたけれど、これで全員なのか自信がない…」

相続に関する不安や疑問は、ご家庭の事情によって様々です。一人で悩んでいても、なかなか答えは見つからないかもしれません。

そんな時は、ぜひ一度、私たち「いがり円満相続相談室」の無料相談をご利用ください。当事務所は、相続業務に注力している司法書士事務所です。あなたのお話をじっくりと伺い、複雑に思える相続関係を丁寧に整理し、誰が相続人になるのかを法的に正確に調査・確定いたします。

代表司法書士が可能な範囲で一貫して担当し、丁寧に対応いたします。あなたの心に寄り添いながら、円満な相続の実現をサポートさせていただきます。

平日夜間や土日祝日のご相談にも対応しておりますので、お仕事でお忙しい方も安心してお問い合わせください。まずはお話をお聞かせいただくことから始まります。どうぞ、お気軽にご連絡ください。
※初回のご相談(60分程度)は無料です。面談、お電話、オンラインいずれの方法でも対応可能です。費用が発生する可能性がある場合は、必ず事前にご説明いたしますのでご安心ください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士 いがり綜合事務所
代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号

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自筆証書遺言の注意点|無効になる書き方など専門家が解説

2025-11-10

「費用をかけずに…」その自筆証書遺言、本当に大丈夫?

「大切な家族のために、きちんと遺言書を残しておきたい。でも、専門家に頼むと費用がかさむから、まずは自分で書いてみよう」
このように考えて、自筆証書遺言の作成を検討される方は少なくありません。ご自身の想いを形に残そうとするそのお気持ちは、本当に素晴らしいものです。

しかし、その一方で、費用を抑えたいという想いから安易に作成された遺言書が、法的な要件を満たさずに無効になってしまったり、内容が曖昧なためにかえってご家族の間で争いを引き起こしてしまったりするケースが後を絶たないのも、悲しい現実です。

良かれと思って残したはずの遺言書が、最愛の家族を苦しめる「争族」の火種になってしまう…。そんな、誰も望まない結末を迎えないために、何に気を付ければよいのでしょうか。

この記事では、相続の専門家である司法書士の視点から、自筆証書遺言を作成する際に絶対に知っておくべき注意点や、無効になってしまう典型的なケースを具体的に解説します。あなたの想いが詰まった大切な遺言書が、確実に家族の未来を守るものとなるよう、ぜひ最後までお読みください。

自筆証書遺言が無効になる6つの落とし穴

自筆証書遺言は、法律で厳格な書き方が定められています。一つでも要件を欠くと、遺言書全体が無効になってしまう可能性があります。ここでは、特に陥りやすい6つの「落とし穴」について、なぜそのルールが必要なのかという理由も踏まえて解説します。

1. 全文が自筆でない(財産目録を除く)

遺言書は、その名の通り「自筆」であることが大原則です。パソコンで作成した本文を印刷して署名・押印したり、手が不自由だからとご家族に代筆を頼んだりしたものは、残念ながら無効となります。これは、遺言者本人の真の意思に基づいて作成されたことを担保するための重要なルールです。

ただし、2019年の法改正により、相続財産を一覧にした「財産目録」については、パソコンでの作成や、通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などを添付することが認められるようになりました。
しかし、その場合でも財産目録のすべてのページに、遺言者本人が署名・押印する必要があります。この署名・押印を忘れがちなので、十分にご注意ください。

2. 日付が特定できない・記載がない

遺言書の作成日も、極めて重要な記載事項です。日付の記載がなかったり、「令和7年11月吉日」のように日付が特定できない書き方をしたりすると、その遺言書は無効になってしまいます。

なぜなら、もし遺言書が複数見つかった場合、法律上は最も日付の新しいものが有効とされるからです。また、遺言を作成した当時に、遺言者に十分な判断能力があったかどうかを判断する上でも、作成日は重要な意味を持ちます。必ず「令和7年11月8日」のように、誰が見ても一日を特定できる形で正確に記載してください。

3. 署名・押印がない

遺言書の末尾には、必ず遺言者本人が署名し、印鑑を押さなければなりません。署名・押印は、その遺言書を誰が作成したのかを最終的に証明するための、いわば「サイン」です。

押印は認印でも法律上は有効ですが、後のトラブルを防ぐためには、実印を使用し、印鑑登録証明書を一緒に保管しておくことを強くお勧めします。これにより、遺言書が本人の意思で作成されたことの証明力が高まります。
また、署名は戸籍上の氏名を正確に記載しましょう。普段使っている通称名などで署名すると、本人確認で問題が生じる可能性があります。

4. 修正方法が間違っている

一度書いた遺言書の内容を修正したい場合、修正テープで消したり、二重線を引いて書き加えたりするだけでは、その修正は認められません。遺言書の修正には、法律で定められた厳格なルールがあります。

具体的には、まず変更したい箇所を二重線などで示し、その近くに正しい文言を記載します。そして、その変更箇所に押印し、さらに遺言書の末尾などの余白に「〇行目、〇字削除、〇字加入」といったように、どこをどのように変更したかを付記して、そこにも署名する必要があります。
この手続きは非常に複雑で、一つでも間違えると修正が無効になるだけでなく、遺言書全体の有効性が争われる原因にもなりかねません。もし修正が必要になった場合は、安易に自分で直さず、全文を書き直すか、専門家に相談するのが安全です。

5. 財産の特定ができない

「自宅の土地と建物を長男に相続させる」といった書き方では、どの不動産を指すのかが曖昧で、法務局での名義変更(相続登記)手続きができない可能性があります。

相続手続きをスムーズに進めるためには、誰が見ても財産を一つに特定できるように記載する必要があります。

  • 不動産の場合:登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されている通りに、所在、地番、家屋番号などを正確に記載する。
  • 預貯金の場合:「〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇」のように、金融機関名、支店名、預金種別、口座番号まで正確に記載する。

財産目録を正確に作成することが、残されたご家族の手間を大きく減らすことに繋がります。財産目録作成の重要性を示す不動産登記簿と預金通帳のイラスト

6. 夫婦など複数人で作成している

仲の良いご夫婦が、「私たちの財産は、このように分けます」と、一つの用紙に連名で遺言書を作成することがあります。これは「共同遺言」と呼ばれ、法律で明確に禁止されており、無効となります。

遺言は、あくまで個人の最終的な意思表示であり、他人の意思に影響されることなく、いつでも自由に撤回・変更できるべきものだからです。ご夫婦であっても、遺言書は必ず各自が一通ずつ、別々に作成しなければなりません。

良かれと思って書いた遺言書が「争族」の火種に…最悪のシナリオ

もし、上記のような落とし穴にはまってしまい、作成した自筆証書遺言が無効と判断されたら、一体どうなるのでしょうか。

その場合、遺言書は「初めから存在しなかった」ものとして扱われます。そうなると、相続人全員で「遺産分割協議」を開き、誰がどの財産を相続するのかを改めて話し合って決めなければなりません。

あなたの「長男に事業で使っている土地を継がせたい」「介護で世話になった長女に多く財産を残したい」といった特別な想いは、法的な効力を失ってしまいます。相続人全員の合意が得られなければ、法律で定められた法定相続分で分けることになります。

その結果、

  • 遺産分割協議がまとまらず、相続人同士の関係が悪化し、裁判にまで発展する。
  • 話し合いが長引き、預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きが全く進まない。
  • 家族間の信頼関係が完全に崩壊し、何年にもわたって憎しみ合う「争族」状態に陥る。

このような悲劇が、実際に多くのご家庭で起こっているのです。
費用を抑えるために自分で書いた遺言書が、結果的に家族に数十万、数百万円もの弁護士費用を負担させ、お金では解決できない深い溝を残してしまう…。これほど皮肉で、悲しいことはありません。

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべき?費用と確実性を比較

では、どうすれば確実に想いを実現できるのでしょうか。遺言書には、自筆証書遺言のほかに「公正証書遺言」という方法があります。ここでは、両者を費用と確実性の観点から比較し、どちらを選ぶべきかを考えてみましょう。

費用だけで判断は危険!トータルコストで考える

多くの方が自筆証書遺言を選ぶ最大の理由は「費用がかからない」ことでしょう。確かに、紙とペンさえあれば作成できるため、初期費用はほぼ0円です。

一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらうため、財産の価額に応じた手数料がかかります。数万円から十数万円程度かかるのが一般的です。

