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「久しぶり」が言いにくい…疎遠な兄弟との相続、最初の連絡どうしますか?
ご家族が亡くなられ、深い悲しみの中、相続手続きを進めなければならない状況、心よりお察し申し上げます。ただでさえ大変な時期に、もし相続人の中に長年連絡を取っていないご兄弟がいるとしたら、その心労は計り知れないものでしょう。
「久しぶりの連絡が、お金の話なんて…」
「昔の感情的なしこりが再燃して、話し合いにならないかもしれない」
「一体、何から、どうやって切り出せばいいんだろう…」
携帯電話の連絡先をじっと見つめながら、そんな重圧と不安で一歩を踏み出せずにいるのではないでしょうか。遺産分割は、法律の手続きであると同時に、家族の感情が複雑に絡み合うデリケートな問題です。特に、疎遠だったご兄弟との間では、この二つの問題が絡み合い、思わぬ方向へ進んでしまうことも少なくありません。
当事者だけで進めようとすると、かえって関係がこじれてしまうケースも見てきました。しかし、どうかご安心ください。感情的な対立を避け、円満に手続きを進めるための方法はあります。この記事では、司法書士が「中立な第三者」として関わることで、なぜ疎遠な兄弟との遺産分割がスムーズに進むのか、その理由と具体的な役割を分かりやすく解説していきます。相続手続きの全体像については、相続手続き代行の費用相場と専門家選びで体系的に解説しています。
自分で連絡する前に知ってほしい、よくある失敗パターン
「専門家に頼むと大ごとになりそうだから、まずは自分で連絡してみよう」そう考えるお気持ちは、とてもよく分かります。しかし、その一歩が、かえって問題を複雑にしてしまう可能性があることを知っておいていただきたいのです。法律の問題と感情の問題が混ざり合うと、本来不要な対立を生んでしまうことがあります。ここでは、専門家を介さずに進めた場合の典型的な失敗パターンを2つご紹介します。

「どうせ多く欲しいんだろ?」疑心暗鬼から始まる感情の応酬
何年も会っていなかった兄弟からの突然の連絡。その用件が「遺産分割」というお金の話だったとしたら、相手が警戒心を抱くのはある意味、自然なことかもしれません。
「実家に住んでいたお前が、財産を隠しているんじゃないか?」
「どうせ自分に都合のいいように話を進めたいだけだろう?」
こんな風に、些細な言葉尻を捉えられ、疑心暗鬼に陥ってしまうケースは後を絶ちません。一度生まれてしまった不信感は、話し合いのすべてを「自分を出し抜こうとしているのではないか」という色眼鏡で見させてしまいます。そうなると、もはや冷静な話し合いは望めません。お互いの発言がすべて疑わしく聞こえ、感情的な言葉の応酬に発展してしまうのです。こうした状況では、遺産の開示を巡るトラブルにもつながりかねません。
過去の不満が噴出…遺産分割が「昔の清算」の場になる危険性
遺産分割の話し合いは、時に、封印されていた過去の家族間の不満が噴出する「清算の場」と化してしまう危険をはらんでいます。
「親の介護は、全部私に押し付けて知らん顔だったくせに」
「兄さんだけ大学に行かせてもらって、私は我慢したのに」
遺産分割そのものとは直接関係のない、積年の不満や不公平感が持ち出され、問題がどんどん複雑化していくのです。こうなると、話し合いの焦点は「遺産をどう分けるか」ではなく、「過去の恨みを晴らすこと」にすり替わってしまいます。法律的な論点と感情的な論点がごちゃ混ぜになり、解決の糸口はますます見えなくなってしまいます。特に相続不動産の評価額など、専門的な知識が必要な場面では、感情的な対立がさらに深まる傾向があります。
司法書士の「中立な手紙」が、こじれた感情の糸を解きほぐす
では、どうすれば感情的な対立を避け、冷静に話し合いを進めることができるのでしょうか。その答えが、司法書士という専門家を「中立な調整役」として活用することです。特に、司法書士から送られる一通の手紙が、こじれかけた関係の糸を解きほぐすきっかけになることが少なくありません。
なぜなら、その手紙にはあなたの「感情」や「要望」ではなく、専門家が調査した「客観的な事実」と「法律のルール」だけが淡々と記載されているからです。これを受け取った相手も、感情的にならずに済み、「まずは事実を確認しよう」と冷静なスタートラインに立つことができるのです。専門家という権威性と、どちらの味方でもない公平性が、相手の警戒心を解き、話し合いのテーブルについてもらうための、穏やかで、しかし強力な一手となります。

「代理人」ではなく「調整役」。弁護士との決定的な違い
「専門家というと弁護士を思い浮かべるけど、何が違うの?」という疑問をお持ちになるかもしれません。ここが非常に重要なポイントです。
弁護士は、特定の依頼者の利益を最大化するための「代理人」として活動します。そのため、相手方からはどうしても「敵」と見なされがちで、通知が届けば「争う姿勢なのだな」と身構えさせてしまう可能性があります。
一方、司法書士(認定司法書士を含む)は、遺産分割などの相続「紛争」について、裁判手続の代理人として交渉・訴訟対応を行うことはできません。あくまで全相続人のための手続きを円滑に進める「中立な調整役」として関わります。私たちの役割は、誰か一人を勝たせることではなく、法律に則って、すべての相続人が納得できる形で手続きを完了させることです。この「戦わない」スタンスこそが、不要な対立を避け、穏便に解決したいと願うあなたの状況に、最も適しているのです。成年後見人など他の分野でも、専門家ごとの立場の違いを理解することは重要です。
