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「成年後見人の報酬を一生払う?」ネット情報の不安を解消します
「親の認知症が進んできたので、実家を売却して施設入所の費用にあてたい…」「でも、そのためには成年後見制度を利用しないといけないらしい…」
そうお考えになったとき、多くの方がインターネットで情報を検索されることでしょう。そして、こんな言葉を目にして不安になっていませんか?
- 「専門家が後見人になると、報酬が高額になる」
- 「一度始まったら、本人が亡くなるまで報酬を“一生”払い続けなければならない」
- 「年間30万円以上かかることもあり、10年、20年と続けば数百万円にもなる…」
大切なご家族のためとはいえ、これほど大きな経済的負担が長期間続くかもしれないと考えると、制度の利用をためらってしまうのも無理はありません。
しかし、どうかご安心ください。ネットの断片的な情報だけでは見えてこない、専門家への報酬負担を大きく軽減できる具体的な方法が存在します。
この記事では、相続と成年後見を専門とする司法書士が、成年後見人の報酬に関する皆様の不安を一つひとつ丁寧に解消していきます。そして、特に不動産の売却が関わるケースで有効な「リレー型後見」という解決策について、実際の事例を交えながら分かりやすく解説します。
最後までお読みいただければ、「成年後見制度=高額な費用が一生続く」というイメージが覆り、安心して次の一歩を踏み出すための知識が身についているはずです。
まず知っておきたい成年後見人の報酬の基本
漠然とした不安を解消するためには、まず成年後見人の報酬が「どのように決まるのか」という基本的な仕組みを正しく理解することが大切です。報酬は後見人が勝手に決めるものではなく、すべての手続きが終わった後に家庭裁判所が決定します。
報酬の相場は月額2万~6万円が目安
家庭裁判所は、報酬額の目安を公表しています。報酬には、日常的な財産管理に対する「基本報酬」と、特別な業務に対する「付加報酬」の2種類があります。付加報酬は裁判所が具体的な事務の内容・労力を踏まえて個別に認定するため、必ずしも一定の割合で算定されるものではありません。
家庭裁判所が示す目安では、管理財産額に応じて一般的に月額おおむね2万円から6万円程度の範囲が示されることがありますが、最終的な金額は事案ごとの業務量や裁判所の判断で決まります。
| 管理財産額 | 基本報酬額のめやす |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万円を超え5,000万円以下 | 3万円~4万円 |
| 5,000万円を超える場合 | 5万円~6万円 |
例えば、管理する財産が預貯金1,000万円とご自宅(不動産)の場合、基本報酬は月額3万円~4万円程度になる可能性が高い、と大まかに予測することができます。
不動産売却など特別な業務には「付加報酬」が発生
「基本報酬」に加えて、通常の後見業務の範囲を超えるような特別な行為を行った場合には、その労力に応じて「付加報酬」が上乗せされます。これが、報酬総額が変動する大きな要因です。
付加報酬が発生する典型的なケースが、不動産の売却です。
ご本人のご自宅などを売却するには、家庭裁判所から「居住用不動産処分許可」を得る必要があります。この許可を得るための申立てや、不動産業者とのやり取り、売買契約の締結、登記手続きなど、一連の複雑な手続きを後見人が行います。こうした特別な業務に対して、基本報酬とは別に、不動産売却に伴う付加報酬が認められる場合があり、裁判所の事案ごとの判断により金額や割合が異なります(裁判所の目安が参考になることがありますが、必ずしも一律ではありません)。
その他にも、遺産分割協議や保険金の請求、訴訟対応などを行った場合にも付加報酬が発生する可能性があります。

報酬はいつまで?誰が払う?
