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孤独死した叔父の相続|多数の相続人と連絡を取り預金解約した事例

2025-11-19

突然の孤独死…疎遠な叔父の相続、9名の相続人と連絡を取り預金解約を終えた事例

「役所から連絡があり、疎遠だった叔父が自宅で亡くなっているのが見つかった、と…」

ある日、一本のお電話からご相談は始まりました。お電話口の女性は、突然の訃報に動揺しながらも、ご自身がやらなければならないという責任感から、必死に状況を説明してくださいました。

警察の現場検証後、お部屋に入ると、汚れてしまった現金約40万円と、濡れて判読が難しい通帳が数冊見つかったそうです。通帳の最後の記載などから、預金は2,000万円ほどあるかもしれない、とのことでした。

叔父様には配偶者もお子様もいらっしゃらなかったため、相続人はご自身の親を含む兄弟姉妹、そしてすでに亡くなっている兄弟姉妹の子どもである甥や姪たち。ほとんどの方が北関東や四国、九州にお住まいで、長年顔も合わせていないとのことでした。

「これだけの人数に、私が一人で連絡を取って事情を説明し、手続きを進めるのは精神的にも物理的にも無理だと感じています。先生の方から、専門家として皆様に連絡を取ってもらえないでしょうか…」

その切実な思いを受け、当事務所でお手伝いさせていただくことになりました。

まず、私の方で戸籍謄本を全国の役所から取り寄せ、相続人様が9名であることを正式に確定させました。そして、お一人おひとりに、突然のご連絡で驚かれないよう配慮しながら、事情を説明するお手紙をお送りしました。

幸い、遺産額が明確で多額であったこともあり、相続人の皆様全員から「手続きに協力します」と前向きなお返事をいただくことができました。相談者様が最も心配されていた「連絡が取れない」「協力してもらえない」という壁を、まず乗り越えることができたのです。

見つかった現金については銀行に持ち込みましたが、数枚は汚れがひどく、日本銀行での鑑定が必要となりました。これも当事務所が代理人として銀行に依頼し、無事に交換手続きを終えました。通帳も損傷していましたが、相続手続きは通帳がなくても進められます。残高証明書と取引履歴を取得し、解約・払戻しの手続きを代行しました。

最終的に、遺産の分け方は相続人の皆様で均等に、という形で穏やかに話がまとまりました。当事務所で作成した遺産分割協議書にご署名と実印をいただき、無事に各相続人様の口座へのお振込みまで完了させることができました。

相続人同士が疎遠であればあるほど、かえって感情的なしがらみがなく、法律に則った分け方(法定相続分や均等割)でスムーズに合意できるケースは少なくありません。

「相続人が全国に散らばっていて、どうなることかと本当に不安でした。先生が間に入ってくれたおかげで、自分では到底できなかったことがスムーズに進み、本当に感謝しています」

最後にいただいた相談者様の安堵の表情が、何よりの励みとなった案件です。

孤独死の相続でまず直面する「3つの困難」とは?

突然の孤独死の知らせは、ご遺族にとって精神的なショックが大きいだけでなく、その後の相続手続きにおいても特有の難しさが伴います。一般的な相続と比べて、なぜこれほどまでに大変なのでしょうか。多くの方が直面する「3つの困難」について解説します。もしかしたら、あなた様が今抱えている不安も、この中のどれかに当てはまるかもしれません。

孤独死の現場を思わせる、遺品が残されたままの部屋。相続手続きの困難さを象徴している。

困難1:相続人が誰で、どこにいるか分からない

孤独死の場合、故人との関係が疎遠であることが多く、「相続人が誰なのか」「全部で何人いるのか」「どこに住んでいるのか」すら正確に把握できていないケースがほとんどです。

特に、亡くなった方に配偶者や子どもがいない場合、相続人は親、あるいは兄弟姉妹や甥・姪になります。兄弟姉妹や甥・姪が相続人となるケースでは、関係性が希薄になっていることが多く、連絡先を知らないどころか、お名前すら分からないということも珍しくありません。

法的に相続手続きを進めるには、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて集め、法的な相続人全員を確定させる必要があります。この戸籍収集は、本籍地が各地に点在していることも多く、非常に手間と時間がかかる作業です。この最初のステップでつまずいてしまう方が非常に多いのが実情です。

困難2:財産も借金も、何がどれだけあるか不明

故人と生前の交流が少なかったため、どのような財産を持っていたのか、あるいは借金を抱えていたのか、全く見当がつかないというのも大きな困難です。

預貯金、不動産、株式といったプラスの財産だけでなく、カードローンや消費者金融からの借入、未払いの税金や家賃といったマイナスの財産が存在する可能性も十分にあります。これらの情報は、遺品整理を進める中で見つかる通帳や郵便物、督促状などから一つひとつ探していくしかありません。

もしプラスの財産よりマイナスの財産の方が多い場合は、家庭裁判所で「相続放棄について」の手続きを検討する必要があります。この手続きは原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」という期限があるため、迅速な財産調査が極めて重要になります。

困難3:面識のない相続人への連絡と協力依頼

戸籍調査によって相続人全員が判明したとしても、次なる大きな壁が待っています。それは、「会ったこともない、あるいは何十年も連絡を取っていない親族」に、突然連絡をして相続の話を切り出さなければならないという、精神的なハードルです。

「いきなり電話して、お金の話なんてできるだろうか…」
「怪しまれて、話も聞いてもらえないかもしれない…」
「協力してほしいと頼んだら、かえって関係がこじれないだろうか…」

このような不安を感じるのは、当然のことです。実際に、相続人の中には協力を拒否する方や、非現実的な要求をされる方がいらっしゃる可能性もゼロではありません。当事者同士で直接やり取りをすることで、かえって感情的な対立を生んでしまうリスクもあります。

このような場合、司法書士という国家資格を持つ第三者が、中立的な立場から丁寧な手紙で事情をご説明することで、相手方も冷静に話を聞き入れやすくなります。専門家が介在することが、円満な話し合いへの第一歩となるのです。

司法書士が一つずつ解決へ導きます|孤独死相続の具体的な手続きの流れ

複雑に絡み合った孤独死の相続問題も、一つひとつ手順を踏んで解きほぐしていくことで、解決の道筋が見えることがあります。ここでは、当事務所にご依頼いただいた場合に、どのような流れで手続きを進めていくのかを具体的にご紹介します。

司法書士が戸籍謄本を整理し、複雑な相続関係説明図を作成している様子。専門家による正確な調査を表している。

STEP1:戸籍収集による相続人の確定調査

まず、ご依頼者様から委任状をいただき、当事務所が代理人として、亡くなられた方の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)を全国の市区町村役場から取り寄せます。これにより、法的に相続権を持つ方を一人も漏れなく確定させます。

収集した戸籍情報をもとに、誰が相続人であるかを一覧にした「相続関係説明図」を作成します。この書類によって、相続関係が誰の目にも明らかになり、後の金融機関や法務局での手続きがスムーズに進みます。

ご自身でやろうとすると非常に煩雑なこの作業も、専門家にお任せいただくことで、正確かつスピーディーに完了させることができます。

STEP2:財産・負債の調査と相続放棄の検討

相続人調査と並行して、故人の財産調査を進めます。遺品の中から見つかった通帳やキャッシュカードを手がかりに、各金融機関へ残高証明書の発行を請求します。不動産については、役所で名寄帳や評価証明書を取得して所有状況を確認します。

同時に、信用情報機関への情報開示請求などを通じて、借入金などのマイナスの財産がないかも徹底的に調査します。すべての財産状況が明らかになった段階で、財産目録を作成し、相続人の皆様にご報告します。その内容に基づき、相続手続きを進めるか、あるいは相続放棄を選択するかを、3ヶ月の期限を意識しながら慎重に検討していきます。

STEP3:全相続人への連絡と遺産分割協議の調整

相続人と財産が確定したら、いよいよ相続人の皆様へご連絡します。当事務所がご依頼者様の代理人として、お一人おひとりに宛ててお手紙を作成し、郵送します。お手紙には、以下の内容を分かりやすく記載します。

  • 亡くなられた方のこと、ご自身が相続人であること
  • 判明した相続財産の内容
  • 今後の手続きの流れについてのご説明
  • 遺産の分け方についてのご意向の確認

突然のことで驚かれないよう、また、怪しい手紙だと思われないよう、司法書士の職印を押印した正式な書面としてお送りします。その後、お電話や郵送でのやり取りを通じて、全員が納得できる遺産の分け方について合意形成を目指します。当事務所が間に入ることで、当事者の負担軽減に寄与することがあります。

STEP4:遺産分割協議書の作成と各種名義変更・解約手続き

相続人全員の合意が得られたら、その内容を法的に有効な書面にするため、当事務所が「遺産分割協議書」を作成します。この協議書に、相続人全員が署名し、実印を押印していただくことで、遺産分割協議が正式に成立します。

