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「使ってないのに毎月8,000円…」親のスマホ、なぜ解約できない?
「施設に入った親の通帳を整理していたら、使っていないはずのスマホ代が毎月8,000円も引き落とされている…」「慌てて携帯ショップに解約しに行ったら、『ご本人様でないと手続きできません』の一点張りで、何もさせてもらえなかった」
もしあなたが今、このような状況で頭を抱えているなら、それは決してあなただけではありません。多くの方が同じ壁にぶつかり、途方に暮れています。使ってもいないサービスのために、大切なお金が毎月失われていくのを見るのは、本当につらいことですよね。
しかし、なぜ家族であるあなたが、親のスマホを代わりに解約してあげることができないのでしょうか。その背景には、実はご本人を守るための大切な法律のルールがあるのです。
「ご本人様でないと…」携帯ショップで解約を断られる根本的な理由
携帯ショップで解約を断られてしまう根本的な理由は、「契約」という行為が、法律上、契約した本人(契約当事者)にしか変更・解約する権利がないという大原則に基づいているからです。
これは、例えば「親が子どものスマホを勝手に解約できない」のと同じ理屈です。もし誰でも他人の契約を自由に解約できてしまったら、社会は大混乱に陥ってしまいますよね。携帯電話会社の対応は、意地悪で言っているのではなく、この契約の大原則と、契約者である親御さんの権利を守るために、マニュアルに沿って丁寧に対応している結果なのです。
認知症になると「契約」そのものが難しくなるという現実
では、認知症が進行したご本人がショップに行けば解約できるのでしょうか。残念ながら、事はそう簡単ではありません。
認知症などによって物事を判断する能力(法律用語で「意思能力」といいます)が低下すると、契約内容を正しく理解し、「解約します」という有効な意思表示をすることが難しくなります。仮に本人が窓口にいたとしても、担当者からの説明を理解し、自分の意思で署名することができなければ、手続きは進められないのです。
この「契約当事者しか解約できない」原則と、「本人の意思能力の低下」という二つの壁が、問題を複雑にしています。この状況を法的に乗り越え、ご本人に代わって正当な権利を持つ代理人として手続きを行うために必要となるのが、「成年後見制度」なのです。この問題の核心は、あなたに法的な「代理権」があるかどうか、という点にあります。
このテーマの全体像については、成年後見をご検討中の方へで体系的に解説しています。
【司法書士の実例】成年後見人ならスマホ解約はこう進める
「成年後見人が必要と言われても、具体的に何をしてくれるのかイメージが湧かない…」そう思われる方も多いでしょう。ここで、私たちが実際に成年後見人として関わらせていただいた、あるケースをご紹介します。
ご相談者は、認知症で施設に入所されたAさん(80代)の娘さんでした。
「母の通帳を見たら、毎月8,000円ほど携帯電話代が引き落とされているんです。でも、母はもうスマホを使えませんし、端末がどこにあるかすら分かりません…」
娘さんの切実なご相談を受け、当事務所の司法書士が家庭裁判所に申立てを行い、Aさんの成年後見人に就任しました。後見人としての最初の仕事は、Aさんの財産を正確に把握し、守ることです。まさに、この「無駄な支出」を止めることから始まります。
早速、ご本人であるAさんにお会いし、「もう使っていない携帯電話のお金が毎月かかっているようなので、解約してもよろしいですか?」と丁寧にご説明し、ご本人の意思を確認(この場合は「よく分からないけど、お願いします」というご様子でした)した上で、手続きを開始しました。

ステップ1:財産調査で「無駄な引き落とし」をリストアップ
まず、成年後見人としてAさんの通帳の履歴を数年分さかのぼり、毎月どのような引き落としがあるかを徹底的に調査します。すると、携帯電話代以外にも、さまざまな「使われていない可能性のある支出」が見つかりました。
- 携帯電話料金:月額8,000円
- インターネット回線:誰も住んでいないご自宅の固定回線料
- 有料放送:WOWOW、動画配信サービスなど
- クレジットカード:利用していないのに発生する年会費
- ガス契約:空き家になっているご自宅の基本料金
このように、一つひとつは少額でも、積み重なると大きな金額になります。私たちはこうした支出をリストアップし、ご本人の生活に本当に必要かどうかを慎重に検討します。(ちなみに、電気・水道は万が一の利用可能性を考え、維持することにしました。)こうした地道な財産調査は、財産を守るための第一歩です。
ステップ2:後見人の権限で各社と交渉・解約手続き
リストアップが完了したら、いよいよ解約手続きです。娘さんが門前払いされた携帯ショップにも、私たちが成年後見人として向かいます。
窓口で、「Aさんの成年後見人です」と名乗り、家庭裁判所が発行した「登記事項証明書」を提示します。これは、私たちがAさんの財産を法的に管理する権限を持っている公的な証明書です。これらを提示することで、店舗側でも手続を進めやすくなります。
娘さんが「どこにあるか分からない」と困っていたスマホ本体やSIMカードがなくても、問題ありません。後見人が手続きする場合、登記事項証明書とご本人の本人確認書類(マイナンバーカードのコピーなど)、そして電話番号さえ分かれば解約は可能です。
このケースでは、携帯電話だけでなく、誰も住んでいないご自宅のインターネット契約も付随していることが判明したため、その場でまとめて解約。さらに、他の有料放送や不要なクレジットカードなども、後見人としての権限で次々と解約手続きを進めました。
娘さんからは「あんなに苦労したのが嘘のようです」と、大変感謝していただけました。これが、専門家が成年後見人として介入する大きな価値なのです。
「後見人の報酬は高い」は本当?無駄な支出削減効果と比較
「でも、専門家に後見人になってもらうと、報酬が高いんでしょう?」というご心配は、もっともです。確かに、司法書士などの専門職が後見人になると、ご本人の財産の中から家庭裁判所が決定した報酬をお支払いいただくことになります。
しかし、この費用を「無駄な支出をどれだけ削減できるか」という視点から見てみましょう。果たして、本当に「高い」のでしょうか?