しかし、ここで考えていただきたいのが「トータルコスト」です。

自筆証書遺言は、相続が始まった後、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります(法務局保管制度を利用しない場合)。これには、戸籍謄本などの書類収集の手間と、数千円から1万円程度の実費がかかります。
もし遺言書が無効になったり、内容が原因で紛争になったりすれば、前述の通り、弁護士費用などで何十万円もの出費が発生する可能性があります。

公正証書遺言の作成費用は、こうした将来のリスクを軽減し、ご家族の負担を和らげるための「備え」と考えることができます。

法務局保管制度のメリットと限界

2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」は、作成した自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度です。これにより、遺言書の紛失や改ざんのリスクがなくなり、面倒な家庭裁判所での「検認」手続きも不要になるという大きなメリットがあります。

これは非常に便利な制度ですが、一つだけ決定的な限界点があります。それは、法務局はあくまで遺言書を「保管」するだけで、その内容が法的に有効かどうかまではチェックしてくれないという点です。

つまり、日付や署名・押印といった外形的な要件は確認してくれますが、「財産の記載が曖昧で特定できない」「特定の相続人の遺留分を侵害していて、将来の紛争の種になる」といった内容面の問題点までは指摘してくれません。せっかく法務局に預けても、内容が原因でトラブルになるリスクは依然として残るのです。

参考:自筆証書遺言書保管制度について

確実性を高めたい場合の選択肢としての公正証書遺言

公正証書遺言は、相続に関するトラブルの可能性を減らし、ご自身の想いを実現するための一つの有力な方法です。

公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が、遺言者ご本人から直接内容を聞き取りながら作成します。その過程で、法律的な要件を満たしているかはもちろん、内容が不明確でないか、遺留分など将来トラブルになりそうな点はないかといったことまでチェックしてくれます。
完成した遺言書の原本は公証役場に厳重に保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。

特に、相続人同士の関係が少し複雑な場合や、特定の誰かに財産を多く残したいと考えている場合など、少しでも将来に不安要素があるのなら、公正証書遺言を作成しておくべきです。当事務所では、お客様の想いを形にする遺言書作成業務について、全面的にサポートしています。

費用を抑えたい…そんなお悩みこそ専門家にご相談ください

先日、当事務所にも「できるだけ費用をかけずに、自分で遺言書を作成したい」というお客様がご相談に来られました。

そのお客様は、インターネットや本で書き方を一生懸命に調べ、ご自身で下書きまで作成されていました。その熱意に、私も心から敬意を表しました。

私はまず、お客様が調べてこられた自筆証書遺言の基本的なルール(自署、日付、署名押印など)が正しいことを確認し、財産目録の作成方法や、法務局の保管制度についてもご説明しました。
その上で、正直にこうお伝えしたのです。

「お客様が書かれた内容は、基本的な要件は満たしています。しかし、このままですと、将来ご長男とご長女の間で揉めてしまう可能性が残っています。また、法務局に預けても、この内容面のリスクは解消されません。今、費用を節約することが、将来のご家族の負担になってしまうかもしれません」

そして、自筆証書遺言を相続開始後に家庭裁判所で検認する際の手間や費用、そして公正証書遺言を作成する費用を具体的にお示しし、長い目で見れば、確実性を手に入れるための費用は、決して高すぎるものではないことを丁寧にご説明しました。

お客様は深く頷かれ、「先生の話を聞いて、目先の費用だけにとらわれていたことに気づきました。家族が揉めないことが一番大事です。ぜひ、公正証書でお願いします」とおっしゃってくださいました。

私たちは、ただ手続きを代行するだけではありません。お客様の「費用を抑えたい」というお気持ちに寄り添いながら、何がご家族にとって本当に最善の選択なのかを一緒に考え、ご提案する。それが、私たちの使命だと考えています。

川崎・横浜で遺言書作成なら、いがり円満相続相談室へ

あなたの想いを、法的に有効なだけでなく、残されたご家族が円満に未来へ進むための「道しるべ」として残すお手伝いを、私たちにお任せいただけませんか。

司法書士である代表が直接・丁寧に対応

いがり円満相続相談室では、代表司法書士である猪狩佳亮が、最初のご相談から遺言書の完成まで、責任をもって一貫して対応いたします。司法書士・行政書士・社会保険労務士の3つの国家資格を持つ専門家が、お客様一人ひとりのお話にじっくりと耳を傾け、大量処理ではない、丁寧で温かみのあるサポートを心がけています。

「円満相続」の実現に向けた遺言内容をご提案

私たちは、単に法律の要件を満たすだけの遺言書を作成するわけではありません。遺留分をはじめとする将来の紛争リスクを検討し、ご家族が納得できる円満な相続の実現に向けた遺言内容をご提案するよう努めています。相続税が心配な場合には提携する税理士と、複雑な法律問題が絡む場合には弁護士と連携し、あらゆるお悩みにワンストップで対応できる体制を整えています。

平日夜間・土日祝も相談可能!初回相談は無料です

お仕事などで日中はお忙しいという方のために、当事務所では平日19時や20時開始の夜間相談や、土日祝日のご相談にも柔軟に対応しております。

「まずは何から始めればいいか分からない」「自分の場合はいくらくらい費用がかかるのか知りたい」そんな些細なことでも構いません。初回のご相談は無料です。あなたの不安な心に「安心」を届け、円満な未来を築くため、私たちが全力でサポートいたします。
事務所所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号
所属司法書士会:神奈川県司法書士会

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韓国籍の方の相続手続き|日本の不動産の名義変更を解説

2025-11-08

【ご相談事例】韓国籍の方の相続、こんなお悩みありませんか?

大切なご家族が亡くなられ、深い悲しみの中、相続の手続きを進めなければならない状況、心中お察しいたします。
ただでさえ大変な相続手続きですが、亡くなった方が韓国籍だった場合、普段聞き慣れない言葉や手続きが出てきて、多くの方が戸惑われます。

  • 亡くなった親が韓国籍。日本にある不動産の名義変更はどうすればいいの?
  • 「韓国の戸籍が必要」と言われたけど、どうやって取得するんだろう…?
  • 集めた書類は全部、日本語に翻訳しないといけないって本当?
  • 手続きが複雑そうだけど、専門家に頼むと費用はどのくらいかかるの?
  • そもそも、日本の法律と韓国の法律、どっちが適用されるの?

もし、このようなお悩みや不安を一つでも抱えていらっしゃるなら、ご安心ください。この記事では、韓国籍の方の相続手続き、特に日本にある不動産の名義変更(相続登記)について、専門家が一つひとつ丁寧に解説していきます。この記事を読めば、手続きの全体像と、あなたが次に何をすべきかが明確になるはずです。

要注意!韓国籍の方の相続が日本人より複雑になる3つの理由

「どうして日本人の相続と比べて、こんなに手続きが複雑なの?」多くの方がそう思われることでしょう。その理由は、大きく分けて3つあります。まずはこの「なぜ大変なのか」を知ることで、落ち着いて準備を進めることができます。

韓国籍の相続手続きの複雑さに頭を悩ませる人

理由1:適用される法律が「韓国法」と「日本法」に分かれる

相続手続きでどの国の法律を使うか、という問題を「準拠法(じゅんきょほう)」といいます。これが最初のポイントです。

日本の法律(法の適用に関する通則法)では、「相続は、被相続人(亡くなった方)の本国法による」と定められています。つまり、亡くなった方が韓国籍の場合、誰が相続人になるか、それぞれの相続分(財産をもらう割合)がどうなるか、といったことは「韓国の民法」に基づいて決まります。

一方で、日本にある不動産の名義を変更する手続き(相続登記)は、その不動産がある日本の法律、つまり「日本の不動産登記法」に従って進めなければなりません。

このように、相続のルールは「韓国法」、不動産登記のルールは「日本法」と、2つの国の法律が関わってくるため、手続きが複雑になるのです。

理由2:相続人の確定に「韓国の戸籍」の収集が必須

相続手続きの第一歩は、「誰が相続人なのか」を公的な書類で証明することです。日本人の場合は、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本を市区町村役場で集めます。

