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兄が遺産を開示しない…まず知るべき2つの事実
「父が亡くなった後、実家で同居していた兄が財産をすべて管理しているはずなのに、通帳すら見せてくれない。何を聞いてもはぐらかされ、急に距離ができた気がして…」
大切なご家族を亡くされた悲しみの中、信頼していたはずの兄弟との間に溝ができてしまうのは、本当にお辛いことだと思います。不信感が募り、「自分の権利は守られるのだろうか」と不安を感じている方もいるでしょう。
でも、少しだけ冷静になってみてください。実は、あなたと同じように、他の相続人が遺産を開示してくれずに悩んでいるケースは決して珍しくありません。そして、そのような状況でも、ご自身の正当な権利として遺産の内容を調べる方法はきちんと法律で認められています。
この記事では、相続人が遺産を開示してくれない状況で、ご自身で財産を調査するための具体的な方法を、手順を追って分かりやすく解説します。感情的にならず、客観的な事実を一つひとつ確認していきましょう。そうした疎遠な兄弟との遺産分割問題で感情的な対立を避けるためにも、まずは客観的な事実を明らかにすることが大切です。
なぜ教えてくれない?考えられる理由とあなたの正当な権利
「なぜ、兄は教えてくれないんだろう」と、相手の真意を測りかねているかもしれません。もちろん、「財産を独り占めしたい」という悪意のあるケースも考えられますが、実はそれ以外の理由も少なくないのです。
- 手続きが面倒で、単純に後回しにしている
- 親の財産は長男である自分が管理するのが当然だと思い込んでいる
- 本人も財産の全体像をまだ把握できておらず、聞かれても答えられない
- あなたに対して、何かしらの感情的なわだかまりがある
どのような理由であれ、忘れないでください。あなたには、亡くなった方の財産を正確に知る正当な権利があります。これは法律で認められた相続人としての当然の権利です。ですから、財産調査を始めることに、何のためらいも感じる必要はありません。
重要:相続財産に法的な「開示義務」はないという現実
ここで一つ、非常に重要な事実をお伝えします。それは、原則として、特定の相続人が他の相続人に対して、遺産のすべてを開示する法的な「義務」はないということです。
「権利はあるのに、義務はないの?」と矛盾しているように聞こえるかもしれません。これはつまり、お兄様に対して「財産をすべて見せなさい!」と強く迫っても、法的にそれを強制することは難しい、という現実を意味します。
そのため、相手方との話し合いだけで解決が難しい場合は、ご自身の権利に基づき、法的な手続きに沿って客観的な財産調査を行うことが有効です。
ただし例外として、遺言によって「遺言執行者」に指定されている人には、相続人に対して財産目録を作成し、交付する義務(民法1011条)があります。
自分でできる!相続財産調査の始め方【2ステップ】
「何から手をつければいいか分からない…」という方のために、ここからは財産調査の具体的な手順をシンプルな2ステップで解説します。この順番で進めれば、誰でも着実に調査を進めることができます。相続手続きの第一歩でもある財産調査は、相続人全員が故人の財産を誰も知らない、といった場合でも同様に重要なプロセスです。
- ステップ1:故人の遺品・郵便物から「手がかり」を探す
- ステップ2:相続人であることを証明する「戸籍謄本」を集める
ステップ1:故人の遺品・郵便物から「手がかり」を探す
財産調査の最も重要な初動は、故人の生活の痕跡からヒントを得ることです。たとえお兄様が協力的でなくても、故人のご自宅などで以下のような書類が見つかれば、それが調査の大きな足がかりとなります。

- 預金通帳、キャッシュカード:取引銀行や支店名がわかります。
- 金融機関からの郵便物:取引残高報告書や満期のお知らせなど。
- 固定資産税の納税通知書:毎年4月~6月頃に届き、所有不動産の情報が記載されています。
- 権利証(登記識別情報通知):不動産の登記手続で本人確認手段として用いられる重要書類です。所有者や権利関係は、登記事項証明書で確認します。
- 証券会社からの取引報告書:株式や投資信託の保有状況がわかります。
- 保険会社からのお知らせ:生命保険や火災保険の契約内容がわかります。
- 公共料金の領収書:引き落とし口座の手がかりになります。
たとえ古い情報でも構いません。金融機関名や証券会社名が一つでもわかれば、そこから調査の糸口を掴める可能性があります。詳しくは「故人の隠れた財産?通帳記録から死亡保険金を見つけた事例」も参考にしてください。
ステップ2:相続人であることを証明する「戸籍謄本」を集める
金融機関や法務局で財産調査の手続きをする際には、あなたが正当な相続人であることを証明する必要があります。そのために不可欠なのが、亡くなった方(被相続人)の「出生から死亡まで」の一連の戸籍謄本等です。
