【実例】相続放棄したのに…市役所から固定資産税の通知が届いたAさんのケース
「亡くなった疎遠だったお父様について、家庭裁判所で相続放棄申述の手続きを完了したのに、数か月して、お父様の固定資産税の支払いに関するお尋ねのような書類が届いた。相続放棄が本当にできているのか心配、払わなきゃいけないの?」
これは、当事務所に実際に寄せられたご相談の一つです。Aさんは、突然届いた通知書にすっかり動揺され、「手続きに不備があったのでは」と大きな不安を抱えていらっしゃいました。
もしあなたがAさんと同じ状況なら、焦ってしまうのも無理はありません。しかし、まずは支払う前に、相続放棄の事実を自治体へ伝えて確認しましょう。
実は、家庭裁判所で行った相続放棄の手続きは、自動的に市役所には伝わらないのです。Aさんのケースでは、通知書をよく見ると「相続放棄されている場合は受理通知書のコピーを送ってください」と小さな文字で書かれていたのですが、パニックになっていると、なかなかそこまで目がいかないものです。
この記事では、相続放棄後に固定資産税の納税通知書が届いてしまった方のために、なぜそのようなことが起こるのか、そして支払ってしまう前に何をすべきかを、相続の専門家である司法書士が分かりやすく解説します。突然の通知で不安な方も、この記事を読めば冷静に対処法が分かりますので、ご安心ください。
場合によっては、役所の通知で親の死を知ったというケースもあり、相続手続きは複雑な状況が絡み合うことも少なくありません。
なぜ?相続放棄したのに固定資産税の通知書が届く2つの理由
「手続きは完璧だったはずなのに、なぜ?」と疑問に思いますよね。その理由は、行政の仕組みと税金のルールにあります。主な理由は以下の2つです。
理由1:市役所は相続放棄の事実を自動で把握できない
最も根本的な理由は、家庭裁判所と市役所の情報が自動で連携されていないことにあります。
- 相続放棄の手続き:家庭裁判所の管轄
- 固定資産税の課税:不動産が所在する市区町村(東京23区では都税事務所等)の管轄
このように管轄が異なるため、あなたが家庭裁判所で相続放棄を完了しても、その情報は市役所に自動的に通知されません。自治体は、登記簿や戸籍、相続人代表者届、現所有者申告等の情報をもとに、相続人代表者または現所有者と認定した方へ納税通知書等を送付することがあります。
つまり、通知書が届いたからといって、あなたの相続放棄手続きに不備があったわけではありません。単に行政機関同士の「情報のタイムラグ」や「連携不足」が原因であることがほとんどですので、まずは落ち着いてください。

理由2:「台帳課税主義」により1月1日時点の登録者に課税される
固定資産税には、「台帳課税主義」という大切なルールがあります。これは、毎年1月1日(賦課期日といいます)時点で、固定資産課税台帳に所有者として登録されている人に対して、その年度1年分の固定資産税が課税されるという仕組みです。
市役所は、1月1日時点の登記情報などをもとに納税義務者を判断します。所有者が亡くなった後、相続登記や現所有者申告、相続放棄の事実が自治体側で確認できていない場合、自治体が相続人または現所有者と判断して通知書を送付することがあります。
相続放棄が有効に成立すると、その相続については初めから相続人ではなかったものとみなされます。そのため、相続人として被相続人の固定資産税債務を承継したり、相続を理由にその不動産の現所有者となったりすることはありません。もっとも、家庭裁判所で相続放棄が受理された事実が自治体に自動的に通知されるわけではないため、自治体が相続放棄を把握しておらず、相続人候補者に照会書や納税に関する書類を送付することがあります。
相続放棄という手続きの全体像については、相続放棄の手続き全体像の記事で体系的に解説していますので、併せてご覧いただくと理解が深まるでしょう。
【重要】納付書が届いても絶対にしてはいけないNG対応
通知書を前にして慌てて対応すると、後の手続きが複雑になる可能性があります。ここでは、絶対にしてはいけない2つのNG対応を解説します。これは、あなたの財産を守るための非常に重要なポイントです。
NG①:納税義務を確認せず、相続財産から支払わない
「とりあえず支払っておけば問題ないだろう」と考えるのは、最も危険な判断です。
相続放棄後に固定資産税の納付書が届いても、まずは自分に納税義務があるのかを自治体に確認しましょう。
特に注意したいのが、亡くなった方名義の預金など、相続財産を使って固定資産税を支払うことです。相続財産を処分した場合には、法定単純承認との関係が問題になることがあるため、相続放棄を検討している場合や、すでに相続放棄をしている場合には、自己判断で相続財産を動かさないことが重要です。
固定資産税の支払いだけでなく、公共料金や家賃の支払いなども同様のリスクをはらんでいるため注意が必要です。相続放棄後の行動には、細心の注意を払いましょう。
NG②:通知書をそのまま放置する
相続放棄をしているからといって、届いた通知書をそのまま放置するのもおすすめできません。
自治体が相続放棄の事実を把握していなければ、納税義務者について誤った認識のまま、督促などの手続きが進んでしまう可能性があります。
相続放棄をした人には本来納税義務がない場合でも、後から相続放棄の事実を説明して訂正を求める手間が生じます。通知書が届いた段階で担当課へ連絡し、相続放棄申述受理通知書などを提出して、自分が相続放棄をしていることを伝えておくことが大切です。
また、相続放棄をしても、不動産の管理責任が残るケースもあり、放置はさらなるトラブルを招く原因にもなります。