「報酬は一生払い続けるの?」というご質問に対しては、一般に、後見が終了するまで報酬が発生しますが、後見が解除される(例えば本人の判断能力が回復する等)場合や家庭裁判所の判断で終了する場合もありますので、必ずしも死亡まで継続すると断定できるわけではありません。
通常は、家庭裁判所の審判に基づいて本人の財産から報酬が支払われますが、事案によっては別の取扱いがなされる場合もあり、裁判所の審理・許可が必要です。
後見人は、年に一度、家庭裁判所に財産管理の状況を報告し、その際に報酬付与の申立てを行います。そして、裁判所が決定した報酬額を、ご本人の預貯金から受け取ることになります。ご家族がご自身の生活費から直接負担するわけではない、という点はぜひ覚えておいてください。
【解決策】不動産売却後の「リレー型後見」で費用を抑える
「報酬が本人の財産から支払われるのは分かった。でも、大切な親の財産が報酬でどんどん減っていくのはやっぱり避けたい…」
そう思われるのは当然のことです。特に、不動産売却のような大きな目的がある場合、その目的が達成された後も専門家への報酬がずっと続くことに疑問を感じる方もいらっしゃるでしょう。
そこで私たちがご提案しているのが、「リレー型後見」という手法です。これは、専門家への報酬支払いを必要な期間だけに限定し、その後の負担を大幅に軽減できる、非常に有効な選択肢です。
リレー型後見とは?専門職から親族へバトンタッチ
リレー型後見とは、その名の通り、後見人の役割をリレーのように引き継ぐ方法です。
具体的には、まず不動産の売却といった専門的な知識や手続きが必要な期間だけ、司法書士などの専門家が後見人に就任します。そして、売却手続きや代金の管理体制の構築といった最も重要なミッションが完了した時点で、後見人の役割をご家族(親族)にバトンタッチするのです。
一般的な流れは以下のようになります。
- 後見開始の申立て:司法書士などの専門家を後見人候補者として、家庭裁判所に申立てを行います。
- 専門家による後見業務:選任された専門家が、家庭裁判所の許可を得て不動産を売却します。
- 財産管理の仕組みづくり:売却で得た大きなお金を安全に管理するため、信託銀行などを活用する「後見制度支援信託」や「後見制度支援預貯金」といった仕組みを利用します。これにより、日常的に使うお金以外は信託銀行等が管理するため、親族後見人の方の負担が減り、財産の安全性も高まります。
- 親族後見人へ交代:専門家が行うべき業務が完了した段階で、専門家は家庭裁判所の許可を得て後見人を辞任し、あらかじめ候補者としていたご家族(子など)に後見人を交代します。
専門家が行う業務を限定して交代することで報酬負担を短期化できる場合がありますが、具体的な期間は事案によって異なり必ず1年以内とは限りません。親族後見人に交代した場合でも、必要があれば裁判所への申立てで報酬が認められることがあります(※)。
(※親族後見人でも、特別な事情があれば家庭裁判所に報酬付与の申立てをすることは可能です)
【当事務所の事例】リレー型で報酬負担を軽減できたケース
「リレー型後見」がどれほど効果的か、当事務所で実際にあったご相談事例(複数の事案を組み合わせ、個人の特定ができないように変更しています)をもとにご説明します。
【ご相談のきっかけ】
ある日、娘さんから切羽詰まったご様子でお電話がありました。「母の認知症が進み、このまま一人暮らしをさせるのは心配です。母名義の実家を売却して、施設の入居費用にしたいと考えています。でも、母はもう自分で契約できる状態ではありません。ネットで調べたら、成年後見制度を使わないといけないと…。でも、『司法書士が後見人になったら、母が亡くなるまでずっと報酬を払い続けなければいけない』って書いてあって…」
娘さんは、お母様の将来にわたる費用を心配され、「専門家への報酬を長期間払い続けなければならないのでしょうか?」と、その声は不安で震えていました。
【当事務所からのご提案】
私たちは、娘さんの不安に深く共感し、こうご提案しました。
「お気持ちはよく分かります。ですが、ご安心ください。ずっと専門家が後見人を続ける必要はありません。今回のように『不動産を売却する』という明確な目的がある場合、その専門的な手続きが終われば、後見人をお母様のことを一番よく分かっている娘さんにバトンタッチする『リレー型後見』という方法があります。専門家への報酬は、不動産売却が終わるまでの一時的なものになりますから、総額を大きく抑えられますよ」