これに対し、韓国籍の方の場合は、韓国の戸籍制度に基づいた書類を集めなければなりません。具体的には、2008年1月1日より前に亡くなった方は「除籍謄本」、それ以降に亡くなった方は、以下の5種類の「家族関係登録事項別証明書」と「除籍謄本」の両方が必要になることが一般的です。

  • 家族関係証明書
  • 基本証明書
  • 婚姻関係証明書
  • 入養関係証明書
  • 親養子入養関係証明書

これらの書類を、亡くなった方の出生まで遡ってすべて集める必要があります。しかし、本籍地(登録基準地)が分からない、何度も転籍しているといったケースでは、調査が非常に難しく、手続きが止まってしまう大きな原因となります。

理由3:取得した韓国の書類はすべて「日本語への翻訳」が必要

苦労して韓国の戸籍関連書類を集めても、そのままでは日本の法務局や金融機関に提出することはできません。なぜなら、書類はすべて韓国語(ハングル)で書かれているからです。

そのため、提出するすべての書類について、日本語への翻訳文を作成する必要があります。翻訳は誰が行ってもよいとされていますが、翻訳者の氏名と住所を記載し、押印しなければなりません。もし翻訳内容に誤りがあれば、手続きは受け付けてもらえず、やり直しになってしまいます。

このように、書類の収集だけでなく、正確な翻訳作業というハードルも越えなければならないのです。

手続きを放置するとどうなる?起こりうる最悪のシナリオ

「手続きが複雑で大変そうだから、少し落ち着いてから…」と、つい後回しにしたくなるお気持ちはよく分かります。しかし、相続手続きを放置してしまうと、時間とともにもっと深刻な問題を引き起こす可能性があります。

  • 不動産を売ったり、担保に入れたりできない
    不動産の名義が亡くなった方のままでは、その不動産を売却することはできません。また、不動産を担保にして金融機関から融資を受けることも不可能です。いざという時に、大切な資産を活用できなくなってしまいます。
  • 相続人が増えて、話し合いがまとまらなくなる
    手続きをしないうちに相続人の誰かが亡くなってしまうと、その方の相続人(例えば、亡くなった方の配偶者や子など)が新たに権利を引き継ぎます(これを「数次相続」といいます)。会ったこともない親戚が相続人に加わるなど、関係者がどんどん増えていき、遺産分割の話し合い(遺産分割協議)が非常に困難になるケースは少なくありません。
  • 手続きがさらに複雑になり、費用も余計にかかる
    数次相続が発生すると、集めなければならない戸籍書類の量も膨大になり、手続きはさらに複雑化します。それに伴い、専門家に依頼する際の費用も高くなってしまう可能性があります。

先延ばしにしても、良いことは一つもありません。問題が小さいうちに、できるだけ早く手続きに着手することが、ご家族全員にとって最も賢明な選択です。

韓国籍の方の相続手続きの基本的な流れと必要書類

それでは、実際に日本の不動産を相続する際の手続きは、どのような流れで進むのでしょうか。ここでは、基本的なステップと、各段階で必要となる主な書類について解説します。手続きの全体像を把握しておきましょう。

Step1:韓国の戸籍等を取得し、相続人を確定する

まず最初に行うのは、亡くなった方の韓国の戸籍(除籍謄本や家族関係登録事項別証明書など)を集め、法律上の相続人が誰なのかを確定させる作業です。

これらの書類は、駐日韓国大使館や総領事館で請求することができます。請求できるのは、本人、配偶者、直系血族(親子や祖父母・孫)とその代理人です。郵送での請求も可能ですが、必要書類の準備や申請書の記入など、慣れない方には少し分かりにくいかもしれません。地域の「民団(在日本大韓民国民団)」を通じて取得を代行してもらうこともできます。

もし亡くなった方が日本に帰化している場合は、日本人としての戸籍謄本だけでなく、帰化する前の韓国の戸籍(除籍謄本)も必要になります。なぜなら、帰化前の韓国籍のときに生まれたお子さんがいないかなどを確認する必要があるからです。このように、ケースごとに集めるべき書類が変わる点も、手続きを難しくする一因です。

韓国の戸籍書類を専門家に渡して手続きを依頼する様子

Step2:相続人全員で遺産分割協議書を作成する

相続人が確定したら、相続人全員で遺産の分け方について話し合います。これを「遺産分割協議」といいます。

話し合いがまとまったら、その内容を証明するために「遺産分割協議書」という書類を作成します。この書類には、相続人全員が署名し、実印を押印します。そして、それぞれの印鑑が本物であることを証明する「印鑑証明書」を添付します。

相続人の中に日本に住民登録がない方(海外在住の方など)がいる場合は、日本の印鑑証明書が取得できないため、代わりに現地の公証人が作成した「サイン証明書」などが必要となり、手続きがさらに煩雑になります。

Step3:法務局へ相続登記(不動産の名義変更)を申請する

必要な書類がすべて揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局に、不動産の名義変更(相続登記)の申請を行います。申請書に、これまで集めてきた韓国の戸籍関連書類とその翻訳文、遺産分割協議書、日本の役所で取得した書類などをすべて添付して提出します。

  • 司法書士の現場から:川崎での実例から見る登記のポイント

以前、当事務所がある川崎市にお住まいだった韓国籍の方の相続登記をお手伝いしたことがあります。川崎にはコリアンタウンもあり、多くの韓国にルーツを持つ方々が暮らしています。そのご依頼も、まさに「日本の不動産をどうすれば…」というご相談から始まりました。

日本人の相続であれば市区町村役場を回って戸籍を集めますが、今回は韓国の戸籍が必要です。駐日韓国大使館へ直接請求する方法もありますが、お急ぎでなければ、地域の「民団(在日本大韓民国民団)」を通じて取得を代行してもらうこともできます。今回はその方法を利用し、戸籍の取得から日本語への翻訳までスムーズに進めることができました。

登記申請の際、一つ注意点があります。外国籍の方のお名前を登記簿に記載する場合、漢字やカタカナ表記のほかに、ローマ字(アルファベット)表記も併記する必要があります。幸い、今回のご相続人様の住民票には漢字氏名とローマ字氏名の両方が記載されていたため、そのまま登記することができました。もし住民票にローマ字表記がない場合は、どのような表記にするかご本人に確認し、私たちが作成することもあります。こうした細やかな実務上の知識と経験が、手続きを円滑に進める上で非常に重要になります。

複雑な手続きは専門家へ。司法書士に依頼するメリットと費用

ここまでお読みいただき、韓国籍の方の相続手続きがいかに専門的で手間のかかるものか、お分かりいただけたかと思います。もちろん、ご自身で手続きを進めることも不可能ではありません。しかし、時間と労力、そして何より精神的な負担を考えると、相続の専門家である司法書士に依頼することも有効な選択肢の一つです。

司法書士に任せれば、面倒な手続きから解放されます

司法書士にご依頼いただく最大のメリットは、煩雑で複雑な手続きのほぼすべてを任せられることです。具体的には、以下のような作業をすべて代行いたします。

  • 韓国の戸籍(除籍謄本・家族関係証明書など)の収集
  • 収集したすべての書類の日本語への翻訳
  • 日本の役所で必要となる書類(住民票、固定資産評価証明書など)の取得
  • 法的に有効な遺産分割協議書の作成サポート
  • 法務局への相続登記申請
  • 金融機関での預貯金の解約・名義変更手続き

平日の昼間に役所や法務局、金融機関へ何度も足を運ぶ必要はありません。慣れない書類の作成に頭を悩ませることもありません。あなたは専門家からの報告を待つだけで、正確かつスムーズに手続きが完了します。大切なご家族を亡くされた悲しみの中で、少しでも心穏やかに過ごすためにも、専門家の力をぜひご活用ください。

韓国籍の方の相続手続きにかかる費用の目安

専門家に依頼するとなると、やはり費用が気になることでしょう。韓国籍の方の相続手続きを司法書士に依頼した場合の費用は、大きく「司法書士報酬」と「実費」の2つに分かれます。

【司法書士報酬の目安】
不動産の名義変更(相続登記)を含む基本的な手続きで、15万円~が一つの目安となります。ただし、相続人の数、不動産の数や評価額、韓国戸籍の収集・翻訳の難易度などによって変動します。

【実費】
実費とは、手続きに必ずかかる費用のことです。主なものに以下の費用があります。

  • 登録免許税:不動産の名義変更時に法務局へ納める税金です。(不動産の固定資産税評価額 × 0.4%)
  • 書類取得費用:韓国の戸籍や日本の住民票などを取得する際の手数料です。
  • 交通費、郵送費など