その後は、完成した遺産分割協議書とその他の必要書類(戸籍謄本、印鑑証明書など)を用いて、金融機関での預貯金の解約・払戻し手続きや、不動産の名義変更(相続登記)を、すべて当事務所が代行します。事例のように汚損した現金や通帳の対応なども、専門家として適切に対処いたします。最終的に、各相続人様の指定口座へのお振込みまで、手続きの完了まで代理で対応いたします。

孤独死の相続でよくあるご質問(Q&A)

孤独死の相続に関して、ご相談者様からよく寄せられるご質問にお答えします。

司法書士事務所で、相談者が専門家と向き合い、相続の悩みを真剣に相談している場面。

Q. 遺品整理や特殊清掃もお願いできますか?

A. はい、対応可能です。
当事務所は司法書士事務所ですので、遺品整理や特殊清掃を直接行うことはできません。しかし、私たちが信頼できる専門業者と連携しておりますので、ワンストップで手配することが可能です。特に、相続人様が遠方にお住まいで現場の立ち会いが難しい場合でも、当事務所が窓口となって業者とやり取りを進めますので、安心してお任せいただけます。

また、これらの費用については、相続財産(故人の預貯金など)の中から清算することも可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。

Q. 相続人である親が高齢(または認知症)なのですが…

A. そのようなケースにも対応しておりますので、ご安心ください。
例えば、「孤独死した兄の相続人は、高齢で施設に入所している母」といったご相談は少なくありません。お母様がご自身で判断したり、書類に署名したりすることが難しい場合、法的な手続きを進めることができません。

このような場合、お母様のために「成年後見人」を選任する手続きを家庭裁判所で行う必要があります。当事務所では、成年後見をご検討中の方へのサポートも行っておりますので、相続手続きと並行して進めることが可能です。ご家族の状況に合わせて最適な方法をご提案いたします。

Q. 司法書士に依頼する費用はどのくらいかかりますか?

A. 当事務所では、分かりやすい料金体系をご用意しております。
相続手続きの代行については、相続財産の額にかかわらない定額の報酬プランをご用意しております。多くのケースでは、手続き完了後に故人の遺産の中から費用を清算いただくことが可能ですので、ご依頼時にまとまったお金をご用意いただく必要はございません。

初回のご相談は無料です。まずはお話をお伺いし、どのような手続きが必要で、費用が総額でいくらになるのかを明確にお見積りとしてご提示いたします。ご納得いただいた上でご依頼いただけますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

一人で抱え込まず、まずはご相談ください

親身に相談に乗る、いがり綜合事務所の女性司法書士。一人で抱え込まず相談してほしいというメッセージを伝えている。

突然の孤独死の知らせを受け、相続人調査、財産調査、面識のない親族への連絡…と、次から次へと押し寄せる問題に、今、あなたは途方に暮れ、大きな不安の中にいらっしゃるかもしれません。

「何から手をつければいいのか分からない」
「自分一人で、本当に最後までやり遂げられるだろうか」

そのように感じるのは、決してあなただけではありません。今回ご紹介した事例のように、どんなに複雑に見える状況でも、専門家が介入し、一つひとつ問題を解きほぐしていくことで、解決に向けた道筋を提案します。

私たちの役目は、ただ手続きを代行するだけではありません。あなたの不安な心に寄り添い、「安心」をお届けし、円満な相続が実現するまで、最後まで伴走することです。

どうか、一人ですべてを抱え込まないでください。当事務所では、初回のご相談は無料で承っております。平日夜間や土日祝日のご相談にも対応しておりますので、まずはお気持ちが少し落ち着いたときに、あなたのお話をお聞かせください。ご連絡を心よりお待ちしております。

無料相談のお問い合わせはこちら

役所の通知で知った親の死…相続放棄は3ヶ月過ぎても可能?

2025-10-28

突然の通知…「もう相続放棄できない?」と不安なあなたへ

ある日、役所から届いた一通の通知書。そこに書かれていたのは、何年も、あるいは何十年も会っていなかった親の死亡の事実…。驚きと戸惑いの中、通知書の日付を見て、さらに血の気が引く思いをされたかもしれません。

「死亡日から、もう3ヶ月以上経ってしまっている…」

「親には借金があったと聞いている。このままでは、自分が借金を背負うことになるのだろうか?」

「相続放棄はもう手遅れなのか…」

突然知らされた親の死と、迫りくるかもしれない借金の恐怖。誰にも相談できず、一人で抱え込み、どうしていいか分からず途方に暮れていらっしゃるのではないでしょうか。そのお気持ち、痛いほどお察しいたします。

でも、どうか、ここで諦めてしまわないでください。ご安心ください。死亡日から3ヶ月を過ぎていても、相続放棄が認められる可能性は十分にあります。

この記事では、相続手続きを専門とする司法書士が、あなたと同じような状況で不安を抱えていた方が、どのようにして無事に相続放棄を認められたのか、そのための正しい知識と具体的な手続きについて、一つひとつ丁寧に解説していきます。

この記事を読み終える頃には、きっとあなたの不安は和らぎ、「自分も解決できるかもしれない」という希望の光が見えてくるはずです。まずは落ち着いて、一緒に解決への道筋を探していきましょう。

相続放棄の「3ヶ月」はいつから数える?重要な起算点の話

多くの方が「相続放棄は、亡くなってから3ヶ月以内にしなければならない」と誤解されています。しかし、これは正確ではありません。法律で定められた「3ヶ月」という期間(これを「熟慮期間」といいます)がいつから始まるのか、そのスタート地点(「起算点」)を正しく理解することが、あなたの状況を打開する最初の、そして最も重要な一歩となります。

原則:「死亡を知った日」からカウントが始まります

民法という法律では、相続放棄の熟慮期間について、次のように定められています。

第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

少し難しい言葉ですが、ポイントは「自己のために相続の開始があったことを知った時」という部分です。これは、簡単に言うと、

  • 被相続人(今回の場合、お父様やお母様)が亡くなったという事実
  • その結果、自分が相続人になったという事実

この両方の事実を知った日から、3ヶ月のカウントダウンがスタートする、ということです。つまり、たとえ亡くなった日から1年が経過していても、その事実を役所からの通知で初めて知ったのであれば、その「知った日」から3ヶ月以内に手続きをすればよい、というのが法律の原則なのです。

役所の通知が「知った日」の証拠になるケース

まさに、あなたの状況がこの原則に当てはまる可能性があります。役所や、場合によっては債権者(お金を貸していた金融機関など)から届いた通知書によって初めて親の死亡を知ったのであれば、その通知書が非常に重要な意味を持ちます。

なぜなら、その通知書は、あなたが「いつ、死亡の事実を知ったか」を客観的に証明してくれる、強力な証拠となるからです。

家庭裁判所に相続放棄を申し立てる際、「なぜ死亡から3ヶ月以上経ってしまったのですか?」と問われます。その時に、「この通知書が届いた日に初めて知りました」と明確に説明できるかどうかが、手続きが認められるかどうかの分かれ目になります。

お手元にある通知書は、絶対に捨てずに大切に保管してください。通知書に記載されている日付や、ご自宅の郵便受けに届いた日をしっかり確認しておきましょう。

役所からの通知書と、日付に丸がつけられたカレンダー。相続放棄の起算日を証明する重要な証拠であることを示しています。

【司法書士の解決事例】死亡後8ヶ月でも相続放棄が認められました

「本当にそんなことが可能なのか…」とまだ半信半疑かもしれません。ここで、当事務所が実際にサポートさせていただいた、あなたとよく似た状況の方の解決事例をご紹介します。

ご相談者様の声:絶望の淵から救われました

過去、当事務所では、ご両親の離婚後、長年疎遠だった親御様が亡くなったことを、亡くなってから数ヶ月以上経過した後に役所からの通知で初めて知り、相続放棄をご希望されるという、類似のご相談を多数お受けしております。

ご相談者様は、もう相続放棄はできないのではないかと、大変心配されていました。

(解決までの流れ)
私たちはまず、ご相談者様の不安な心に寄り添い、法律の正しいルールをご説明しました。

「大丈夫ですよ。相続放棄は『亡くなったことを知ってから』3ヶ月です。役所からの通知書が手元にあるので、『いつ知ったか』をきちんと証明できます。役所の通知などを根拠として事情を丁寧に説明することで、相続放棄が認められる可能性がありますが、最終的には家庭裁判所の個別の判断によります」

このご説明に、ご相談者様は心から安堵されたご様子でした。その後、当事務所で必要な戸籍の収集から家庭裁判所に提出する相続放棄申述書の作成まで、すべて代行させていただきました。ご依頼者様には内容をご確認いただき、署名と捺印をいただいただけです。証拠となる通知書と共に書類を提出したところ、約1ヶ月後には、無事に相続放棄が受理されたという通知書が裁判所から届き、すべての手続きが完了しました。

