相続に必要な「出生から死亡までの戸籍」とは?集め方を解説

「出生から死亡までの戸籍」なぜ相続で必要?

ご家族が亡くなられ、相続手続きを進めようとすると、金融機関や法務局など、あらゆる窓口で「被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍をすべて揃えてください」と言われます。多くの方が、この最初のステップで戸惑い、大きな負担を感じられるのではないでしょうか。

なぜ、ただ亡くなったことを証明するだけでなく、「出生まで遡った」連続した戸籍が必要なのでしょうか。それは、「誰が法的に正式な相続人なのか」を客観的に、そして完全に証明するためです。相続手続きとは、亡くなった方の財産を次の世代へ引き継ぐ、非常に重要な手続きです。万が一にも、相続人の一人でも見落としがあれば、後から遺産分割協議が無効になるなど、深刻なトラブルに発展しかねません。だからこそ、公的な証明書である戸籍を過去に遡ってすべて確認し、「相続人は、ここに記載されている方々で全員です」と確定させる作業が不可欠なのです。

このテーマの全体像については、相続手続きの内容(遺産整理業務)で体系的に解説しています。

除籍謄本だけでは不十分な理由

相続に関するご相談の場で、多くの方が最初に持ってこられるのが、亡くなった事実が記載された「除籍謄本」です。確かにそこには被相続人の出生日も書かれているため、「これ一枚で十分ではないか?」と思われるお気持ちはよく分かります。

プロの視点:相続相談の現場から

相続の無料相談にいらした方に「お手元に戸籍があればお持ちください」とご案内すると、半数近くの方が、亡くなった日と出生日が記載された最新のコンピューター戸籍(除籍謄本)のみをお持ちになります。「これで全部じゃないの?」という疑問は、相続を初めて経験される方にとってごく自然なものです。しかし、私たちが「いいえ、実は昔の縦書きの戸籍も必要になるんですよ」とお伝えすると、多くの方が驚かれます。この「見えない戸籍」の存在こそが、相続手続きの最初の関門なのです。

なぜ最新の戸籍だけでは足りないのでしょうか。それは、戸籍が法律改正やコンピュータ化などで作り替えられる(改製される)際に、改製の時点ですでに婚姻・死亡などで除籍されている人は、改製後の戸籍に記載されないことがあるからです。そのため、改製前の戸籍(改製原戸籍)を確認して初めて、過去に戸籍に記載されていた子(認知した子を含む)などの存在が分かることがあります。最新の戸籍だけを見て相続人を判断してしまうと、重大な見落としに繋がる恐れがあります。

相続で現在の戸籍だけでは不十分な理由を示す図解。現在の戸籍には見えない「前妻の子」などが、過去の改製原戸籍を遡ることで判明する様子が描かれている。

戸籍から判明する隠れた相続人の存在

「うちの家族に限って、そんなことはない」と思われるかもしれません。しかし、ご自身が知らないだけで、被相続人に前妻との間の子がいたり、認知した子がいたりする可能性はゼロではありません。戸籍を出生まで丹念に遡ることで、こうしたご家族も知らなかった相続関係が判明することがあります。

もし、一人でも相続人を除外して遺産分割協議を進めてしまうと、その協議は法的に無効となります。後から「自分も相続人だ」と主張する方が現れた場合、遺産分割協議をすべてやり直さなければならず、時間も費用も余計にかかってしまいます。最悪の場合、家族間の争いに発展することさえあるのです。

「出生から死亡までの戸籍」を集める作業は、単なる事務手続きではありません。それは、後のトラブルを未然に防ぎ、すべての相続人が納得して円満に手続きを終えるための、最も重要な調査なのです。

「改製原戸籍」とは?戸籍の種類を理解する

相続の戸籍集めで、多くの方がつまずくのが「改製原戸籍(かいせいげんこせき)」という言葉です。なんだか難しそうに聞こえますが、仕組みはシンプルです。

戸籍のルールを定めた「戸籍法」は、時代に合わせて何度も改正されてきました。そして、法改正によって戸籍の様式が新しく作り替えられることがあります。この「作り替えられる前の、古い様式の戸籍」のことを「改製原戸籍」と呼びます。「原戸籍(はらこせき)」とも呼ばれます。

相続手続きでは、この改製原戸籍を含め、主に3種類の戸籍を読み解いていく必要があります。それぞれの役割を理解することが、戸籍集めの第一歩です。

種類主な役割特徴
戸籍謄本(現在戸籍)現在の家族構成を証明するコンピュータ化された横書きのものが主流。現在の配偶者や未婚の子などが記載されている。
改製原戸籍謄本法改正前の古い情報を証明する手書き・縦書きのものが多い。改製によって現在の戸籍には記載されなくなった情報(過去の婚姻・離婚、子の情報など)が残っている。
除籍謄本戸籍に誰もいなくなったことを証明する死亡や結婚などで全員が戸籍から抜けると、その戸籍は閉鎖され「除籍」となる。戸籍を遡る際の重要な手がかりになる。
戸籍の種類と役割