当事務所では、ご相談いただいた際に、お客様の状況を詳しくお伺いした上で、通常は事前に見積りを提示します。事情により追加の実費や調査費用が発生する場合がありますので、その際は都度ご説明します。内訳も丁寧にご説明し、ご納得いただいてから手続きを進めますので、どうぞご安心ください。

川崎・横浜でのご相談なら、いがり円満相続相談室へ

韓国籍の方の相続手続きは、法律の知識だけでなく、特殊な書類の取り扱いや実務上のノウハウが求められる専門的な分野です。どの専門家に相談するかで、手続きのスムーズさやご自身の負担は大きく変わってきます。

いがり円満相続相談室(いがり綜合事務所)は、神奈川県川崎市・横浜市を中心に、年間多数の相続手続きをサポートする相続専門の司法書士事務所です。

当事務所の強みは、司法書士である代表の猪狩が、最初のご相談から手続き完了まで、責任をもって一貫して対応させていただくことです。流れ作業のように大量の案件を処理するのではなく、お一人おひとりのご事情や不安な気持ちに寄り添い、最も良い解決策をご提案いたします。(代表:司法書士 猪狩 佳亮/神奈川県司法書士会所属/事務所所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号)

また、お仕事でお忙しい方でもご相談しやすいよう、平日夜間(19時、20時開始)や土日祝日のご相談にも柔軟に対応しております。

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相続登記でメールアドレスはなぜ必要?義務化の理由と記載方法を解説

2025-11-06

相続登記でメールアドレスの提供を求められるように。ご相談の現場から

「先生、今度の相続登記で、私のメールアドレスも法務局に伝える必要があるって本当ですか?」

最近、ご相談の場でこのようにお尋ねいただく機会がとても増えました。2025年(令和7年)4月21日から、相続などで不動産の名義変更(所有権移転登記)をする際に、不動産を取得する方のメールアドレスや氏名のフリガナ、生年月日といった情報を登記申請書に記載することになったためです。

このお話をすると、ほとんどの方が「何のために使うの?」「どこからメールが届くの?」「個人情報が漏れたりしない?」といった疑問や不安をお話しになります。巧妙な迷惑メールや詐欺が社会問題になっている昨今、ご自身の個人情報の行方をご心配になるのは、もっともなことだと思います。

そこでこの記事では、相続を専門とする司法書士の視点から、なぜ相続登記でメールアドレスの提供が求められるようになったのか、その背景から具体的な記載方法、気になるリスクまで、皆さまが抱える疑問に一つひとつ丁寧にお答えしていきます。この記事を最後までお読みいただければ、制度の全体像がすっきりと理解でき、安心して手続きに臨めるはずです。

相続登記について司法書士から説明を受ける相談者。専門家が丁寧に解説している。

なぜ?相続登記でメールアドレス提供が必要になった理由

そもそも、なぜ不動産登記という手続きで、個人のメールアドレスまで提供する必要が出てきたのでしょうか。その答えは、近年深刻化している「所有者不明土地問題」を解決するための一連の法改正の中にあります。

所有者不明土地とは、登記簿を見ても現在の所有者がすぐに分からなかったり、分かっても連絡がつかなかったりする土地のことです。相続登記がされないまま放置された結果、所有者がネズミ算式に増えてしまい、公共事業や災害復旧の妨げになるなど、大きな社会問題となっています。

この問題を解消するため、国は法改正に踏み切りました。その大きな柱が、これまで任意だった「相続登記」と「住所変更登記」の義務化です。

背景にある「住所変更登記の義務化」(令和8年4月1日~)

皆さまが不動産をお持ちの場合、引っ越しなどで住所が変わったら、法務局で「住所変更登記」を申請する義務が新たに課せられます。この制度は2026年(令和8年)4月1日からスタートします。

もし、正当な理由なくこの申請を怠った場合、5万円以下の過料(行政罰)が科される可能性があります。これまでは住所変更登記をしないことによる直接的な罰則はありませんでしたが、今後は注意が必要です。

この義務化によって、登記簿上の所有者の住所が常に最新の状態に保たれ、いざという時に所有者と連絡がつきやすくなる、というわけです。

負担軽減策「スマート変更登記」のために情報が必要

しかし、「引っ越しのたびに法務局で手続きするのは大変だ」「うっかり忘れてしまいそう」と感じる方も多いでしょう。そこで、国民の負担を減らすための便利な仕組みとして導入されるのが「スマート変更登記」です。

これは、私たちが市区町村に住民票の異動届(転入届など)を出すと、その情報が法務局に連携され、法務局が職権で(自動的に)住所変更登記を行ってくれるという画期的な制度です。詳しくは法務省のスマート変更登記のご利用方法のページもご覧ください。

ただし、法務局が日本中の同姓同名の方と間違えずに、正確に個人の特定をするためには、氏名と住所だけでは不十分な場合があります。そこで、個人をより正確に特定するための「検索用情報」として、メールアドレスや生年月日、氏名のフリガナの提供が求められることになったのです。

つまり、メールアドレスの提供は、将来の住所変更登記の手間を省き、義務違反による過料のリスクをなくすための、いわば「未来への先行投資」のような位置づけなのです。

参考:人口減少時代における土地政策の推進~所有者不明土地等対策

提供は義務?メールアドレス申出のメリット・デメリット

「理由は分かったけれど、結局メールアドレスの提供は義務なの?」という点が、一番気になるところだと思います。2025年4月21日以降に所有権保存・移転等の登記申請を行う場合、基本的には申請書に氏名のフリガナ・生年月日・メールアドレス等の検索用情報の申出をすることとされています。ただし、メールアドレスについては、提供するかしないか、ご自身の判断に委ねられます。そこで、判断の材料となるように、それぞれのメリット・デメリットを整理してみましょう。

メリット:住所変更登記の手間が省け、過料のリスクを回避

メールアドレスを提供しておくことの最大のメリットは、やはり「スマート変更登記」の仕組みを利用できる点です。

一度情報を提供しておけば、将来あなたが住所を移転した際に、法務局が住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の情報と照合し、「あなたの住所が変わったようですが、職権で登記を変更してよいですか?」といった確認の通知を送ってくれます。この通知は、提供したメールアドレス宛に届きます。

この通知に対して特に異議がなければ、自動的に住所変更登記が完了します。これにより、

  • ご自身で法務局へ申請に行く、または司法書士に依頼する手間と時間が省ける
  • 申請をうっかり忘れて、5万円以下の過料を科されるリスクを回避できる

という、非常に大きなメリットを享受できます。登記が完了した際のお知らせなどもメールで受け取れるため、手続きの進捗が分かりやすいという利便性もあります。

法務局から通知が届くのは、主に登記が完了した時や、住民票の異動を法務局が把握して職権での変更登記を行う前など、重要なタイミングに限られます。むやみに広告メールなどが届くことはありませんので、ご安心ください。

デメリットとリスク:情報管理への不安と通知の見逃し

一方で、デメリットやリスクも考えておく必要があります。

一番は、やはり個人情報の管理に対する心理的な不安でしょう。「国(法務局)にメールアドレスを預けて大丈夫だろうか」というご心配は、当然のことだと思います。ただし、提供された検索用情報は登記簿には記載されず、法務局が別途管理する検索用情報管理ファイルに記録されます(法務省のQ&Aに基づく)。第三者が登記簿を閲覧してもこれらの情報は表示されません。

もう一つの現実的なリスクは、法務局からの重要な通知を見逃してしまう可能性です。日常的に多くのメールを受信していると、法務局からのメールが迷惑メールフォルダに振り分けられたり、他のメールに埋もれてしまったりする恐れがあります。

大量のメールが届いているパソコンの画面。法務局からの重要な通知を見逃すリスクを象徴している。

結論:提供は任意だが、申出する方がメリットは大きい

専門家としての見解を申し上げますと、情報管理への漠然とした不安よりも、住所変更登記の手間と過料のリスクを確実に回避できるメリットの方がはるかに大きいと考えます。

特に、お仕事の都合などで将来的に転居の可能性がある現役世代の方にとっては、一度申し出ておけば将来にわたって安心が得られるため、提供しておくことを強くお勧めします。

一方で、ご高齢の方で今後引っ越しの予定が全くない場合や、どうしても情報を提供することに抵抗がある場合は、無理に申し出る必要はありません。その場合は、万が一住所が変わった際には、ご自身で忘れずに住所変更登記を行うことを覚えておく必要があります。

【実践】相続登記でのメールアドレス等の記載・申出方法

それでは、実際に相続登記の際にメールアドレス等を申し出る方法について、具体的に見ていきましょう。

提供が必要な「検索用情報」とは?