(当事務所からのコメント)
おひとり様世帯や、ご事情により身寄りのない方が増えている現代社会において、このようなご相談は今後ますます増えていくと感じています。「相続放棄は3ヶ月以内」という情報は広く知られていますが、「いつから3ヶ月なのか?」という最も重要な起算点をご存じない方は少なくありません。正しい知識をお伝えすることで、ご相談者様に安心していただけることが、私たちの何よりの喜びです。

3ヶ月経過後の相続放棄、手続き成功の鍵は「申述書」にあり

死亡日から3ヶ月が経過した後の相続放棄は、家庭裁判所に対して「知った日から3ヶ月以内です」ということを、説得力をもって説明する必要があります。そのために最も重要になるのが、家庭裁判所に提出する「相続放棄申述書」と、事情を詳しく説明するための「上申書(事情説明書)」という書類です。

相続放棄申述書の「相続の開始を知った日」の書き方

「相続放棄申述書」は、相続放棄をするための正式な申請書です。この書類の中に、「相続の開始があったことを知った日」という欄があります。ここに、役所からの通知を受け取った日付を正確に記載することが極めて重要です。

そして、その日付の根拠として、役所からの通知書のコピーを証拠資料として一緒に提出します。これにより、あなたの主張が単なる言い分ではなく、客観的な事実に基づいていることを裁判所に示すことができます。

申述書の書式は、裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。ご自身で手続きを進める場合は、以下のリンク先をご参照ください。
参考:相続の放棄の申述書(成人)

【重要】裁判所へ事情を説明する「上申書」とは?

「上申書(じょうしんしょ)」または「事情説明書」は、申述書だけでは伝えきれない詳細な事情を、裁判所に説明するための補足書類です。3ヶ月を経過しているケースでは、この上申書を任意で添付することが、手続きをスムーズに進めるための大きなポイントになります。

上申書では、「なぜ、これまで親の死亡の事実を知らなかったのか」その経緯を具体的に説明します。例えば、「両親が幼い頃に離婚し、以来一度も連絡を取っていなかった」といった事情を、感情的にならず、客観的な事実として時系列に沿って淡々と記述することが大切です。

上申書に書くべき3つのポイント【文例付き】

ご自身で上申書を作成される場合、以下の3つのポイントを盛り込むようにしましょう。

  1. 被相続人(亡くなった親)との関係が疎遠であった具体的な事情
  2. 死亡の事実を知るに至った経緯(役所の通知など)
  3. 相続財産の状況を全く知らず、関与もしていなかったこと

以下に簡単な文例を記載しますので、ご自身の状況に合わせて作成する際の参考にしてください。

【上申書 文例】

家庭裁判所 御中

上申書

申述人(あなたの氏名)は、被相続人(亡くなった親の氏名)の相続放棄申述に関し、相続の開始を知った経緯について、以下のとおりご説明いたします。

1. 被相続人との関係について
私と被相続人とは、昭和〇〇年に両親が離婚して以来、約〇〇年間にわたり、一切の連絡や交流がございませんでした。そのため、被相続人の生活状況や健康状態などについて、全く関知しておりませんでした。

2. 相続の開始を知った経緯
令和〇年〇月〇日、〇〇市役所△△課より送付された「〇〇に関する通知書」が自宅に届き、その記載内容によってはじめて、被相続人が令和〇年〇月〇日に死亡した事実を知りました。

3. 相続財産について
上記のような事情から、私はこれまで被相続人の財産(預貯金、不動産、負債等)について、その存在や内容を全く知る由もなく、財産の管理や処分に関与した事実も一切ございません。

以上の理由により、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に本申述を行うものであります。何卒、事情ご賢察の上、本申述を受理してくださいますようお願い申し上げます。

離婚した親の相続で注意すべきこと

特に、あなたのように「離婚して疎遠だった親」の相続では、特有の注意点があります。借金の問題だけでなく、法律上の親子関係や他の親族への影響についても、正しく理解しておくことが大切です。

離婚しても親子関係はなくならない=相続人になる

法律上の大原則として、ご両親が離婚しても、あなたと親との法的な親子関係がなくなることはありません。戸籍上も、親子の関係はそのまま残ります。

そのため、たとえ何十年会っていなくても、親権者がどちらであっても、子どもは常に親の「法定相続人」となります。つまり、法律上、財産を引き継ぐ権利と義務がある立場になるのです。「自分は関係ないはず」という思い込みは、残念ながら通用しないことを覚えておきましょう。
より詳しい情報は「法定相続人とは?図を使って分かりやすく解説①」のページでも解説しています。

離婚した両親と子の関係を示す家系図のイラスト。離婚しても法的な親子関係と相続権はなくならないことを象徴しています。

プラスの財産も借金も、すべてが相続の対象

相続とは、預貯金や不動産といった「プラスの財産」だけを引き継ぐものではありません。借金やローン、未払いの税金や家賃といった「マイナスの財産」も、すべて含めて引き継ぐのが原則です。

「プラスの財産だけもらって、借金だけ放棄する」という、都合の良い選択はできません。そのため、もし借金がある可能性が高いのであれば、「相続放棄」という選択を真剣に検討する必要があります。

あなたが相続放棄すると、他の親族に影響が及ぶ可能性も

あなたが相続放棄をすると、法律上「初めから相続人ではなかった」とみなされます。すると、相続する権利と義務は、次の順位の相続人に移ることになります。

例えば、亡くなった親に配偶者や他の子どもがいない場合、次は親の父母(あなたから見て祖父母)が相続人になります。祖父母もすでに亡くなっている場合は、親の兄弟姉妹(あなたから見て叔父・叔母)が相続人になります。

もし、あなたが何も連絡せずに相続放棄をすると、ある日突然、疎遠だった親族のもとに借金の督促状が届いてしまう、という事態になりかねません。後のトラブルを避けるためにも、可能であれば、相続放棄をする旨を次の順位の相続人になる可能性のある方へ伝えておくことが望ましいでしょう。

手続きに不安を感じたら、迷わず専門家へ相談を

ここまで、ご自身で手続きを進めるための知識や方法について解説してきました。しかし、それでもなお、「本当に自分のケースで大丈夫だろうか」「書類の書き方に不備があったらどうしよう」といった不安は尽きないかもしれません。

3ヶ月超の相続放棄は、書類作成に専門的な判断が必要

特に、熟慮期間である3ヶ月を経過した後の相続放棄は、通常のケースに比べて、家庭裁判所による審査が慎重に行われる傾向があります。

裁判所を納得させるためには、なぜ死亡を知らなかったのかという事情を、客観的な証拠に基づいて、法的に説得力のある形で説明する必要があります。書類の書き方一つ、添付する証拠一つの違いで、結果が大きく左右されることもある、非常にデリケートな手続きなのです。

一度、相続放棄が却下されてしまうと、不服を申し立てることはできますが、決定を覆すのは容易ではありません。万が一のリスクを避け、確実な手続きを行うためには、最初から専門家である司法書士に相談することをおすすめします。

司法書士に依頼できること・そのメリット

私たち司法書士にご依頼いただければ、あなたの代理人として、相続放棄に関する煩雑な手続きをすべてお引き受けいたします。

  • 相続放棄に必要な戸籍謄本の収集
  • 相続財産に関する調査のアドバイス
  • 裁判所を納得させる相続放棄申述書・上申書の作成
  • 家庭裁判所への書類提出と、その後のやり取りの代行

これらの手続きを専門家に任せることで、あなたは時間的・精神的な負担から解放されます。特に、慣れない戸籍の収集や、説得力のある書類作成に頭を悩ませる必要がなくなることは、大きなメリットと言えるでしょう。

当事務所は、司法書士だけでなく行政書士・社会保険労務士の資格も有しており、相続に伴うあらゆる役所手続きに精通しています。安心してすべてをお任せください。

まずはお気軽に、あなたの状況をお聞かせください

突然のことで、心も頭も整理がつかない状態だと思います。一人で悩み、インターネットで情報を探し続けるのは、とても辛い作業です。

当事務所では、あなたの不安な心に「安心」を届けることを第一に考えています。どんな些細なことでも構いません。まずは、あなたの今の状況を、私たちに話してみませんか?

当事務所は、お仕事で忙しい方でもご相談しやすいよう、平日夜間や土日祝のご相談にも対応しております。初回のご相談は、代表司法書士である猪狩が直接担当いたします。

「こんなことを聞いてもいいのだろうか」などと遠慮なさる必要は一切ありません。あなたの味方として、最善の解決策を一緒に見つけ出します。

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司法書士・行政書士・社会保険労務士 いがり綜合事務所
代表司法書士:猪狩 佳亮(いがり よしあき)
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住所:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号

忙しい方の相続手続きを丸ごと代行|費用相場と専門家選び

2025-10-16

「忙しくて時間がない…」相続手続き、一人で抱えていませんか?