なお、これらの戸籍謄本には、原則として戸籍謄本等の有効期限はありませんが、手続きによっては「発行後3ヶ月以内」などの指定がある場合もあるため注意が必要です。

(参考:法務省 総務省(情報公開・個人情報保護審査会)答申書

戸籍謄本(現在戸籍):今の家族構成を示すもの

一般的に「戸籍謄本」と言われて私たちが取得するのは、この「現在戸籍」のことです。これは文字通り「最新版」の戸籍であり、現在の家族関係(配偶者の有無、未婚の子など)を証明する基本の書類となります。しかし、先述の通り、これだけでは過去に戸籍から抜けた方の情報までは分かりません。相続手続きにおいては、あくまでスタート地点の書類と捉えましょう。

改製原戸籍:法改正前の古い様式の戸籍

相続人調査の鍵を握るのが、この「改製原戸籍」です。特に重要なのが、昭和32年の法改正と、平成6年頃から各市町村で順次進められたコンピュータ化による改製です。

戸籍が作り替えられる際、例えば「改製前に結婚してすでに戸籍を抜けている子の情報」などは、新しい戸籍には書き写されないのが原則です。そのため、最新の戸籍だけではその子の存在が分からなくなってしまうのです。改製原戸籍を取得して初めて、その子の存在が明らかになるケースは少なくありません。

特にコンピュータ化される前のものは手書き・縦書きで、旧字体で書かれていることも多く、慣れていないと読み解くのが非常に難しい場合があります。

除籍謄本:全員が抜けて閉鎖された戸籍

「除籍」とは、結婚、死亡、転籍などによって、その戸籍に記載されていた全員がいなくなり、戸籍が閉鎖されることを指します。その証明書が「除籍謄本」です。

例えば、ご夫婦とお子さん一人の戸籍があったとします。お子さんが結婚して新しい戸籍を作り、ご夫婦が相次いで亡くなられると、元の戸籍には誰もいなくなります。この時点で戸籍は「除籍」となります。被相続人が亡くなった場合、その方が筆頭者であった最終の戸籍は、多くの場合この除籍謄本になります。ここから一つ前の本籍地はどこか、いつ転籍してきたか、といった情報を読み取り、さらに過去の戸籍へと遡っていくのです。

戸籍の集め方:広域交付制度の活用と注意点

「出生から死亡までの戸籍を集めるには、昔の本籍地があった役所すべてに連絡しないといけないの?」
かつては、その通りでした。しかし、2024年3月1日から始まった「戸籍の広域交付制度」により、この手続きは大きく変わりました。

この制度を使えば、本籍地が全国各地に点在していても、最寄りの市区町村役場の窓口でまとめて戸籍を請求できるようになったのです。これは、相続手続きを行う方にとって画期的な変化です。ただし、この便利な制度にはいくつかの重要なルールと「使えないケース」があるため、注意が必要です。

戸籍の広域交付制度の仕組みを図解。従来は各地の役所に個別に郵送請求が必要だったが、新制度では最寄りの窓口でまとめて取得できるようになったことが示されている。

【子が相続人】の場合:広域交付で手続きが格段に楽に

被相続人のお子さん(または孫などの直系卑属)が相続人となる場合、この広域交付制度のメリットを最大限に活用できます。請求者自身(子)の戸籍はもちろん、亡くなった親や祖父母の戸籍も、最寄りの役所の窓口一か所でまとめて取得することが可能です。

従来のように、古い戸籍を解読して次の本籍地を探し出し、その都度、遠方の役所に郵送で請求するという手間が大幅に減ります(ただし、広域交付の対象外となる戸籍・除籍がある場合などは、別途請求が必要になることがあります)。時間も費用も大幅に節約できるため、子が相続人となるケースでは、まずこの制度を利用してご自身で挑戦してみることをお勧めします。

【兄弟姉妹が相続人】の場合:広域交付が使えない壁

ここが最も重要な注意点です。亡くなった方の兄弟姉妹(または甥・姪)が相続人になる場合、この広域交付制度を利用して「被相続人の出生から死亡までの戸籍」を請求することはできません。

広域交付で請求できるのは、請求者本人、配偶者、そして直系の親族(父母、祖父母、子、孫など)の戸籍に限られているためです。兄弟姉妹は「傍系」にあたるため、対象外となります。