法務局に提供を求められる「検索用情報」は、以下の3つです。

  • ① 氏名のフリガナ
  • ② 生年月日
  • ③ メールアドレス

繰り返しになりますが、これらの情報は登記簿に記録されるものではなく、法務局が内部で利用する非公開の情報です。あくまで、スマート変更登記の際に正確な本人特定を行うために使われます。

申請書への記載方法

ご自身で登記申請書を作成して法務局の窓口に提出する(または郵送する)書面申請の場合、申請書の「申請人」の欄に、住所・氏名に加えてフリガナ、生年月日、メールアドレスを記載します。

【記載例】

令和7年4月21日以降に所有権の移転の登記を書面で申請をする場合の記載例(赤字が令和7年4月21日以降に登記の申請をする場合の追加記載事項)

メールアドレスがない・提供したくない場合の記載方法

メールアドレスをお持ちでない方や、様々な理由で提供を希望しない方もいらっしゃるでしょう。その場合は、提供が任意ですので、無理に記載する必要はありません。

申請書の連絡先メールアドレスの欄に「なし」と記載すれば大丈夫です。この場合、スマート変更登記の仕組みは利用できないため、将来住所が変わった際にはご自身で住所変更登記を行う必要があります。法務局からの重要な通知(職権変更登記の事前通知など)は、登記簿上の住所に郵送で届くことになります。

よくある質問と専門家からのアドバイス

最後に、この新しい制度に関してよくいただくご質問について、Q&A形式でお答えします。

Q. 司法書士に依頼する場合もメールアドレスは必要ですか?

A. はい、司法書士にご依頼いただく場合でも、不動産の新しい所有者となるご本人様のメールアドレスをお伺いすることになります。

私ども司法書士が代理人として登記申請を行いますが、あくまで申し出るのはご依頼者様ご自身の情報です。司法書士のメールアドレスを代わりに登録することはできません。手続きをご依頼いただいた際には、担当の司法書士から確認させていただきますので、ご協力をお願いいたします。

Q. 家族(親子や夫婦)で共有のメールアドレスでも大丈夫?

A. 法務省の見解では、原則として「不動産の所有者本人のみが受信・閲覧できるメールアドレス」の提供が求められています。

ご家族で共有しているメールアドレスの場合、ご本人様以外の方も内容を閲覧できてしまうため、厳密にはこの要件を満たさない可能性があります。実務上、法務局がそのメールアドレスを本当に本人のみが使っているかまで調査する術はありませんが、住所変更に関する非常に重要な通知が届くことになりますので、必ずご本人が日常的に確認し、見逃すことのないメールアドレスを提供することが不可欠です。

Q. 既に登記済みの不動産にも、後から情報を追加できますか?

A. はい、可能です。

この制度が始まる2025年(令和7年)4月21日以降は、既に所有している不動産についても、単独で「検索用情報」だけを法務局に申し出ることができます。相続登記のタイミングだけでなく、いつでも将来の住所変更登記に備えることが可能です。手続きにご不安がある場合は、お気軽に私ども司法書士にご相談ください。

参考:検索用情報の申出に関するQ&A

まとめ:法改正への対応は相続の専門家にご相談を

今回は、相続登記の際にメールアドレスの提供が求められるようになった背景と、その具体的な手続きについて解説しました。

ポイントをまとめますと、

  • メールアドレス等の提供は、住所変更登記の義務化に伴う負担を軽減する「スマート変更登記」のために必要。
  • 提供は義務ではなく任意だが、将来の手間や過料のリスクを考えると提供するメリットの方が大きい
  • 提供された情報は登記簿には載らず、法務局が厳重に管理する。

ということになります。

相続登記は、今回のテーマ以外にも様々な法改正が控えており、手続きは年々複雑になっています。特に不動産の名義変更(相続登記)は、ご自身で進めるには多くの時間と労力がかかります。

もし、手続きに少しでもご不安な点や分からないことがあれば、一人で悩まずに、私たち相続の専門家である司法書士にご相談ください。あなたの状況を丁寧にお伺いし、最も確実で安心できる方法をご提案いたします。提供するメリットがあると考えますが、個別の判断は異なります。当事務所では、初回のご相談は無料でお受けしておりますので、どうぞお気軽にご連絡ください。

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【事務所情報】
事務所名:司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所(いがり円満相続相談室)
代表者:猪狩 佳亮
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号
所属司法書士会:神奈川県司法書士会

相続登記と贈与登記の違いは?税金・手続きを比較し最適な選択を

2025-11-05

相続か生前贈与か?不動産の名義変更でお悩みではありませんか

「親が元気なうちに、実家の名義を自分に変えておいた方がいいのかな?」
「相続と生前贈与、どちらが税金を安く抑えられるんだろう?」
「将来、兄弟と揉めないためには、どうすれば…?」

大切なご家族が所有する不動産。その名義変更を考え始めると、次から次へと疑問や不安が湧いてくるのではないでしょうか。特に「相続」と「生前贈与」は、どちらも不動産の名義を変える手続きですが、その性質は大きく異なります。

相続登記は所有者の死亡を原因とする取得について行う名義変更です。贈与登記は生前の無償譲渡を原因とする名義変更で、死後に効力を生じる遺贈や死因贈与とは区別されます。取得原因により登録免許税や適用される税制が異なるため注意が必要です。

この記事は、単に制度の違いを説明するだけではありません。あなたの状況を整理し、ご家族にとって最適な選択をするためのお手伝いをすることを目的としています。この記事を最後までお読みいただければ、

  • 相続と贈与にかかる税金や費用の違い
  • 手続きの手間や必要書類の違い
  • それぞれのメリット・デメリット

が明確になり、ご自身のケースで今何をすべきか、その道筋が見えてくるはずです。一緒に、円満な財産承継への第一歩を踏み出しましょう。

一目でわかる!相続登記と贈与登記の5つの違い比較表

まずは、相続登記と贈与登記の全体像を掴むために、5つの重要なポイントで比較してみましょう。細かい内容は後ほど詳しく解説しますので、ここでは「こんな違いがあるんだな」とイメージしてみてください。

比較項目相続登記贈与登記
タイミング所有者の死亡後所有者の生前
当事者相続人全員の協力が原則必要あげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)の2者間
主な税金・費用相続税
登録免許税(税率0.4%)
贈与税
登録免許税(税率2.0%)
不動産取得税
手続きの難易度戸籍収集が煩雑で、相続人全員の協力が必要当事者間の合意で進められるが、贈与者の意思能力が重要
将来のトラブルリスク遺産分割協議で揉める可能性がある遺留分を侵害すると、将来トラブルになる可能性がある
相続登記と贈与登記の比較

いかがでしょうか。税金の種類や手続きに関わる人の数が大きく違うことがお分かりいただけたかと思います。では、次からそれぞれの項目をさらに詳しく見ていきましょう。

【費用・税金編】相続登記と贈与登記、どちらが安い?