大切なご家族が亡くなられた深い悲しみの中、心も体も落ち着かない日々をお過ごしのことと存じます。

しかし、現実には待ってくれないのが相続手続きです。戸籍謄本の収集、銀行口座の解約、不動産の名義変更…。考えただけで気が遠くなるような、複雑で多岐にわたる手続きが山積みになっています。

特に、働き盛りで毎日お忙しくされている方にとっては、

  • 「平日に休みを取って役所や銀行に行く時間なんてない…」
  • 「仕事や子育てに追われて、手続きのことを考える余裕がない」
  • 「そもそも、何から手をつけていいのか全く分からない」
  • 「大切な人を亡くしたばかりで、今は何もする気になれない」

このように感じ、一人で途方に暮れてしまうのは、決してあなただけではありません。

そんな時、どうか一人で抱え込まないでください。
面倒で複雑な相続手続きの多くは、専門家が代行できます。ただし、法令上の制限により代行できない手続きもございますので、ご依頼いただく際には業務範囲を明確にご説明いたします。

この記事では、お忙しいあなたが心穏やかな日常を取り戻せるよう、相続手続きを専門家に代行してもらうメリットや費用、そして後悔しないための専門家選びのポイントを、相続の専門家である私たちが分かりやすく解説します。

【解決事例】お忙しい相続人様に代わり、相続手続きを丸ごと代行

当事務所にご相談いただいた、実際の事例をご紹介します。ご相談者様と同じようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。(※プライバシー保護のため、事例は内容を匿名化し、当該依頼者の書面による同意を得た上で掲載しています。)

先日、お母様を亡くされた40代のご長男が相談にいらっしゃいました。相続人はご長男のほか、ごきょうだいの計3名。遺産は複数の銀行預金、有価証券、ご自宅の土地建物という状況でした。ただ、有価証券の一部はどの証券会社に預けているか不明な点がありました。

ご長男は「毎日残業続きで手続きどころではないし、妹たちも仕事と子育てで忙しい。とにかく自分たちがやることは最小限にして、できる限り丸投げしたい」という切実なご要望をお持ちでした。

親御様の相続では、相続人であるお子様たちがお忙しい現役世代であることがほとんどです。お仕事の都合で役所や銀行に行く時間が取れない、ようやく時間ができても窓口で長時間待たされたり、書類の不備でやり直しを求められたり…。時間と手間ばかりかかり、精神的にも疲弊してしまうお気持ちは、私自身も経験があるため痛いほど分かります。

そこで当事務所では、相続手続きのほとんどを代行する「相続フルサポートサービス」をご提案しました。相続人の皆様にしていただくことは、基本的に以下の4点だけです。

  1. 必要な書類の一時預かり(対面での受領・原本確認)を行います。重要書類の保管方法、返却方針、紛失時の対応については契約書に明記し、適切に管理します。
  2. 当事務所が作成した委任状と遺産分割協議書への署名・捺印
  3. 印鑑証明書のご取得(マイナンバーカードがあればコンビニでも可能です)
  4. ご家族での遺産の分け方についてのお話し合い

これら以外の手続きは、すべて当事務所が代行できることをご説明すると、ご長男は大変安心されたご様子でした。手続きの進捗報告は、ご希望に合わせてメールやLINE、チャットワークなど柔軟に対応いたします。

本件で課題となっていた不明な証券会社については、専門家として「登録済加入者情報の開示請求」という手続きを行い、ネット証券会社に株式が預託されていることを突き止め、無事に手続きを進めることができました。幸い、相続人の皆様のご関係は良好で、遺産の分け方もスムーズに決まったため、その後の銀行口座の解約や不動産の相続登記も滞りなく完了しました。

当事務所では、このように相続人の方のお気持ちに寄り添い、ご負担をできる限り最小限にすること。そして、法令の範囲内で代行可能な手続きについては可能な限り対応するというスタンスで、日々の業務に取り組んでいます。なお、法令上の制限や本人確認が必要な手続きなど、代行が制限される場合があることについては、事前に業務範囲として明確にご説明いたします。

相続手続きの代行(丸投げ)で得られる3つのメリット

相続手続きを専門家に「丸投げ」することには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、代表的な3つのメリットをご紹介します。

相続手続きを専門家に代行依頼する前と後での、時間と心の余裕の違いを表現したイメージ

1. 平日に休む必要なし!時間と心の余裕が生まれる

相続手続きの最大のメリットは、時間的・精神的な負担から解放されることです。

相続手続きの多くは、役所や金融機関、法務局の窓口が開いている「平日の日中」に行う必要があります。戸籍謄本を集めるために複数の役所を回ったり、銀行で何時間も待たされたり、慣れない書類作成に頭を悩ませたり…。お仕事をされている方にとって、これだけの時間を確保するのは至難の業です。

専門家に依頼すれば、こうした煩雑な手続きをすべて代行してもらえます。あなたは仕事を休む必要も、貴重な休日を潰す必要もありません。生まれた時間の余裕は、ご自身の心と体を休めたり、故人をゆっくりと偲ぶ時間に充てることができます。大切な方を亡くされた直後の大変な時期だからこそ、専門家を頼ることで得られる心の平穏は、何物にも代えがたい価値があるはずです。

2. ミスなく迅速に完了|複雑な手続きも正確に処理

相続手続きは、専門的な知識が求められる場面が数多くあります。例えば、古い戸籍謄本の解読、法律に則った遺産分割協議書の作成、複雑な不動産の名義変更(相続登記)など、一般の方がご自身で行うと、思わぬミスや見落としが発生しがちです。

もし書類に不備があれば、役所や法務局から何度も修正を求められ、かえって時間がかかってしまうことも少なくありません。

その点、経験豊富な専門家は、手続きの全体像と注意点を熟知しています。どこに、どのような書類を、どの順番で提出すればよいかを正確に把握しているため、結果として、ご自身で進めるよりも早く、そして確実に手続きを終えられる傾向にあります。ただし、法務局や金融機関の対応状況、相続人間の合意形成の進捗により、所要期間は変動する可能性があります。

3. 相続トラブルを予防|中立な専門家が円満な遺産分割を支援

残念ながら、相続をきっかけに親族関係が悪化してしまうケースは少なくありません。財産が絡むと、普段は仲の良い兄弟姉妹でも、感情的な対立が生まれやすくなります。

このような時、法律の専門家が中立的な第三者として間に入ることで、冷静な話し合いを促進する助けとなります。特定の相続人に手続きの負担が偏ることもなく、法律に基づいた公平な視点からアドバイスを行うため、相続人全員が納得感を持って遺産分割協議を進めやすくなります。

専門家に依頼することは、単に手続きを代行してもらうだけでなく、大切なご家族との良好な関係を守り、円満な相続を実現するための有効な手段でもあるのです。

相続手続きは誰に頼む?依頼先ごとの業務範囲と費用相場

「いざ専門家に頼もうと思っても、誰に相談すればいいのか分からない」というのも、よくあるお悩みです。ここでは、相続手続きに関わる主な専門家と、その業務範囲や費用相場を分かりやすく比較解説します。

司法書士、税理士、弁護士など相続手続きの専門家ごとの役割を象徴するアイテムが並べられた机
依頼先主な業務範囲費用相場(目安)特徴
司法書士戸籍収集、財産調査、遺産分割協議書作成、預貯金・不動産の名義変更など、相続手続き全般遺産承継業務:25万円~不動産の名義変更(相続登記)は独占業務。相続手続きの窓口として最適。
税理士相続税の計算・申告、準確定申告遺産総額の0.5%~1.0%相続税の申告が必要な場合は必須の専門家。
行政書士戸籍収集、遺産分割協議書作成、自動車の名義変更など10万円~書類作成が中心。不動産や預貯金の名義変更(登記・解約)の代理は不可。
弁護士相続トラブルの交渉・代理、調停・審判の代理が主な業務となります。訴訟や高度な法的代理を必要とする紛争が生じた場合には、弁護士への依頼が必要となるケースが多くなります。着手金20万円~+成功報酬相続人間で争いがある(紛争)場合に頼れる専門家。
信託銀行遺産整理業務全般最低報酬100万円~費用は高額になる傾向がある。司法書士や税理士への外注費が別途かかる場合も。
相続手続きの依頼先と業務範囲・費用相場の比較

司法書士:不動産がある相続手続きの要

司法書士は、相続手続きにおいて中心的な役割を担う専門家です。その最大の理由は、不動産の名義変更(相続登記)を代理できる唯一の専門家だからです。

さらに、司法書士は「遺産承継業務」として、戸籍収集から財産調査、遺産分割協議書の作成、預貯金の解約・名義変更まで、相続手続きを丸ごと代行することができます。つまり、相続財産に不動産が含まれる場合、司法書士に依頼すれば、手続きの大部分をワンストップで任せることが可能です。

費用相場は、遺産の内容や相続人の数によって異なりますが、手続き一式を代行する「遺産承継業務」で25万円~が一つの目安となります。

税理士:相続税の申告が必要な場合に必須

相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要になります。この相続税の申告は、税理士の独占業務です。

申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められており、期限を過ぎるとペナルティが課される可能性があるため注意が必要です。

