死亡した月の年金はどうなる?未支給・返還の違いを専門家が解説

Informational scene: hands review pension documents at a table with a glowing question mark in the background, about handling a deceased person’s pension procedures.

「父が亡くなった月の年金、どうすれば?」事務所に寄せられるご相談

ご家族が亡くなられた後、悲しむ間もなくさまざまな手続きに追われる中で、ふと故人の通帳を見て手が止まることがあります。

当事務所にも、四十九日を終えた頃に、相続人の方が故人の通帳を手に、このようなご相談にいらっしゃることが少なくありません。

「父が亡くなりました。亡くなった月の年金は日割りで計算されて減ってしまうのでしょうか?

また、市役所に死亡届を出しましたが、次回の年金振り込みは自動的に止まるのでしょうか? もし亡くなった後に年金が振り込まれてしまった場合、返還が必要なのか教えてください。」

「亡くなったのに、年金が振り込まれている…このお金、どうしたらいいの?」
「手続きを間違えて、もらえるはずの年金をもらい損ねたり、逆に不正受給だと言われたりしないだろうか…」

こうした不安は、ごく自然なものです。年金の仕組みは少し複雑で、特にご家族が亡くなられた直後の慌ただしい中では、どこから手をつけていいか分からなくなってしまいますよね。

ご安心ください。この記事では、相続手続きの専門家である社会保険労務士が、死亡後の年金に関するあらゆる疑問にお答えします。この記事を最後までお読みいただければ、

  • 死亡した月の年金は「もらえる」のか「返す」のか
  • 「未支給年金」と「過払い年金」の明確な違い
  • 具体的な手続きの流れと必要書類

が、すべてクリアになります。正しい知識を身につけ、落ち着いて手続きを進めていきましょう。故人が残してくれた大切な年金を、適切に受け取るためのお手伝いができれば幸いです。このテーマの全体像については、亡くなった親の契約整理|公共料金・賃貸・保険の手続きリストで体系的に解説しています。

死亡した月の年金、3つの基本ルールをまず理解しよう

複雑に見える死亡後の年金手続きですが、最初に3つの基本ルールを押さえておけば、全体像がぐっと理解しやすくなります。まずはこの大原則から見ていきましょう。

①死亡した月までの年金は全額もらえる【日割り計算なし】

多くの方が誤解されている点ですが、年金は日割りで計算されることはありません。年金の受給権は、亡くなった「月」単位で考えます。

つまり、月の初めである3月1日に亡くなっても、月末の3月31日に亡くなっても、3月分の年金は満額受け取る権利があります。

この「亡くなった月までの年金を受け取る権利」が、後ほど詳しく解説する「未支給年金」の根拠となります。まずは「死亡月分までは、まるまる1ヶ月分もらえる」と覚えておきましょう。

②なぜ問題が起きる?原因は「年金の後払い制度」

では、なぜ「もらい過ぎ」や「もらい損ね」といった問題が起きてしまうのでしょうか。その根本的な原因は、年金が「後払い」であるという仕組みにあります。

年金は、偶数月の15日に、その前月と前々月の2ヶ月分がまとめて振り込まれるルールになっています。

  • 4月15日に振り込まれるのは → 2月分と3月分の年金
  • 6月15日に振り込まれるのは → 4月分と5月分の年金
  • 8月15日に振り込まれるのは → 6月分と7月分の年金

このように、実際に年金を受け取る権利が発生した月と、口座に入金される日には、常にタイムラグが生じます。このタイムラグがあるために、亡くなった後に年金が振り込まれてしまい、「このお金はどうすればいいの?」という混乱が生まれてしまうのです。

年金の後払い制度の仕組みを図解したインフォグラフィック。2月・3月分が4月15日に、4月・5月分が6月15日に振り込まれる流れが示されている。

③手続きしないとどうなる?2つのリスク

もし、ご家族が亡くなった後に年金の手続きを何もしなかった場合、どうなるでしょうか。実は、正反対に見える2つのリスクが同時に発生する可能性があります。

  1. もらい損ねのリスク:本来受け取れるはずだった「未支給年金」を請求しないままでいると、原則として「受給権者(死亡者)の年金の支払期月の翌月の初日」から5年で時効となり、受け取れなくなってしまいます。
  2. 返還義務のリスク:年金の受給停止手続きをしないと、亡くなった月の翌月分以降の年金も振り込まれ続けてしまいます。これは「過払い」となり、後で返還しなければなりません。

「後払い制度」という仕組みがあるからこそ、「本来もらえるはずだった未払い分」と「本来もらえないはずの支払い済み分」が同時に存在しうるのです。だからこそ、速やかに正しい手続きを行うことが非常に重要になります。

【ケース別】これは「未支給年金」か「返還すべき年金」か

ここからは、具体的なケースをもとに、ご自身の状況が「未支給年金(もらえるお金)」なのか、「過払い年金(返すお金)」なのかを判断する方法を見ていきましょう。一番のポイントは、「いつ亡くなったか」「いつ振り込まれた年金か」です。