【シミュレーション】月々の無駄な支出、年間でいくら?
先ほどのAさんのケースを例に、もしあのまま放置していたらどうなっていたか、少し試算してみましょう。
| 項目 | 月額費用(推定) |
|---|---|
| 携帯電話代 | 8,000円 |
| インターネット回線 | 5,000円 |
| 有料放送 | 2,000円 |
| カード年会費など | 1,000円 |
| 合計(月額) | 16,000円 |
| 年間合計 | 192,000円 |
これはあくまで一例ですが、年間で20万円近くものお金が、使われることなく失われ続けていた可能性があるのです。これが2年、3年と続けば、その額はさらに大きなものになります。

専門家への報酬は「財産を守るための必要経費」という視点
専門職後見人の報酬は、ご本人の財産額にもよりますが、一般的には月額2万円程度からが目安とされています。
この金額だけを見ると負担に感じるかもしれません。しかし、先ほどのシミュレーションのように、月々16,000円の支出をストップできれば、実質的な負担は大きく軽減されます。場合によっては、削減できた金額が後見人の報酬を上回るケースさえあり得ます。
さらに、後見人の役割は不要な契約の解約だけではありません。悪質な訪問販売からご本人を守ったり、必要な介護サービスの契約を適切に結んだりと、財産全体を包括的に守り、ご本人の穏やかな生活を支える役割を担います。アパート経営などをされている方であれば、認知症による資産凍結を防ぐことにも繋がります。
そう考えると、専門家への報酬は単なる「コスト」ではなく、親御さんの大切な財産を未来にわたって守り続けるための「必要経費」であり、「投資」と捉えることができるのではないでしょうか。
(参考:成年後見人等の報酬額のめやす – 裁判所)
成年後見制度を利用する手続きの流れと期間の目安
「専門家に頼む価値は分かったけれど、手続きが大変そう…」と感じるかもしれません。成年後見制度の利用を開始するまでの期間はケースによって異なりますが、申立てから後見人等が決まるまでの目安は1〜3か月程度です。大まかな流れは以下の通りです。
①相談・依頼:まずは司法書士などの専門家へ
最初の一歩は、私たちのような専門家にご相談いただくことです。現状をお話しいただくだけで、今後の見通しや必要な手続きをご説明できます。親御さんの財産の概要がわかるもの(通帳のコピーなど)や、問題となっている契約内容がわかるものをご用意いただくと、より具体的なアドバイスが可能です。
②申立て準備:必要書類の収集と申立書の作成
ご依頼が決まれば、家庭裁判所への申立て準備に移ります。戸籍謄本や住民票、財産目録、そして最も重要なのが医師による「診断書」です。これらの必要書類の収集や複雑な申立書の作成は、専門家がサポートしますのでご安心ください。
③家庭裁判所での手続き:審理・調査から審判まで
書類を提出すると、家庭裁判所による審理が始まります。裁判所の調査官がご本人やご家族と面談をしたり、親族に意向を確認したりする手続きが進められます。最終的に、家庭裁判所がご本人にとって最も適任と判断した人物を成年後見人として選任し、「審判」という形で決定が下されます。この審判が確定した日から、後見人としての活動が正式にスタートします。なお、ご親族が後見人になることも可能ですが、財産管理の負担や家庭裁判所の判断など、様々な要素を考慮する必要があります。
手遅れになる前に、まずは専門家へご相談ください
親御さんの通帳から毎月消えていくお金を見ているのは、本当に心が痛むことと思います。そして、その無駄な支出は、あなたが悩んでいる間にも一日、また一日と増え続けてしまいます。
「何から手をつけていいか分からない」「法律の手続きは難しそう」
そう感じて一人で抱え込んでしまうお気持ちは、痛いほど分かります。しかし、その一歩を踏み出すことで、複雑に絡み合った糸が解けるように、問題が解決に向かうことも事実です。
専門家への相談は、あなたと親御さんの精神的な負担を軽くし、大切な財産を守るための最も確実な第一歩です。「こんな小さなこと相談してもいいのかな…」などとためらう必要は全くありません。ぜひ、あなたの状況をお聞かせください。一緒に解決の道を探していきましょう。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