費用は遺産総額に応じて変動するのが一般的で、遺産総額の0.5%~1.0%程度が目安とされています。当事務所では、相続税に強い税理士と緊密に連携しており、相続税申告が必要な場合でもスムーズにご紹介し、ワンストップで対応できる体制を整えています。

行政書士・弁護士・信託銀行との違い

その他の選択肢との違いも知っておきましょう。

  • 行政書士:戸籍収集や遺産分割協議書の作成は可能ですが、不動産の名義変更(登記申請)や預貯金の解約手続きを代理することはできません。そのため、別途司法書士に依頼する必要があります。
  • 弁護士:相続人同士で遺産の分け方を巡って争い(紛争)になってしまった場合に、代理人として交渉や調停・裁判を行える唯一の専門家です。トラブルがない段階で依頼すると、費用が割高になる可能性があります。
  • 信託銀行:遺産整理業務として手続き全般を代行してくれますが、司法書士や税理士に比べて費用がかなり高額になる傾向があります。最低報酬が100万円以上に設定されていることが一般的です。

これらのことから、相続トラブルがなく、不動産を含む遺産の手続きをまとめて任せたい場合には、司法書士が最も適した相談先と言えるでしょう。

後悔しないために。相続代行の専門家選びでよくある失敗と注意点

せっかく専門家に依頼したのに、「こんなはずじゃなかった…」と後悔するケースも残念ながら存在します。ここでは、専門家選びでよくある失敗例と、そうならないための注意点をご紹介します。

信頼できる専門家を見つけ、握手を交わす相続人。後悔しない専門家選びの重要性を象徴する写真。

失敗例1:追加料金が重なり、想定外の高額請求に

「相続手続き一式〇万円~」といった格安の広告を見て依頼したところ、後から「戸籍収集費用」「財産調査費用」「出張費」など、次々と追加料金を請求され、最終的に見積もりを大幅に超える金額になってしまった、というケースです。

【注意点】
依頼する前に、必ず総額での見積もりを提示してもらいましょう。そして、「どこまでの業務が料金に含まれていて、何が別料金になるのか」を具体的に確認することが重要です。料金体系について丁寧に説明し、書面で見積もりを出してくれる、誠実な事務所を選びましょう。

失敗例2:業務範囲が狭く、たらい回しにされた

「不動産の名義変更だけはやりますが、銀行の手続きはご自身でお願いします」というように、業務範囲が限定的な事務所に依頼してしまい、結局、他の手続きのために別の専門家を自分で探す羽目になった、という失敗例です。これでは「丸投げ」した意味がありません。

【注意点】
相談の段階で、相続手続き全体をワンストップでサポートしてくれるかを確認しましょう。特に、司法書士が提供する「遺産承継業務」は、手続き全般を包括的に代行するサービスです。また、相続税申告が必要になった場合に備え、税理士など他の専門家との連携体制が整っているかも確認しておくと安心です。

失敗例3:連絡が遅く、質問しづらい雰囲気だった

依頼したはいいものの、専門家からの進捗報告が全くなく、今どうなっているのか分からず不安な日々を過ごした、というケースです。また、「専門用語ばかりで説明が分かりにくい」「先生が忙しそうで、些細なことを質問しづらい」といったコミュニケーション不足も、不満や不信感に繋がります。

【注意点】
初回の無料相談などを活用して、担当してくれる専門家の人柄や話しやすさ、相性を確認することが非常に大切です。あなたの話を親身に聞いてくれるか、分かりやすい言葉で説明してくれるかを見極めましょう。また、連絡手段(電話、メール、LINEなど)が柔軟で、こまめに報告をくれる事務所を選ぶと、手続き完了まで安心して任せることができます。

いがり綜合事務所が「忙しいあなた」の相続手続きをまるごと代行します

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
相続手続きは、お忙しい現役世代の方が一人で乗り越えるには、あまりにも負担が大きいものです。

私たち、司法書士・行政書士・社会保険労務士 いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号/代表司法書士:猪狩 佳亮(神奈川県司法書士会所属))は、神奈川県川崎市・横浜市を中心に、お忙しい皆様の相続手続きをサポートしています。

当事務所の主な特徴は以下のとおりです。

  • 代表司法書士が最後まで一貫対応:最初のご相談から手続き完了まで、代表である私、猪狩が責任をもって直接対応します。途中で担当が変わることはありません。
  • 夜間・土日祝日の相談に対応:お仕事で平日の日中にお時間が取れない方のために、平日19時や20時開始のご相談や、土日祝日のご相談にも柔軟に対応しています。
  • オンラインでの対応も万全:Zoomなどを活用したオンラインでのご相談も可能です。ご連絡もLINEやチャットワークなど、ご希望の方法でスピーディに行います。
  • 相続税にもワンストップで対応:相続税の申告が必要な場合は、当事務所が窓口となり、相続案件に精通した信頼できる税理士と連携して対応いたします。

何より大切にしているのは、あなたの不安な心に「安心」を届けること。そして、煩雑な手続きはすべて私たち専門家にお任せいただき、あなたは故人を偲ぶ大切な時間を取り戻していただくことです。

「何から始めればいいか分からない」「とりあえず話だけでも聞いてみたい」
どんな些細なことでも構いません。一人で抱え込まず、まずは当事務所の初回無料相談(60分程度)をご利用ください。有料サービスへの移行を無理におすすめすることは一切ございませんので、ご安心ください。あなたからのご連絡を、心よりお待ちしております。

まずは無料相談をご利用ください

必要書類がなくても後見制度は使える?専門家が解説

2025-10-16

「通帳がない…」後見制度を諦める前にご相談ください

「遠方の実家に住む母が認知症になってしまって…。施設の担当者から成年後見制度の利用を勧められたのですが、手続きを進められずに困っているんです」

先日、当事務所では、このような切実なご相談をいただきました。

詳しくお話を伺うと、お母様の預金通帳が実家で見当たらず、どうやら行方不明になっているお兄様が持ち出してしまった可能性が高いとのこと。銀行に相談しても「ご本人でないと再発行はできません。認知症であれば口座を凍結することになります」と突き放されてしまい、途方に暮れていらっしゃいました。

「後見の申立てには通帳のコピーや財産目録が必要と聞きましたが、肝心の通帳がないので財産も収支も全く分かりません。もう、後見制度の利用は諦めるしかないのでしょうか…?」

もし、あなたがこれと似た状況で頭を抱えているなら、どうかご安心ください。結論から申し上げますと、財産状況が完全にわからなくても、成年後見制度の申立ては可能です。

通帳が全くないというのは珍しいケースかもしれませんが、長年記帳されておらず入出金が不明な場合など、当事務所では同じように財産状況が不透明な案件での申立てを数多くサポートしてまいりました。

このようなケースでは、私たちが「詳細は後見人として選任された後、正式な権限で調査します」という内容の上申書を作成し、家庭裁判所に事情を説明します。

そもそも成年後見制度は、認知症などで判断能力が不十分になった方の権利と財産を守るための制度です。むしろ、今回のご相談のような状況こそ、後見人がご本人に代わって財産状況をきちんと調査し、明らかにするべきなのです。

ですから、書類が揃わないからといって、決して諦めないでください。

書類不足で手続きを放置する3つの深刻なリスク

「書類が揃うまで待とう」「もう少し様子を見よう」と手続きを先延ばしにすることで、取り返しのつかない事態を招いてしまう可能性があります。ここでは、専門家の視点から、手続きを放置した場合に起こりうる3つの深刻なリスクについて解説します。

凍結された銀行口座を象徴する、鍵と鎖が巻かれた預金通帳

リスク1:突然の口座凍結で生活費や介護費が引き出せない

ご家族が銀行窓口で「母が認知症で…」といった話をした途端、口座が凍結されてしまうケースは少なくありません。これは、銀行がご本人の財産を守るために行う正当な対応です。

しかし、一度凍結されてしまうと、たとえご家族であっても預金の引き出しは一切できなくなります。年金が振り込まれても、それを介護施設の費用や医療費、日々の生活費の支払いに充てることができません。結果として、ご家族が一時的に費用を立て替えなければならなくなり、経済的にも精神的にも大きな負担を強いられることになります。

リスク2:財産の全容が不明なまま散逸・横領される

ご本人の判断能力が低下すると、どこにどのような財産(預貯金、不動産、有価書証券など)があるのか、ご自身でも分からなくなってしまうことがあります。

財産の全容が不明なまま放置していると、知らぬ間に誰かが勝手に預金を引き出したり、不動産を売却してしまったりする危険性があります。特に、悪意のある第三者や、お金に困っている他の親族などが関わっている場合、財産が横領されてしまうリスクは決して低くありません。後からその事実が発覚しても、一度失われた財産を取り戻すことは極めて困難です。