返還は不要!「未支給年金」として請求できるケース

「未支給年金」とは、亡くなった方が受け取る権利があったにもかかわらず、まだ支払われていなかった年金のことです。これは、ご遺族が正当に請求できるお金であり、返還する必要は全くありません。

【具体例】5月27日に亡くなった場合

  • 亡くなった方が受け取る権利があるのは「5月分」までの年金です。
  • 年金の後払い制度により、4月分と5月分の年金は「6月15日」に振り込まれます。
  • この6月15日に振り込まれた年金は、亡くなった方が受け取るはずだった4月・5月分なので、全額が「未支給年金」となります。

この場合、ご遺族が「未支給年金請求」の手続きをすることで、正当に受け取ることができます。

ちなみに、この未支給年金は法律上、相続財産ではなく、受け取った遺族の一時所得として扱われます。そのため、遺産分割の対象にはなりません。

未支給年金と過払い年金の違いを比較する図解。5月27日に死亡した場合、6月15日振込分は未支給年金、8月15日振込分は過払い年金となることが示されている。

返還が必要!「過払い」となるケース

一方、「過払い(過誤払)」とは、亡くなった月の翌月分以降の、本来受け取る権利のない年金が誤って振り込まれてしまったケースを指します。これは国のものですから、速やかに返還しなければなりません。

過払いは、年金事務所での受給停止手続きが間に合わなかった場合に発生します。

【具体例】5月27日に亡くなった場合

  • 6月15日の振込(4月・5月分)は「未支給年金」として受け取れます。
  • しかし、年金の死亡手続きが遅れると、さらに8月15日にも年金(6月・7月分)が振り込まれてしまうことがあります。
  • 亡くなったのは5月なので、6月分以降の年金を受け取る権利はすでにありません。
  • したがって、8月15日に振り込まれた年金は、全額が「過払い」となり、返還が必要です。

これは意図的な不正受給でなくても発生してしまう事態です。過払いが起きても、慌てずにきちんと手続きをすれば問題ありませんので、ご安心ください。

死亡後の年金手続き3ステップ|期限と必要書類を解説

それでは、実際にどのような手順で手続きを進めればよいのでしょうか。やるべきことは、大きく分けて3つのステップです。この流れに沿って、一つずつ確実に進めていきましょう。

ステップ1:年金の受給を止める(年金受給権者死亡届)

まず最初に行うべき、最も重要な手続きが年金の受給を止めることです。これをしないと、過払いがどんどん発生してしまいます。

この手続きには「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出します。提出期限が非常に短いため、注意が必要です。

  • 提出先:年金事務所または年金相談センター
  • 提出期限:
    • 厚生年金:死亡日から10日以内
    • 国民年金:死亡日から14日以内
  • 主な必要書類:
    • 年金受給権者死亡届(報告書)
    • 亡くなった方の年金証書
    • 死亡の事実がわかる書類(戸籍抄本、死亡診断書のコピーなど)

ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されている方の場合、原則としてこの「年金受給権者死亡届」の提出は不要です。住民基本台帳ネットワークシステムを通じて死亡情報が連携されるためです。ご自身の状況が分からない場合は、管轄の年金事務所に確認してみましょう。

より詳しい情報については、日本年金機構の公式サイトもご確認ください。

参照:年金を受けている方が亡くなったとき|日本年金機構

ステップ2:未支給年金を請求する

次に、「もらえるお金」である未支給年金を請求する手続きです。この請求ができる遺族の範囲と優先順位は法律で決まっています。

  • 請求できる遺族の範囲:亡くなった方と生計を同じくしていた、①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹、⑦それ以外の3親等内の親族
  • 提出先:年金事務所または年金相談センター
  • 提出期限:死亡日から5年以内
  • 主な必要書類:
    • 未支給年金・未支払給付金請求書
    • 亡くなった方の年金証書
    • 亡くなった方と請求者の続柄がわかる書類(戸籍謄本など)
    • 亡くなった方と請求者の生計同一関係がわかる書類(住民票など)
    • 請求者の預金通帳

特に重要なのが「生計を同一にしていたこと」の証明です。同居していれば住民票で証明できますが、別居していた場合は、仕送りの事実がわかる通帳のコピーや、「生計同一関係に関する申立書」に第三者の証明を添えるなど、追加の書類が必要になることがあります。

請求書の書き方などは、以下の動画も参考になります。

参照:年金受給権者死亡届兼未支給年金・未支払給付金請求書の …|日本年金機構

ステップ3:過払い年金を返還する

万が一、過払いが発生してしまった場合の返還手続きです。手続き自体は難しくありません。

  1. 年金事務所に連絡:まず、故人の年金証書に記載されている年金事務所に連絡し、亡くなった後に年金が振り込まれたことを伝えます。
  2. 「返納通知書」の受領:連絡後、年金事務所が過払い額を計算し、遺族宛に「返納通知書(納付書)」を送付してきます。自分で金額を計算する必要はありません。
  3. 金融機関で納付:届いた納付書を使って、銀行や郵便局などの金融機関で指定された金額を納付すれば、手続きは完了です。