この場合、従来通り、一つひとつ本籍地を遡り、各市区町村の役場へ個別に郵送などで請求していく必要があります。さらに、兄弟姉妹相続では、相続人を確定するために「被相続人の両親の出生から死亡までの戸籍」も必要になるなど、集めるべき戸籍の範囲が格段に広がり、手続きの難易度は一気に上がります。こうした複雑なケースでは、専門家への依頼が有力な選択肢となるでしょう。

より具体的な手順については、戸籍謄本の広域交付制度の使い方をご覧ください。

共通の注意点:郵送・代理人請求は不可

広域交付制度には、もう一つ重要な制限があります。それは、郵送での請求や、委任状を持った代理人による請求は認められていないという点です。

必ず、請求できる本人(子など直系親族)が、マイナンバーカードや運転免許証などの顔写真付き身分証明書を持参して、開庁日・開庁時間に役所の窓口へ出向く必要があります。

「平日は仕事で役所に行く時間がない」「役所が遠い」といった方にとっては、この制度を利用すること自体が難しいかもしれません。このような場合も、専門家に依頼することを検討する一つのきっかけになるでしょう。

戸籍集め、自分でやる?専門家に任せる?判断のポイント

ここまで解説してきた内容を踏まえ、ご自身の状況に合わせて、戸籍集めを自分で行うか、私たちのような専門家に任せるかを判断するためのポイントを整理します。

プロの視点:実務での使い分け

実務の現場では、相続人の状況によって対応を分けています。被相続人のお子さんが相続人となるケースでは、広域交付制度を使えばご自身でスムーズに集められることが多いため、まずはご自身での取得をお勧めしています。一方で、兄弟姉妹が相続人になるケースは手続きが非常に煩雑になるため、多くの方が戸籍の取得代行をご依頼になります。ご自身の状況に合わせて、最適な方法を選ぶことが大切です。

まずは自分で挑戦をおすすめするケース

以下の条件に当てはまる方は、まずは広域交付制度を利用して、ご自身で戸籍集めに挑戦してみることをお勧めします。

  • 被相続人の子(または孫)が相続人である
  • 被相続人があまり転籍を繰り返していない
  • 平日の日中に、役所の窓口へ行く時間が確保できる

最大のメリットは、専門家への依頼費用を抑えられる点です。もし途中で「思ったより複雑で難しい」「これで全部揃っているか不安だ」と感じた場合は、その時点から専門家に相談することも可能ですので、安心してチャレンジしてみてください。

司法書士に戸籍収集について相談し、安心した表情を浮かべる女性。専門家に依頼することで相続手続きの不安が解消されるイメージ。

専門家への依頼を検討すべき困難事例

一方で、以下のようなケースでは、ご自身で進めると多大な時間と労力がかかるだけでなく、戸籍の収集漏れのリスクも高まります。初めから専門家へ依頼することを強くお勧めします。

  • 兄弟姉妹や甥・姪が相続人である
    (広域交付が使えず、集める戸籍の範囲も広いため)
  • 代襲相続や数次相続が発生している
    (亡くなった相続人の、さらに出生から死亡までの戸籍が必要になるなど、関係が複雑化するため)
  • 相続人が多い、または面識のない相続人がいる
  • 手書きの古い戸籍が読めず、内容を正確に把握できない
  • 戸籍が戦争や災害で焼失している可能性がある
    (「除籍等が滅失した旨の証明書」を取り付けるなど、特別な対応が必要なため)

特に、代襲相続などが絡むと、誰が相続人になるのかを判断するだけでも専門的な知識が求められます。正確性とスピード、そして何よりご自身の精神的な負担を軽減するためにも、ぜひ専門家の力を頼ってください。

まとめ:戸籍集めは相続手続きの第一歩

「出生から死亡までの戸籍」の収集は、預貯金の解約、不動産の名義変更(相続登記)、相続税の申告など、その後に続くすべての相続手続きの土台となる、非常に重要な第一歩です。

2024年から始まった広域交付制度により、多くの方にとって戸籍集めのハードルは下がりました。しかし、相続人の構成によっては、依然として時間と知識を要する複雑な作業であることに変わりはありません。

集めた戸籍を元に、法定相続情報一覧図を作成すれば、その後の手続きがスムーズに進みます。

もし、戸籍集めの途中でつまずいてしまった場合や、「これで本当に全部なのだろうか」と不安になった場合、そして相続手続き全体に漠然とした不安をお持ちの場合は、決して一人で抱え込まないでください。私たち専門家は、その不安を解消し、円満な相続を実現するためのお手伝いをします。どうぞお気軽にご相談ください。

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