リスク3:詐欺被害や不要な契約で財産が失われる

判断能力が低下した高齢者は、悪質な訪問販売や詐欺のターゲットにされやすいという悲しい現実があります。

次々と不要な高額商品を契約させられたり、巧妙な手口で多額のお金をだまし取られたりする被害が後を絶ちません。成年後見人が選任された場合、成年被後見人がした不利な契約について取り消しや無効主張が可能となる場合があります。ただし、契約の内容や相手方の状況などにより個別の法的検討が必要です。手続きをしなければ、そうした法的な保護を受けることができず、大切な財産が一方的に失われてしまうのです。

結論:書類がなくても後見申立ては可能です

前章で述べたようなリスクを回避するためにも、一刻も早く手続きを進めることが重要です。そして、この記事で最もお伝えしたいことは、たとえ通帳などの書類が手元になくても、成年後見の申立てはできるということです。

「完璧な書類を揃えなければならない」と思い込んでいる方が多くいらっしゃいますが、それは誤解です。家庭裁判所も、申立ての段階ですべての財産を正確に把握することが難しいケースがあることは理解しています。

財産目録は「申立て時点で判明している範囲」で作成する

申立ての際に提出する「財産目録」は、あくまで申立人(ご家族など)がその時点で把握している範囲で作成すれば問題ありません。例えば、

  • 手元にある古い通帳のコピー
  • 固定資産税の納税通知書
  • 年金の振込通知書

といった断片的な情報から、わかる範囲で記載します。もし情報が何もない場合でも、その旨を正直に申告すれば、家庭裁判所は事情を汲んでくれます。完璧な財産目録を作成することよりも、まずは申立てを行い、ご本人を法的な保護下に置くことが最優先されるのです。

詳細な財産調査は後見人の正式な権限で行う

申立てが受理され、家庭裁判所によって成年後見人が選任されると、状況は大きく変わります。成年後見人は、ご本人の「法的な代理人」として、強力な調査権限を持つからです。

後見人はその権限に基づき、各金融機関に預金残高の照会を行ったり、市区町村役場で不動産の評価証明書を取得したりと、正々堂々と財産調査を進めることができます。ご家族では「本人でないと…」と断られてしまった手続きも、後見人であれば、裁判所の審判書謄本などを用いて金融機関等への照会や手続きを進めやすくなります。

このように、個人では調査が困難な状況でも、後見制度を利用すれば、ご本人の財産の全容を正確に把握し、適切に管理していく道が開けます。

相談者の不安な気持ちに寄り添い、解決策を提示する司法書士

後見開始申立ての必要書類と収集のポイント

では、具体的にどのような書類が必要になるのでしょうか。ここでは、家庭裁判所が一般的に求める書類を分類し、収集する際のポイントを専門家の視点から解説します。ただし、事案によっては追加の書類が必要になる場合もあります。

本人や申立人に関する書類

ご本人や申立てをするご家族を特定し、関係性を証明するための基本的な書類です。

  • 戸籍謄本(本人):本籍地の市区町村役場で取得します。
  • 住民票(本人・後見人候補者):住所地の市区町村役場で取得します。
  • 登記されていないことの証明書(本人):成年後見制度をまだ利用していないことを証明する書類です。全国の法務局・地方法務局の本局で取得できます。郵送での請求も可能です。
  • 申立書、申立事情説明書、親族関係図など:裁判所のウェブサイトで書式をダウンロードし、作成します。

これらの書類の多くは、発行から3ヶ月以内といった有効期限が定められているため、計画的に収集する必要があります。

本人の判断能力に関する書類

後見制度を開始する必要があるかどうかを、医学的な見地から証明するための極めて重要な書類です。

  • 医師の診断書:後見申立てで最も重要な書類の一つです。かかりつけ医に作成を依頼するのが一般的ですが、精神科や心療内科、物忘れ外来などの専門医に診察を受けて作成してもらう方がスムーズな場合もあります。診断書の書式は家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードできますので、事前に医師にお渡しするとよいでしょう。
成年後見制度で必要となる医師の診断書について説明を受けている様子

財産・収支に関する書類(わかる範囲で準備)

この記事のテーマである、財産や収支に関する書類です。繰り返しになりますが、あくまで「わかる範囲」「手元にあるもの」で構いません。

  • 財産目録:預貯金、不動産、有価証券、保険などを一覧にしたものです。
  • 収支予定表:年金などの収入と、生活費や医療費などの支出をまとめたものです。
  • 上記を裏付ける資料:
    • 預貯金通帳のコピー、残高証明書
    • 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産評価証明書
    • 保険証券のコピー
    • 年金額がわかる通知書(年金振込通知書など)のコピー

これらの書類が一つも手元にない場合でも、決して諦める必要はありません。その状況を正直に裁判所に伝えることが大切です。

参考:後見開始(家庭裁判所ウェブサイト)——申立書、診断書、財産目録等が主要な必要書類として案内されています。詳細は上記リンク先にてご確認ください。

書類集めや申立ては専門家への依頼が確実な理由

ここまでお読みいただき、「思ったより手続きが複雑そう…」「自分ひとりでできるだろうか」と不安に感じた方もいらっしゃるかもしれません。そのような方のために、私たち司法書士のような専門家がいます。特に、書類が不足しているような難しいケースでは、専門家に依頼するメリットは非常に大きくなります。

当事務所の成年後見をご検討中の方へのページでも詳しくご案内しておりますが、専門家に依頼することで、以下のようなサポートが受けられます。

複雑な書類作成と収集をすべて代行

司法書士にご依頼いただくことで、戸籍謄本や住民票、不動産の登記事項証明書などを職務上の権限に基づき収集することが可能です。また、申立書や財産目録、申立事情説明書といった、作成に専門的な知識を要する書類も、ご本人やご家族から丁寧にお話を伺いながら、正確に作成します。これにより、皆様の煩雑な手続きにかかる時間と労力を大幅に削減できます。

裁判所への提出やその後のやり取りもスムーズ

私たちは、家庭裁判所がどのような点を重視して審理を進めるかを熟知しています。そのため、裁判所が求めるポイントを押さえた申立書類を作成でき、申立て後の裁判所からの問い合わせ(照会)にも的確に対応することが可能です。これにより、手続き全体がスムーズに進み、審理期間の短縮にも繋がる可能性があります。

書類がないケースでも最適な対応策を提案

まさに、この記事で取り上げたような「通帳がない」「財産の詳細が不明」といった困難なケースこそ、専門家の真価が発揮される場面です。私たちは、単に「書類がありません」で終わらせるのではなく、冒頭の事例のように「上申書」を作成して裁判所に事情を丁寧に説明したり、今後の調査計画を具体的に提示したりすることで、申立てが円滑に受理されるよう働きかけます。豊富な経験に基づき、それぞれの状況に応じた最適な対応策をご提案できるのが、当事務所の特徴です。

もし手続きでお困りでしたら、お気軽に後見制度に関するお問い合わせはこちらからご連絡ください。

まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談を

成年後見制度の申立ては、認知症などによって判断能力が不十分になった大切なご家族の権利と財産を守るための、非常に重要な手続きです。「必要書類が揃わないから」という理由で諦めてしまうと、ご本人が様々なリスクに晒され続けることになりかねません。

この記事でお伝えしたように、財産の詳細がわからなくても、手続きを進める方法は必ずあります。一人で抱え込まず、まずはその道のプロに相談してみませんか?

いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号、代表司法書士:猪狩 佳亮、所属:神奈川県司法書士会)は、成年後見に関するご相談を承っております。ご相談者様のお話を親身にお伺いし、不安な心に「安心」を届けられるよう、最善の解決策を一緒に考えさせていただきます。

お仕事でお忙しい方でもご相談いただきやすいよう、平日夜間や土日祝日のご相談にも対応(要事前予約)しております。初回のご相談は無料(60分程度・事務所での面談またはオンライン)ですので、どうぞお気軽にご連絡ください。あなたからのご連絡を、心よりお待ちしております。

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換価分割の手続きと流れ|税金・社会保険料への影響も解説

2025-10-13

相続不動産を売却して分ける「換価分割」とは?