故人の口座が凍結されていても、過払い年金が発生している場合は返納が必要になるため、年金事務所からの返納通知書の案内に従って、相続財産の状況も踏まえつつ対応しましょう。

死亡後の年金に関するよくある誤解とQ&A

最後に、ご遺族の方が特に誤解しがちなポイントや、よくいただくご質問について、Q&A形式で分かりやすくお答えします。

Q. 故人の口座が凍結される前に、振り込まれた年金を引き出して使ってもいいですか?

A. 原則として、安易に引き出すのは避けてください。

故人の口座から預金を引き出す行為は、たとえ葬儀費用などに充てる目的であっても、多くのリスクを伴います。特に年金の場合、そのお金が「未支給年金(もらえるお金)」なのか「過払い年金(返すお金)」なのかによって、意味合いが全く異なります。

もし過払い分とは知らずに使ってしまった場合、後で返還を求められても手元にお金がなく、困ってしまう可能性があります。さらに、相続放棄を検討している場合、故人の財産に手をつける行為は「相続を承認した」とみなされ、相続放棄ができなくなる重大なリスクも潜んでいます。亡くなった後の口座凍結前の引き出しは、後のトラブルの元です。まずは手を付けず、専門家にご相談ください。

Q. 未支給年金は相続財産として、遺産分割の対象になりますか?

A. いいえ、未支給年金は相続財産ではなく、遺産分割の対象にはなりません。

これは重要なポイントです。未支給年金は、民法上の「相続財産」ではなく、年金法に基づいて「ご遺族自身の権利」として支払われるものです。そのため、請求して受け取った遺族の方の固有の財産(税法上は一時所得)となります。

ですから、他の相続人と遺産分割協議を行う際に、未支給年金を分ける必要はありません。この点を理解しておくと、相続人間の無用なトラブルを避けることにつながります。

Q. 手続きを忘れていたら、どうなりますか?罰則はありますか?

A. 「うっかり忘れていた」場合と「意図的に隠していた」場合で大きく異なります。

もし、単に手続きを忘れていて過払いが発生してしまった場合、気づいた時点ですぐに年金事務所に連絡し、返還手続きを行えば、通常は罰則が科されることはありません。大切なのは、誠実に対応することです。

一方で、死亡の事実を隠して意図的に年金を受け取り続ける「不正受給」は、悪質な行為とみなされ、年金法に基づき3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。いずれにせよ、「気づいたらすぐに年金事務所へ連絡する」ことが鉄則です。

Q. 死亡届を市役所に出せば、年金も自動で止まりますか?

A. 原則として、自動では止まりません。ただし、例外もあります。

多くの方が誤解されていますが、市役所への「死亡届」の提出と、年金事務所への「年金受給権者死亡届」の提出は、根拠となる法律も手続きも全くの別物です。そのため、市役所に届け出ただけでは、年金は自動的に止まりません。

ただし、先述の通り、日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、原則として年金事務所への届出は省略できます。とはいえ、この場合でも未支給年金の請求や、ご自身が遺族年金を受け取れる場合の請求手続きは別途必要になります。不動産をお持ちであれば相続登記の義務化への対応も必要。「市役所に届け出たから大丈夫」と自己判断せず、必ず年金事務所にも確認することをおすすめします。

まとめ:専門家が解説する死亡後の年金手続きのポイント

ご家族が亡くなった後の年金手続きは、不安や疑問が多いものですが、ポイントを押さえれば決して難しいものではありません。最後に、この記事の重要な点を振り返っておきましょう。

  • ポイント①:死亡した「月」までの年金は全額もらえる
    年金は日割り計算されません。亡くなった月分の年金は、遺族が「未支給年金」として全額受け取る権利があります。
  • ポイント②:原因は「後払い制度」のタイムラグ
    年金は2ヶ月分が後払いで振り込まれるため、死亡日と入金日のズレによって「未支給(もらえるお金)」と「過払い(返すお金)」が発生します。
  • ポイント③:「止める・もらう・返す」の3ステップを速やかに
    まずは「年金受給権者死亡届」で受給を止め、次に「未支給年金」を請求し、もし「過払い」があれば返還する。この流れで手続きを進めましょう。

故人の大切な年金です。もらい損ねたり、意図せず返還義務を負ったりすることがないよう、落ち着いて一つずつ手続きを進めてください。

もし、手続きに不安を感じたり、何から手をつけていいか分からなくなったりしたときは、一人で抱え込まないでください。年金事務所はもちろん、私たちのような社会保険労務士や司法書士といった専門家が、あなたの状況に合わせた最適なサポートを提供します。どうぞお気軽にご相談ください。

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