多くの方が最も気にされるのが、費用や税金の問題です。「生前に名義を変えれば贈与税がかかる」「亡くなった後なら相続税がかかる」というイメージをお持ちの方は多いですが、実は不動産の名義変更ではそれ以外にも重要な税金がかかわってきます。

ここでは、「登録免許税」「不動産取得税」「贈与税・相続税」の3つの観点から、どちらが安くなる傾向にあるのかを比較解説します。

※本記事で解説する税金に関する内容は、2025年11月3日現在の法令等に基づく一般的な情報です。個別の税務相談や税額の計算は税理士法に抵触する可能性があるため、当事務所では行っておりません。正確な税額については、提携する税理士をご紹介することも可能ですので、ご相談ください。

登記で必ずかかる「登録免許税」は相続が5倍安い

不動産の名義変更(登記)を法務局に申請する際には、「登録免許税」という税金を納める必要があります。この税率は、登記の原因によって大きく異なります。

  • 相続登記の場合:不動産の固定資産税評価額 × 0.4%
  • 贈与登記の場合:不動産の固定資産税評価額 × 2.0%

ご覧の通り、税率に5倍もの差があります。これが、一般的に「相続の方が登記費用は安い」と言われる大きな理由です。

例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産で計算してみましょう。

  • 相続登記:2,000万円 × 0.4% = 8万円
  • 贈与登記:2,000万円 × 2.0% = 40万円

この例では、登録免許税だけで32万円もの差が出ることになります。司法書士への報酬とは別に、これだけの費用がかかるという点は、必ず押さえておきたいポイントです。

不動産取得税は原則として相続では非課税だが…

次に、多くの方が見落としがちなのが「不動産取得税」です。これは、不動産を取得した際に、その不動産がある都道府県から課される税金です。

この不動産取得税は、

  • 相続の場合:非課税(かかりません)
  • 贈与の場合:原則として課税対象

という大きな違いがあります。税率は原則として固定資産税評価額の3%(土地・住宅の場合)ですが、様々な軽減措置があるため一概には言えません。しかし、贈与の場合は登録免許税に加えて、この不動産取得税も負担しなければならない可能性がある、ということを覚えておきましょう。

贈与税と相続税、どちらの負担が重い?

最後に、贈与税と相続税そのものを比較してみましょう。どちらの税金にも、一定額までは税金がかからない「基礎控除」という仕組みがあります。

  • 贈与税の基礎控除(暦年課税):年間110万円
  • 相続税の基礎控-除:3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

例えば、相続人が子ども2人の場合、相続税の基礎控除は「3,000万円 + (600万円 × 2人) = 4,200万円」となります。つまり、遺産総額が4,200万円以下であれば、相続税はかかりません。

一方、贈与税は年間110万円を超える部分に課税されます。税率も相続税に比べて高く設定されているため、高額な不動産を一度に贈与すると、多額の税金が発生する可能性があります。

もちろん、「相続時精算課税制度」や「贈与税の配偶者控除」といった特例を使えば、贈与税の負担を大きく軽減できるケースもあります。しかし、基本的な仕組みとしては、相続税の方が控除額が大きく、税負担が軽くなりやすいと言えるでしょう。

参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

【手続き・書類編】相続登記と贈与登記、どちらが大変?

費用や税金だけでなく、手続きの手間も重要な比較ポイントです。「誰の協力が必要か」「どんな書類を集めるのか」という観点から、それぞれの違いを見ていきましょう。

贈与登記:あげる人ともらう人、2人の意思で進められる

贈与登記の大きなメリットは、手続きのシンプルさです。原則として、不動産をあげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)の2者間の合意があれば手続きを進めることができます。ただし、贈与者の判断能力に問題があったり、詐欺・強迫・錯誤などが認められたりした場合には、後に贈与が争われる可能性があるため、専門家による慎重な意思確認が重要です。

主な必要書類は以下の通りです。

  • 贈与契約書
  • 不動産の登記識別情報(または登記済権利証)
  • 贈与者の印鑑証明書
  • 受贈者の住民票
  • 固定資産評価証明書 など

相続登記に比べると、集める書類の範囲は限定的です。ただし、最も重要なのは「贈与者に明確な贈与の意思と判断能力があること」です。この点が曖昧だと、後から贈与の無効を主張されるリスクがあるため、司法書士が必ずご本人様と面談し、意思確認を慎重に行います。

相続登記:相続人全員の協力と多くの戸籍収集が必要

一方、相続登記は手続きが煩雑になる傾向があります。特に遺言書がない場合、遺産分割協議を行いますが、そのためには法定相続人全員の協力が不可欠です。

不動産を誰が相続するかを決めた「遺産分割協議書」には、相続人全員が署名し、実印を押印する必要があります。一人でも連絡が取れなかったり、協力が得られなかったりすると、手続きはストップしてしまいます。

また、必要書類の収集も大変です。

  • 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 不動産を相続する人の住民票
  • 固定資産評価証明書 など

特に、被相続人の戸籍を出生まで遡って集める作業は、本籍地の変更が複数回あると非常に手間と時間がかかります。これが、相続手続きをご自身で進めようとした方が挫折しやすいポイントの一つです。

机の上に置かれた贈与契約書と、複雑に広げられた戸籍謄本の束。贈与登記と相続登記の手続きの煩雑さの違いを対比させている。

司法書士が解説!あなたはどちらを選ぶべき?ケース別診断

ここまで費用と手続きの違いを見てきましたが、「結局、自分の場合はどうなんだろう?」と思われた方も多いでしょう。このセクションでは、実際の相談現場でよくお聞きするお悩みをもとに、どのような選択が考えられるかをケース別に解説します。

司法書士の現場から

「実家の名義を、親が元気なうちに私に変えたいんです」というご相談は、私たちの事務所にも頻繁に寄せられます。多くの方が、不動産の名義はいつでも自由に変更できると考えていらっしゃいますが、実は「相続」や「贈与」といった法律上の原因がなければ名義は変えられません。

私たちはまず、こうお尋ねします。「今すぐに名義を変えなければならない、何か特別なご事情はありますか?」と。なぜなら、多くの場合、税金や費用の面だけを考えれば、相続まで待った方が負担は軽いからです。

この質問に対して、お客様からは様々な答えが返ってきます。

  • 「贈与税がかからない特例があると聞いたから」
  • 「親が亡くなった後、他の兄弟にハンコをもらうのが面倒で…」
  • 「親の物忘れが心配で、認知症になったら家が売れなくなるのでは?」

これらのご心配には、それぞれに適した解決策があります。生前贈与がベストな選択とは限りません。例えば、「兄弟との協力が不安」という方には遺言書が有効なケースが多いですし、「認知症への備え」であれば家族信託という、より柔軟な選択肢もあります。私たちは、お客様のお話の奥にある本当の動機や不安を丁寧に紐解き、税金だけでなく、ご家族の将来的な関係性まで見据えた最適なプランをご提案することを心がけています。

ケース1:費用を少しでも抑えたい、家族仲は良好

【結論】相続まで待つのが合理的

特別な事情がなく、とにかく費用を抑えたい、そして将来の相続についても家族間で円満に話し合える見込みがある、という場合です。このケースでは、慌てて生前贈与をするメリットは少ないでしょう。

前述の通り、相続登記は贈与登記に比べて登録免許税が5分の1で済み、不動産取得税もかかりません。相続税も基礎控除額が大きいため、多くの場合で税負担を抑えることができます。コスト面を最優先するなら、相続発生後に手続きをするのが最も合理的な選択と言えます。

ただし、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、原則として「不動産を相続したことを知った日」から3年以内に登記申請を行う必要があります。この点には注意が必要です。

ケース2:特定の子供に確実に財産を渡したい、将来揉めそう

【結論】生前贈与が有効な選択肢

「事業を継ぐ長男に、工場と土地を確実に渡したい」「介護で世話になった娘に、実家を譲りたい」など、特定の相続人に財産を承継させたい明確な意思があり、他の相続人がそれに反対する可能性がある場合です。

この場合、生前贈与は、特定の受贈者に資産を移すことで、将来的に争いが生じるリスクを低減できる場合があります。

ただし、注意点として「遺留分」の問題があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分です。あまりに偏った贈与をすると、後から他の相続人に遺留分を請求され、金銭での解決が必要になる可能性があります。贈与を行う際は、他の相続人の遺留分にも配慮することが大切です。慎重な検討と専門家へのご相談をお勧めします。

ケース3:親の認知症が心配、将来不動産が塩漬けになるのを防ぎたい

【結論】判断能力があるうちに生前贈与、または「家族信託」を検討

親御様の判断能力の低下が心配な場合、対策は急を要します。もし認知症が進行し、意思能力がないと判断されると、不動産の売却、賃貸、担保設定といった法律行為が一切できなくなります。贈与契約も法律行為ですから、当然できなくなります。これが、いわゆる「資産の塩漬け」状態です。

このリスクを避けるため、判断能力がはっきりしているうちに生前贈与を行うことは有効な対策の一つです。しかし、贈与してしまうと不動産の所有権は完全に子どもに移り、管理や活用も子どもに委ねられます。親御様が生活費などでその不動産を将来活用する可能性も考えるなら、より柔軟な対策が必要です。