「親が遺した実家を、きょうだいでどうやって公平に分けたらいいんだろう…」
「相続人が多くて、不動産をそのまま分けるのは難しそう…」

ご相続に直面された多くの方が、このような悩みを抱えていらっしゃいます。特に不動産は、物理的に分割するのが難しい財産の代表例です。そんなとき、有効な選択肢の一つとなるのが「換価分割(かんかぶんかつ)」という方法です。

換価分割とは、相続した不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人間で分け合う方法のことです。物理的に分けられない不動産も、現金にすることで1円単位で公平に分割できるため、相続人間のトラブルを防ぎやすいという大きなメリットがあります。

しかし、手続きが少し複雑で、売却によって得た利益には税金がかかります。さらに、あまり知られていませんが、翌年の社会保険料(国民健康保険料など)に影響が出る可能性もあるため、注意が必要です。

この記事では、相続専門の司法書士・行政書士・社会保険労務士が、換価分割の基本的な知識から、具体的な手続きの流れ、税金や社会保険料への影響まで、網羅的に分かりやすく解説します。この記事を読めば、換価分割の全体像を掴み、ご自身の状況に合った最適な選択をするための知識が身につくはずです。どうぞ安心して読み進めてください。

天秤に乗った家の模型と現金が釣り合っており、不動産を現金化して公平に分ける換価分割の概念を象徴している。

他の遺産分割方法との違い(現物分割・代償分割)

換価分割の理解を深めるために、他の遺産分割方法と比較してみましょう。遺産分割には主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3つの方法があります。

分割方法内容メリットデメリット
現物分割遺産をそのままの形で分ける方法(例:長男が土地、次男が預貯金)手続きがシンプル公平に分けるのが難しい。不動産は分けられない
代償分割特定の相続人が遺産を取得する代わりに、他の相続人に「代償金」を支払う方法不動産を売却せずに済む遺産を取得する人に十分な資金力が必要
換価分割遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分ける方法公平に分けられる。納税資金を確保できる売却の手間と税金がかかる。社会保険料に影響する場合がある
遺産分割方法の比較

どの方法が最適かは、遺産の内容や相続人の状況によって異なります。特に「代償分割」は、不動産を相続する方に十分な自己資金があれば有効な方法です。後の章で詳しく解説しますが、この代償分割で支払われる「代償金」は所得とはみなされないため、社会保険料に影響が出ないという特徴があります。

換価分割のメリット・デメリットを専門家が解説

換価分割を進めるべきかどうかを判断するために、そのメリットとデメリットを正しく理解しておくことが大切です。ここでは、専門家の視点からそれぞれのポイントを詳しく解説します。

メリット:公平な分割と納税資金の確保

換価分割の最大のメリットは、何といっても「公平性」です。
不動産を現物で分けようとすると、「兄がもらう土地の方が価値が高いのではないか」といった評価額をめぐるトラブルが起きがちです。しかし、不動産を売却して現金に換えれば、1円単位で明確に分けられるため、相続人間の不公平感をなくし、円満な解決につながりやすくなります。

また、「納税資金の確保」という実用的なメリットも見逃せません。相続税は原則として現金で、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に納付する必要があります。手元に現金が少ない場合でも、不動産を売却して得たお金を相続税の支払いに充てることができます。

デメリット:税金の発生と売却の手間

一方で、換価分割には注意すべき点もあります。
最も大きなデメリットは、「税金の発生」です。不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税」が課税されます。相続税とは別に発生する税金なので、事前にどのくらいの税金がかかるのかを把握しておく必要があります。

さらに、「売却の手間と時間」も考慮しなければなりません。信頼できる不動産会社を探し、査定を依頼し、売買契約を結び、引き渡しを行う…という一連のプロセスには、数ヶ月単位の時間がかかるのが一般的です。また、必ずしも希望する価格や時期に売れるとは限らないという不確実性も伴います。

換価分割の全手順を5ステップで徹底ガイド

「換価分割が良さそうだけど、具体的に何から始めればいいの?」という方のために、ここからは手続きの全体像を5つのステップに分けて解説します。

換価分割の5つのステップ(遺産分割協議、協議書作成、相続登記、売却、確定申告)をアイコンで示した分かりやすいフローチャート。

ステップ1:相続人全員で換価分割に合意する(遺産分割協議)

すべての手続きの出発点は、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)です。遺産をどのように分けるかは、相続人全員の合意がなければ決定できません。一人でも「売りたくない」という方がいれば、換価分割を進めることはできません。

まずは、なぜ換価分割が最善と考えるのかを丁寧に説明し、全員の納得を得ることが重要です。もし話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判といった手続きに移行することになります。

ステップ2:遺産分割協議書を作成する【書き方と注意点】

相続人全員の合意が得られたら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。この書類は、後の相続登記や税務申告で必要となる非常に重要なものです。

換価分割の場合、遺産分割協議書には以下の2点を必ず明記してください。

  • 不動産を売却して、その代金を分割する「換価分割」を行う旨
  • 売却代金の具体的な「分配割合」(例:長男Aが2分の1、次男Bが2分の1)

これらの記載がないと、税務署から「代表者がいったん不動産をすべて相続し、他の相続人にお金を贈与した」とみなされ、思わぬ贈与税が課されるリスクがあります。専門家が作成する際は、必ずこれらの点を盛り込みます。

【記載例】
相続人全員は、下記不動産を換価分割することに合意し、相続人〇〇〇〇(代表者名)がこれを取得する。不動産の売却代金から諸費用を控除した残額を、下記の割合で分配する。
・相続人 〇〇 〇〇:2分の1
・相続人 △△ △△:2分の1

ステップ3:不動産の名義変更(相続登記)を行う

遺産分割協議書が完成したら、次はその内容に基づいて法務局で不動産の名義変更(相続登記)の手続きを行います。亡くなった方の名義のままでは不動産を売却できないため、この相続登記は必須です。

登記の方法には、主に2つのパターンがあります。

  1. 相続人全員の共有名義にする(共同登記)
    法定相続分や遺産分割協議で決めた持分割合で、全員の名義に登記する方法です。公平性は高いですが、売却手続き(売買契約など)の際に相続人全員の実印や印鑑証明書が必要となり、手続きが煩雑になるデメリットがあります。
  2. 代表者一人の名義にする(単独登記)
    遺産分割協議で代表者を一人決め、その方の名義に登記する方法です。売却手続きは代表者一人が窓口となって進められるため、他の相続人の手間が大幅に省け、スムーズに手続きが進みます。実務上はこちらの方法が選択されることが多いです。

ステップ4&5:不動産売却と代金分配・確定申告

相続登記が完了し、不動産の名義が相続人に移ったら、いよいよ不動産会社に仲介を依頼して売却活動を開始します。買主が見つかり、売買契約、決済・引き渡しが完了すると、売却代金が支払われます。

受け取った売却代金から、不動産会社の仲介手数料や登記費用などの諸経費を差し引いた金額を、遺産分割協議書で定めた分配割合に従って、各相続人に分配します。

そして最後に、不動産を売却して利益が出た相続人は、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に、各自で確定申告を行い、譲渡所得税を納税する必要があります。これで換価分割の一連の手続きは完了です。

【税金】換価分割で注意すべき譲渡所得税と贈与税のリスク

換価分割を検討する上で、税金の問題は避けられません。特に「譲渡所得税」と、手続きを誤った場合の「贈与税」のリスクについて、正しく理解しておきましょう。

売却益にかかる「譲渡所得税」の計算方法と税率

譲渡所得税は、不動産を売却して得た「利益」に対してかかる税金です。計算式は以下の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 ー (取得費 + 譲渡費用)

  • 取得費:その不動産を被相続人(亡くなった方)が購入したときの代金や手数料など。
  • 譲渡費用:売却にかかった仲介手数料や登記費用など。

相続した不動産の場合、注意が必要なのは「取得費」です。被相続人がいつ、いくらでその不動産を買ったかが分かる売買契約書などがあれば、その金額を使えます。しかし、古くからの土地などで取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することができます。

計算された譲渡所得に、所有期間に応じた税率をかけて税額が決まります。

所有期間(被相続人の所有期間を引き継ぐ)区分税率(所得税+住民税+復興特別所得税)
5年以下短期譲渡所得39.63%
5年超長期譲渡所得20.315%

なお、被相続人が住んでいた家を売却する場合など、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例(空き家の3,000万円特別控除)を使える可能性があります。この特例が使えるかどうかで納税額は大きく変わりますので、専門家への確認をおすすめします。

手続きを間違うと発生する「贈与税」のリスクとは?

