DV被害者の相続|住所を知られずに手続きを進める3つの方法

【ご相談事例】兄からの暴力…今の住所を知られずに父の相続手続きをしたい

「父が亡くなったのですが、兄に今の住所を知られるのが怖くて、相続手続きを進められません…」

これは、当事務所に実際に寄せられた、切実なご相談の一つです。過去のトラウマから、ご家族との間にも深い溝ができてしまい、誰にも頼れずに一人で抱え込んでしまう。私たちは、そうした方々の最後の砦でありたいと願い、日々業務に取り組んでいます。

まずは、あなたのお悩みに近いかもしれない、ある女性のケースをご紹介します。

【ご相談の概要】

  • 相談者: 40代女性(現在は川崎市外の安全な場所へ避難中)
  • 亡くなった方: 父親(川崎市在住)
  • 他の相続人: 母親、長男(兄・加害者)

【ご相談内容】
「先日、父が亡くなり、実家の土地と建物を相続することになりました。実は、私は過去に兄から激しい暴力を受けており、今は誰も知らない場所で暮らしています。
そんな中、母から『実家の名義を兄にするから、遺産分割協議書に実印を押して、印鑑証明書と住民票を送ってほしい』と連絡が来たのです。
父のためにも手続きには協力したい。でも、書類を渡せば今の住所が兄にバレてしまう。またあの恐怖の日々が始まるのではないかと思うと、夜も眠れません。自分の存在を隠したまま、すべてを終わらせる方法はないのでしょうか?」

【当事務所での解決】
このケースでは、まず私たちが代理人として全面的に介入し、ご本人様がお兄様と一切連絡を取らない体制を構築しました。その上で、市区町村の「DV等支援措置」と、法務省が案内する「登記事項証明書等における代替措置(不動産登記関係)」を活用し、手続上の情報開示リスクをできる限り抑えながら、相続登記(実家の名義変更)を進めました。

あなたも、今、同じような恐怖と不安の中にいるかもしれません。しかし、どうか希望を捨てないでください。法律は、あなたのような立場の方を守るために存在します。この記事では、あなたの安全を最優先に、加害者に住所を知られることなく相続手続きをやり遂げるための具体的な方法を、専門家の視点から分かりやすく解説していきます。

相続手続きの全体像については、相続手続きの内容(遺産整理業務)で体系的に解説しています。

なぜ相続手続きで「今の住所」がバレる危険があるのか?

「なぜ、普通に手続きするだけで住所が知られてしまうの?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。相続手続きには、ご自身の現在の住所が記載された公的な書類を、他の相続人や公的機関に提出する場面が複数回あるからです。主に、以下の2つの場面で情報が漏れるリスクが潜んでいます。

遺産分割協議書と印鑑証明書から住所が知られるケース

遺産の分け方を相続人全員で話し合って決める際、その合意内容を証明するために「遺産分割協議書」という書類を作成します。この書類は法的な効力を持つため、通常、相続人全員が署名し、実印を押します。

そして、「この実印は本人のものに間違いありません」と証明するために、「印鑑証明書」を添付するのが一般的です。この印鑑証明書には、氏名、生年月日と並んで、現在の住民票上の住所がはっきりと記載されています。

遺産分割協議書と印鑑証明書のセットを他の相続人(加害者)に渡すということは、ご自身の現在の住所を直接伝えることと同じ意味になってしまうのです。

相続手続きで提出する印鑑証明書や住民票から、DV加害者に現住所が知られてしまうリスクを暗示するイラスト。

登記簿(登記事項証明書)から住所が知られるケース

もう一つの、そしてより深刻なリスクが「登記簿」です。

不動産(土地や建物)を相続した場合、法務局で名義変更の手続き(相続登記)を行います。手続きが完了すると、不動産の新しい所有者として、あなたの氏名と現在の住所が「登記簿」に記録されます。

この登記簿の内容を証明する登記事項証明書は、手数料を払えば誰でも取得できてしまいます。つまり、一度登記されてしまうと、加害者が不動産の場所を把握している場合、登記事項証明書等を取得して登記記録上の住所(住所変更登記がされていれば現住所)を調べられるおそれがあります。これは、手続きが終わった後も半永久的に続く、非常に大きなリスクと言えるでしょう。

住所を知られずに相続手続きを進めるための3つの防衛策

では、どうすればこれらのリスクから身を守り、安全に手続きを進めることができるのでしょうか。ここでは、私たちが実際に用いる「3つの防衛策」をご紹介します。これらを組み合わせることで、あなたの安全を確固たるものにできます。

DV被害者が相続手続きで身を守るための3つの防衛策(DV等支援措置、住所非表示措置、司法書士への依頼)をまとめた図解。

防衛策①:市区町村の「DV等支援措置」で住民票等をブロック

まず、すべての基本となるのが、お住まいの市区町村役場で「DV等支援措置」を申し出ることです。これは、DVやストーカー、児童虐待などの加害者から、あなたの住民票や戸籍の附票(住所の履歴がわかる書類)を不正に取得されることを防ぐための制度です。