そこで検討したいのが家族信託という制度です。家族信託は、所有権を移すことなく、管理・処分する権限だけを信頼できる家族(例えば子)に託す仕組みです。これにより、親御様が認知症になっても、子が親のために不動産を売却したり、活用したりすることが可能になります。贈与に比べて登録免許税や不動産取得税の負担も軽く済むケースが多く、近年注目されている方法です。どちらが良いかは状況によりますので、ぜひ専門家にご相談ください。

年配の母親の手を、その娘が優しく握っているクローズアップ写真。親の将来を心配し、認知症対策を考える家族の温かい絆を表現。

【代替案】費用を抑えつつ希望を叶える「遺言書」という選択

「費用は抑えたい。でも、特定の子供に確実に渡したい」――このようなどちらの願いも叶えたい場合に有効なのが「遺言書」の作成です。

遺言書で「長男に自宅不動産を相続させる」と指定しておけば、原則としてその内容通りに相続手続きが進められます。相続発生後に他の相続人のハンコをもらう必要はなく、遺産分割協議書も不要です。

これにより、

  • 税制面のメリット:相続登記なので登録免許税は0.4%、不動産取得税は非課税。
  • 意思の実現:渡したい相手に財産を承継させられる。
  • 手続きの円滑化:相続人全員の協力がなくても手続きが進められる。

といったメリットを享受できます。生前贈与と並行して、遺言書作成も有力な選択肢として検討することをお勧めします。

まとめ:最適な選択はご家庭の状況次第。まずは専門家にご相談を

ここまで見てきたように、相続登記と贈与登記にはそれぞれメリット・デメリットがあり、「絶対にこちらが良い」と一概に言えるものではありません。

  • 費用を抑えるなら、原則として相続登記が有利。
  • 将来の争いを避け、確実に渡したいなら、生前贈与が有効。
  • 認知症対策なら、生前贈与家族信託を検討。
  • 費用を抑えつつ意思も実現したいなら、遺言書が効果的。

最適な選択は、財産の状況、ご家族の関係性、そして何よりも「なぜ名義を変えたいのか」という動機によって大きく変わってきます。

ご自身で判断に迷われたり、少しでも不安を感じたりしたときは、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。私たち、いがり綜合事務所では、単に手続きを代行するだけでなく、お客様一人ひとりのご家庭の状況やお気持ちを丁寧にヒアリングし、ご家族全員が納得できる円満な財産承継の形を一緒に考えます。ご相談は、司法書士・行政書士・社会保険労務士の猪狩佳亮(神奈川県司法書士会所属)が責任をもって対応いたします。

平日夜間や土日祝日のご相談にも対応しておりますので、お仕事でお忙しい方でも安心です。まずはお気軽にお話をお聞かせください。それが、安心への第一歩です。

相談者の話を親身に聞く、信頼できそうな女性司法書士。専門家への相談のしやすさをイメージさせる。

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借地権の相続手続きと登記|地主への承諾料や相続税評価も解説

2025-11-04

借地権の相続、まず知っておきたい3つの基本

ご親族が亡くなり、その方が所有していた建物が「借地」の上にあると知ったとき、多くの方が「この土地と建物はどうなるのだろう?」「何か特別な手続きが必要なのだろうか?」と不安に思われることでしょう。特に、土地の所有者である「地主」さんとの関係もあり、手続きが複雑に感じられるかもしれません。

しかし、ご安心ください。借地権の相続には明確なルールと手順があります。まずは、手続きを進める上で最も大切な3つの基本ポイントを押さえることから始めましょう。

そもそも「借地権」とは?建物の所有を目的とする権利

借地権とは、「他人の土地を借りて、その上に自分の建物を所有するための権利」を指します。土地の所有権そのものを買うわけではなく、あくまで土地を借りる権利である、という点が大きな特徴です。

土地の所有権は地主さんにありますが、借地権者は地代を支払うことで、その土地を長期間にわたって使用し、自宅を建てて住むことができます。

借地権には、契約更新が原則として可能な「普通借地権」と、契約期間の満了によって権利が消滅する「定期借地権」などいくつかの種類があります。古くからのご契約の多くは、この「普通借地権」に該当します。

借地権は相続財産。地主の許可なく相続できる

「地主さんの土地だから、相続するには許可が必要なのでは?」と心配される方がいらっしゃいますが、その必要はありません。借地権は、預貯金や不動産の所有権と同じく、法律上の「財産」として扱われます。

そのため、亡くなった方(被相続人)が持っていた借地権は、相続人が当然に引き継ぐことができます。これを「包括承継」といいます。

第三者に借地権を売却(譲渡)したり、贈与したりする場合には地主の承諾が必要ですが、相続によって権利を引き継ぐ場合は、地主の承諾は不要です。ただし、遺贈(特定承継)や借地契約の種類・契約条項によっては地主の対応が必要となることがありますのでご注意ください。これは非常に重要なポイントですので、ぜひ覚えておいてください。

借地権自体の登記は不要、ただし建物は相続登記が必須

登記に関しても、少し複雑に感じられるかもしれません。ポイントは「借地権」と「その上の建物」を分けて考えることです。

  • 借地権そのもの:一般には借地権が登記されていないことが多いですが、借地権や地上権が登記されていることもあるため、登記の有無は法務局で確認してください。事案により登記手続きが必要となる場合があります。
  • 借地上の建物:建物は亡くなった方の所有物ですので、相続財産です。そして、この建物の名義を相続人に変更する「相続登記」は法律上の義務となります。

2024年4月1日から相続登記が義務化されており、正当な理由なく手続きを怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。したがって、借地権付き建物を相続した場合は、必ず建物の相続登記を行わなければなりません。

【5ステップで解説】借地権付き建物の相続手続きの流れ

借地権付き建物の相続は、どのような順番で進めていけばよいのでしょうか。ここでは、相続が発生してから手続きが完了するまでの一連の流れを、5つの具体的なステップに分けて解説します。この流れを把握することで、「次に何をすべきか」が明確になり、安心して手続きを進めることができます。

ステップ1:遺言書の確認と相続人の確定

まず最初に行うべきことは、亡くなった方が遺言書を遺していないかを確認することです。遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って相続手続きを進めます。

遺言書がない場合は、法律で定められた相続人(法定相続人)全員で遺産の分け方を話し合う必要があります。そのため、誰が相続人になるのかを正確に確定させなければなりません。

具体的には、亡くなった方の出生から死亡までの一連の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)と、相続人全員の現在の戸籍謄本を取得します。これにより、法的に相続権を持つ人が誰であるかを証明することができます。この戸籍収集は、後の遺産分割協議や相続登記でも必要となる重要な作業です。

ステップ2:遺産分割協議で借地権の承継者を決める

相続人が確定したら、相続人全員で遺産の分け方について話し合いを行います。これを「遺産分割協議」と呼びます。

借地権付き建物は、預貯金のように簡単に分割することができません。複数の相続人で共有名義にすることも可能ではありますが、将来的に売却や建て替えを検討する際に全員の同意が必要になるなど、権利関係が複雑になりがちです。そのため、専門家の視点からは、特定の相続人が単独で相続することが望ましいと考えられます。

話し合いがまとまったら、その内容を証明するために「遺産分割協議書」を作成します。この書類には、誰がどの財産(この場合は借地権と建物)を相続するのかを明確に記載し、相続人全員が署名と実印の押印をします。

ステップ3:地主への挨拶と報告

法律上、相続に地主の承諾は不要ですが、だからといって何も連絡しなくてよいわけではありません。今後も地主さんと良好な関係を維持していくために、挨拶と報告は非常に重要です。

タイミングとしては、遺産分割協議がまとまり、建物を相続する人が正式に決まった後がよいでしょう。新しい借地権者(建物の相続人)が地主さんのもとへ出向き、以下の内容を誠実に伝えることをお勧めします。

  • 前の借地権者が亡くなったこと
  • 自分が建物を相続し、新たな借地権者となったこと
  • 今後の地代の支払い方法について(振込先口座の確認など)

このような丁寧な対応が、将来の更新や建て替えなどの際に円滑なコミュニケーションを築く礎となります。

ステップ4:法務局で建物の相続登記(名義変更)を行う

借地上の建物の名義を、亡くなった方から新しい相続人へ変更する手続きが「相続登記」です。これは、管轄の法務局に申請して行います。

申請には、主に以下のような書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書
  • 建物を相続する人の住民票
  • 建物の固定資産評価証明書