換価分割で最も避けたいのが、予期せぬ「贈与税」の発生です。
特に、手続きをスムーズにするために代表者一人の名義(単独登記)で売却した場合に、このリスクが生じます。

もし、遺産分割協議書に「換価分割を目的とすること」や「代金の分配割合」が明記されていないと、税務署は次のように解釈する可能性があります。

「この不動産は、いったん代表者が単独で相続した。その後、売却代金を他の相続人に渡したのは、代表者から他の相続人への『贈与』である。」

このように判断されると、お金を受け取った他の相続人に高額な贈与税が課されてしまうのです。これを防ぐためにも、「換価分割であること」を明確に記載した遺産分割協議書の作成が、法務・税務の両面から極めて重要になります。

参考:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)

【社会保険料】換価分割が国民健康保険料に与える影響と注意点

税金と並んで、多くの方が見落としがちなのが「社会保険料」への影響です。特に、自営業の方やご高齢の方が相続人にいる場合、換価分割によって翌年の社会保険料が大幅に上がってしまう可能性があります。

国民健康保険証と電卓を見ながら、保険料の上昇を心配する高齢男性。換価分割による社会保険料への影響を示唆している。

なぜ換価分割で社会保険料が上がるのか?その仕組みを解説

国民健康保険料や後期高齢者医療保険料(75歳以上の方)は、前年1年間の「総所得金額等」を基に計算されます。一般に、不動産を売却して得た譲渡所得もこの算定基礎に含まれるため、保険料に影響を与えることがあります。ただし、実際の保険料への反映方法は、お住まいの自治体の計算方法や、適用される税制特例(例:3,000万円の特別控除など)、確定申告の結果によって異なりますので、事前に自治体窓口や税理士・社会保険労務士にご確認ください。

会社員と自営業者・高齢者で影響は異なる

この影響は、相続人が加入している公的医療保険の種類によって異なります。

  • 会社員の方(協会けんぽ・組合健保など)
    会社員の健康保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)を基に決まります。そのため、不動産の譲渡所得がいくらあっても、原則として翌年の健康保険料には影響しません。
  • 自営業者・フリーランスの方(国民健康保険)
    前年の所得に直接連動して保険料が決まるため、影響を大きく受けます。自治体によっては年間の上限額が設定されていますが、上限に達するほどの負担増になるケースも少なくありません。
  • 75歳以上の方(後期高齢者医療保険)
    国民健康保険と同様に、前年の所得に応じて保険料が決まるため、影響を大きく受けます。また、所得が増えることで、病院での窓口負担割合が1割から2割に上がる可能性もあります。

対策は?代償分割なら社会保険料への影響を回避できる

もし、相続人の中に自営業の方やご高齢の方がいて、社会保険料の負担増が懸念される場合、対策はあるのでしょうか。

その一つの解決策が、冒頭でご紹介した「代償分割」です。
例えば、相続人の一人が不動産を相続し、その代わりに他の相続人へ自己資金から「代償金」を支払う方法です。この代償金は、適切に作成された遺産分割協議書に基づいている場合、通常は受け取った方の所得とはみなされず、社会保険料の算定基礎に含まれないことが多いです。ただし、遺産分割の内容や書面の記載、税務署の判断によっては取り扱いが変わる可能性もあるため、事前に税理士や社会保険労務士へご相談ください。

不動産を相続する方に十分な資金力が必要という条件はありますが、税金だけでなく社会保険料という「隠れたコスト」まで含めて総合的に判断すると、代償分割が有利になるケースもあります。どの分割方法が最適か、専門家と相談しながら慎重に検討することが大切です。

【事例】遠方の相続人がいても換価分割をスムーズに進めたケース

ここで、当事務所で実際にサポートさせていただいた事例を、個人が特定されないよう内容を一部変更・要約してご紹介します。

ご相談に来られたのは、亡くなったおじ様の相続人である甥の方でした。被相続人は生涯独身で、法定相続人はきょうだい4人と、先に亡くなっていたきょうだいの子供である甥姪5人の、合計9名にものぼる複雑な状況でした。

【Challenge(直面していた課題)】
主な遺産は都内のマンションでしたが、相続人9名のうち半数以上が遠方にお住まいでした。「誰も住む予定がないので、マンションを売却して公平に分けたいが、全員が手続きのたびに集まるのは現実的に不可能。どうすればスムーズに進められるか」というのが、ご相談者様の最大の悩みでした。

【Solution/Action(取った行動と戦略)】
私たちは、このようなケースで最もスムーズな方法として、「代表相続人を一人決めて単独名義に登記し、その方が売却手続きを進める」という換価分割をご提案しました。相続人全員の共有名義にしてしまうと、売買契約や引き渡しの際に全員の立ち会いが必要となり、遠方の方がいる場合は非常に困難になるからです。

当事務所で遺産分割協議書を作成し、遠方にお住まいの相続人様には郵送で書類のやり取りを行いました。皆様にご署名と実印の押印をいただき、無事に代表者様への単独名義での相続登記を完了させました。

【Result(得られた結果)】
その後、代表者様が窓口となり、不動産会社とのやり取りや売買契約を進め、スムーズに売却が完了。売却代金は、遺産分割協議書で定めた割合通りに、各相続人様の口座へ送金されました。遠方にお住まいの方々も、一度もこちらへお越しいただくことなく、すべての手続きを終えることができました。

【Expert Insight(専門家の考察)】
いわゆる「おひとり様」の相続では、ご自宅が空き家となり、売却ニーズが高まる傾向にあります。今回のケースのように相続人が多数かつ遠方にいる場合、代表相続人の単独名義で換価分割を進める方法は非常に有効です。なお、売却で利益が出たため、提携する税理士をご紹介し、相続人全員の譲渡所得税の申告も無事に完了しました。法務・税務の両面からサポートすることで、複雑な案件も円満に解決へと導くことができました。

換価分割のお悩みは、相続の専門家にご相談ください

ここまでご覧いただいたように、換価分割は遺産である不動産を公平に分けるための有効な手段です。しかし、その手続きは遺産分割協議から相続登記、売却、そして税金の申告、さらには社会保険料への影響まで、非常に多岐にわたる専門知識が求められます。

特に、税務上のリスクを回避するための遺産分割協議書の作成や、ご自身の状況に合わせた最適な分割方法の選択は、専門家のサポートなしでは難しいのが実情です。

「自分たちの場合は、どの方法が一番いいんだろう?」
「手続きが複雑で、何から手をつけていいか分からない…」

もし少しでもご不安を感じたら、どうか一人で悩まずに、私たち相続の専門家にご相談ください。司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所(所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号/代表:司法書士 猪狩 佳亮/所属:神奈川県司法書士会)は、3つの資格を活かし、不動産の名義変更から、税金、社会保険料の問題まで、ワンストップで皆様をサポートいたします。

私たちは、皆様のお心に寄り添い、誠実な対応で円満な相続の実現に向けて全力で業務に取り組みます。まずはお気軽にお話をお聞かせください。

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当事務所から相続人である従姉弟(いとこ)へお手紙を送り、遺産分割協議を取りまとめた事例

2022-05-27

ご相談内容

1 特別養護老人ホームに入所されていたおば様が亡くなったという姪のY様から、相続手続きで困っている、というご相談。

2 1番困っているのは、亡くなったおば様は6人きょうだいだったが全員が既に亡くなっていて、相続人はYさん含めた甥姪5人だと思うが、付き合いがないのでよく分からない、とのこと。

3 また、Y様のきょうだい2人以外の甥姪(Y様のいとこ)とは疎遠なので、あまり連絡を取りたくない。

4 銀行に行って相談してみたが戸籍謄本などが必要と言われ、途方に暮れている。

5 遺産は現金、預貯金のみで、不動産などは保有していない。

当事務所からのご提案

1 銀行の相続手続きには戸籍謄本が必要だが、甥姪のみが法定相続人となるケースでは、かなり複雑かつ大量の戸籍を取集しなければならない可能性が高いことをご説明した。

2 当事務所にご依頼いただければ、その戸籍収集をすべて代行することをお伝えした。

3 疎遠ないとこへは当事務所から手紙で連絡代行することが可能であるが、
 ①相続放棄を迫るなど交渉することはできないこと
 ②あくまで司法書士は中立的な立場で遺産分割協議を取り持つこと

 など当事務所のサービス内容をご説明した。

4 遺産分割協議がまとまれば、遺産分割協議書の作成や銀行の相続手続きもすべて代行でき、Y様を含めた相続人の方には待っていていただければ相続手続きが完了することをご説明した。

解決までの流れ

1 当事務所の説明にご納得いただいた上で、戸籍収集、連絡の代行や遺産分割協議の調整役についてご依頼いただいた。

2 結果的に、25通の戸籍除籍謄本を取得し相続人を確定させた(当初お聞きしていた通り、法定相続人は甥姪の5人のみであった)。

3 当事務所からお手紙でY様のいとこに連絡を取ったところ、法定相続分どおりの遺産分割に応じると電話で当事務所に連絡が入った。おば様のお世話を近くでしていたY様としては納得できない部分もあるとのことだが、最終的にはご理解を示された。

4 そこで、当事務所にて遺産分割協議書を作成した。遠方の相続人もいらっしゃるので、当事務所から郵送にて遺産分割協議書をお送りし、相続人全員から署名捺印をいただいた。

5 銀行預金の相続手続きについてもご依頼をいただき、当事務所にて銀行をまわり、解約手続きを行った。

6 その後、あらかじめお聞きしていた各相続人の預金口座にご送金し、業務完了となった。

ポイント

 この事例のように、特にきょうだいや甥姪が相続人となる場合、その関係性によっては連絡を取るのに躊躇してしまったり、話がまとまるか不安になるというお気持ちがあると思います。ご自身で連絡を取ってみても、当事者同士だとどうしても感情的になり、かえってトラブルになってしまうケースも少なくありません。
 このような場合、当事務所の遺産承継業務サービス(相続フルサポートサービス)をご利用いただければ、面倒な戸籍収集から相続人間の調整、遺産分割協議書の作成、銀行の相続手続きまで、すべてお任せいただけます。お客様にお願いするのは、委任状などに署名捺印いただくことと、遺産の分け方についてご検討いただくことくらいです。

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