「なぜそんなに遡る必要があるの?」と疑問に思うかもしれません。これは、他に相続人がいないこと(例えば、ご自身の知らない間に親が認知した子や養子がいないこと)を公的に証明するために必要だからです。
戸籍は本籍地の市区町村役場で取得しますが、郵送での請求も可能です。また、2024年3月1日から始まった「戸籍の広域交付制度」を利用すれば、最寄りの役所の窓口でまとめて取得できる場合もあります。詳しくは戸籍証明書等の広域交付に関する法務省の解説もご確認ください。
【財産別】具体的な調査方法と必要書類を一覧解説
準備が整ったら、いよいよ財産の種類ごとに調査を進めていきます。ここでは、主な財産である「預貯金」「不動産」「株式・有価証券」、そして見落としがちな「借金」の調査方法を具体的に解説します。これらの調査結果は、後の相続税申告の要否を判断する上でも重要な資料となります。
預貯金の調べ方:残高証明書と取引履歴で全容を掴む
預貯金の調査は、故人が取引していた金融機関に対して行います。通帳や郵便物などの手がかりから金融機関が特定できたら、その窓口で手続きをしましょう。
- 調査先:銀行、信用金庫、ゆうちょ銀行などの各金融機関
- 請求する書類:①亡くなった日時点の「残高証明書」、②過去の入出金がわかる「取引履歴」
- 主な必要書類:
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- ご自身の戸籍謄本
- ご自身の実印と印鑑証明書
- ご自身の本人確認書類(運転免許証など)
特に「取引履歴」は、亡くなる直前に不自然な出金がないか、定期的な引き落としから他の契約(保険など)が見つからないかなど、財産の使い込みや隠れた財産を発見する上で非常に重要です。手がかりが全くない場合は、故人の自宅や勤務先の近くにある金融機関に一つひとつ照会をかける「しらみつぶし」の方法もあります。詳しくは「銀行・証券口座の手続き」のページもご覧ください。
不動産の調べ方:名寄帳と新制度「所有不動産記録証明」を活用
故人が所有していた土地や建物を調べるには、二段構えの方法が有効です。
①名寄帳(なよせちょう)の取得
不動産があると思われる市区町村の役所(都税事務所など)で「名寄帳」の写しを取得します。これは、その市区町村内にある同一名義人の不動産を一覧にしたもので、固定資産税の納税通知書に載っていない私道などが見つかる可能性があります。ただし、調査できるのはその市区町村内に限られます。
②所有不動産記録証明制度の利用
2026年2月2日から始まった「所有不動産記録証明制度」は、全国の不動産を調査する際に活用できる制度です。法務局に申請すれば、氏名・住所などの検索条件に該当する全国の登記情報を検索し、該当する不動産を一覧で証明してもらえます。これにより、これまで発見が難しかった遠方の不動産なども把握しやすくなりました。
この新しい制度について、詳しくは法務省のウェブサイトもご確認ください。
参照:所有不動産記録証明制度について|法務省
株式・有価証券の調べ方:「ほふり」への開示請求が鍵
株式や投資信託などの有価証券は、どの証券会社で取引していたか分からないと調査が難しいと思われがちです。しかし、そのような場合に有効な調査方法の一つが「証券保管振替機構(しょうけんほかんふりかえきこう)」、通称「ほふり」への開示請求です。

- 調査先:証券保管振替機構(ほふり)
- 手続き:ウェブサイトから開示請求書を入手し、必要書類を添えて郵送で請求します。
- 結果:後日、「登録済加入者情報」が届き、故人が口座を持っていた証券会社名が一覧で判明します。
証券会社名が判明したら、各社に対して預貯金と同様に「残高証明書」を請求することで、具体的な保有銘柄や評価額がわかります。この方法は一般にはあまり知られていませんが、有価証券調査の切り札と言えるでしょう。詳しくは「株式・株券の名義変更(相続手続き)」のページもご参照ください。
借金の調べ方:信用情報機関への開示請求を忘れずに
プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産調査も重要です。万が一、財産よりも借金が多い場合は、相続放棄を検討する必要があるからです。
- 調査先:信用情報機関(CIC、JICC、KSCの3機関)
- 手続き:各機関のウェブサイト等で定められた方法(主に郵送)で、相続人として情報開示請求を行います。
- 結果:故人のクレジットカードの利用残高や、消費者金融からの借入状況などがわかります。
この手続きにより、予期せぬ負債を抱えるリスクを回避することができます。
調査で判明した書類の読み解き方【3つのポイント】
調査で様々な書類を手に入れても、どこを見ればよいか分からなければ意味がありません。ここでは、財産調査で必ず手にする3つの重要書類について、プロがチェックするポイントを解説します。
通帳の取引履歴:不自然な出金や定期的な引き落としに注目
通帳の取引履歴には、残高確認だけでは分からない重要な情報が含まれています。以下の点に注目してみましょう。