これらの書類を収集・作成し、法務局へ提出します。前述の通り、この手続きは法律で義務化されていますので、必ず行わなければなりません。手続きが複雑で難しいと感じる場合は、相続登記に注力している司法書士にご依頼いただくことで、正確かつスムーズに進めることが可能です。

ステップ5:賃貸借契約書の名義変更(覚書など)

建物の相続登記が完了したら、その証明書である「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得できます。これを持って、改めて地主さんに報告に行くとよいでしょう。

その際、地主さんとの間で交わされていた土地の賃貸借契約書の名義変更について話し合います。一般的には、以下のいずれかの方法が取られます。

  • 元の契約書をベースに、借主の名義を変更した覚書を取り交わす
  • 新たな契約内容で、契約書自体を新たに作成し直す

建物の登記事項証明書を提示することで、自分が法的に正当な建物の所有者(=借地権者)であることを客観的に証明できるため、地主さんとの話し合いもスムーズに進みやすくなります。

司法書士が解説!借地権相続でよくある質問と注意点

司法書士が書類を指差しながら、借地権相続の注意点を解説している様子の写真

借地権の相続は、普段あまり馴染みのない手続きのため、多くの方が様々な疑問や不安を抱えてご相談に来られます。ここでは、特にご質問の多い点について、専門家の視点からQ&A形式でお答えします。

  • 【専門家の現場から】川崎市・横浜市でよくある借地権相続のご相談

当事務所がある川崎市や隣接する横浜市では、古くからの市街地も多く、「実家が実は借地だった」というご相談を頻繁にお受けします。ご相談者様は、「父が亡くなったが、建物は父の名義で土地は地主さんから借りている。相続登記はどうすれば?地主さんにはいつ、何を話せばいいのだろうか?」といった共通の悩みを抱えていらっしゃいます。

このようなご相談に対し、私たちはいつも「まずは落ち着いて、一つずつ手順を踏んでいきましょう」とお伝えしています。最初にやるべきは、借地上の建物の相続登記です。これが法的な義務であり、すべての手続きの基礎となります。借地権自体は登記されていないことがほとんどなので、登記手続きは不要です。

建物の相続登記が完了したら、その登記簿謄本を持って地主さんのもとへご挨拶に行くのが最もスムーズな流れです。これにより、ご自身が正当な権利者であることを明確に示せます。地主さんとの間では、賃貸借契約の名義変更について覚書を交わすことが多いですが、これは当事者間の話し合いで決まります。

多くの方が心配される「名義書換料」は、相続の場合は原則不要です。また、借地権は建物自体の評価額が低くても、土地の権利としての評価額が高くなる傾向があり、相続税の申告が必要になるケースも少なくありません。私たちは相続税に強い税理士とも連携しておりますので、その点も併せてご相談いただけます。

Q1. 地主から名義書換料や承諾料を請求されたら払うべき?

これは最も多く寄せられるご質問の一つです。結論から申し上げますと、法定相続人が相続によって借地権を引き継ぐ場合、原則として地主に対して名義書換料(譲渡承諾料ともいいます)を支払う法的な義務はありません。

相続は、売買や贈与のように当事者の意思で権利を移転させる「特定承継」とは異なり、亡くなった方の権利義務を包括的に引き継ぐ「包括承継」だからです。そのため、地主の承諾が不要であり、承諾の対価である承諾料も発生しないのです。名義書換料については、相続(法定相続・包括承継)の場合に法的な支払い義務は原則としてないと解されます。ただし、実務上は地主から請求される場合や当事者間で協議の結果支払われるケースもあるため、具体的には専門家に相談してください。

ただし、遺言によって法定相続人以外の人(例えば、お孫さんや内縁の妻など)に財産を遺す「遺贈」の場合は、扱いが異なります。遺贈は特定承継とみなされるため、地主の承諾が必要となり、承諾料の支払い義務が生じるのが一般的です。

もし地主さんから相続の際に承諾料を請求された場合は、まずは相続による承継であることを丁寧に説明し、話し合うことが大切です。

Q2. 借地権の相続税評価額はどうやって調べる?

借地権も相続税の課税対象となる財産です。その評価額は、相続税を計算する上で非常に重要になります。

借地権の評価額は、以下の計算式でおおよその目安を算出します。

借地権評価額 = 自用地評価額 × 借地権割合

  • 自用地評価額:その土地を更地(所有権)として評価した価額です。主に国税庁が定める「路線価」を用いて計算します。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算出します。
  • 借地権割合:その土地の価値のうち、借地権が占める割合のことです。これも路線価図にアルファベット(A~G)で記されており、Aなら90%、Cなら70%というように国税庁によって定められています。

路線価や借地権割合は、国税庁のウェブサイトで確認することができます。ただし、これはあくまで計算の概要です。実際の相続税申告における評価や税額の計算は、税理士の専門領域となります。当事務所では、相続税に精通した税理士と連携しておりますので、相続税申告が必要な場合もワンストップでサポートが可能です。

参考:路線価 – 国税庁

Q3. 遺産分割協議書にはどう書けばいい?

遺産分割協議書を作成する際は、後々のトラブルや手続きの遅延を防ぐため、財産を正確に特定して記載することが極めて重要です。

借地権付き建物を記載する場合、「借地上の建物」と「土地の賃借権(借地権)」を分けて、両方を明記する必要があります。建物の情報は、登記事項証明書(登記簿謄本)や固定資産税の納税通知書に記載されている通り、正確に書き写します。

【記載例】

  1. 下記の建物
    所在   川崎市川崎区宮前町〇番地〇
    家屋番号 〇番
    種類   居宅
    構造   木造瓦葺2階建
    床面積  1階 〇〇.〇〇平方メートル
         2階 〇〇.〇〇平方メートル
  2. 上記建物が存する土地(地番:川崎市川崎区宮前町〇番〇)の賃借権

このように、不動産登記の情報に基づいて正確に記載することで、法務局での相続登記や、地主さんとの手続きをスムーズに進めることができます。

Q4. 手続きを放置するとどんなリスクがある?

「手続きが面倒だから」「地主さんと話したくないから」といった理由で相続手続きを放置してしまうと、将来的に様々なリスクが生じる可能性があります。

  1. 過料(罰金)のリスク
    前述の通り、建物の相続登記は義務化されています。正当な理由なく期限内(相続の開始を知った日から3年以内)に登記をしないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
  2. 売却や建て替えができないリスク
    将来、その建物を売却したり、建て替えたりしようと思っても、名義が亡くなった方のままでは手続きを進めることができません。いざという時に、慌てて過去の相続手続きから始めなければならなくなります。
  3. 権利関係が複雑化するリスク
    手続きをしないうちに、相続人が亡くなって次の相続(二次相続)が発生すると、関係者がネズミ算式に増えていきます。そうなると、遺産分割協議をまとめるのが非常に困難になり、最悪の場合、不動産が塩漬け状態になってしまう恐れもあります。

これらのリスクを避けるためにも、相続が発生したら速やかに手続きに着手することが重要です。

借地権の相続手続きは専門家への相談が安心です

ここまで借地権の相続手続きについて解説してきましたが、地主さんとの関係性の構築、複雑な権利関係の整理、法的に不備のない書類の作成など、ご自身ですべてを行うにはご不安な点も多いかと存じます。

特に借地権の相続は、法律の知識だけでなく、地主さんとの円満なコミュニケーションといった実務的な対応も求められます。このような手続きこそ、私たち相続の専門家である司法書士がお力になれる分野です。

いがり円満相続相談室では、川崎市・横浜市を中心に、借地権相続のサポートをさせていただいております。ご依頼いただければ、戸籍の収集から遺産分割協議書の作成、法務局への相続登記申請、そして地主さんへのご報告に向けたアドバイスまで、一貫して司法書士である代表が責任を持って対応いたします。

「何から手をつけていいか分からない」「地主さんにどう話せばいいか不安だ」といったお悩みでも構いません。初回のご相談は、ご来所の場合に限り60分まで無料です。どうぞお一人で抱え込まず、まずはお気軽に私たちにご相談ください。皆様の不安な心に「安心」を届け、円満な相続が実現できるよう、誠心誠意サポートさせていただきます。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所
代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属)
所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号

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