客観的な財産目録と法律の基準が冷静な対話の土台を作る
司法書士が介入すると、まず最初に行うのは客観的な事実の確定です。具体的には、戸籍謄本を収集して法的に誰が相続人であるかを確定させ、不動産や預貯金、有価証券などを調査して、誰が見ても明らかな「財産目録」を作成します。
この「事実」をベースに、法律で定められた「法定相続分」という公平な基準を示します。これにより、話し合いの土台から感情や憶測が入り込む余地がなくなります。「隠している財産があるんじゃないか」「言った、言わない」といった不毛な争いを未然に防ぎ、すべての相続人が同じ情報、同じルールの上で、建設的な協議を始めることができるのです。このプロセスに不可欠な出生から死亡までの戸籍収集といった煩雑な作業も、もちろん代行いたします。
【解決事例】司法書士の介入で、10年以上疎遠だった兄との遺産分割が円満に
ここで、実際に当事務所がお手伝いした事例をご紹介します。このお話は、司法書士の「中立性」が、いかに有効に機能するかを物語っています。
ご相談に来られたAさん。お父様が亡くなり、相続人はAさんとお兄様の二人だけでした。しかし、そのお兄様とは10年以上も疎遠で、最後に顔を合わせたのはお母様の葬儀の時だったと言います。
遺産は、Aさんが現在もお住まいの実家の土地建物と、預貯金が約600万円。Aさんは、このまま実家に住み続けたいと願い、不動産はご自身が相続し、預貯金をお兄様と分ける形で解決したいと考えていました。
しかし、最大の壁は「どうやって連絡するか」でした。「突然、相続の話を切り出したら、絶対に揉める気がします…」と、Aさんは深く悩まれていました。
その不安は的中します。Aさんが勇気を出してお兄様に電話をすると、「お前が勝手に住み続けてるんだろう」「どうせ全部自分のものにしたいんじゃないのか」と、いきなり感情的な言葉をぶつけられてしまいました。
ここで、私たちはAさんから正式にご依頼を受け、介入することになりました。まず行ったのは、以下の情報を整理し、お兄様へお手紙を送ることでした。
- 戸籍に基づく相続関係の整理
- 調査に基づく客観的な財産目録の作成
- 法律に基づく法定相続分の説明
- Aさんのご意向を踏まえた、具体的な分割案のご提示
すると、お兄様の態度に少しずつ変化が見られました。後から伺った話では、「専門家が間に入っている」という事実そのものが、Aさんに対する疑念を和らげる効果があったそうです。「弟が勝手なことを言っているのではなく、法律の専門家が公平な立場で整理してくれているんだ」と感じていただけたのです。
最終的に、私たちの提案をベースに話し合いが進み、不動産はAさんが取得し、その代わりに相応の代償金をお兄様にお支払いするという形で円満に合意。無事に遺産分割協議書を作成し、不動産の名義変更登記まで完了することができました。このケースは、多数の相続人がいる複雑な案件にも通じる、第三者の介在価値を示す好例と言えるでしょう。
もし話し合いがこじれたら…放置した場合の最悪のシナリオ
疎遠なご兄弟との話し合いを先延ばしにしたい気持ちは分かりますが、問題を放置してしまうと、さらに深刻な事態を招く可能性があります。
遺産分割協議がまとまらないと、預貯金は原則として口座が凍結され、通常の解約手続きは進めにくくなります(ただし、遺産分割前でも一定額について払戻しを受けられる制度等があります)。また、不動産の名義変更(相続登記)も、原則として遺産分割の内容が確定しないと進めにくくなります。つまり、大切な財産が「塩漬け」の状態になってしまうのです。
特に注意が必要なのが、2024年4月1日から義務化された相続登記です。正当な理由なく相続登記を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。たとえ連絡が取れない相続人がいるなどの事情で期限内の相続登記が難しい場合でも、状況に応じて「相続人申告登記」などの制度を活用して、申請義務への対応を進めることができます。
当事者間での解決が困難になれば、最終的には家庭裁判所での遺産分割調停や審判といった法的な手続きに進まざるを得なくなります。そうなれば、解決までにさらに多くの時間と費用、そして何より精神的な負担を強いられることになってしまいます。そうなる前に、専門家に相談することが、結果的に最も負担の少ない解決策となるのです。
円満な遺産分割は、専門家への相談という「最初の一歩」から
疎遠だったご兄弟との相続は、法律と感情が絡み合う、非常にデリケートで複雑な問題です。その重荷を、どうかお一人で抱え込まないでください。
私たち司法書士は、法律の専門家であると同時に、ご家族が「争続」に陥ることなく、円満な解決を迎えられるようサポートする「調整役」でもあります。相続問題で曇ってしまった皆様の心を、少しでも晴れやかにするお手伝いをしたい。それが私たちの心からの願いです。
まずは、あなたの不安や悩んでいることを、そのままお聞かせください。何から手をつけていいか分からない、という段階でも全く問題ありません。その最初の一歩を踏み出すことが、円満な解決に近づくための有力な道筋の一つになります。当事務所では、具体的な費用についても丁寧にご説明し、安心してご相談いただける体制を整えています。
まずはお気軽にお問い合わせいただき、あなたの状況をお聞かせいただければ幸いです。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