この措置を申し出て受理されると、たとえ加害者が親族であっても、市区町村の窓口であなたの住民票などを請求してきた際に、職員が交付をストップしてくれます。

  • 相談・申出先:警察、配偶者暴力相談支援センター、市区町村の担当窓口など
  • 効果:加害者からの住民票・戸籍の附票の請求をブロックする

相続手続きでは、ご自身の住民票が必要になる場面があります。この措置を講じておくことで、少なくとも「役所の窓口から直接住所がバレる」というリスクを潰すことができます。これは、ご自身の安全を守るための第一歩であり、次にご紹介する法務局での手続きの前提ともなる重要なステップです。手続きに不安がある場合は、お住まいの市区町村の窓口に相談してみましょう。

より詳しい情報については、総務省のウェブサイトでも確認できます。

参照:配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳事務における支援措置|総務省

防衛策②:法務局の「住所非表示措置」で登記簿の住所を隠す【令和6年4月開始】

これまで最大の懸案だった「登記簿から住所がバレるリスク」を根本から解決する画期的な制度が、2024年4月1日からスタートしました。それが「住所非表示措置(正式名称:登記事項証明書等における代替措置)」です。

この制度(登記事項証明書等における代替措置)を利用すると、一定の要件を満たすDV等被害者は、登記事項証明書等に表示される住所を、実際の現住所に代えて別の連絡先(例:受任した専門家の事務所住所等)として取り扱ってもらうことができます。

【代替として記載できる住所の例】

  • 依頼した司法書士の事務所の住所
  • DV等支援措置を実施している市区町村の役場の住所
  • その他、法務局が認める支援団体の住所など

この申出を法務局に行うことで、たとえ相続登記が完了しても、登記簿にはあなたの本当の住所は載りません。加害者が登記事項証明書を取得しても、そこに記載されているのは司法書士事務所の住所などですから、あなたの居場所を突き止めることはできなくなります。2024年4月から相続登記の義務化が始まりましたが、この制度のおかげで、被害者の方も安心して手続きを進められるようになりました。

この措置は、相続登記と同時に申し出る必要があります。手続きには専門的な知識が求められるため、必ず専門家である司法書士に相談することをお勧めします。

法務省の公式サイトでも、制度の概要が公開されています。

参照:登記事項証明書等におけるDV被害者等支援措置について(不動産登記)|法務省

防衛策③:司法書士を代理人に立て、加害者との接触を完全に遮断

上記①②の制度を利用しても、手続きの過程で加害者と直接連絡を取らなければならないとしたら、精神的な苦痛は計り知れません。そこで重要になるのが、司法書士に登記手続等を依頼し、連絡窓口を司法書士に一本化することです。

私たち司法書士が代理人となることで、以下のような壁を築き、あなたを物理的・精神的に守ります。

  1. 加害者との連絡窓口を一本化:今後、加害者との連絡はすべて司法書士が代行します。あなたが加害者と直接話したり、連絡先を交換したりする場面を、可能な限り減らすことができます。
  2. 書類の安全な受け渡し:住所が記載された印鑑証明書などの書類も、まずは私たちが預かります。加害者には司法書士が間に入っていることを説明し、必要な手続きを安全に進めます。
  3. 複雑な手続きの代行:DV等支援措置の確認や、法務局への住所非表示措置の申出など、専門的で煩雑な手続きもすべて私たちにお任せいただけます。

司法書士が「盾」となり、あなたと加害者の間に立つことで、あなたは手続きのストレスから解放され、日々の安全な生活を守ることに専念できます。特に、疎遠な兄弟との遺産分割など、当事者同士での話し合いが困難なケースでは、専門家が間に入るメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

司法書士がDV被害者の相談に親身に乗り、安全な相続手続きの方法について説明している様子。

まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください

過去の辛い経験から、相続という問題に一人で立ち向かうのは、本当に大変なことだと思います。「手続きを進めたい、でも怖い」そのお気持ちは、痛いほどよく分かります。

しかし、この記事で解説したように、あなたの安全を守るための法的な制度はきちんと整備されています。

  • 防衛策①:市区町村の「DV等支援措置」で書類の交付をブロックする
  • 防衛策②:法務局の「住所非表示措置」で登記簿の住所を隠す
  • 防衛策③:司法書士を代理人に立て、加害者との接触を完全に断つ

これらの防衛策を適切に組み合わせることで、加害者に現在の住所を知られることなく、あなたの正当な権利である相続手続きを安全に完了させることが可能です。

大切なのは、一人で抱え込まないことです。当事務所は、相続手続きのプロであると同時に、あなたのようなデリケートな問題に真摯に寄り添うパートナーです。初回のご相談は無料でお受けしています。まずはお話をお聞かせいただくことから、解決への道は始まります。

どの専門家に相談すべきか迷う方もいらっしゃるかもしれません。信頼できる相続に強い司法書士を見抜くポイントはいくつかありますが、何よりもあなたの心に寄り添ってくれるかどうかが重要です。どうか安心して、私たちにご連絡ください。あなたの未来を守るため、私たちが全力でサポートします。

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