相続放棄後に固定資産税の通知が届いた時の正しい3ステップ
では、具体的にどう行動すればよいのでしょうか。慌てる必要はありません。以下の3つのステップに沿って、冷静に対応しましょう。
ステップ1:手元に「相続放棄申述受理通知書」を用意する
まず、家庭裁判所での手続き完了後に受け取った「相続放棄申述受理通知書」を探してください。これは、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されたことを示す書類です。
もし、この通知書を紛失してしまった場合でも、ご安心ください。相続放棄を申し立てた家庭裁判所で「相続放棄申述受理証明書」という書類を発行してもらうことができます。これは、相続放棄の申述が受理されたことを家庭裁判所が証明する書類です。
この書類は、自治体に対して相続放棄の事実を示す重要な確認資料になります。より詳しい手続きについては、相続放棄の確認方法の記事で解説しています。
ステップ2:納税通知書に記載の担当課に連絡する
次に、送られてきた納税通知書をよく見て、担当部署を確認します。通常、「資産税課」「税務課」「課税課」といった部署名が記載されているはずです。
その部署に電話をし、以下の内容を伝えましょう。
「〇〇(亡くなった方の氏名)の固定資産税に関する書類が届きました。私は家庭裁判所で相続放棄の申述をして受理されています。相続放棄申述受理通知書がありますが、どのような手続きが必要でしょうか。」
担当者はこの種の連絡に慣れていることが多いため、冷静に事実を伝えれば問題ありません。

ステップ3:受理通知書のコピーを提出する
電話で連絡をすると、担当者から「相続放棄申述受理通知書(または受理証明書)のコピーを提出してください」と案内されるのが一般的です。
指示に従い、用意しておいた受理通知書等のコピーを、郵送または役所の窓口へ直接持参して提出します。このとき、念のため担当者の名前や提出方法をメモしておくと安心です。
提出書類を自治体が確認したうえで、必要に応じて固定資産課税台帳等の情報が見直されます。来年度以降の通知書の取扱いは自治体の運用や他の相続人の状況によって異なるため、担当課に確認してください。
【ご注意】
自治体によって担当部署の名称や、求められる書類(受理通知書のコピーで良いか、受理証明書の原本が必要かなど)の運用が異なる場合があります。手続きを進める前に、必ず納税通知書に記載の連絡先に電話をし、所在地の資産税担当課へ確認するようにしてください。
手続きの不安は専門家への相談で解消できます
ここまで解説した手順に沿って対応すれば、ご自身で問題を解決することも可能です。しかし、「役所に電話するのが億劫だ」「書類のやり取りが面倒だ」「万が一、手続きを間違えたらどうしよう」といった不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合は、私たち相続の専門家にご相談ください。通知書の内容と相続放棄の状況を確認し、必要な手続きや自治体への連絡方法をご案内します。
当事務所なら市役所への通知まで代行します
当事務所で相続放棄の手続きをご依頼いただいた場合、家庭裁判所への申立てだけでなく、その後の市役所への相続放棄の通知手続きまで代行することが可能です。
ご自身で何度も役所とやり取りをする負担を減らし、市区町村への連絡・書類提出までまとめてご依頼いただけます。特に、お仕事などで忙しい方にとっては、専門家に一括で依頼するメリットは非常に大きいといえるでしょう。
年間100件以上の相続問題を解決する専門家が対応
当事務所の代表司法書士は、年間100件以上の相続案件を取り扱い、司法書士向けの専門書の執筆や研修講師も務めるなど、相続分野に深く精通しています。
豊富な経験に基づき、一つひとつのご相談に丁寧に向き合い、状況に応じた対応方法をご提案します。「こんなことを聞いてもいいのだろうか」とためらう必要はありません。不安な点を確認し、必要な手続きや今後の対応を分かりやすく整理します。
当事務所では、相続に関する無料相談を実施しています。無理にご依頼を勧めることは一切ありませんので、まずはお気軽にお問い合わせください。突然の通知書に一人で悩まず、専門家の力を頼っていただければ幸いです。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