このご提案に、娘さんの表情がぱっと明るくなったのを今でも覚えています。
【解決までの流れと結果】
ご依頼後、私たちは迅速に手続きを進めました。
- 当事務所の司法書士を後見人候補者として後見開始の申立てを行い、無事に選任されました。
- 複数の不動産業者から見積もりを取り、最も高い価格を提示した業者と契約し、家庭裁判所の許可審判を得たうえで、実家を売却しました。
- 売却代金は、安全のため信託銀行に預ける「後見制度支援信託」を設定しました。
- 今後の生活に必要な分だけを普通預金口座に移し、専門家としての役割を完了。後見人を辞任し、娘さんを後任の後見人として選任してもらう申立てを行い、無事にバトンタッチが完了しました。
最終的に、家庭裁判所が決定した当事務所への報酬(付加報酬を含む)は、数十万円台となりました。この金額だけを見ると高く感じられるかもしれませんが、これは不動産売却という大きな業務に対する一度きりの報酬です。事例の試算では大きな差が生じる場合があることが示されましたが、将来の費用は事案ごとに異なるため、個別の見積・裁判所の判断が必要です。
最も大変な手続きを専門家に任せ、その後の財産管理はご家族の手に戻ったことで、娘さんには大変ご安心いただくことができました。
報酬が払えない場合は?公的な助成制度も
ここまで読んで、「リレー型後見は魅力的だけど、そもそも本人の財産が少なくて、最初の専門家への報酬も払えるか心配…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
ご本人の収入や資産が一定の基準を下回る場合など、経済的な理由で後見人の報酬を支払うことが困難な場合には、市区町村が費用を助成してくれる「成年後見制度利用支援事業」という制度があります。
助成を受けられる条件や金額はお住まいの自治体によって異なりますが、例えば「生活保護を受給している」「住民税が非課税である」といった方が対象となることが多いです。この制度により、経済的な理由だけで制度の利用を諦める必要はありません。
ご自身の状況が対象になるか分からない場合は、お住まいの市区町村の福祉担当窓口や、私たちのような専門家にご相談ください。
まとめ:後見人の報酬は工夫次第。まずは専門家にご相談ください
今回は、多くの方が不安に感じる成年後見人の報酬について、その仕組みと費用を抑えるための具体的な方法を解説しました。
この記事のポイントを振り返ってみましょう。
- 成年後見人の報酬は、家庭裁判所が決定する(基本報酬は月額2~6万円が目安)。
- 報酬は、原則として本人が亡くなるまで、本人の財産から支払われる。
- 不動産売却など特別な業務には「付加報酬」が上乗せされる。
- 不動産売却が目的の場合、「リレー型後見」で専門家への報酬支払いを一時的なものにできる。
- 経済的に困難な場合は、公的な助成制度を利用できる可能性がある。
ネット情報には事実と誤解が混在しているため、具体的なケースについては専門家に相談して、制度の仕組みと選択肢を確認することが重要です。
特に、不動産の売却が関わるようなケースでは、最初から最後まで専門家が後見人を務めるのではなく、必要な業務が終わればご家族にバトンタッチする、という考え方は、ご本人のためにも、ご家族の経済的・精神的な負担を軽くするためにも、非常に合理的だと私たちは考えています。
司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所(神奈川県司法書士会所属、代表者:猪狩佳亮、所在地:神奈川県川崎市川崎区宮前町12番14号 シャンボール川崎505号)では、成年後見制度に関する豊富な知識と実績をもとに、ご家族ごとのお悩みや状況に合わせてご相談の上で個別にプランを提案します。もし、あなたが成年後見制度の利用や費用について少しでも不安や疑問をお持ちでしたら、一人で悩まずに、まずは当事務所の無料相談をご利用ください。あなたとご家族が安心して未来へ進むためのお手伝いをさせていただきます。
詳しくは「成年後見をご検討中の方へ」のページもご覧ください。
どうぞお気軽にいがり綜合事務所の無料相談はこちらからお問い合わせください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