- 死亡日直前の高額な出金:誰が何のために引き出したのか、確認が必要な場合があります。
- 毎月定額の引き落とし:生命保険料やローン返済、賃貸物件の家賃などの可能性があります。知らない契約が見つかるかもしれません。
- 定期的な入金:給与や年金以外に、「配当金」などの記載があれば株式保有の、「家賃」などの記載があれば不動産賃貸の可能性があります。
これらの情報から、さらに調査すべき財産のヒントが見つかることがよくあります。詳しくは「故人の隠れた財産?通帳記録から死亡保険金を見つけた事例」で解説しています。
固定資産税納税通知書:課税明細書で所有不動産を一覧
毎年春に送られてくる固定資産税納税通知書には、「課税明細書」が同封されています。これは、その市区町村が課税している不動産の一覧表であり、優れた財産リストになります。

明細書に記載されている「所在」「地番」「家屋番号」といった情報をもとに、次のステップである登記事項証明書の取得ができます。名寄帳を取得する前の簡易チェックとして非常に役立ちます。詳しくは「相続登記の登録免許税|課税明細書の読み方と計算方法を解説」もご覧ください。
登記事項証明書:「権利部(甲区・乙区)」で権利関係を確認
不動産の公式な情報を証明するのが「登記事項証明書(登記簿謄本)」です。主に3つのパートで構成されています。
- 表題部:土地の地番や面積、建物の種類や構造など、不動産の物理的な状況が記載されています。
- 権利部(甲区):所有者に関する情報が記載されています。「いつ」「誰が」「どのような理由で」所有者になったかがわかります。
- 権利部(乙区):所有権以外の権利、主に抵当権(住宅ローンなど)に関する情報が記載されています。ここに記載があれば、まだ返済中の借金がある可能性を示唆します。
乙区の記載から、昔の抵当権が消されずに残っているケースも見つかることがあります。
財産調査が終わったら?円満な遺産分割と次の一手
調査が完了し、遺産の全体像が明らかになったら、いよいよ相続の本題である遺産の分け方を決めるステップに進みます。この相続手続きを円滑に進めるためのポイントを見ていきましょう。
客観的な「財産目録」をもとに遺産分割協議を行う
まず、調査で判明したすべてのプラス財産(預貯金、不動産など)とマイナス財産(借金など)を一覧にした「財産目録」を作成します。この客観的な資料があることで、感情的な言い争いではなく、事実に基づいた冷静な話し合い(遺産分割協議)が可能になります。
相続人全員で合意した内容は、法的な効力を持つ「遺産分割協議書」として書面に残すことが非常に重要です。この書類が、後の不動産の名義変更や預金の解約手続きで必要となります。
話し合いが困難な場合:家庭裁判所での「遺産分割調停」
残念ながら、当事者同士での話し合いがどうしてもまとまらない、あるいは感情的な対立が深すぎて話し合いにすらならない、というケースもあります。その場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるという選択肢があります。
調停は、裁判官と民間の有識者からなる調停委員が間に入り、中立的な立場で話し合いのとりまとめを手伝ってくれる手続きです。裁判のように勝ち負けを決める場ではなく、あくまで合意を目指す話し合いの場なので、過度に身構える必要はありません。疎遠な兄弟との遺産分割など、直接の対話が難しい場合に有効な手段です。
調査が難しいと感じたら…司法書士に依頼するメリットと費用
ここまでご自身で調査する方法を解説してきましたが、「戸籍集めが大変そう」「平日に役所や銀行に行く時間がない」「手続きが複雑で自信がない」と感じられたかもしれません。その場合は、無理せず専門家を頼ることを検討してください。
私たち司法書士は、相続手続きの専門家です。ご依頼に基づき、戸籍収集、各機関への財産照会、不動産の名義変更(相続登記)など、司法書士が対応できる範囲で手続きを支援することが可能です。専門的な知識に基づいて調査を進めることで、調査漏れのリスクを抑え、手続きにかかる時間的・精神的な負担を軽減できる場合があります。
司法書士に財産調査を依頼した場合の費用は、調査する財産の数や種類によって異なりますが、詳しい料金一覧をご参照ください。ご依頼いただく前には、必ず個別の状況に応じた明確なお見積もりを提示いたしますので、ご安心ください。
一人で抱え込まず、まずは専門家の力を借りるという選択肢があることを知っておいてください。相続財産調査に関する無料相談

司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所の司法書士 猪狩 佳亮(いがり よしあき)です。神奈川県川崎市で生まれ育ち、現在は遺言や相続のご相談を中心に、地域の皆さまの安心につながるお手伝いをしています。8年の会社員経験を経て司法書士となり、これまで年間100件を超える相続案件に対応。実務書の執筆や研修の講師としても活動しています。どんなご相談も丁寧に伺いますので、気軽にお声がけください。
